月7万で生活、10分で引越し完了。「モノもお金もいらない」Z世代の幸福感とは。職業「ミニマリスト」しぶさんに聞いた。

2025年6月24日

スタジオパーソルでは「はたらくを、もっと自分らしく。」をモットーに、さまざまなコンテンツをお届けしています。

今回取材したのは、ミニマリストとしての暮らしを発信し、書籍・YouTube・ブランド運営など幅広い分野で活躍するミニマリストしぶさんです。大学受験に失敗し、フリーターに。初期費用2万円、家具家電ほぼゼロの一人暮らしを始めたことを機に、しぶさんはミニマリストに目覚めました。

「はたらきたくなかった」と語るしぶさんが、どうやって“自分らしいはたらき方”を見つけたのか。人生のミニマリズムで切り開いた天職への道のり、そして“はたらく”に悩む方へのアドバイスを伺いました。

家具家電4つだけから始まった、ぼくのミニマルな暮らし

──しぶさんが“ミニマリスト”になった原点を詳しく教えてください。

大学受験に失敗し、二浪した末にフリーターになったところからぼくのミニマリストとしての人生が始まりました。

目指していたのは日本ではまだ学べないような、珍しい領域に特化した大学の学部で。そこに合格したい一心で、滑り止めすら受けていなかったんです。でも、理想は高いのに毎日バイトや遊びに明け暮れてしまい、肝心の勉強はしていなかった。行動が伴っていなかったんですよね。

その結果、三浪目で心が折れてしまってフリーターになりました。高校の同級生200人のうち、フリーターになったのはぼく一人だけ。医者になったり高学歴の大学に行ったりする人が多い中で、いわば「落ちこぼれ」になってしまったんです。

当時、「一人暮らしするには最低14万円が必要」といった統計も耳にしたんですが、ぼくはバイトで毎月10万円も稼いでいないくらいで。それなのに、ここでも「いい大学には行きたいけど勉強はしたくない」という受験勉強の時と一緒で、「はたらくのはしんどいけど一人暮らしはしたい」という、意識高い割に行動が伴わない自分がでてきて(笑)。

家は、家賃1万9千円の安いワンルームにすると決めました。ほかに削れそうな費用を検討した末に、家具家電の購入などの初期費用を抑えようと考えたんです。

──家具家電の購入費用を削る。具体的には、まず何から減らしていきましたか?

冷蔵庫を持たずに生活するところから検討し始めました。ネットで調べてみると、実際に冷蔵庫なしで暮らしている人がいたんですよね。スーパーで買ってきたものをその日に食べきれば、冷蔵冷凍する必要もないし、電気代もかからない。記事を読んで感銘を受けました。

そこから必要最低限のものだけを買うと決めて、最終的に買ったのは折りたたみのマットレス・テーブル・イス・ヘアドライヤーの4つだけでした。

家電家具をたった4つしか買わなかったので、購入費用は2万円以下で済みました。洗濯はコインランドリー、お風呂は趣味のサウナもついているジムを活用。好きなことも大切にしながら徹底的にものを減らしてサービスを活用することで、電気代やガス代もぐっと抑えられたんです。さらには、ものが減ったことで6畳1間の部屋でも十分になり、家賃も下げて、生活費はトータルで月6万円ほどにおさまるようになりました。

──そこから、ミニマリストとしての暮らしが仕事になった経緯を教えてください。

最初はミニマリストとしての暮らしを自分で記録したくて、ブログを始めたんです。趣味の延長で、当時はお金を稼ごうとはまったく思っていませんでした。でも、書き続けるうちに少しずつ記事が読まれるようになり、自然と広告収入も伸びていって。生活費をブログだけで安定してまかなえるようになった21歳の時に、思い切って仕事をブログ一本に絞ったんです。

そして、ブログを始めてから4年目の23歳の時に出版社からお声がけいただき、『手ぶらで生きる。見栄と財布を捨てて、自由になる50の方法』を2018年に出版しました。約7万部を売り上げ、海外3カ国でも翻訳されるなど、想像以上の反響がありましたね。

その後、発信の場をブログからYouTubeへと広げていきました。視聴者の方の部屋を片づけるという企画をきっかけに、2024年にはマインドから整える1on1のお片づけサービス『モノ減らしコーチング』も立ち上げたんです。ありがたいことに、今ではひっきりなしにご相談をいただいています。

ミニマリストとして活動し始めて約10年。ただ楽しく続けていただけなのに、いつの間にか多くの方に求められるようになりました。売り上げもずっと緩やかに右肩上がりで、自分でもここまで持続可能なはたらき方ができるとは思ってなかったですね。

はたらきたくなかったぼくが見つけた、自分らしい“はたらく”かたち

──「はたらきたくないけど一人暮らしはしたい」と語られていたしぶさん。今では自分らしいはたらき方を見つけられていますが、そもそもなぜはたらくことに対して消極的だったのですか?

過去にはたらきすぎていた時期があり、その経験から「過度な労働は良くない」と強く思うようになったんです。

高校の奨学金を返すため、18歳のころは週に6〜7日掛け持ちでアルバイトをしていて、月に30万円ほど稼いでいた時がありました。毎日ずっとはたらく生活は、心も身体もかなりきつくて……。過酷な経験を経て、そこからは「必要最低限のお金で暮らす」「週に3日だけはたらく」というスタイルを守り抜くことに重きをおくように。少しずつ返していった奨学金は、20歳ごろに完済できました。

ミニマリストな暮らしを始めてからは、本当に週3〜4回のバイトだけで生活できるようになり、はたらく時間が減ったことで、自分が自由に使える時間が増えた。時間の“余白”が生まれ、「何かやってみたいな」とやりたいことに手を伸ばす力も自然に湧いてきたんです。その余白で始めたブログでの発信が、今の仕事にもつながっています。

それまでは、「いい大学に行って、いい会社に入るのが幸せ」「ものやお金はあればあるほど豊か」だと信じていました。でも、実際には“ない”暮らしにも、ちゃんと豊かさはあった。ミニマリストな生活を通じて、そう気付けたことが、ぼくの価値観を大きく変えてくれました。

──余白が生まれたとしても、しぶさんのように天職に出会える人ばかりではない気がします。

そのとおりです。いきなり「これだ!」と思える仕事に出会える人は、ほとんどいないと思います。だからこそ、最初は「苦じゃない仕事」くらいの感覚で十分なのかなと。

そこから先は、ぼくは足し算ではなく「引き算」で、自分に合う仕事を見つけていきました。

──引き算ですか……?

片づけって何かを足すんじゃなくて、一つひとつ手放していく作業じゃないですか。その取捨選択の積み重ねが、実は人生の選択の練習にもなるんですよ。

「これはいらない」「これは大事にしたい」——そうやって選び続けるうちに、選ぶ力がついて、自分にとっての“心地よさ”や“価値観”がだんだん見えてくる。ある意味、片づけって自己分析なんです。

よく「いろいろ挑戦して、やりたいことを探そう」っていいますよね。もちろんそれも大事なんですが、実は20代くらいになると答えは自分の中である程度固まってきます。でも、多くの人はそこをちゃんと深掘りしないまま「自分が何をしたいか分からない」と迷い続けてしまう。だから、「減らす」ことが有効なんです。手放し、余計なものを削り落とすことで、自分の本音がどんどんクリアに見えてくる。

たとえばぼくの場合は、仕事が忙しくて生活が全然楽しくない状態から脱却したくて、「お金を稼ぐ」という足し算ではなく、「生活費を下げて、無駄に使わない」という引き算を優先した。それは生活も自分の考えも整理して、シンプルにしていって、自分が「やらない努力」のほうが得意だと理解したからです。ミニマリズムを通して自分と向き合ったからこそ、今こうして天職にたどり着けたんだと思います。

──自分に合う仕事も、片づけによって見えてくるんですね。

そう思います。ぼくは、「好きなこと」「得意なこと」「求められていること」の3つが重なる場所に、自分らしい仕事があると考えています。

ぼくはゲームが大好きだけど特別うまいわけではないし、誰かに求められるほどの才能があるわけでもない。でも、ミニマルな暮らしや考え方は好きだし得意だし、発信するとたくさんの反応をいただきました。片づけを通して自己理解が深まると、自然と自分に対する感度が高まり、「好きなこと」「得意なこと」「求められていること」も見えやすくなるんです。

仕事のために片づける。散らかった部屋があなたの可能性を蝕むワケ

──「好きなこと」「得意なこと」「求められていること」を見つけるための具体的な方法はありますか?

一番シンプルな方法は、「とにかく発信してみること」です。最初はジャンルや周りの評価なんて気にせず、思いついたことを自由に書いてみる。それで十分だと思います。

実際、ぼくも最初は発信内容がバラバラでした。福岡のグルメ情報や読んだ本の感想など、とくにテーマを決めず、気になったことを気が向くままにブログで発信していたんです。そうしていろいろな記事を書いているうちに「ミニマリストの記事だけやけに読まれるな」「これは反応が薄いな」と新しい発見が得られるんですよね。

“数字”や“反応”というフィードバックをもらうことで、少しずつ「得意なこと」や「求められていること」が見えてきて方向が定まっていきます。

発信と片づけは、最高の自己理解ツールです。

──ありがとうございます。最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?

仕事のために、まずは生活を整えてみてください。

生活費が高いままだと、「お金のためにこの仕事をやるしかない」と自分の軸からズレた選択をしてしまうかもしれません。本当に必要なものだけで暮らせるようになれば、お金に追われずに済むようになる。ぼく自身、「月6〜8万円あれば暮らせる」というベースがあることで、安心して新しい挑戦ができています。

「片づける時間がない」と感じている人も多いかもしれませんが、実は「時間がないから片づけられない」のではなく、「片づけていないから」時間が生まれないし、仕事もうまくいかないんです。

探しものに余計な時間を取られて、広さに見合わない家賃を払い続けて……。一度切れた集中力を取り戻すには、大きなエネルギーが必要です。“整っていない生活”は、知らないうちにあなたの時間や可能性を奪っていきます。

「片付ける→自分を知る→余白が生まれる→自分らしい“はたらく”が見つかる」。

遠回りに見えても、片付けは仕事を好転させる一番の近道です。まずは、あなたの部屋から。小さな片づけが、あなたの未来を大きく変えてくれるはずですよ。

(「スタジオパーソル」編集部/文:朝川真帆 編集:いしかわゆき、おのまり 写真:朝川真帆)

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ライター朝川真帆
フリーランス取材ライター。住宅系コミュニティマネージャーとしても活動中。2021年、新卒でコンビニの会社に入社し、数年後結婚を機に上京・退職。2023年に取材ライターとして独立した。現在はキャリアや事例導入、グルメなどのジャンルをメインに執筆中。フジロックのファンサイト、フジロッカーズオルグでもライターとして活動中。管理栄養士資格を持っている。関西出身。

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