【オーストラリアのはたらき方】仕事とプライベートのバランスをとりつつ、社会貢献できる仕事に力を注ぐ
連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。
今回は、オーストラリアのはたらき方をご紹介します!
オーストラリア Data(2021年)
国内総生産ランキング(GDP) :12位/194カ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :12位/149カ国中(日本:56位)
<お話してくれた方>
ベン・スパローさん
オーストラリア国籍|45歳|コンサルティング企業・共同取締役
オーストラリア南部のアデレードという街で生まれ育つ。高校を卒業後、日本の高校に1年間交換留学。その後、アデレードの大学を卒業して再度日本に渡り、私立大学で英語の講師を務める。アデレードに戻り、日本語能力が活かせる経営コンサルタント企業に就職。2007年に友人と日本のマネジメント方法「リーン生産方式」を活かしたグローバル・コンサルティング会社を設立し、今に至る。オーストラリアにある日豪協会の連合組織である、全国豪日協会連盟の代表も務める。
Q.あなたはどんな人?
――まずは、ベンさんの現在のお仕事について教えてください。
「シンカ・マネジメント」という会社で、共同取締役を務めています。シンカ・マネジメントでは、トヨタ自動車を通して世界的に有名になった日本の経営手法「リーン生産方式」を用いて企業の継続的改善を行っています。リーン生産方式といってもさまざまですが、たとえば、課題を認識し、対策を考えて改善する「カイゼン」や、必要な物を、必要な時に、必要な量だけ効率的に生産する「ジャスト・イン・タイム生産方式」などがあります。そして、リーン生産コンサルティング、リーントレーニング、リーンスタディツアープログラムなどのサービスを展開し、60カ国以上のクライアントをサポートしています。
シンカ・マネジメントでは、日本のノウハウを世界中のクライアントに共有するために、クライアントとともに日本企業を訪問。日本の優れたマネジメントを体験してもらう「リーン・ジャパン・ツアー」を主催しています。
私はマネジメントのほか、クライアント指導やコンサルティングを担当しています。
――ベンさんは日本語が堪能ですね。どのように習得されたんですか?
1980年代後半、日本やドイツがオーストラリアの重要パートナーであるという考え方から、日本語かドイツ語を選択し、第二外国語として学ぶカリキュラムが高校で用意されていたんです。私はそこで日本語を選択。1993年に3週間の短期留学で熊本県を訪れたのが日本への最初の訪問でした。
高校卒業後、1年間の日本留学。帰国後はオーストラリアの大学に進学し、国際ビジネスを学びました。日本にまた行きたいと思っていたため、大学を卒業した後、2000年から2004年にかけて、大分県の日本文理大学で英語講師として勤めました。このような経験を積み重ねて、日本語力を高めてきたんです。
――どのような経緯で、講師からコンサルタントへと転職したんですか?
英語を教える仕事は楽しかったですが、一生向き合う仕事ではないと思っていました。別の分野で新たなスキルとキャリアを積むのであればオーストラリアに帰国するのが一番だと思い、オーストラリアへ戻りました。
日本語スキルを生かせる企業を探しましたが、帰国後半年ほどは就職先が決まらずに苦戦し……。そんな時、1998年に設立された日豪友好協会(JAFA)から「通訳を探している会社がある」と教えてもらったのです。
その会社は株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)といって、リーン・コンサルティングのパイオニアとして世界中にクライアントを持つ企業でした。私はそこで、唯一の英語ネイティブスピーカーとして勤務し、オーストラリア支社設立やグローバル部門のプロジェクトマネジメントを行うことになったのです。
――日本への強い興味がコンサルティングの仕事へと導いたんですね。その後、起業をされた経緯を教えてください。
JMACでもリーン・ジャパン・ツアーのような企画を年に1度、行っていました。しかし、残念ながらJMACのオーストラリア支社は2012年に閉鎖。ここで終わるのはもったいないと考え、JMACの同意のもと、友人とシンカ・マネジメントを立ち上げて、サービス提供を継続させたのです。
私の会社では、60カ国以上のクライアントにコンサルティングを行い、研修を行っています。新型コロナウィルス感染拡大前は、「リーン・ジャパン・ツアー」を年に12回ほど開催していました。
クライアントが当社のコンサルティングやトレーニングを受けたことで、競争力を高め、利益を上げられた時が一番うれしいです。
――ベンさんは経営者とのことですが、どのように1日を過ごしているのでしょうか。
新型コロナウィルス感染拡大前は朝5時に起きてジムに行ってましたが、感染拡大後は6時に起きて朝食をとり、14歳と15歳の息子を学校まで送ります。その後、8時30分にはオフィスに到着。午前中はデスクワークを終わらせたり、クライアント訪問をしたりすることが多いですね。
昼食はだいたいが外食。午後はオフィスで仕事を再開することもあれば、アデレードにいるクライアントを訪問することもあります。18時前に仕事を切り上げて部活を終えた子どもたちを迎えに行き帰宅。私も妻も料理が好きなので、どちらかが夕食を作ります。日本食もよく作りますよ!
――経営者でありながらビジネスとプライベートのバランスを取られているんですね。
経営者は24時間365日体制でいなければなりませんが、仕事のスケジュールを立てるときには家族のスケジュールも加味して立てるようにしています。子どもの送り迎えなどは、先に組み込んでおきますね。仕事が多いときは、朝の5時からオフィスにいることもあります。
出張で数日間家を空けることもありますが、その代わりに週末は子どもと一緒に過ごすなど、なるべくバランスを取るようにしています。
Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。
――オーストラリアの就職活動について教えてください。
エンジニアになりたいならエンジニアの、医学の道に進みたいなら医学の勉強を大学で専攻し、学んだことを生かせる企業を探します。もちろん、高校卒業後すぐにはたらく人もいます。私は幅広い就職先を検討できるよう、一般的なビジネスが学べる「国際ビジネス」を専攻しました。
オーストラリアの就職活動は、知人からの紹介や、学生時代のインターンシップ先からそのまま就職することもありますし、そのようなつながりがない場合は、求人サイトを利用して応募・面接を繰り返します。
――オーストラリアではどんな仕事が多いのですか?
輸出額やGDPを見てみると、鉱業が経済の割合を大きく占めているようですが、肌感覚的には銀行や保険、コンサルティングなどが多いように思います。シドニーやメルボルンなどの金融中心地は雇用市場が大きいため、サービス業が占めているのではないでしょうか。
――オーストラリアでの初任給はどのくらいですか?
年収でおよそ60,000ドル*です。一見日本より高いようですが、オーストラリアではこの20年間、インフレが続き、物価もどんどん上がっています。私が2000年に大分県にいたころ、日本の物価のほうがオーストラリアより高く感じたものですが、今では物価も不動産も、オーストラリアはとても高くなりました。
*1 オーストラリア・ドル を94.78円換算で、約570万円
――物価が上がっている中で、今の初任給で生活はできるのでしょうか?
新型コロナウィルス感染拡大前は、この年収でやっていくことができました。しかし現在はインフレ率が6%になり、物価がさらに上昇したことで、一般家庭の生活費も上がり続けています。住宅購入もかなり難しくなっています。ここ数カ月で、普通の生活をすることが難しい人も増えてきているように感じられます。
――休暇は年にどのくらいありますか?
有給休暇は毎年20日間で、使い切ることができなければ次の年に繰り越すことができます。
南オーストラリア州では、同じ会社で10年はたらくと3カ月の有給休暇が与えられるという法律があるのですが、一社での勤続年数を長くさせたいという傾向もあるのかもしれません。
残った有給分は雇用主が退職金として払わなければならないため、雇用主は有給を積極的に取るように勧めます。オーストラリア人が休みを大事にするイメージがあるのは、このためかもしれません。毎月少しずつ有給を使うよりも、長期休暇を取る人の方が多いですね。
Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?
――Q1の「あなたは、日々の仕事に、喜びや楽しみを感じていますか?」という問いに対し「YES」と答えた人の割合を見ると、116カ国中、オーストラリアは93位でした。この結果についてはどう思いますか?
順位は低いものの、75%以上の人が日々の仕事に喜びや楽しみを感じていることは、予想以上ですね。正直なところ、物価高騰の中で良い生活ができている人はあまりいないんじゃないかと思っていたので、もっと低い順位になるかと思っていたんです。多くの人が自分のライフスタイルに合った仕事を見つけられているのはいいことですね。
――ベンさん自身は仕事に関してどう感じていますか?
経営者の仕事は意思決定が多く、経営に影響する責任の重い仕事といえます。しかし、状況を読んで戦略を立て、実行に移して成果を出せたときはとてもうれしいですね。責任は重大ですが、そのための努力はやりがいがありますし、楽しんでいます。
――Q2「自分の仕事は人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は94位でした。
企業の利益は社会への貢献から得るものですから、この項目はもっと良い結果がでると思っていました。自分の仕事が他者に影響を与えていない、と考える人がいかに多いかを示しているのではないでしょうか。
仕事が楽しめていない人は、「誰かの役に立っている」という実感もないのでしょう。
――ベンさんは、ご自身の仕事が人々の生活に役立っていると感じていますか?
もちろんです!オーストラリアの人が日本の製造業企業を訪問して話を聞き、学ぶことでより良い企業運営につながっていると思います。「リーン・ジャパン・ツアー」を通じて日本とオーストラリアのかけ橋となり、お役に立つということは、このビジネスを通じて社会貢献ができているとも言えると自負しています。
――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」については50位でした。
この質問に関しては、私自身が「選択肢は少ない」と感じていたのですが、思ったより順位が高かったですね。
オーストラリアの雇用構造では、簡単にキャリアを変えることは困難です。特定の業種に就くには資格が求められますし、業界に入るべく事前に勉強し、学位や資格を取得しなければなりません。また、キャリアチェンジをするには多くのステップを踏む必要があります。
転職率は高く、同じ業界であれば転職しやすいのですが、業界自体を変える場合はトレーニングや資格取得から始めなければなりません。私のように異業種へ転職するのはとても難しいのです。
――ありがとうございます。最後にベンさんの今後の目標を教えてください。
私たちのビジネスは世界中から注目を集めています。海外では、コスト削減のために人を解雇するという選択肢を取りますが、日本で生まれたリーン・マネジメントでは、高品質を維持しながらコストを削減し、長期的に持続可能な経営を実現しています。多くの外資系企業が日本的アプローチに興味を持っており、今後はより多くの国で広めていきたいと考えています。
――日本とのつながりを通して出会ったリーン・マネジメントを用いて、多くの国にビジネスを進出させている意欲的なベンさん。今後のご活躍も楽しみです。本日はありがとうございました!
「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら。
※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。
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冊子からウェブサイトまで幅広く執筆を行う。
伊豆諸島への訪日外国人誘致プロジェクト「Tokyo Islands」の運営や翻訳・通訳業も行う。
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