高校教師から営業職へ転身し、ベトナムの地へ。現地採用としてはたらくリアル

2023年7月18日

海外で仕事をする人にインタビューする連載「世界ではたらく日本人」。第1回は、警備会社のALSOKベトナムセキュリティサービスに現地採用で就職した前田瞳美さんにお話を伺いました。

大学卒業後、高校の教師になった前田さんは営業職へ転身し、2021年11月からはベトナムでのキャリアをスタート。ベトナムで就職する上で大切なことや、仕事のやりがい、日本との違いなどについてお聞きしました。

ベトナムに行くまで

「安定志向」で教師になり、海外ではたらくことを目指して企業の営業職へ転身

――まずは、ベトナムに来る前のお仕事について教えてください。

大学卒業後、高校の国語の教師を5年間していました。当時は安定志向だったので、公務員である点に惹かれたんです。

生徒と接することは楽しかったのですが、学校って毎年同じことの繰り返しで。それが自分には合っていなかったのかな。高校1年生の担任になって、高3まで卒業させると、もう1周した感じがして、これをあと40年も繰り返すのはちょっとな、と思ってしまったんです。

そこで、海外での就職を考え始めました。

――国内ではなく、なぜ海外がいいと?

学生時代からちょこちょこ海外旅行に行っていて、もともと海外は好きでした。ただ当時は、海外就職という発想さえありませんでした。海外就職を志向するようになったのは、社会人になってからです。

教師の仕事は長期休暇があるのですが、友人とは予定がなかなか合いません。なので、長期休暇はいつも海外一人旅に行っていたんです。年に3回、東南アジアやヨーロッパなどで1カ月ほどの長期滞在をしていました。その経験が大きかったのかな。1人での長期滞在を繰り返すうちに「日本と変わらなくない?」と思うようになったんです。だから海外転職といっても、1カ月の滞在が1年とか3年に伸びるだけという感覚でした。

教師の免許があるので、日本に帰っても仕事ができるというのは大きかったかもしれないですね。「まあやってみるか。あかんかったら帰ってきたらいいし」みたいな。

――教師を辞めた後、すぐにベトナムで就職したのですか?

いえ、タイやベトナムなど東南アジアの求人をいろいろ見たのですが、求人はたくさんあるものの、営業の経験がないと条件がイマイチで……。

私はそれまで教師しかやってこなかったので、一度日本で営業を経験してから海外に行こうと思い、株式会社リクルートに入社しました。

担当したのは、ホットペッパーグルメの広告営業。100%新規営業の部署だったので、飲食店相手にテレアポをしたり、飛び込み営業をしたり……。海外で営業するための経験を積もうとがむしゃらにはたらきました。3年間でMVPなどの表彰を全部で5回受けましたね。

そうして2021年夏、海外ではたらくために転職エージェントに登録。お声がけをいただいたさまざまな会社と交渉をしていく中で、ALSOKベトナムセキュリティサービスへの入社を決めました。

リクルート時代の前田さん(本人提供)

海外の中でもベトナムの現地採用を選んだ理由

発展中の国ベトナムは、企業も成長真っ只中で仕事を楽しめる!?

――海外の中でもなぜ東南アジアで就職しようと思ったのですか?

特に東南アジアは好きで、住むイメージをリアルに持てました。

それと、東南アジアは求人がたくさんあり、一番現実的だったんです。私は仕事で使えるほど英語ができないので、英語力がそれほど求められないという点も大きかったですね。

東南アジアの中では特にこだわりはなかったので、決まった国に縁があると考えて、ベトナムやタイ、インドネシア、マレーシアなどの会社を検討しました。

――なぜベトナムに決めたのでしょうか?

たとえば、タイの会社の面接は「タイに来たことありますか?」「長く住めそうですか?」といった質問が多く、仕事のことはあまり聞かれませんでした。一方、ベトナムの会社はALSOKに限らず、前職のリクルート時代のことや仕事のモチベーションに対する質問などが多かったんです。

私は海外でのんびり暮らすというよりも、仕事を頑張りたいと思っていました。ベトナムは国としても発展中で、これからどんどん成長させていくという雰囲気が面接でも感じられたので、ここで仕事をやるのは楽しそうだと感じましたね。

――ベトナムの中でも、ALSOKベトナムセキュリティサービスに入社した決め手を教えてください。

ベトナムの会社の中からALSOKに決めたのは、本当に単純なんですけど、一番レスポンスが早かったからです。一次面接して1時間後には結果が来て、給与面などさまざまな条件交渉のやりとりもとてもスムーズで。私にとってはたらきやすい条件を一生懸命考えてくれて、柔軟に対応してくれたのもありがたかったですね。

ベトナムなら現地採用でも「いい暮らし」ができる!

――日本で就職して海外駐在を目指すという方法もあったと思うのですが、海外の現地採用での就職を選んだのはなぜでしょう?

日本で採用されて駐在員として海外に行くことを目指す場合、まずは日本ではたらかなければならないし、その後も海外に行ける保証はありません。でも、現地法人への就職なら、入社後すぐにベトナムではたらくことができます。

――失礼ですが、海外の現地採用って給与が安いイメージがあるのですが……。

現地採用でもベトナムでは充分に快適な暮らしができます。現地採用の友達もたくさんいますが、満足している人が多い印象です。

また、給与は営業経験があるかないかで変わってくると思います。私はリクルート時代の経験と実績が、採用条件に反映されています。

ベトナムでの仕事内容

大切なのは英語力より仕事のスキル

――ALSOKベトナムセキュリティサービスでの仕事内容を教えてください。

センサで異常を監視する機械警備システムや警備員の配置といった、施設への警備対策を導入してもらうための営業をしています。営業相手はすべて日系企業で、既存顧客も新規顧客もいます。

ALSOKベトナムセキュリティサービスは今まさに大きく成長している最中なので、社内システムやマーケティングなど営業以外にもいろいろなことに関われるのが楽しいです。

たとえば、今はホームページ改修の担当をしていて、ホームページの制作会社と打ち合わせしたり、サイトに掲載するコラムの文章を考えたりしています。これまでには、イベントの協賛で出すブースをつくることもありました。

――日系企業相手ということは、基本的に日本語でのやりとりですか?

そうですね。営業は完全に日本語です。社内でのやりとりはスタッフによって言語を使い分けています。日本語を話せる人、英語しか話せない人、ベトナム語しか話せない人、いろいろなので。正直、英語はそれほど話せなくても問題ありません。中学レベルの英語でOKです。

もちろん英語ができるに越したことはないとは思いますが、語学力よりも仕事のスキルが重要ということもあるようです。

実は私のほかにもう一人採用候補者がいました。その候補者の方は英語がペラペラで、ベトナム人と結婚しているので長く勤める可能性が高い。それでも最終的に選ばれたのは、さほど英語ができない私でした。

「採用いただいた決め手はなんだったんですか?」と聞いたら「完全に営業力です」と言われました。いくら英語がペラペラでも営業ができなければ採用はしてもらえなかったと思います。

ベトナムで感じる、はたらく上での日本との違い

日本では雲の上の人とも対等に仕事ができる。一方で“当たり前”が違う大変さも

――仕事のやりがいや面白い点を教えてください。

日本では直接の提案機会がなかなか得られない経営層へのアプローチ機会が多くあり、一緒にお仕事ができるところが、面白いポイントです。

日系の大手商社や大手メーカーなど、誰もが聞いたことのある会社の社長と、入社して数年の役職もない社員が同じテーブルで商談をする機会なんて、日本ではまずないですよね。

でも、ベトナムでは、それができるんです。実際、私は、大手メーカーの現地法人の責任者と直接商談をして、警備システムを導入してもらいました。こういった方たちと一緒に仕事をしたり、その延長戦で会食したりと日本ではできないありがたい経験をしています。

――ベトナムで仕事する上で大変なこと、苦労していることを教えてください。

ベトナム人と日本人の感覚はかなり違うと感じます。どちらがいいとかではなく、単純に違うなと。

たとえば、期日に対する感覚です。「この書類、◯日までにお願いします」と言って期日が来たので「どうなりました?」と聞いたら「今やっています」と返答が来ることもあります。遅れそうなときは事前に連絡するといった感覚もそもそもないようです。

このように、社内の調整がうまくいかないことはよくあります。この環境で、ベトナムの人たちとどうしたらうまく仕事ができるだろう、と日々試行錯誤しているところです。

現在は、業務プロセスの一元管理といった、システム化による業務改善にも取り組んでいます。

――システム化以外で、工夫していることはありますか?

仕組み上の工夫はなかなか難しいです。しつこいほどに、こまめにリマインドするくらいしかできないです。

あとは関係を良くするために、スタッフからもらった食べ物は絶対食べるようにしています。今日も朝、焼き芋をもらったのでちゃんと食べました。朝イチで焼き芋はちょっと重いなと思いましたけど(笑)

ベトナムのワーク・ライフ・バランス

仕事も遊びも勉強も。充実のベトナム生活

――ベトナムに来てから、日本に帰りたいと思ったことはありますか?

ないですね。仕事も楽しいですし、嫌なことは一つもありません。仕事の後のプライベート時間も充実しています。

――オフの時間の過ごし方を教えてください。

休日はタイやマレーシアへ旅行したり、安くておしゃれなカフェに行ったりしています。また、住んでいるコンドミニアムにバーベキューエリアがあるので、最近はよく友人とバーベキューをしています。

平日も時間があるので、しっかりと仕事をしながらも、遊ぶ時間も勉強する時間も取れるのがベトナムのいいところです。これから簿記の資格を取ろうと思っています。

ベトナムでの休暇を過ごす前田さん(本人提供)

――今後もベトナムで仕事を続けていこうと考えていますか?

はい、今はすごく居心地良く過ごしているので、日本に帰ろうとは思いません。しばらくはベトナムで頑張って、キャリアもステップアップしていきたいです。

(文・写真:岡村幸治)

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ライター岡村幸治
1994年生まれ。スポーツニッポン新聞社を経て、フリーライターへ。経営者インタビューや旅行エッセイなどを執筆する。旅が大好きで、世界遺産検定マイスターの資格を保有している。
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