【カンボジアのはたらき方】自分にできることを模索しながら、仕事もプライベートも楽しく過ごす
連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。
今回は、カンボジアのはたらき方をご紹介します!
カンボジア王国 Data(2022年)
国内総生産ランキング(GDP) :109位/193カ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :114位/146カ国中(日本:54位)
<お話してくれた方>
ソク・シャムロゥンさん|カンボジア国籍|42歳|旅行ツアーガイド
世界遺産アンコールワットにほど近いシェムリアップ州の漁村に、妻と2人の子どもと住んでいる。「シャムロゥン」が本名だが、近しい人はJBとニックネームで呼んでいる。
子どものころから釣りをしたり、アンコールワットなどの歴史について学んだりするのが好きだった。以前は旅行会社に所属していたが、今はフリーランスで外国人観光客相手に英語のツアーガイドをしてはたらいている。自身の経験より、教育の大切さを実感しており、ガイドとして得た国内外のコネクションや収益で地元に「JBスクール」を建設し、弟たちと運営している。ガイドの仕事が無い日はJBスクールで子どもたちと交流している。趣味は読書や新しいことを学ぶこと。
Q.あなたはどんな人?
――あなたの仕事について教えてください。
私は外国人観光客の方に英語でツアーガイドをしています。私の住んでいるシェムリアップには、世界遺産のアンコールワットをはじめとする歴史のある古い寺院があるため、世界中から多くの観光客が来てくれます。
シェリムアップにある遺跡に案内し、その歴史や魅力をお客さんに紹介するのが私の仕事です。時にはタイやベトナムなど、外国でのツアーを引率することもあります。
以前はオーストラリア資本やベトナム資本の旅行会社に所属し、ツアーガイドをしていました。今はフリーランスですが、フリーランスでも会社に所属していても、ツアーガイドの仕事は変わりません。
――今はフリーランスとしてはたらいているんですね。どういう経緯でツアーガイドの仕事を始めたんですか?
子どものころからアンコールワットに近い村に住んでいて、歴史や遺跡に興味があり、その魅力を伝える仕事をしたいと思っていました。外国人観光客に魅力を伝えるには語学が必要だと思い、高校卒業後はアルバイトで貯めたお金で専門学校に2年ほど通い、英語の勉強をしました。
英語を勉強するだけでなく、アンコールワットや寺院に通ってほかのガイドのはたらきかたを見たり、シェムリアップの歴史や建造物についての知識を深めたりして、独学でガイドの仕方を勉強しました。専門学校を卒業した後は、旅行会社へ入社することができ、ツアーガイドの仕事をするようになったんです。
会社に所属しているとはいえ、最初のうちはガイドの仕事だけでは食べていけなかったので、レストランの仕事や夜間警備員のアルバイトを掛け持ちしながら生計を立てていました。経験を積み、徐々にガイドの仕事だけで食べていけるようになったのですが、2020年からは新型コロナウイルスの影響で、外国人観光客がカンボジアに来れなくなりました。
――コロナ禍ではどのように過ごしていたんですか?
旅行会社を辞め、生活のために不動産会社の営業の仕事を始めました。しかし、2022年の後半からは再び外国人観光客がカンボジアを訪れるようになったので、フリーランスでツアーガイドをするようになりました。やっぱりこの仕事が好きなんですよね。
これまでにガイドの仕事でツーリストインフォメーションやホテル、レストランとのコネクションはできていたので、旅行会社に所属する必要はあまり感じませんでした。ガイドを必要としている観光客がいたら、私のことを紹介してくれるようになりましたから。会社よりも柔軟にはたらけるので、フリーランスの立場が気に入っています。
――仕事のモチベーションはなんですか?
自分の故郷の歴史や文化、伝統を多くの人たちと共有できることが私のやりがいにつながっています。英語を話すことができれば世界中の人々と会話ができますから、この仕事は私にとってまさに天職と言えます。
あと、家族と一緒に過ごす時間や休憩時間をしっかりとることも大事です。オンとオフのメリハリをつけてはたらければ、モチベーションも保ちやすいので。
――オフはどのように過ごしているんですか?
家族と一緒に過ごしたり、読書をしたりしています。カンボジアの人は、家族と過ごす時間をとても大切にします。私も、妻や子どもたちといろんな話をしながら散歩や食事に出かける時間が大好きです。
また、新しいことを学ぶのも好きなので、外国人観光客の人々から聞いた世界の興味深い話を調べたりすることもありますよ。
Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。
――カンボジアのはたらき方について教えてください。
1日にはたらく時間は8時間と法律で決まっています。午前中の8時から12時まではたらいて、2時間のランチタイムを挟んでから14時から18時まではたらく。これが一般的なカンボジアのスタイルです。
仕事のある日もお昼にしっかり休むのがカンボジアのスタイルだと思います。
8時間以上はたらく場合は割増賃金が支払われますが、緊急の時を除き、1日10時間以内に収めなければなりません。賃金が多くなるとしても、カンボジアの人は残業したがりません。家に帰って家族と過ごす方が、割増賃金をもらってお金を稼ぐよりも大切だからです。休日は週1日です。
――そうなんですね。カンボジアではどうやって最初の仕事を探すんですか?
高校を卒業して18歳になると、ほとんどの人が飲食店や会社などのはたらき口を探しはじめます。カンボジアは経済成長率が6.5%ほどと、ASEANの中でもトップクラス。若い世代が多いので市場も拡大しており、仕事はたくさんあるんです。
カンボジアでは6歳から15歳までが義務教育で、最低就業年齢が15歳。地方では、高校での高等教育を受けずにはたらきはじめる人も少なくありません。平均すると、30〜40%が高校に進学しないと言われています。
医者や弁護士、エンジニアなど、特別な知識やスキルがいる職に就きたい場合は、高校卒業後に専門学校や大学に進学する必要があります。経済的に厳しい人も少なくないので、昼間にはたらきながら夜間に高校や専門学校へ通う人も多いですね。アルバイトをしながら、日中に学校で勉強している人もいます。
経済状況も人それぞれなので、はたらける年齢になったらはたらいて、少しずつ勉強し、知識をつけながら希望する仕事に応募するのが一般的ですね。
――カンボジアではどんな職業が一般的なんですか?
都市部では医者やエンジニア、弁護士や教師などですね。観光業に携わっている人も多いですが、地方ではほとんどの人が農家か漁師です。カンボジア人の85%は農業か漁業で生計を立てているんですよ。
――農業や漁業に従事している人が多いんですね。
そうなんです。カンボジアは経済発展が著しい国だと言いましたが、それでも都市部に住んでいるのは15%程度。地方に住み、農業や漁業に携わっている人の方が圧倒的に多いんです。
というのも、農業や漁業は高等教育を受けなくても職に就けます。地方に住んでいる子どもたちが高等教育を受けなかったり、中学でドロップアウトしてしまったりするケースも少なくありません。貧困から抜け出すことは難しいです。カンボジアは教育の機会をもっと増やさないといけません。
その背景には、教育の面で言うと、教師や学校が不足しているという現状があります。1975年〜1979年のポル・ポト政権期に教育制度が停止し、学校は閉鎖されました。教師をはじめとする知識人の多くが虐殺されてしまったんです。特に地方ではいまもなお余波を受けていて「近所に学校がなく、遠くに通うのが大変だから」という理由で退学してしまう子も多いんですよ。
日本やアメリカなどの教育支援プロジェクトに頼る部分は大きいですが、世界中から支援を受けていても、なお不足しているのです。教師不足、学校不足はカンボジアの悲惨な歴史の結果ですね。
私は英語や歴史、ガイドの勉強を一生懸命したからこそ今の仕事に就けているので、教育の大切さを身に沁みて感じています。嘆いてばかりいても仕方がないので、2019年に2人の弟と故郷の村で学校を建てたんです!私のニックネームをとって「JBスクール」と呼んでいます。
――素敵ですね!JBスクールについてもう少し教えてください。
JBスクールでは、義務教育が必要な6歳から15歳の子どもたちを受け入れていて、現在約400人の生徒と6人の教師がいます。多くの子どもは家業を手伝いながら、月曜から土曜の14時〜17時の間だけ授業を受けています。
カンボジアの人は逞しく、できないことやないものばかり考えません。自分にできることを探します。「誰にでも、何かを達成できる力がある」と信じているので、そういうことも学校で教えるようにしています。
――ツアーガイドの仕事と学校の運営はどうやって両立しているんですか?
私は学校の運営や宣伝を担当しているので、常に学校にいる必要もありません。弟たちがどういう状況か報告してくれるので、安心してガイドの仕事と両立できています。
ガイドの仕事がない時には顔をだして子どもたちと交流をしています。カンボジアには雨季と乾季があって、観光シーズンは11月から5月の乾季がメイン。なので雨季は私も学校で英語を教えています。
一般的な仕事だと1日の収入は12~15USドル*程度ですが、ガイドの仕事は1日平均30~40USドル**ほど稼げるので、雨季に仕事が少なくなってもなんとかやっていけるんですよ。
子どもたちの笑顔や頑張っている姿を見ているとエネルギーをもらえるので、自分も頑張ろうと思います。自分の好きな仕事をしながら、社会に貢献できているということはとてもうれしく、やりがいがあります。
*1USドル130円計算で、約1,500円〜1,900円
**1USドル130円計算で、約3,900円〜5,200円
――カンボジアではJBさんのように複数の仕事を持つことは一般的なんですか?
そうですね。一つの仕事だけで生計を建てられない場合、複数の仕事を持つのが普通です。私の故郷は漁村なので、空き時間に湖で魚を釣って、市場で売って家計の足しにしている人もいます。私も高校生のころ、魚を売って貯金をしていました。
先ほども言いましたが、カンボジアの人は家族と過ごすプライベートの時間を優先するので、生活をするのに十分な給料をもらえるなら副業はしません。私がガイドの仕事以外に学校の運営をしているのは、収入のためというよりは、社会貢献の意味合いが強いですね。
カンボジアは経済成長が著しいとはいえ、まだまだ貧しい国です。お金がないと生活ができませんが、お金のためにプライベートを犠牲にしたくない人が多いので、そこそこの給料で満足する人が多いと思います。もちろん、都市部などではバリバリはたらいて稼ぎたい、という人も多いでしょうけれど。
――カンボジアの初任給はどれくらいですか?
平均収入は月に250USドル*程度ですが、都市部と地方では大きく差があります。
*1USドル130円計算で、約32,500円
Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?
――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、122ヵ国中5位でした。この結果を受けて、どのように思われますか?
いい結果ですね。カンボジアの人たちはストレスがかかる状況がとても嫌いですから、ストレスが溜まるような仕事には就きたがらないのだと思います。また、楽しいことを見つけるのが得意なので、仕事を楽しめる国民性なのでしょう。私も仕事を楽しんでいますし、この調査で高い結果が出ていてとてもうれしいです。
本音を言えば、給与は多いに越したことはありませんが、お金を稼ぐためだけにはたらくのは疲れるので、自分や家族が楽しく過ごせる、ほどほどのバランスを見つけています。
――Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は122ヵ国中121位でした。
思った以上に低いですね。しかも前年度の49位より大きくランクダウンしています。私は自分の仕事が人々のためになっていると思っています。でも、この結果も妥当かもしれません。新型コロナウイルスの流行で多くの人が職を失い、国中が少し暗い雰囲気になっていましたから。
またカンボジアの人は将来のことを考えない傾向があるかもしれません。特に新型コロナウイルスが流行してからは、生活が厳しくなりました。今日、明日、1カ月後を考えた時に、「家族と一緒に生活できていれば良い」というマインドの人が増えたように思います。
元々ポジティブな人が多く、新型コロナウイルスの流行も落ち着いてきましたので、これからは良い結果に変化すると信じています。
――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は77位でした。
これも妥当な結果ですね。カンボジアの教育については問題が山積し、政府の支援も十分ではありません。先進国に支援をしてもらっているものの、それでも教育の機会が得られなかったり、ドロップアウトしたりする子も多くいます。教育が受けられないことで職の機会を失うということも、まだまだあるのです。
また、教育を受けなくてもなんとか生活できますし、それなりの生活でも楽しめる国民性なので、「頑張って勉強しよう」という人が少ないのかもしれません。怠惰、とは少し違いますが、現状でもそこそこ満足しているから「別にこのままでもいいや」ということなのでしょう。
勉強して少しずつ生活が良くなり、お金と心に余裕ができれば、視野が広がってマインドが変わると思います。今まさに経済成長している国なので、ちょっとずつ良い方向に変わって欲しいです。
教育の大切さを理解する大人も多くなり、子どもたちに教育を受けさせようとする親も増えてきています。私もJBスクールを運営し、社会貢献につながっていると感じます。カンボジアはこれからどんどん成長していく国なので、悲観はしていません。
――JBさんは仕事を楽しみながら、教育にも関心を寄せているんですね。
そうなんです!私はカンボジアの人も歴史も遺跡も大好きなので、この魅力を多くの人に伝えられるツアーガイドの仕事が天職だと思っています。ガイドの仕事を頑張って、JBスクールで子どもたちの笑顔を見ながら明るい未来に思いを馳せる日々は幸せですね。
疲れが溜まった時は、仕事のあとにビールを飲んでリフレッシュしています。カンボジアの人は楽しむことが得意な国民性なので、今後さらに経済発展し、良い方向に変化していくと期待しています。
「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら。
※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。
※ この記事は「グッ!」済みです。もう一度押すと解除されます。
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数年働き、北欧アウトドアを体験するために退職し、北欧デンマークに1年間滞在。
現地の学校でアウトドアを学ぶ。
現在は北欧アウトドアライターとして記事を書き、その魅力を発信している。
自身のサイトではデンマーク生活を漫画形式で紹介。
また、デンマークの旅行代理店と提携し、日本人向けに北欧ネイチャーツアーの企画立案も担っている。
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