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まずは現場へ!アフリカに貢献したい人へ、ケニアの起業家が伝えたいこと
海外で仕事をする人にインタビューする連載「世界ではたらく日本人」。第11回は、AXCEL AFRICA CONSULTING LIMITED(以下、アクセルアフリカ)の CEOであり、アフリカ情報サイト「Africa Quest(アフリカクエスト)」の編集長も務める横山裕司さんにお話を伺いました。
横山さんはJICA海外協力隊(以下、海外協力隊)での活動をきっかけにケニアで起業。現在は首都ナイロビでアフリカ進出コンサル事業をするほか、アフリカでの挑戦を支援する活動もしています。仕事のやりがいやアフリカビジネスに関心のある人へのメッセージをお聞きしました。
ケニアに行くまで
証券マンから起業家へ
――これまでのキャリアについて教えてください。
証券会社での3年間の勤務を経て、海外協力隊としてケニアで2年間活動しました。その後、現地でソーシャルベンチャーを起業。ケニアで海外協力隊をしていた3人による共同創業でした。
起業から約2年半後、帰国して日本の開発コンサル会社に就職。アフリカ地域担当となり、会社に在籍しながらアフリカ進出コンサル事業を行う法人を設立する「社内起業」をしました。コンサル会社を退職し、2022年5月にはアクセルアフリカを設立。アフリカ進出を目指す企業のコンサル事業を展開しています。
――証券会社では、どんなことを学びましたか?
ゼロからお客さんをつくり、株や債券、保険、不動産などあらゆるものを売る飛び込み営業をしていました。本当にしんどかったです(笑)。
ただ、おかげさまで自分のビジネスの基礎能力を磨くことができました。当時からいずれビジネスをしたいと思っていて、入社直後から鍛えてくれる会社を選んだので、実際に力を付けていただき、感謝しています。
――海外協力隊の活動はどのようなものでしたか?
ナイロビから200キロほど離れたマクエニという町で、貧困地域に暮らす女性たちへの収入向上支援をしていました。彼女たちが継続的にお金を生み出していけるように、伝統雑貨のものづくりをサポートしました。
――海外協力隊の活動後は?
協力隊でやっていたものづくり支援の活動をビジネスにして続けていこうということになり、ぼくを含めた協力隊のメンバー3人で起業しました。伝統雑貨のカゴバッグを中心に製作し、日本で販売しました。
海外の中でもケニアでの起業を選んだ理由
アフリカの貧困問題解決に人生をかけると決意
――そもそも証券会社からなぜ、海外協力隊員になったのでしょうか?
大学で就活をする時点で、国際協力の道に進むことを決めていたんです。なので、いずれ国際協力の仕事をすることを前提に、逆算して就活をしました。ビジネスで最も大切なのは営業だと考えていたので、営業を学べて自身が成長できる企業、という軸で会社を選びました。
大企業を選んだのは、まずは一般的なビジネススキルを身に付けること、またキャリアの側面でも一般的に信用の高い会社に一度は入社しておきたいと思ったからです。将来的にある意味で特殊な世界に進むことを決めていたので、信用を得るためには、最初の会社が重要だと考えました。
――国際協力に携わりたいと思ったきっかけは?
大学2年生のころ、国際協力について書かれた本を読んで「こんな世界があるんだ」と興味を持ったのがきっかけです。そこから全学部合同の国際協力を学ぶゼミに潜り込んで、勉強を始めました。2年生の9月には国際協力の団体をつくり、その活動に力を入れていきました。
――国際協力団体では、どんな活動をしていたんですか?
さまざまな国際協力団体を集めて合同のイベントをしたり、それぞれの団体がどんな活動をしているのかアピールするピッチイベントを開催したりしていました。
貧困問題を解決するには2つのアプローチがあります。一つは皆さんがよくイメージしやすい現地支援型。実はもう一つ、アドボカシー型と言って、現地支援を行う人々や団体への寄付を集めるための広報のような活動が必要なんです。
ぼくたちがやっていたのはアドボカシー型の活動で、直接的に支援するのではなく、現地支援を行う国際協力団体を応援する活動といったイメージです。
――ケニアで起業した理由を教えてください。
ケニアで起業したのは、海外協力隊の経験で得た人とのつながりをそのまま生かせるからです。海外協力隊では、ケニアに限らずアフリカに行きたいと考えていました。
アフリカに興味を持ったのは、アフリカが世界的にも貧困問題が深刻の場所の一つだから。大学時代に国際協力の活動をしていて「貧困問題×ビジネス」の可能性を感じました。人生のビジョンとして、このテーマに取り組みたいなと思ったんです。
そこで、大学3年生の夏にアフリカへ。ケニア、ウガンダ、ルワンダ、タンザニアの4カ国を1カ月で回りました。いろいろなボランティアをさせてもらい、アフリカの貧困問題をビジネスで解決していくことに人生をかけようと決意しました。
ケニアでの仕事内容
複雑で大きな課題を組み合わせで解決
――アクセルアフリカの事業内容を教えてください。
企業に対して、アフリカ進出のコンサルをしています。現在は農業・ヘルスケア・テック系のクライアントが多いですね。
コンサルといっても第三者としてアドバイスするだけではなく、クライアントさんの中に入り込んで一緒に事業をつくっていく事業開発コンサルのイメージでサービスを提供しています。最近はスタディツアーの企画をしたり、企業の出張サポートをしたりしていました。マーケットリサーチや視察のアテンド、アポ取りなど、事業開発に関わることならなんでもやります。
――コンサル事業のやりがいは?
いろいろなものを組み合わせることで、複雑で大きな課題を解決できるのが、最も面白い点です。
アフリカでは、自分一人では何もできません。日本にある技術やノウハウを持っている人たちを結びつけて、社会課題解決を支援する。それがぼくたちの仕事です。農業やテクノロジーなどさまざまな分野からアプローチして、いろいろな人たちと一緒に仕事をできるのが面白いですね。
ぼくたちはハブみたいなイメージなんです。さまざまな業界の人たちをつなげることで、コミュニティのようなエコシステムをつくれたらいいなと思っています。
あとは、アフリカで感じられるパワーが好きですね。アフリカは人口が増えて市場が伸びていますし、人々にハングリー精神がある。このパワーあふれる人々とケニアの社会問題の解決に取り組めるのが楽しいです。
アフリカで挑戦する日本人を応援
――アフリカクエストについて教えてください。
アフリカクエストの活動の目的は、アフリカに行きたい日本人、アフリカで挑戦する日本人を応援すること。2019年に一般社団法人アフリカクエストを設立し、非営利の活動を進めています。活動はWebメディア、イベント、オンラインコミュニティ、ゲストハウスの4つです。
最初に始めたのは、Webメディアでした。1回目の起業で、アフリカ雑貨を日本で販売したときに気付いたんです。そもそもアフリカのことが全然知られていないし、興味を持っている人が少なすぎると。アフリカはこんなに面白いところなのに、なんでみんな知らないんだろう、と思ったのが原体験です。今では、知ってもらった先の動線も考えて設計しています。
まずはWebメディアを通じてアフリカについて知ってもらいます。次にイベント。アフリカビジネスラボをこれまで60回以上開催しており、さまざまな活動をしている人たちを呼んで講演してもらったり、勉強会を開催したりしています。イベントは日本からオンラインでも参加可能。アフリカのビジネスに関心がある人同士がつながる場所になっています。
さらにオンラインコミュニティ「AI-HUB」では、アフリカでビジネスを興したい人に対して直接的に支援しています。最後がゲストハウスです。2023年、ナイロビにJENGA HOUSE(ジェンガハウス)というコミュニティハウスをつくりました。ジェンガハウスには宿泊スペースもあり、アフリカのビジネスを見に来た人と、旅人、現地駐在員などさまざまな立場の人が出会い、交流する空間になっています。
――オンラインコミュニティに入ると、横山さんからアフリカビジネスのアドバイスをもらえるのでしょうか?
そうですね。AI-HUBでは、アフリカビジネスに関する勉強会を行うほか、事業に関する壁打ちにもご利用いただけます。実際に今、ケニアとベナンにいる方と定期的にコミュニケーションを取っていて、彼らの事業はどんどんブラッシュアップされています。
参加者は、将来的にアフリカで何か挑戦したいから勉強しておきたいという人から、実際に挑戦を始めている人まで、さまざまです。
ケニアで感じる、はたらく上での日本との違い
企業への忠誠心がなく、苦労する人材確保
――ケニアで起業するのは大変でしたか?
すんなりといかないことが多いので、難しさはありますね。
たとえば、2社目の会社を設立するのに、半年ほどかかりました。登記はすぐにできたんですけれど、税務登録のために税務署に書類を出した後、一向に返事が来なくて。連絡したら「偉い人が書類をなくしたから、もう一回持ってきて」と言われたんです。「は?なくした?」と驚きましたよ。
これはごく一部の例ですが、いろんなことが一筋縄ではいかないですね。それがある意味、ケニアの良さかもしれないですけど。
――ケニアで事業をする上での苦労を教えてください。
人材確保には非常に苦労しますね。企業に対する忠誠心が日本ほど高くないので、より給料の高い職場があれば、すぐに辞めてしまいます。優秀な人ほどすぐ辞めてしまい、人材の定着が難しいんです。なのでチームづくりは大変です。
もう一つは、物事が全然進まないこと。取引先に「書類ください」と言っても、全然出てこないんです。ケニア人は文章を書くのが苦手な傾向があり、とにかく会いたがるんですよね。何かあったときのために、しっかりと文章で残しておきたいという思いもあるのですが……。
実際に会うと話がどんどん進む一方で、オンラインになった瞬間に対応がすごく遅くなります。日本の感覚だと1日で終わりそうなことに、1カ月かかるなんてことも珍しくありません。
――ケニアだからこそできたことはありますか?
ケニアにいるからこそ、面白いクライアントと仕事ができていると思います。日本でコンサルをやっていたとしたら、大企業の案件には競合がたくさんいます。でもケニアは競合が少ないので、その分、素晴らしい経験や知見をもった方たちと一緒に仕事をするチャンスがあるんです。
ケニアの大企業のマネジメント層に会えたり、政界でいえば要職クラスの人と会えたりもします。日本にいたら自分はまだまだ下っ端だと思うのですが、ケニアだからこそ刺激的な経験ができて、まさにビジネスの醍醐味を感じています。
ケニアのワーク・ライフ・バランス
無力感を味わってからがスタート
――ケニアでのワーク・ライフ・バランスはいかがですか?
基本的には、バランスは取れていると思います。ケニアでは安いコストでお手伝いさんを頼めるので、毎日朝8時から夜の6時までお願いしているんです。
うちは共ばたらきなので、子どもの幼稚園への送り迎え、掃除、洗濯、料理、子どものお風呂まで全部お手伝いさんにやってもらって、本当に助かっています。さらに週2回は、日本食がつくれる方に来てもらっているので、日本食が食べられます。
家事のほとんどをお手伝いさんにお任せしているので、仕事が終わったら、あとは子どもと遊ぶだけ。日本で仕事していたころよりも、家族との時間を確保しやすいです。お手伝いさんのおかげで、ワーク・ライフ・バランスが整って、めちゃくちゃありがたいです。
――最後に、アフリカでのビジネスに興味を持っている人に向けて、メッセージをお願いします。
とにかくまずは現地に来てほしいですね。現地に来たら、おそらく皆さんのアフリカ像が崩れると思います。
ケニアに来て起業しようと思って、5カ月で諦めて帰った方がいました。その方は「5カ月で何もできませんでした」と言いましたが、ぼくは正直「5カ月しかやってないのに諦めるの?」と思いました。異国に飛び込み、ゼロから始めて、5カ月で結果を出すのは難しいです。
アフリカで何か貢献できると思っていませんか?違うんです。無力感を味わってからがスタートなんです。ぼくは常に無力感と戦っています。アフリカの人は優秀です。現実をぜひ見にきてください。
また、アフリカに対して不安がある方は、ぜひジェンガハウスに来てください。「アフリカに興味を持った人が訪れやすい環境を」との思いでつくったのがジェンガハウスです。一度来てみたら、アフリカは怖い場所でもなければ、意外と遠い場所でもないということが分かると思います。
アフリカでの経験が日本に帰ってからの原動力になるかもしれません。まずは日本を飛び出して、現場を見てほしいです。
(文:岡村幸治)
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