美大卒でデザイナーを志望するも、ファミレスに配属。あなたなら、どうする?

2021年4月12日

スタジオパーソル編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。今回は「好きなことを仕事にする」ことについてつづられた、クリエイティブディレクター・木本梨絵さんのnoteをご紹介します。


まずはご覧ください。この、眺めるだけでもワクワクできそうなユニークなビジュアルの数々を。

▲入場料制の本屋「文喫 六本木」
▲野外イベント「湖畔の時間2020」
▲東京都現代美術館カフェ「二階のサンドイッチ」

これらをプロデュースしたのは、独立して約半年になる新進気鋭のクリエイティブ・ディレクター・木本 梨絵さんです。

▲木本梨絵さん

木本さんの現在のお仕事は、デザインを中心に、コピーライティングやビジネスモデルの構築など。幅広く手掛けているそうです。

美大の出身で、当時デザイナー志望だったという木本さん。

「この会社以外に行きたいところがひとつもない」というほど熱望していた会社になんとか入社を果たしたものの、配属先は希望のデザイン部署ではなく「ファミレス」。予想外のスタートを切った木本さんが、夢を叶えるまで心掛けていたこととは?

木本さんのnote「まわり道には福がある。ファミレス店員がデザイナーになるまでの1年半」 に、好きなことを仕事にするために欠かせない2つのことが明かされていました。

書類選考で落選、からのリベンジ入社

2015年、木本さんはSoup Stock Tokyoを運営する株式会社スマイルズに新卒社員として入社しました。

▲「スープ屋以外にも、ホテル、ネクタイ屋、リサイクルショップ、副業サービス、コンサル業までおこなう実におもしろい会社」(木本さん)。

木本さんはこのスマイルズ社の新卒採用の募集に応募したものの、書類審査で落選。

「ここで引き下がるものか!」と、スマイルズを題材にしたホテルの企画を社長に直接プレゼンしてリベンジ入社を果たした。この会社以外に行きたいところがひとつもなくて、必死だったのだ。みなさん、就職活動は落ちてからが本番です。(超自論)

まわり道には福がある。ファミレス店員がデザイナーになるまでの1年半 より

就職活動は、落ちてからが本番です──。なんて勇気の出る言葉。

しかし、再び試練が木本さんを襲います。「美大出身だし、すぐにデザインのお仕事ができるかしら」という淡い期待に反して、配属先はファミリーレストラン。接客スタッフとしての仕事が始まったのでした。

▲接客業をしていた2016年(当時24歳)

誰も、私のことなんて、知らないのだ。

それに気付いた私はとにかく企画をし続けることにした。デザインでは素人だったけれど、毎日現場にいる自分にしか気付けないこと、そこから生まれるアイデアがきっとある。

まわり道には福がある。ファミレス店員がデザイナーになるまでの1年半  より

そんな気持ちで寝る間を惜しみ、同僚や上司、他部署の人にまで提案を続けました。

■当時提案した企画の一部
メニュー開発、生産者への独自取材、店の仕組みの変更、ポイントカードのデザイン、イベントの企画、オペレーションマニュアルのデザイン、SNSの撮影&運用、イラスト付きの商品説明書…。

まわり道には福がある。ファミレス店員がデザイナーになるまでの1年半 より

まわりを見れば、美大時代の同級生たちはデザイン事務所に就職し、1年目からすでにデザインの仕事をしていました。一方、デザイナーを目指しながら、思いがけない道を進むことになってしまった自分。当時は焦燥感で苦しんだといいますが、

今思えば当時の環境は、デザイン事務所では絶対にできない特別な経験に恵まれていた。

まわり道には福がある。ファミレス店員がデザイナーになるまでの1年半 より

というのも、お店だからこそ学べた知見も多かったから。たとえば……

厳しいけど店を心から愛する熱い店長のリーダーシップ/キッチンで働きながら新施策を打ち出し続ける先輩の逆境機転/20歳そこそこなのに厨房で信頼を置かれる後輩の圧倒的な努力/どんなサービスがお客さまに喜ばれるかのリアルな感覚/現場のスタッフが疲弊して形骸化する施策のリスク。

まわり道には福がある。ファミレス店員がデザイナーになるまでの1年半 より

このように、一見デザインには関係ないことを学びながら、新しい企画を提案し続けた木本さん。そして入社から1年が経つころ、ついに転機が訪れるのです。

ロゴデザインのチャンスが訪れる

クリエイティブ本部長の野崎さんから、新しくオープンするレストラン「PAVILION」のロゴのデザインをしてみないかと連絡があった。人生で初めてのロゴデザイン。プロのデザイナーたちとのコンペ。googleで必死にIllustratorの使い方を検索しながらつくった私のロゴは採用された。

まわり道には福がある。ファミレス店員がデザイナーになるまでの1年半 より

こうして、お店ではたらきながら新規事業の立ち上げをする生活が始まり、やがてクリエイティブ本部への異動が決まります。

木本さんは、当時のことをこう振り返ります。

当時は「よくこんな仕事やるねw」と笑われるような些末な作業も沢山あったが、まわり道を泥臭く歩んだ私には全部ぜんぶ本当に楽しかった。ギャップのどん底を知っている人間は強い。

まわり道には福がある。ファミレス店員がデザイナーになるまでの1年半 より

目指していたデザイナーの仕事とはまったく違う仕事からスタートした木本さんでしたが、こうしてデザイナーへの道を歩み出し、その2年後にスマイルズでクリエイティブディレクターに就任、さらにその1年半後に自分の会社を立ち上げたのでした。

好きなことを仕事にするために欠かせない2つのこと

「好きなことを仕事にする」ために必要なこととして、木本さんは次の2つを挙げています。

・環境のせいにしない(今いる環境独自の優位性が必ずある)

・壮大な不実行よりも些細な実行(言うのは簡単。やらないと意味ゼロ)

ふたつのことだけ考えていたら、理想との乖離は気付けば0だった。

まわり道には福がある。ファミレス店員がデザイナーになるまでの1年半 より

理想の姿が遠い……。そう感じるのは、きっと誰しもが通る道。

なりたい理想像になれず、つきたい職業につけずに、悩み苦しんでいる人にこそ、木本さんのこの愛あるエールが届きますように。

木本梨絵|HARKEN
1992年生まれ。 武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。 同校非常勤講師。業態開発やイベント、ブランドの企画、アートディレクションを行う。 グッドデザイン賞、iF Design Award、日本タイポグラフィ年鑑等受賞。
HARKEN webサイト https://harkenic.com/
Instagram https://www.instagram.com/riekimoto/?hl=ja
Twitter https://twitter.com/rie_kimoto

(文:矢口あやは 写真提供:HARKEN)

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ライター・編集・イラストレーター矢口あやは
大阪生まれ。雑誌・WEB・書籍を中心に、トラベル、アウトドア、サイエンス、歴史などの分野で活動。2020年に一級船舶免許を取得。

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