9,400万個突破!「たまごっち」が令和に再び大ブームを巻き起こす理由。バンダイ担当者に訊いた。
1996年の初代シリーズ発売からこれまで9,400万個(2024年3月末時点)を売り上げるなど、長きにわたっておもちゃ業界をリードしてきた、ハイパーインタラクティブデジタルペット玩具『たまごっち』。その人気は日本だけでなく、海外にも広がっています。
おもちゃでありながら、子どもだけでなく学生や大人と幅広い世代に愛され続けてきた『たまごっち』は、ここ数年でまたしても大きな注目を集めています。いったいなぜ、発売から28年以上が経つ『たまごっち』に再ブームが到来しているのでしょうか?
株式会社バンダイのトイ事業部で、5年前から海外向けの『たまごっち』を、3年前からは全世界向け『たまごっち』の企画を担当されている青柳さんにインタビューしました。発売当初から大切にしてきた「たまごっち“らしさ”」と時代に合わせて進化を続ける「おもちゃの“かたち”」について語っていただきました。
子どもから女子高生、親世代まで。28年にわたって愛され続ける『たまごっち』
──『たまごっち』が発売された1996年当初は女子高生をメインターゲットにしていたと伺いましたが、現在は幅広い世代から人気を集めていますね。
おっしゃるとおり、初代『たまごっち』は女子高生に向けて発売したものです。ただ、2年後にはブームが落ち着き、低迷期に。2004年に復活した際には当初想定していた女子高生ではなく小学生たちが遊んでいたんです。
新たに発売した『かえってきた!たまごっちプラス』シリーズは、当時の携帯電話にも使われ始めたばかりの赤外線通信機能を搭載するなど、新時代のデジタルおもちゃとして打ち出し、2度目の大ヒットを博しました。
現在は、子どもはもちろん、小さいころに『たまごっち』で遊んだ経験がある20代~30代、さらには初代『たまごっち』を持っていた40代まで幅広い世代の方に懐かしんで遊んでいただいています。
私自身、通勤中の電車内で『たまごっち』やグッズを身につけている方を最近よく見かけるようになって。これまではおもちゃ売り場以外で『たまごっち』を目にすることはあまりなかったので、再ブームの到来を実感しています。
──「再ブーム」の理由についてどのように考えていますか?
ライセンスアウト(自社の知的財産を他社に売却したり、使用を許諾したりすること)をして、さまざまな企業でキャラクターグッズを作っていただいたり、外食チェーン店様とタイアップさせていただいたり、玩具本体以外のアイテム展開が広がっている点は再ブームの一つの理由だと考えています。
バンダイ社内でも、ハズレなしのキャラクターくじ『一番くじ』や『ガシャポン』などの人気コンテンツに『たまごっち』を起用しているので、その盛り上がりも大人からの人気を集めた要因かもしれません。年々大人のユーザーが増えてきているので、身につけるアイテムの一部としても楽しんでいただけるようなデザインの工夫や、伝統工芸品とのコラボレーションなど、歴史のあるおもちゃだからこそできる挑戦を続けています。
全世界で人気の秘密は、普遍的な「遊び」とオリジナリティある「デザイン」
──初代『たまごっち』が発売された翌年の1997年には海外展開もされています。現在でも世界中で愛されている人気の秘密を教えてください。
世界中の子どもたちが一度は通る道である「お世話遊び(ごはんをあげたり、寝かせたり、誰かの世話をする遊びのこと)」の普遍性と、画面の中で動く「デジタルペット」という新規性、さらにはアイコニックな「たまご型+3つのボタン+四角い液晶」のデザインが世界中でファンを獲得できた要因だと分析しています。
これまでの『たまごっち』は、実は国や地域によって微細なアレンジを加えていて、言語の違いはもちろん、本体のカラーや登場するキャラクター、演出など、各地域の皆さんにより親しみを持っていただけるよう工夫を凝らしてきました。
しかし、2023年7月には『たまごっち』史上初となる、デザインや遊びの内容を統一した世界統一規格のシリーズ『Tamagotchi Uni(たまごっちユニ)』の世界同時発売に挑戦しています。
──なぜ、規格を統一したのでしょうか?
全世界の『たまごっち』ユーザーが一緒に遊べる空間を創りたいという想いがあったからです。実は、これまでのシリーズでは、同じシリーズであっても規格が違うと通信機能などが使えず、ユーザー同士が一緒に遊べなかったんです。
『Tamagotchi Uni』では、Wi-Fiにつながっていればメタバース空間『Tamaverse(たまバース)』で世界中のユーザーが育てたたまごっち『Uni Tama(ユニたま)』と出会えます。各ユーザーの言語であいさつを交わし、『たまごっち』を通して世界中の人とつながれるようになりました。
SNSで「Tamagotchi」と検索をかけると、日本のユーザーはもちろん、英語からスペイン語までさまざまな言語で感想を綴ってくださっているのが分かって、『Tamagotchi Uni』の反響を実感しています。
企画会議の第一声は「たまごっち“らしさ”ってなんだっけ?」
──28年間、数々の進化を遂げてきた過程で、皆さんが新シリーズ展開の際に大切にしてきたことは何でしょうか?
『たまごっち』の企画会議は、必ず「たまごっちにとって大事にしたいことは何か」「たまごっち“らしさ”とは?」を振り返るところから始まります。毎回「コミュニケーション」「ポータブル」「デザイン」「お世話」「うんち」などのキーワードがよく挙がります。
たとえば、「コスパ」「タイパ」といった言葉が当たり前になってきても、『たまごっち』が提供するお世話遊びの本質は、手間がかかることや面倒くさいことにあると思っていて。キャラクターがうんちをしたら、すぐに掃除しなければいけないし、ときには“しつけ“もしないといけない。こうした守らなければいけない要素を一つひとつ言葉にして、メンバー全員で共有することを大切にしています。
一方で、私たちは時代に合わせて新しい価値を生み出し、ユーザーに驚きを与え続けることも常に意識してきました。通信機能の搭載やメタバース空間の創出など、新しいテクノロジーへの挑戦はもちろん、キャラクター同士のお見合いができる『たまっちんぐパーティー』や、『たまごっち』上で食事の宅配ができる『たまデリバリー』など、世の中のトレンドを遊びの中に取り入れるようにしています。子どもが真似したくなるような大人っぽい遊びのエッセンスを加えるようにしているんです。
──奥が深いですね……!『たまごっち』の企画のために、青柳さんが普段から意識していることはありますか?
ミーハーな気持ちでトレンドを追うことに加えて、子どもの視点で世の中を見たり、積極的に外に出かけたりすることを日ごろから心がけています。
企画会議で煮詰まったときには、みんなで動物園に行くこともあるんですよ。『たまごっち』はデジタルといえども、やはりペットですから。生き物らしさを大切にするためにも、動物の観察を通して得た新たな発見を『たまごっち』の開発に活かせるようにしています。
「脱・デジタルペット」に向けた『たまごっち』の未来
──スマートフォンの普及も相まって、おもちゃに求められるものが昔と変わってきているようにも思います。『たまごっち』は今後どのような存在でありたいと考えていますか?
単なるデジタルペットの枠を超えて、本当のペットのような存在であってほしいと、心から思っています。これまで多くのユーザーを見てきて、中にはキャラクターが死んだ時に心から悲しんで泣いている方もいらっしゃって。私自身も幼いころ、学校に行く時はキャラクターが死なないように『たまごっち』を親に預けていたことがありました。
本当のペットと同じように愛着や愛情を持って育ててもらえる存在であり続けることを目指して、日々企画開発に取り組んでいます。
──今後の目標や展望を教えてください。
これまでさまざまなシリーズを展開してきた中でも『Tamagotchi Uni』の発売は、「脱・デジタルペット」を目指す私たちにとって大きな一歩となりました。キャラクターたちがそれぞれに異なる性格を持って生まれてきて、自分だけの個性的な『たまごっち』を育てられるんです。これまで以上に「自分のペット」という感覚で育ててもらえるのではないでしょうか。
これを見ている皆さんにも思い出の『たまごっち』があると思います。今後も、その思い出を超えるような、新しい驚きのある商品を日々生み出していきます。
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