片瀬那奈さん、40歳で女優から会社員になった現在。「今の仕事が天職」の理由。

2025年4月9日

数々のヒット作に女優として出演し、朝の情報番組のMCを10年間務めたことでも知られている、片瀬那奈さん。先日出演したバラエティ番組で、現在はファッション通販サイト「LOCONDO.jp(ロコンド)」などを運営するジェイドグループで会社員として週5日間勤務していることを明かし、大きな反響を呼びました。

20年以上身を置いた芸能界から一般企業へ転身を果たした片瀬那奈さんは、どのような会社員生活を送っているのでしょうか?芸能界で培った経験が現在にどうつながっているのか、仕事に対する姿勢や価値観について取材しました。

きっかけは1通のメッセージ。40歳の節目に飛び込んだ新たなキャリア

──片瀬さんは芸能事務所を退所後、ファッション通販サイト「LOCONDO.jp」などを運営するジェイドグループに入社されました。現在で何年目になるのでしょうか?

2022年12月に入社したので、もう2年が経ちましたね。私が入社した際は株式会社ロコンドだったのですが、2023年にジェイドグループ株式会社へと社名が変わりました。

入社のきっかけとなったのは、当社の代表・田中裕輔さんから届いた1通のメッセージ。「コラボしませんか?」とお誘いをいただいて。所属していた芸能事務所を退所してから半年ほど、YouTubeでの発信を続けていた中での嬉しいご連絡だったので、「ぜひやりましょう!」とすぐにお返事しましたね。もともと経営者の哲学や成功までのストーリーを知るのが大好きで、田中社長の書籍も読んでいたんです。

お会いするまでに、コラボでどんなことができそうか、アイデアを膨らませ、最終的には50以上もの企画案が浮かびました。田中社長も前のめりになって聞いてくださって。その中で「片瀬那奈がロコンドの社員になる」という企画が進んだのですが、実際には社員にならずに単なる企画で終えるのは、視聴者の方に嘘をつくことになるのではと思い、できれば避けたかった。「それなら、いっそのこと本当に社員になってみてはどうか?」という流れになり、今に至ります。

──かつて、会社員になる未来を想像したことはありましたか?

まったく!むしろ2021年9月に所属していた芸能事務所から独立するまで、芸能界以外でのキャリアの築き方など考えたこともなかったので。

──独立したころは、どのような心境だったのでしょうか?

一度自分の環境をリセットしたいと思っていました。

17歳から芸能界に入り、目の前の仕事に全力を尽くして20年以上駆け抜けてきました。でもちょうど40歳という一つの節目を迎え、一度歩みを止めて、自分が本当にやりたいことはなんなのか、どう生きていきたいのか、真剣に向き合いたくなったんです。

──長年身を置いた芸能界から一般企業へのジョブチェンジ、不安はなかったのでしょうか?

不安よりも、「大学も出ていない、会社員経験もない40歳の私を一流の上場企業が雇ってくれるなんて、ラッキー!」と思っていました(笑)。迎え入れていただいたからには、自分ができる最大限のことをして貢献していきたい一心でしたね。

幅広い業務に携わり、毎日が刺激的。少数精鋭な環境に芸能界の経験が活きる

──ジェイドグループでは、今どんなお仕事をされているのでしょうか?

広報・PRやプレス、マーケティングリサーチに商品企画など、幅広い仕事を任せていただいています。一番割合が大きいのは、プレス業務でしょうか。ドラマや雑誌でタレントさんが着用する弊社の衣装や靴の貸し出し依頼があると、それらを担当のスタイリストさんにお渡ししたり、掲載された記事の確認をしたり。ロコンド公式SNSの運用担当者として、週に約35件の投稿も行っています。

前職の経験上、番組や雑誌の制作における段取りや注意点を熟知しているので、芸能人とのコラボやCM撮影をする際も、企画段階から先方との交渉まですべて任せていただくことが多いです。

貸し出していた衣装の検品・管理を行う片瀬さん

──それほどたくさんの業務をお一人で……!

ロコンドはまさに少数精鋭といった感じで、一人当たりに任せてもらえる業務量が多く、幅も広い。私にはそのスタイルが刺激的で楽しくて。

幅広い業務経験を通して、今まで自分が好きで自然と行っていたことが、仕事に活きるのだなと新たな発見もありました。もともと、特定のサービスやプラットフォームについて、ターゲットやシェア、競合の動向を調べるのがすごく好きでした。調べたことをまとめるのも得意で、それってまさに今担当しているマーケティングの仕事に直接活きているんですよね。

入社後にプロデュースした段ボールキャットハウスも、私が飼っている猫の習性から着想を得て考案しました。猫って高級なペットハウスやベッドよりも、意外と通販の梱包用段ボールのほうが落ち着くみたいで、よく中に入っているんです。それならば、いっそのことロコンドの配送用段ボールをキャットハウスとして組み立てられるようにしようと。

売り出したい特定の商品がある中で、どのようにしてお客様を巻き込んで、ヒット商品を打ち出していくか。「今、この商品がブームなのかもしれない、買っておかなきゃ」と、いかに自然に思っていただいて、行動を促すか。これがマーケティングや商品開発の難しさであり、やりがいでもあると日々感じています。

──入社してから、何か壁にぶつかった経験はなかったのですか?

入社当時はExcel やPowerPoint など、一般的な業務ツールを一度も触ったことがない状態だったので苦労しました。一早く業務に慣れたかったので、私用パソコンも買い直し、自宅で黙々とExcel の勉強をしていましたね。今はいろいろなことができるようになりました(笑)。

──多忙な会社員生活に見えますが、プライベートの時間はあるのでしょうか?

仕事を終わらせて定時に帰ることも多いので、退社後は自宅でゆっくりしています。退社後に飲みに行ったり、外出したりすることはあまりないんです。自宅でのんびり、愛猫たちと戯れる時間が至福ですね。

芸能人と会社員の違いとして感じるのは、時間に対する自由度です。ドラマの収録では、深夜に近い早朝から翌日の深夜までなど、長時間にわたる撮影もよくあることでした。スケジュールも過密だった。会社員になった今は自分でスケジュール管理ができるので楽しいです。要領良く仕事を進めれば物事はどんどん進むし、きちんと定時で帰れますから。

トレンドと伝統、挑戦姿勢を重んじる企業文化で活きた芸能経験

──ジェイドグループの事業内容についても教えてください。

靴を中心とした通販サイト「LOCONDO.jp」をはじめとするファッションECの運営や、Reebok、MANGOなどのブランド運営事業、そして物流受託事業を展開しています。

ファッション業界には旬のトレンドに対する感度も重要なのですが、当社は同時に伝統も大切にしています。たとえばReebokの定番アイテム『CLUB C』シリーズは、今年で誕生40周年を迎えます。来年の発表に向けて、現在はさまざまなアーティストとのコラボ企画を進行中です。

『CLUB C』40周年記念の限定デザイン

──トレンドと同じくらい、伝統へのリスペクトも大切にしている会社なのですね。社内の雰囲気についてはいかがですか?

とにかく物事が決まるスピードが速いなと感じますね。代表の田中社長自身が非常に発想力豊かな方ですし、思いついたらまずは実行してみる前提で、リサーチや意見交換にのぞむのが、当たり前の感覚として身に付いていらっしゃいます。

そんな代表のもとではたらいているので、メンバーも決まったことをずっと守り続ける以上に、アイデアを大切にして何事もやってみる挑戦姿勢の人が多いですね。社内では常にイレギュラーなことが起こっています。それが私の肌には合っているみたいです。

──芸能界で、明日どうなるか分からない環境を生き抜いてきた経験も活かされているのかもしれませんね。

そうかもしれません。芸能人は、自分自身が「商品」です。世間の関心を素早くキャッチして、良いタイミングで自分を売り込むことで人気が出て、次の仕事につながっていく。会社員になった今も、売り込む対象が会社のブランドや商品に変わっただけだと思うんです。どちらもタイミングがとても大切で、だからこそ移りゆくトレンドも、敏感に汲み取らないといけないし、トレンドをつくるためにさまざまな仕掛けを考えています。

モチベーションは、自分でつくるもの。会社員生活が毎日楽しくてしかたないワケ

──会社員生活で、つらいと思うことはありませんか?

ないなぁ。本当に毎日が楽しいから、辞めたいと思ったことはないです。仕事を早く終わらせたら、そのぶん新しい仕事が入ってくるのは少し大変ですけど(笑)。チームのみんなと協力し合いながら進められるから、つらくはありません。

20年以上、芸能の仕事だけをしてきたので、一瞬一瞬が新鮮なんですよね。毎日決まった時間に会社に行くのも、オフィスに自分の席があるのも、同僚とランチに行くのも、なんだか全部が楽しくて。

──仕事のモチベーションが上がらないと悩む方も多い中で、片瀬さんがモチベーションをキープできているのはなぜなのでしょうか?

大前提として、モチベーションは自分でつくるものだと考えています。その上で、モチベーションを上げようとする前に、私は「なぜモチベーションを上げたいのか」という“動機”に目を向けています。ただ漠然と考えているだけでは上がりませんから。

たとえば、「お金が欲しい」なら、「なんのためにお金が欲しいのか」を考える。なりたい自分の姿があっても、なぜ自分がそこに憧れているのかが分からなければ一歩目も踏み出せない。なぜはたらくのか、何が自分のモチベーションにつながるのか、自分ととことん向き合いながら行動に移していくうちに、はたらくことがどんどん楽しくなってくるんだと思います。

──今後、会社の一員として、どうなっていきたいですか?

具体的な役職を目指しているわけではないのですが、この会社にとっての“空気デザイナー”になりたいです。その場にいたら少しでも周囲の雰囲気が明るくなるような、そんな存在になりたいですね。

ドラマ収録もそうなのですが、ハードな撮影になればなるほど、明るい現場の空気が大きな支えになります。チームワークが良い現場って、それだけで疲れが軽くなるじゃないですか。誰かが悩んでいたり、つらい想いをしていたりするなら相談に乗りたいですし、みんなにとってはたらきやすい環境をつくっていきたいです。

──最後に、自分らしく楽しくはたらくために、片瀬さんが大切にしていることを教えてください。

あまり高すぎる理想を掲げず、今いる環境で全力を出し切ること。私、理想や目標は掲げない主義なんです。最初から多くを求めすぎず、まずは自分に与えられた環境で日々コツコツ頑張る。そうしたら自分の中で知識や経験が蓄積されて、太い幹となり豊かな枝葉が伸びていく。それが将来、自分の思わぬところで実を結び、世界を広げてくれると思うから。

常に全力で打ち込んでいたら、周囲の評価を必要以上に気にすることもなくなります。最大限を尽くしてやり切った感覚があれば後悔もないし、その結果生まれる周囲からの評価も素直に受け止められるというか。やりすぎたようであれば、後から加減すれば良いですしね。何事も、人からどう思われるかより、最終的には自分がどう思うかが大切ではないでしょうか。

芸能界から会社員に転身する未来なんて想像もしていなかったけれど、正直この仕事は天職だと思います。40歳で天職に巡り会えるなんて、本当に幸せなことですよね。

今この瞬間を大切に、目の前の仕事に誠実に向き合う。そんな日々が、時に思いもよらなかった未来を引き寄せてくれることがあるんだなと、そう実感しています。

(文・写真:神田佳恵 編集:おのまり 写真提供:片瀬那奈)

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フリーライター神田 佳恵
フリーランスライター 兼 一児の母。取材・インタビュー記事、エンタメコラム、ライブレポートやエッセイなど、複数媒体・分野で執筆活動中。

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