食品メーカー退職後、ルワンダでスタディツアーを運営。きっかけは現地で感じた“無力さ”

2024年2月6日

海外で仕事をする人にインタビューする連載「世界ではたらく日本人」。第14回は、ルワンダでスタディツアーの運営や旅行サポートを行うAfrica Note Ltd.(アフリカノオト)代表の竹田憲弘さんにお話を伺いました。

竹田さんは食品メーカーでの勤務を経て、JICA海外協力隊(以下、海外協力隊)としてルワンダで2年間活動。一時帰国の後、2018年9月にルワンダ・キガリへ移住し、現地で起業しました。ルワンダに移住した背景や仕事のやりがいをお聞きしました。

ルワンダに行くまで

あるきっかけで退職を決意

――まずは、ルワンダに来る前のお仕事について教えてください。

新卒で食品メーカーに就職し、営業職として3年間勤務しました。会社の雰囲気は良く、営業の仕事も楽しかったのですが、やりたいことは今やろう、と海外協力隊でルワンダに行くことにしました。

――やりたいことを今やろう、と思ったきっかけはなんですか?

社会人2年目のころに、友人たちとスノボをしに行ったとき、一人の友人が突然脳梗塞で倒れてしまったんです。みんなで救急車に乗って病院へ行って、数時間待機して。無事、救急治療室から友人が出てきたときは、本当に安堵しました。

一方で、この体験で危機感を持つようになりました。24〜25歳で脳梗塞になって命が危ぶまれることもある。若くても何があるか分からない。今できることを確実にやっていかないと、死んじゃうかもしれないし、心身に障害を持ってできなくなってしまうかもしれない。会社を辞めて自分の好きなことをやっていこうと思うきっかけになりました。

――なぜそこから海外協力隊へ?

学生時代からソーシャルビジネスに興味があり、社会起業家になりたいと思っていました。そのためのステップとして、社会問題を多く抱える地域で生活しながら課題解決に取り組む経験をしたいなと。その手段として、海外協力隊を選びました。

海外の中でもルワンダでの起業を選んだ理由

世界は変えられない。無力さに気付いた2年間

――会社員を辞めることに迷いはありませんでしたか?

一切迷いはなかったですね。

親からは「せっかく良い会社に入ったのに、なんで辞めちゃうの?」と言われましたし、上司からも反対されました。でも、自分がやりたいことをやらないほうがもったいないし、やりたいことが見つかっているのに我慢するのは、人生の時間の無駄遣いだと思ったんです。

なぜか「自分なら会社を辞めても大丈夫だろう」という根拠のない自信があり、これ(海外協力隊)しかない!という感じでしたね(笑)。

――海外協力隊での経験について教えてください。

2016年1月〜2018年1月まで、東部県ルワマガナ郡ムシャセクターで衛生啓発活動をしていました。小学校で子どもたちに手を洗うべき理由や正しい手の洗い方について授業をしたり、地域のイベントを開いて子どもたちがほかの生徒や地域の人に衛生の大切さを伝えるような仕組みをつくったりしていました。

――海外協力隊の活動を通して、学んだことを教えてください。

一番の学びは自分が世界を変えられると思っていたのが間違いだったというか、いかにおこがましかったかに気付いたことです。当時は社会起業家になるビジョンを持っていて、ルワンダの人々が抱えている課題を解決できるビジネスをしたいと考えていました。しかし、2年間海外協力隊として活動してみて、そんなに簡単じゃないと思ったんです。

自分がいなくても全然やっていけるじゃん、と思ったのが一つのカルチャーショックでした。ルワンダに来るとき、ぼくは覚悟をしていました。途上国だから貧困も大変だろうし、すぐ近くで人が死ぬような悲惨な状況を目にすることもあるだろうなと。

海外協力隊の活動で衛生啓発ワークショップを行う竹田さん(本人提供)

ところがいざ来てみたら、みんなめっちゃ普通に生きていたんです。すごく楽しそうだし、自分がいてもいなくても何も変わらないなと思ったんですよね。不謹慎ですけど、もっと困っていてほしいくらいでした。

一方でもう少し踏み込んでみると、1日に1食しか食べていなかったり、病気だけど薬が買えなかったり、学校に行きたくても行けなかったり、いろいろな問題があることが分かりました。ただ今度は問題が大きすぎて自分一人ではどうにもならないなと。自分の無力さに気付かされた2年間でした。

最初はルワンダ人のためにソーシャルビジネスをやりたいと考えていましたが、別にソーシャルビジネスや社会起業家にこだわらなくてもいいと思うようになり、ホームステイを中心としたスタディツアーという起業アイデアが出てきたんです。日本人向けのビジネスの方が自分の価値を発揮できるのではないかと。

――海外協力隊の経験を活かして、ルワンダで起業したのですか?

はい。協力隊で派遣された時点で、将来ルワンダで起業しようと思っていました。ルワンダに特別なこだわりがあるわけではなく、流れで移住することになったのですが、すごく良い国だと思っています。

治安も良くて、会社を立ち上げるのも簡単で、人もすごく優しくて、気候も穏やかで過ごしやすい。自分にとってはほぼ完璧な環境ですね。

ルワンダでの仕事内容

自分が進むべき道のスタートに

――スタディツアーを始めた背景を教えてください。

2つ理由があります。1つ目はルワンダを訪れる日本人の多くが、首都のキガリや観光地のアカゲラ国立公園を見学するだけで帰ってしまうことに悔しさを覚えたこと。海外協力隊としてぼくが住んでいるような村の様子を見ずに帰るのはもったいないなと。観光地のようにキラキラはしていないけど、ここにも人の営みがあって、ルワンダの光と影を知るには田舎の村のことも知ってほしいと思ったんです。

2つ目は「国際協力に興味があるけど、何をすればいいか分からない」という人へのきっかけをつくりたいと思ったこと。過去の自分が現状をしらずに社会起業家になりたいと思っていたように、イメージだけで憧れている人が多いと感じていて。一言で国際協力といっても、分野も、はたらき方や関わり方もさまざまです。

スタディツアーを通して、具体的に誰のどんな問題をどのように解決するのかを考えるきっかけを与えられたらなと。自分が進むべき道を見つけるスタートラインにしてほしい、という意味を込めて「START」という名前のプログラムにしています。

スタディツアーSTARTでのホームステイの様子(本人提供)

――スタディツアーはどのような内容なのでしょうか?

ツアーは現地集合・現地解散で5泊6日もしくは6泊7日で行っています。内容は農村ホームステイやルワンダ虐殺の悲劇を経験し、生き延びた当事者とのお話会、現地在住日本人との勉強会などのプログラムを用意しており、参加者の希望に応じて調整しています。

参加者の半分以上は大学生。ギラギラしている“意識高い系”の学生にぜひ参加してもらいたいですね。思いはあるけど、何をすればいいかは分かっていない、昔のぼくのような人に向けてツアーをつくりました。1週間現地に滞在することで、自分に刺さるポイントが見つけられると思うので、まずはぜひ現実を見にきてください。

――スタディツアーを運営するやりがいを教えてください。

参加者からの「やりたいことが見つかりました」という声が一番うれしいですね。インドネシアとアフリカに興味がある学生さんが「ルワンダもすごく良かったけど、やっぱりインドネシアで活動したい」とモヤモヤを解消して、インドネシアで日本語を教えるボランティアを始めて。ぼくは必ずしもルワンダに関わってほしいとは考えていません。自分が最も輝ける場所を見つけることが一番だと思っています。

スタディツアーに参加して海外協力隊員になったり、JICA職員になったり、それぞれの得意分野を生かしてはたらいたり。そんな彼らの姿を見ていると、やった甲斐があったなと思います。

社会起業家になるこだわりは一旦捨てたものの、同じような思いは持ち続けているんです。自分一人で社会貢献するというより、STARTに参加してくれた方々がいろいろな場所で活躍してくれたら、より大きな社会貢献ができるのではないかと考えています。

スタディツアーSTARTの様子(本人提供)

――スタディツアー以外には、どのような業務をしているのでしょうか?

スタディツアーよりも自由に旅行を楽しみたい方に向けて、オーダーメイドで旅行をコーディネートする「ルワ旅コーデ」のサービスを用意しています。そのほか、ご依頼に応じて、ルワンダのリアルや海外でのはたらき方に関するオンラインセミナーや講演を行ったり、副業としてJICAで日本のNGOの活動をサポートしたりしています。

ルワンダで感じる、はたらく上での日本との違い

会社設立はオンライン完結

――ルワンダで起業する手続きについて教えてください。

会社設立はびっくりするほど簡単でした。オンラインで最短6時間で完了します。資本金も全然必要なく、誰でも書類さえ出せば会社はつくれます。起業自体は簡単ですが、儲けられるかどうかはまた別です。ルワンダで大きく儲けるのはなかなか難しいと感じています。

――ルワンダで仕事する上で大変なことを教えてください。

ルワンダ人の仕事相手が待ち合わせ時間になっても来ないことがあります。「遅れる」という連絡をしてくれないケースもあります。価値観の違いだと思うのですが、どこまでルワンダの文化に合わせればいいのかが、難しいなと。ぼくだけの問題であれば彼らに合わせればいいですが、お客さんが絡んでいる場合はお金もいただいていますし。

それから、ルワンダ人は結構、本音と建前を使い分けるんですよね。建前を重んじてくれるので、出会ったばかりはこちらに合わせてくれてやりやすいことが多いです。でも実は不満を溜め込んでいて、そのうち爆発しちゃう可能性があるのでその見極めやフォローが難しいですね。

ルワンダのワーク・ライフ・バランス

仕事よりも家族を優先したい

――現在のご自身のワーク・ライフ・バランスはいかがですか?

ぼくは仕事よりも家族を優先したいと思っています。仕事は替えが利きますが、パートナーは一人しかいません。妻と一緒に幸せになるのが第一で、仕事はその次です。

ただ現状、十分に家族を優先することができていません。というのも、先日、第一子を授かったのですが、妻が妊娠しているころから、自分は日本とルワンダを行ったり来たりしていたので、妻を十分にサポートできませんでした。妻は日本で暮らしていたのですが、ぼくは仕事でルワンダにいる時間が多かったからです。ぼくがルワンダにいないとスタディツアーはまだ難しいですし、JICAの副業も現地ではたらくことが前提の仕事なので。将来的には、どこにいてもお金が稼げるような仕組みにして、家族で一緒に暮らしたいです。

――これからやりたいことを教えてください。

これまでは一般消費者向けのBtoCのビジネスをしていたのですが、今後はBtoBの仕事を増やしていきたいです。先日、著書『アフリカに7年住んで学んだ50のこと: ルワンダの光と影』を出版したので、この本を名刺代わりにルワンダへの進出を考えている企業に向けた情報発信をしていきたいと考えています。

また、スタディツアーは現在、日本人のみを対象としていますが、英語対応をして英語圏の皆さんにも来てもらえるようにしたいです。

(文・写真:岡村幸治)

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ライター岡村幸治
1994年生まれ。スポーツニッポン新聞社を経て、フリーライターへ。経営者インタビューや旅行エッセイなどを執筆する。旅が大好きで、世界遺産検定マイスターの資格を保有している。
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