30歳で開花したアーティストmeiyoさんに聞く『なにをやってもうまくいかない』ときに、どう立ち回るか
TikTokやYouTubeなどで、『なにやってもうまくいかない』という曲を聴いたことはありませんか?TikTokでの総再生回数は5億回にのぼり、曲が使用されている動画は約4万8600本(2021年12月現在)。
派生してTikTokクリエイターにより作られた曲も多数あり、「替え歌のほうを知っている!」という方もいるかもしれません。
そんな『なにやってもうまくいかない』を手掛けたのは、アーティストのmeiyo(メイヨー)さん。2021年9月26日にこの曲をリリースし、メジャーデビューをしました。
meiyoさんは、このときすでに30歳。どんな想いによってこの曲が生まれ、そして“なにやってもうまくいかない”時にどう立ち回ってきたのかを聞きました。
12年間のアルバイト。それでも「自分には音楽しかない」
──2021年、30歳でデビューされたとのことですが、まずはご自身の音楽の経歴を教えていただけますか。
本格的に楽器を始めたのは結構遅くて、2008年の高校3年生の時です。友人たちと組んだバンドでドラムと楽曲制作を担当していました。高校を卒業してからもバンドは続けていたのですが、2015年に活動休止。それから、一人での活動をスタートしました。
バンドが活動休止になっても音楽を辞めよう、という考えはまったくなかったですね。
「自分には音楽しかない」という気持ちがあったんです。
それに、一人になっても「絶対あきらめないでね」って言ってくれるファンも少ないながらいましたから、その人たちの声に応えたいなと思っていた部分もあります。
生活はずっと苦しかったですね。高校を卒業したのに大学にいくでも、就職をするでもなく、近所のスーパーでアルバイトをしながら音楽に没頭する暮らしをしていました。これを12年ほど、メジャーデビューするまで続けていました。
──ソロになってからの主な活動の場はTikTokですよね。その決め手は何だったのでしょうか。
もともと、一人の視聴者としてTikTokを見る習慣はありました。若者がみているメディアという認識で、ただボーッと眺めている感じでしたね。
ある時、ふと「このメディアに僕が曲をアップしたらどうなるんだろう?」と思い、本当に軽い気持ちでアップしてみたんです。
それで、何本かアップしてみたら、20万再生くらいの小さなバズが起きたんですよね。そしたら、ユニバーサルミュージックという大きなレーベルから「うちに所属しないか」という声がかかって。
TikTokは業界が注目しているメディアなんだと思いましたね。
ただ、そんなトントン拍子で上手くいくはずもなく……。
レーベルの方に「TikTokでもっと芽が出そうだから、一緒に戦略を考えて投稿していこう」と言っていただき、2~3日に1曲書き上げ、TikTokに投稿する日々が続きました。でも、全然うまくいかないんです。レーベルからこんなに大きなチャンスをもらえたのに、結果が出ない。
バンド時代から自分の音楽を信じてついてきてくれているファンの中には、「TikTokばっかりやってるな」と離れてしまう人もいました。客観的にみたら小さなバズを1回起こしただけの、音楽だけでご飯も食べれていない、ただの30歳なんだと、絶望に近い状況で。
もう、『なにやってもうまくいかない』だったんですよね。
『なにやってもうまくいかない』がTikTokで大バズり
──そんな、なにやってもうまくいかない感情をそのまま込めた曲『なにやってもうまくいかない』を制作したら、バズったと……。
そうです(笑)。でも、「この曲はバズるぞ!」と思って制作したわけでもないんですよ。毎日楽曲制作に追われる中で作り上げた1曲。「じゃあこれ今日もアップしておきますね~」とスタッフに言われて、僕も「うん、よろしく~」と返すような、なんら変わらない感じで。
なのに、数日たったら、とんでもないことになっていたんです。みんなが僕の曲を使って動画をアップしてくれていて、振り付けをしてくれたり、派生の音楽を作ってくれたり……。僕もスタッフも、何が起こったか分かっていませんでした。
──曲に対する反響はどのようなものがありましたか?
TikTok上でコメントをもらうのですが、多かったのは「共感できる」「自分もなにやってもうまくいかない」といったコメントですね。TikTokにわざわざコメントをしてくれる層って、やはり流行をつくっている若い層なのかなと思います。ですので、10~20代の方に刺さる曲だったのかなと。
ただ、TikTokってすごく幅広い年齢の方が見ていらっしゃると思っていて、僕の母は今60代なのですが、母も楽しんでいるほどなんですね。僕がなんとなくTikTokをみていたように、若者だけのメディアではなく、どの世代も楽しめるものだと思います。
その後、ミュージックビデオをYouTubeに投稿したのですが、そちらには「安心した」というコメントがとても多かったです。僕自身が『なにやってもうまくいかない』音楽をひたすら続けてきて、なんとかメジャーデビューできた……というストーリーを込みにして作っていたので「うまくいかなくても、ずっと続けてればうまくいくこともある」とか「うまくいかない時期があってもいいんだ」と言ってくれる人が多かったですね。
──TikTokには無数に曲があがっていると思うのですが、その中で『なにやってもうまくいかない』がバズったのにはどんな理由があったと思いますか?
TikTokをいろいろと研究してみたんですが、今はポジティブな言葉よりもネガティブな言葉が流行っていると思っていて。TikTokというとみんなが踊っていて、イケイケなイメージがありますが、実は切なかったり、ネガティブな感情を素直に出したり、という方が自分事化されやすいようで、それが拡散につながるように感じています。
ただ、自分自身がネガティブな言葉はあまり好きではないので、捉えようによってはポジティブにもなるような言葉を選んでみたり、試行錯誤はしていました。
あとはバズっても仕方ない曲を作らないことですね。バズっているけど、その曲で世界や世の中を見る目は変わらないんじゃないかなって思う楽曲ってたくさんあるんですが、「僕はそういう楽曲を作らないぞ」と思っていました。毎日のように曲を作っていましたが、自分が絶対に納得するものを、いつバズってもいい楽曲を出すという意識は持っていました。
『なにやってもうまくいかない』時、逃げることで自分を守っていた
──meiyoさんご自身、『なにやってもうまくいかない』と思う時期は長かったのでしょうか。
僕、実はつい最近まで「うまくいってないと思ってなかった」んです。いや、正しくは「うまくいってなさすぎて、うまくいってないとは思ってなかった」ですね(笑)。
大学は1浪して、それでも志望校に受からなかったから進学をあきらめましたし、就職もしませんでした。29歳までアルバイトして、はたから見たら結構「ヤバいやつ」だと思うんですよね。
でもそれが「ヤバいこと」だとは思っていなかったんです(笑)。
なにやってもうまくいっていないことにやっと気付いたのが、レーベルに声をかけてもらった後のこと。
音楽を初めてからは「ずっと音楽を続けていくんだ」と思っていたのですが、それでごはんが食べられるわけでもないので、自分一人のペースでやっていればいいなと。
でもレーベルに所属してからは、そうはいきませんでした。一緒に相談して、会議して、僕がどうやったら売れるのかを必死に考えてくれる人がすごく多くて。
背負うものが変わったんですよね。なのに売れない。これで成果が出せないって、本当に「なにやってもうまくいかない」と、やっと気付いたんです。
──『なにやってもうまくいかない』時期をどう過ごしたのでしょうか?
それって、音楽が上手く行ってないときに、周りから「ダメ野郎」と思われないためにどうしてたかっていうことですよね(笑)。
僕、怒られたくないんですよ。怒られたら心が壊れちゃう。僕自身が終わる……って考えていて、今もそう思って生きています。
だから常に自分を俯瞰して見ているんです。たとえばスーパーでアルバイトしているころ、そろそろ怒られそうだなって思ったら、いい具合に背中を丸めて逃げる。多方面にいい顔して立ち回るより、逃げることも大切だと思うんです。
僕、「自分なんかいなくても世界は進む」という考えをずっと持っていて、そう考えていると、自分が率先して嫌な思いをする必要はないんですよね。嫌な気持ちになることは、避けていてもいい。
ビジネスの上でも「なにやってもうまくいかない」と相談を受けたなら、僕は一つ夢をかなえた者として「嫌なことはするな」ってアドバイスすると思います。仕事を辞めろと言っているんじゃなくて、いつかどうせうまくいく。なんとかなる。辛かったら一回距離をおいて逃げちゃえばいい。実際にそんな甘い考えが通用するのかは分かりませんが、仕事に対するモチベーションは人それぞれにあっていいと思っています。
『なにやってもうまくいかない』でバズったのはなぜなのか、いろんなことに疑問をもって1から考えた
──なにやってもうまくいかないという思いを率直に表現したことでバズったわけですが、次の曲に込めたい今のmeiyoさんの想いとは?
そうですね。『なにやってもうまくいかない』の次の曲として、2021年12月12日に『クエスチョン』という曲をリリースしました。この曲は『なにやってもうまくいかない』が自分の手を離れてTikTokで何億回と流れたとき、ハネさせてくれた君たちは誰なのか、そもそもなぜバズったのか……と考えたときにできた曲です。
もっと俯瞰して見ると、世界で起こっている問題について、すべての可能性について考えないと何も正解は見えてこないと思ったんです。だから、とにかくいろんなことに疑問を持っていることへの表明をしました。
『なにやってもうまくいかない』と比べて、疾走感のある曲調になっていて、自分のやりたいことを詰め込めたのかなと思います。
──『なにやってもうまくいかない』でバズってしまった以上、曲調を変えることに不安はなかったのでしょうか?
そうですね、『なにやってもうまくいかない』って、僕自身が想像していたmeiyoの売れ方とはちょっと違ったので、次どんな曲作ったらいいかと、自分を見失った時期はありました。
でも、結局『クエスチョン』はTikTokでまたバズったんです。全然違う曲を出してみようと思って出したものが、TikTokの視聴者の方たちに受け入れられたんですよね。だから、もう自分は好きな歌を歌っていれば大丈夫だなって思えました。あとは、meiyoとして走り続けるだけです。
(文:山口真央 編集:高山諒(ヒャクマンボルト))
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