四千頭身を支える「放送作家」モチベーション維持の秘訣は、自分を褒める“スタンプ”にあり

2020年12月21日

テレビやラジオなどの番組の企画を考え、台本を作成する放送作家のお仕事。最近ではSNS動画にも活躍の場を広げています。

先日、脱力系の漫才で注目を集める人気お笑いトリオ「四千頭身(よんせんとうしん)」によるNiziUの『Make you happy』のMVをパロディーにした動画が再生回数310万回を突破。SNSやニュースサイトでも大きな話題になりました。

実は、そんな彼らの動画を裏方として支えていたのが、若干24歳の放送作家・ダンプさん。放送作家はその多くがフリーランスということもあり、どうやってなるのか、どんな仕事なのか、謎の多い職業。

数多くの著名人のYouTubeチャンネルやTikTok、テレビの番組などを手がけるダンプさんに放送作家になったきっかけ、今のはたらき方について聞いてみました。

なぜ放送作家に?超進学校から、お笑いの道を志す

──24歳になったばかりのダンプさんですが、業界ではかなりの若手ですよね。そもそもお笑いや放送作家を目指すきっかけはなんだったのでしょうか?

やはりお笑いが大好きだったということが大きいですね。

でも、僕が育った家ではなかなかバラエティ番組を見せてもらえませんでした。中学校と高校でも、地元北海道の進学校で寮生活だったので、お笑いが身近にあるような環境ではなかったんですよ。

高校1年のころからこっそりインターネットで昔のお笑い番組を見るようになり、それからはこれまでの反動でどっぷりとハマってしまいました。

──なるほど。そのときから放送作家という道は意識していたのでしょうか?

いや、まったく意識していませんでしたね。そもそも僕が通っていた高校は「超」がつくほどの進学校で、大学進学は当たり前。

しかも僕の家は父親も祖父も、親戚も歯医者という家系でした。大学の歯学部推薦の話も進んでいて、歯医者になるためのコースができあがっていたんです。

でも僕はお笑いにどっぷりハマっているし、そっちの道に進みたかった。だから1年間必死に勉強して、良い大学に入って、テレビ局の社員になろうと思っていました。

親には、勉強して国立の歯学部に入りたいから浪人させてほしい、そして東京の予備校に通いたい!という説得をして、半ば無理矢理上京しました(笑)。

浪人中の1年間は必死で勉強して、成績はかなり上がったのですが、結局大学は全部落ちてしまい……。それならもう大学に進学せずに、テレビ局の社員ではなく、芸人か放送作家としてエンタメ業界に飛び込んでみようと思ったのが19歳の時です。

──でも、そこまでいくと、もう親御さんには言い訳できなくなりますね。

はい。ですので、勘当されてしまいました。

そりゃそうですよね、歯医者になるために東京に行ったと思ったら、芸人か放送作家になりたいと言い出したんですから。

仕送りもストップしてしまったので、多いときはアルバイトを4つかけ持ちしてワタナベエンターテイメントの養成所に通うための貯金をするようになりました。

──今、放送作家として活動されていますが、芸人ではなく放送作家を選んだのは何か理由があったのでしょうか?

はじめはどちらになるか迷っていたのですが、あるお笑いライブで、現在一緒に仕事をさせてもらっているお笑い芸人の四千頭身さんや丸山礼さんと出会いました。そこで見た彼らが、おもしろすぎて挫折したというか、この人たちに僕は勝てそうにないなと……。自分が活躍できる可能性のある方に進もうと思ったんですね。

2020年10月2日に四千頭身のYouTubeチャンネルで公開した動画「NiziU『Make you happy』四千頭身が本気で M/Vを完全再現!【虹プロ】【GoziU】」。再生回数310万回再生を突破し(記事公開時)、ダンプさんも出演している

SNSでの企画成功の秘訣は「人」を好きになること

──ダンプさんはテレビだけではなく、YouTubeやTikTokなどSNSの放送作家もされているのが特徴ですよね。それぞれの仕事の割合は?

YouTubeとTikTokが8割、テレビが1割、ライブが1割といった感じです。あとは執筆の仕事もしています。

──仕事の8割がSNSというのは現代的ですね!

もちろんテレビの仕事に憧れはあります。

仕事をはじめたころは高須光聖さんや鈴木おさむさんなど、みなさんが知っているような大御所の放送作家のように芸人さんと一緒にお笑いの番組をやりたくて。でも、今の時代、なかなか難しいのかもしれないなと。

今テレビには経験値のある先輩方がたくさんいるので、上が詰まっています。さらにテレビ番組の制作予算は年々少なくなっているので、一つの番組に関わる放送作家の人数も減っていて。

そういった先輩方と戦うためには、別軸のスキルがないといけないですし、遠回りしても追い抜かす売りや個性がないといけません。そう思い、学生時代から好きだったYouTubeで放送作家をはじめてみようと思いました。

──テレビとYouTubeの放送作家、仕事の進め方はどのように違うのでしょうか?

テレビはまず企画があって、その企画に合う人がキャスティングされます。一方、YouTubeは人に紐付いたチャンネルがあって、その人に合う企画を考えます。企画を立てるときの順番が逆なんです。

ですので、YouTuberさんやタレントさんのチャンネルに関わることになったら、まずはその人を徹底的に好きになることからはじめて、自分がチャンネルを見る側のファンになるんです。

「この人のファンが喜ぶような動画を作りたい!」という意識が企画を考えるうえで大切になってきますね。

──企画を立てる際は、タレントやファンといった“人”を真っ先に思い浮かべると。

そうですね。ただ、一口にファンといっても、どのチャンネルでも毎回高評価とコメントをしてくれるコアなファン、アクションは起こさないけど毎回動画を見てくれるファン、時間があれば動画を見る人、といったように深度の違いがあります。

コアなファン向けの動画、新しいファン獲得のための動画など、それに応じた企画のパターンをいくつか用意して、バランスを保つようにしなければなりません。

仕事のモチベーションを維持する「スタンプラリー」

──放送作家のお仕事は忙しいイメージですが、どのようにモチベーションを維持しているのでしょうか?

四千頭身さんをはじめとして、丸山礼さんや土佐兄弟さん、PopteenTVなど、チャンネルによって関わり方に違いはありますが、現在、30程度のチャンネルに携わっています。

正直、それなりに忙しい方だと思っていますが、そんな中でも仕事へのモチベーションを維持するために、心の中でスタンプラリーをしています。

──スタンプラリーとは?

どんな仕事でも、目標がありますよね。上司に認めてもらうとか、新規契約を取るとか。もっと些細なことでもいいので、何かできたら「自分を褒めるためのスタンプ」を押すみたいな。そういう成功体験をスタンプラリーのように集めていくんです。

僕のスタンプラリーは、ミーハーですけど、芸能人や有名なYouTuberさんに会うとか(笑)、あとは自分の関わった動画がYouTubeの急上昇ランキング1位になるとか。はじめて再生回数が100万回突破したとき、テレビのエンドロールに名前が載ったときも、うれしくて心の中でスタンプを押しました。

自身の誕生日にYouTube急上昇ランキング1位を獲得

仕事をしていると自分の良い部分と悪い部分が見えてきますよね。

たとえば僕も自分より優れている人を見ると落ち込みますし、大きな仕事の前では常に不安を感じています。もちろんこれまでだってせっかく通した企画があまり伸びずに挫折したこともありました。

でもそんなに悪い部分を見続けても、すぐに良くなることはありません。だったら、どんなに小さなことでも、自分が達成したことに目を向けて、長所を伸ばしていきたいなって思います。

やっぱり、はたらくことに目的がなく、現状に苦痛を抱いているだけっていうのが一番ツラいですよね。まずはどんなことでもいいので、自分にとってのはたらく目的と、そこに辿り着くまでの小さな目標を決めて、ポジティブに、それを一つ一つクリアしていけたらいいのかなと。

(インタビュー・文/大川竜弥 編集/高山諒+ヒャクマンボルト 撮影/戸谷信博)

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