新たなスタンダードに?「山形大花火大会」が選んだ“オンライン花火大会”への挑戦
夜空に輝く大輪の花が美しい花火大会。しかし、そんな夏の風物詩も2020年はコロナ禍でほとんどが中止になってしまいました。山形県で1980年から脈々と続く「山形大花火大会」も開催を自粛した花火大会の一つです。
毎年2万発を打ち上げる、その圧巻の光景を一目見ようと県内外から約4万人が詰めかけ、テレビ視聴も加えれば約10万人の人が楽しんできた山形県の一大イベントです。しかし、去年はコロナ禍で、その賑わいが失われました。
だからこそ「2021年は開催を!」と立ち上がったのが「公益社団法人山形青年会議所 花火大会特別委員会」の皆さん。コロナ禍によってイベントの見せ方の選択肢が広がる中、オンラインでの開催に挑もうとしています。
2年ぶりとなる2021年の花火大会にかける思いと情熱を、「公益社団法人山形青年会議所 花火大会特別委員会」特別委員長の小松 衛さん、本部長の田村 貴史さんに伺いました。
祭りが続々中止に…東北から火が消えた2020年
「『山形大花火大会』は、今年で42回目を数える花火大会です。毎年、山形青年会議所に属するメンバーたちが、先輩から後輩へと代々バトンを受け継ぐ形で盛り上げてきました。2019年・第40回大会を実施したときも、花火が夜空に打ち上がっているその瞬間から、水面下ではすでに翌年度に向けて動き出していたんです」(小松さん)
当時をそう振り返るのは小松さん。本来なら、2020年度・第41回の花火大会で「本部長」を務めるはずでした。「本部長」とは実務面を担当し、全体のプロデュースをする「特別委員長」の右腕となる役職です。
「山形大花火大会では、毎年テーマを設定し、それに沿って花火を演出しています。どんなテーマにするかは、特別委員長の考え次第。たとえば2018年は『満天~百花が織りなす光の饗宴~』、2019年は『輪〜歴史とご縁をかさねがさね〜』と続き、2020年は『青春花火〜アオハナ〜』になるはずでした」(小松さん)
老若男女の誰もが通る道である「青春」をあらためて楽しんでもらえるような花火にしよう。特別委員長とともにそう企画して、仲間たちと準備を進めていたといいます。
「いつも、花火大会の準備が最も忙しくなるのは4月以降。この時期になると協賛金の収集がスタートするのです。必要な金額は例年4000万円ほどで、青年会議所のメンバーである約100名がみんなでがんばって集めて回ります。今年もそろそろ企業に協賛のお願いに回ろう──。そんな話をしていた矢先、全国に緊急事態宣言が発令されました」(小松さん)
青森の「ねぶた祭り」、秋田の「竿燈まつり」、山形の「花笠まつり」、仙台の「七夕まつり」。こうした東北の4大祭りがぞくぞくと中止を発表。これは、ひょっとして……と息を呑んで情勢を見守っていた小松さんのもとに、山形市の市長から花火大会中止の知らせが入りました。
「開催を楽しみにして一生懸命準備をしてきただけに、みんなにはなかなか中止のことを言い出せませんでした。でも、当時はコロナに対しての知識がまだ乏しく、対策についても無知でした。感染者を出してしまう前に中止した判断は正しかったと思います」(小松さん)
全国一斉のサプライズ花火で胸にともった決意
楽しみにしていた「青春花火」は幻と消え、毎年打ち上げを依頼している花火師さんへの発注もキャンセルに。ほぼすべての祭りやイベントが中止された山形市内は暗く沈んでいました。
「そんなとき、青年会議所を統括する日本青年会議所でサプライズ花火を打ち上げる計画が持ち上がったのです。これは、東京オリンピックの開幕するはずだった7月24日に、全国47都道府県の約120カ所で一⻫に打ち上げるというもの。なんとか山形市民の皆さんや花火師さんたちを元気づけたいと思っていた私たちは、この花火の輪に喜んで参加しました」(小松さん)
観客が押し寄せて“密”になってしまわないように、小松さんたちはひそかに準備を進めました。そして迎えた7月24日の夜。全国と足並みを揃え、山形市内からすぐ近くの馬見ヶ崎川でゲリラ花火を打ち上げたのです。
「いつもの花火に比べれば、ずいぶん小さい玉でした。時間もたったの15分。それでも、あちこちで歓声があがり、喜びに沸く人々の声が聞こえました。たくさんの人が喜んでくれている。それがとてもうれしかった。花火を見るとき、人は上を向きますよね。上を向くと頑張ろうという気持ちになれる。来年こそはきっと開催できるようにしよう!そう思いました」(小松さん)
小松さんは、きたる第42回の花火大会に向けて「特別委員長」を務めることになりました。そして、右腕となる「本部長」には田村さんを指名。いまだコロナウイルスの脅威が尽きない中、花火大会を安全に実施するためのプランを練り始めました。
「山形を元気にしたい!」花火に託す願い
2021年5月、「山形大花火大会協議会」は2年ぶりとなる「第42回山形大花火大会」の開催を発表しました。今年、小松さんが定めた花火のテーマは、『南天花火~難を転じて福となす~』です。
「赤い実で知られる南天(なんてん)は、もともと縁起物で、厄払いなどに使われてきた植物です。そこに福寿草をかければ、“難(なん)を転じて福となす”という言葉になります。このピンチな状況を幸せな方向へと転じてくれるようにという願いを込めました」(小松さん)
田村さんも、8月14日の開催に向けて準備に駆け回っています。
「こんな状況で花火大会なんて……という声もきっとあるでしょう。でも、だからこそ、こんな状況でもできるということを証明したい。これまでは現場で見るか、テレビで見るかの二択でした。でも今年は“無観客”を徹底し、YouTubeでライブ配信を行います。桟敷席や会場設営といった例年の準備がなくなったかわりにYouTubeで楽曲を流すための交渉、SNSを用いたPR戦略といった新しい準備に奮闘しているところです」(田村さん)
YouTubeでのライブ配信は、同大会においては史上初。見込める閲覧数は未知数だといいますが、第40回時にテレビで生放送を行ったときは瞬間視聴率で30%台を叩き出したとか。今回のライブ配信でも多くの人の目に届くことを期待していると言います。
また、街を盛り上げる花火大会にしたいという思いから、打ち上げ会場を例年の須川河畔から山形市内の中心にある「霞城公園」に移しました。打ち上げ数は従来の2万発から5000発程度に縮小するものの、当日はドローンによる空撮も予定され、花火に照らされる山形市内の城下町が見渡せそうです。
「こんな時期ではありますが、みんなに愛されてきたこの花火大会をずっとずっと継続していきたい。だから将来、いつかこの花火大会の担い手となってくれる人たちが今年を参考にできるように、今、私たちが前例をつくります。ぜひ皆さん、8月14日にオンラインの花火会場でお会いしましょう!」(小松さん)
第42回 山形大花火大会
開催日時:2021年8月14日(土) 18:45~20:00
開催場所:霞城公園(無観客開催)
閲覧方法:YouTube生配信→https://www.youtube.com/channel/UCC3FziNYlyihiHgdGWoq6HQ
(文:矢口あやは 写真提供:公益社団法人山形青年会議所 花火大会特別委員会)
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