【トルコのはたらき方】社会の変化に合わせできることを模索し続ける、バイタリティ溢れるトルコ人のはたらき方
連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。
今回は、トルコのはたらき方をご紹介します!
トルコ共和国 Data(2022年)
国内総生産ランキング(GDP) :112位/193ヵ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :21位/146ヵ国中(日本:54位)
<お話してくれた方>
アリ・オズデミールさんトルコ国籍|52歳|アンティークショップ経営
トルコ内陸部のアナトリア地方にある主要都市のひとつ、コンヤに住んでトルコの伝統的な絨毯を中心としたアンティークな品々を取り扱う店を経営している。子どもの頃、トルコの絨毯の美しさに魅せられ、親戚の経営する店ではたらき始めた。その後、トルコの伝統と文化が詰まったアンティークな品々を世界の人々に知ってもらうため、日本やアメリカの展示会に出展するようになる。日本の文化が好きで日本語を勉強し、日本で10年ほどトルコのアンティークショップを出店していた。今はトルコに戻り、日本人の妻と2人の子どもと一緒に故郷のコンヤでアンティークショップを経営している。 世界の文化を学ぶことや、海沿いを散歩をすることが好き。料理も好きで、好物の寿司を作ることもある。
Q.あなたはどんな人?
――あなたの仕事について教えてください。
私はトルコの伝統的な絨毯やオスマン帝国時代の食器など、歴史や文化の詰まったアンティークな品々を取り扱う店を経営しています。トルコの絨毯は2000年以上の伝統があって、地方ごと、家庭ごとに伝わる模様が織られています。トルコでは絨毯は敷物としてだけではなく、ゆりかごやソファのカバーやタペストリーなど家のあちこちで使うんです。子どもの頃からこのトルコ絨毯の魅力に取り憑かれて、この文化と製品を世界中の人に伝えたくて国内外の展示展に出展しながら店を切り盛りしています。
トルコの伝統と文化が詰まった絨毯に携わる仕事は、とてもやりがいがあります。
――どういう経緯で今の仕事に就いたんですか?
小さい頃、親戚のおじさんが経営する絨毯ショップに遊びに行った時、古い絨毯の穴を塞いで綺麗に修理する作業を見て、とても感動したんです。美しい模様が修復されていく様はとても素晴らしく、自分もこの業界ではたらきたいと思いました。
トルコの絨毯は模様の一つ一つに意味があるんです。例えば鳥の模様は幸せ、花は子孫繁栄など。色にも意味があって黄色は魔除け、青は高貴さの象徴、赤は富などです。家ごと、地方ごとに伝わる模様もあり、勉強するにつれて手紙のように祈りや思いがこめておられているトルコ絨毯の魅力にどんどん惹かれていきました。14歳で小学校を卒業してからは、親戚の絨毯ショップでトルコの文化や歴史について学びながらはたらき始めました。
それからはオスマン帝国時代の食器やランプなどにも興味が湧いて、絨毯だけでなくトルコのアンティークの品全体に興味が広がったんです。いろんな店ではたらいて経験を積んで、20歳を過ぎた頃に自分の店を持つようになりました。その頃から、トルコの伝統や文化、歴史の詰まったアンティークの品を世界中の人々に知って欲しくなり、アメリカや日本の展示会にも出品するようになりました。その際、日本の伝統的な品々にも興味を持ち、日本の文化を知りたくなったのでなって、一生懸命日本語を勉強して30歳ごろに日本でトルコのアンティークショップを出店しました。10年近く日本に住んでいたんですが、故郷が恋しくなったので、今ではおるこに戻りコンヤでアンティークショップを経営しています。
私の店で扱うアンティーク品は、トルコの国内をあちこち旅して集めて、修理したものです。美しい品々に出会うのがとても楽しく、やりがいを感じています。
――日本でもはたらいたことがあるんですね
そうなんです。トルコには日本人観光客が多いので、店やレストランを経営する多くのトルコ人は簡単な日本語を話せるんです。私が最初にはたらいた親戚の店にも日本人が来ることが多かったので、少しずつ日本の言葉に触れていきました。そこで日本の文化に興味が沸き、何回か日本に旅行に行って、いつかこの国で店を出したいと思い、本格的に日本語を勉強するようになりました。今では日常的な会話ができるようになりましたが、文字が難しいのでひらがなやカタカナ、漢字は読めません。
日本だけでなく、トルコ人は世界各国ではたらいています。代表的なのはケバブの屋台で、世界中あちこちの国に出店してトルコの味を広めています。私たちの祖先は遊牧民で、あちこちの土地を回って歴史を刻んできました。国を飛び越えてはたらきに出る、といバイタリティは遊牧民を祖先にもつトルコ人の国民性なのかもしれません。
――小学校を卒業してすぐにはたらき始めたんですか?
はい。私の子ども時代である1970年から1980年ごろ、トルコはとても大変な状況にありました。周辺諸国との問題が絶えなかったり、軍事クーデターが起きたりして、経済的にも政治的にもすごく混乱した時代だったんです。なので友達も私も、多くの人が小学校を卒業する14歳からはたらき始めました。
そういう場合、親戚や知り合いの店や職場でコネを使ってはたらき先を探します。はたらきながら必要な知識を学んで、経験を積んで今に至ります。今は少し落ち着いているので、高等教育を受ける人も増えてきました。
トルコでは7歳から14歳までが義務教育の小学校、その後18歳までの高等教育を受けて、さらに優秀な人は大学に進学します。私の子どもたちにも高等教育を受けたいと言っているので、一生懸命はたらいて教育の機会を与えたいと思います。
――仕事のモチベーションはなんですか?
歴史を感じる美しいアンティークの品を見つけ出して、自分の手で修理、清掃して店頭に並べる時間がとても好きで、やる気に満ち溢れます。いい商品を扱って、それを買ったお客さんを笑顔にして、その商品がお客さんに大事に使ってもらうことを想像することが、モチベーション維持につながります。自分の国や伝統、文化に誇りを持っているので、それに携われる仕事ができること、言語や他の国の文化を学んで、仕事の幅を広げられることにとてもやりがいを感じます。
――オフはどのように過ごしているんですか?
自然が好きなので、家族と散歩したりします。特に海沿いを歩くのがお気に入りです。トルコの文化を学ぶ中で、世界の文化と比較する面白さに気づき、世界各国の文化や骨董品について学ぶのも好きです。
Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。
――トルコのはたらき方について教えてください。
法律では1週間の労働時間を45時間以内に収めるように定められており、それを越える場合は残業代が支払われます。休憩時間にトルコの伝統的なチャイを飲んで仲間と談笑することも多いです。トルコのチャイグラスに紅茶とはまた違った風味のお茶(チャイ)を入れ、砂糖をたっぷり入れて飲むんです。このチャイ休憩でリフレッシュしてから、また仕事に打ち込みます。
はたらき方に関しては、近年大きな変化がありました。これまでのトルコは農業や漁業が盛んで、食べ物をたくさん生産してアメリカヤヨーロッパなどに輸出し、工業製品を輸入するという政策が取られていたんです。観光業も盛んで、私が子どもの頃は多くの人は小学校を卒業してから親戚や知人のコネでレストランや土産物屋、雑貨店、農場、漁場ではたらいていました。はたらきながら必要な知識を実践的に身につけていき、経験を積んでお金を稼いでいました。
最近では、経済的に自立するために製造業や工業に力を注ぎはじめています。今まで外国からの頼っていた自動車などの部品やインフラ設備を自分たちで作って維持して、先進国に頼りきりの状況を脱しようという政策が打ち出されたんです。このために、多くの人は高等教育を受けはじめ、エンジニアなど専門的な職業が増えてきています。
例えば、私の息子は給料や待遇の良いITエンジニアを目指しており、大学で情報工学の分野を専攻するために一生懸命勉強しています。私たちの世代のように義務教育が終わってすぐに学びながらはたらいて経験を積む、というスタイルから、より専門的な知識をもにつけるために高等教育、大学教育を受けて賃金や待遇の良い職種を選ぶ、というスタイルに移り変わりつつあります。この結果、トルコの製造業や工業の割合が多くなってきて、まさに国が変化していると肌で感じています。どちらが良いというわけではないですが、変化しながら国が豊かになってきていると実感しています。
――トルコは今、変化の中にいるんですね。
そうですね。周辺の国との関係がよくないこともあり、しばしばテロも起きます。今はウクライナ情勢に関して外交政策で大きな影響を受けています。経済もまだまだ発展途上で、自国の産業を発展させようと頑張る人がいる一方で、稼ぎの良いヨーロッパや日本へ出稼ぎに出てしまう人もいます。今のトルコは変化の真っ只中にあります。自分にできることを探しながら、少しずつ発展していく段階ですが、この変化をよく思わない人もいます。
少しずつ問題を解決しながら、いい方向に向かって欲しいです。トルコの古き良き文化を受け継ぎつつ、経済的に強い国になるために発展することを願っています。
――トルコでは最初の仕事をどうやって探すんですか?
多くの場合、親戚や知人に仕事を紹介してもらいます。レストランではたらきたい、ホテルではたらきたいなど希望を伝えて、コネで仕事を探します。仕事を探すには信頼関係が大切です。信頼できない人には仕事を紹介しないので、信頼できる人に紹介してもらってはたらき先、従業員を紹介してもらうというのはとても効率が良いんです。
高等教育、大学教育を受ける学生は、インターンシップを経て経験と信頼関係を築き、コネを広げて仕事を探すそうです。もちろんWEBの応募情報を調べてコネを使わず仕事を探すケースもあります。専門的な職業の人は、こちらの方が多いのかもしれません。
――トルコでは転職は一般的なんですか?
そうですね。ずっと同じ場所ではたらくより、より良いポジション、賃金を求めて転職をするのが普通です。私もいろんな店ではたらいて、今は自分の店を持っています。自分の経験を積んでスキルを増やし、コネを広げて次の職場に移ろうと、一生懸命はたらいています。国内だけでなく、国外ではたらくことも普通です。
――トルコではどんな職業が一般的なんですか?
商業や観光業、インフラ系の職種が多いです。また、近年は都市の発展が著しく、アジアとヨーロッパをつなぐボスボラス海峡トンネルも建設されるなど、建築業も盛んです。他の国と同じく、IT産業も発展してきており、エンジニアの需要も増えてきました。また、先ほども言った通り、自動車部品や化学工業などの産業も盛んになってきています。
――トルコの初任給はどれくらいですか?
1ヶ月でおよそ8,500₺ -9,000₺程度です*。
*1トルコリラ6.9円計算で約5万8千円〜約6万2千円
Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?
――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、トルコは122ヵ国中119位でした。この結果を受けて、どのように思われますか?
あまり高くない結果ですが、妥当だと思います。周辺諸国との火種はまだ燻っていますし、テロもしばしば起きるトルコは政治的な混乱が少なくなく、経済状態がなかなか安定しないんです。トルコリラもここ数年どんどん下がってきて、自分たちの生活のため、お金を稼ぐことに集中してはたらく人がとても多苦なってしまいます。そういう場合、仕事を楽しむ余裕がなくなるので、この結果に繋がるんでしょう。
私は仕事を楽しんでやりがいも感じていますが、近年のトルコ情勢に不安を覚えることもあります。それでも自分にできることを探して乗り越えていくしかないので、そういう気持ちを強く持ってはたらくしかないですね。トルコの人は自由に逞しく生きている人が多いので、ちょっとずつこの結果が良くなっていくと思います。
――Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は105位でした。
この結果も低いですが、前の結果の影響を受けていると思うので、これも妥当だと思います。自分の仕事を楽しむ余裕がなければ。誰かのためにはたらいているという実感が持てないので、低い結果になっているんでしょう。
家族や職場の人たちと助け合って心に余裕を持ち、人のためにはたらいているという気持ちを育むことが大切です。私はこの質問にはYesと答えます。
最近はアートの展示会や学校などで講演会に呼ばれることがあるので、自分のこうした経験を話して、若い人たちが心に余裕をもって、誇りを持って仕事に取り組んでもらえるように努めています。
――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は116位でした。
どういう仕事をしている人に聞いたかにもよりますが、私の年代では選択肢がありました。飲食業ではたらきたければ、その仕事を紹介してもらう、国外ではたらきたければそういう知人を探して仕事を紹介してもらう、などある程度自分の希望通りの仕事を紹介してもらえました。今の若い人たちは大学に行くことが一般的になり、専門的な職業に就く人が増えてきたので、競争率が高い職種に就くのが難しい場面があるんでしょう。
また、先ほども言いましたが、トルコは今変化の中にあります。変化をするには、我慢が必要な場面も多くなるので、そういう事情がこの結果に反映されているのかもしれません。トルコの伝統的な仕事をするのか、先進的な仕事に就くのか、といった判断が必要になり、選択肢が増えるからこそ厳しい状況になることもあります。
まだまだ発展途上の国ですが、トルコ人の逞しさやバイタリティで乗り切っていけると信じています。数年後にはこの結果はもっと良いものになるでしょう。
――興味深い話をしていただいてありがとうございました。
トルコと日本は文化的交流もありますし、国同士の交流でも良い関係を気づいています。今回、トルコの地震でも日本が支援してくれて、多くのトルコ人が感謝しています。
トルコは変化の中にあり、困難な状況が続いています。ですがこれまでの歴史で、トルコはたくさんな困難な状況に直面し、それを乗り越えてきました。トルコはもっともっと良い国になると思います。コロナも落ち着いてきたので、日本の人に観光に来て欲しいですね。
「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら。
※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。
※ この記事は「グッ!」済みです。もう一度押すと解除されます。
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数年働き、北欧アウトドアを体験するために退職し、北欧デンマークに1年間滞在。
現地の学校でアウトドアを学ぶ。
現在は北欧アウトドアライターとして記事を書き、その魅力を発信している。
自身のサイトではデンマーク生活を漫画形式で紹介。
また、デンマークの旅行代理店と提携し、日本人向けに北欧ネイチャーツアーの企画立案も担っている。
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