1時間1,000円で駆けつける「おっさんレンタル」とは。1年契約・クレーム3回でクビに。

2023年1月30日

人生経験も豊富で、仕事における知識もある「おっさん」。しかし一部のおっさんは、なぜか若い世代に嫌われ、煙たがられる傾向にあります。人気サービス「おっさんレンタル」を運営し、自身も「おっさん」として活躍する西本貴信さんに、「嫌われないおっさん」になるための心構えを聞きました。

年間の依頼は約1,000件!7割は「相談系」の依頼

――まず、「おっさんレンタル」に登録しているおっさんはどれくらいいるんですか?

全国各地に70人くらいですね。現役の大学教授から、メガバンクに勤めていたおっさん、IT企業の経営者までさまざまですよ。基本的には1年契約で、クレームを3回受けるとクビになる、というルールで運営しています。

さまざまな趣味や特技、キャリアを持つおっさんたち

現在は毎月数十人程度のおっさんが応募してきます。「志望理由に下心がないか」「身なりが不潔ではないか」といった項目を面接でチェック。その中でも「人の役に立ちたい」という熱意のあるおっさんを採用するようにしています。

――現在、どれくらいの依頼件数を受けているのでしょうか?

1日に30件ほどです。年間で1,000件くらいのレンタルが発生しているので、大変ですよ。今日も電話で「今からレンタルできるおっさんいますか?」って。ぼく自身もサービスを始めてから、2,500件はレンタルの依頼を受けています。

実はサービスを開始してから最初の2年間は僕1人で依頼を全部引き受けていたんですよ。全国各地、いろんなところを飛び回っていました。3年目で「おっさんが足りてません!」と募集をかけ、徐々に仲間が増えていきました。

「現在もおっさんレンタルではおっさんを大募集中です!」と西本さん

――「おっさんレンタル」の利用者はどういった人が多いのでしょうか?

メディアに出た影響などもあって、今は若い子が多いです。一時期は依頼の8割が女性だったのですが、徐々に若い男性のお客さんも増えてきました。依頼内容は7割が相談系で、3割が作業系です。

――どういった相談が寄せられることが多いんですか?

男性は「転職をしたい」「インターンシップをしたい」など、仕事関係の相談が多いです。「こういう時はどうすればいいんですか?」と、明確なアドバイスを求めてくるお客さんが多いかもしれません。

逆に女性の場合、誰にも言えないような対人関係の悩み相談から「彼氏との待ち合わせ時間まで話し相手になって」というライトなものまで結構バラバラ。ノープランで「とりあえず借りてみたい」という問い合わせもあります。

最初は相手の話を聞き、自分の意見は後回しにする

――西本さんが若い人からの相談を受けるとき、気をつけていることはありますか?

依頼者のパーソナルスペースに入らないよう、相手との物理的な距離感は保っています。そして、とにかく「傾聴」することを意識しています。自分から率先して話をすることはあまりないかもしれません。

――相手の相談に対し、なぜ「傾聴」が重要なのでしょう?

基本的に「相談に乗ってほしい」という言葉の裏には「ひたすら話を聞いてほしい」というメッセージが込められているんです。具体的なアドバイスを求められない限り、まずは気がすむまで相手へ喋ってもらうようになりました。

僕がサービスを始めた当初は「せっかく1,000円もらうなら、面白い話をしなきゃ」って毎回気合を入れていたんですよ。でも、あるお客さんから「西本さんの話なんかどうでもいい!」って言われて。ハッとしましたね。「お客さんは必ずしも解決策を求めているわけではないんだ」と気付きました。

でも、「傾聴」ができないおっさんは意外と多いんです。すぐに結論を言おうとしたり、今までの経験から答えを出そうとしたりします。特に仕事で成功を収めた「オラオラ系」のおっさんは、「おっさんレンタル」で失敗しがちです。

――なぜ「オラオラ系」が失敗するのでしょうか?

ビジネスで成功しているぶん、すぐマウントを取ろうとするんですよね。悲しいことに「おっさんが喋りすぎて、全然話を聞いてもらえなかった」というクレームを受けることも多々あります。

お仕事をバリバリやってきたおっさんは、基本的にやる気と熱意に満ちています。でも、長年培ってきたプライドもある。本人に悪気はないものの、つい威張りたくなるんですよ。自分が話す武勇伝に感極まり、依頼者の前で泣いたおっさんもいました(笑)。

――そういったおっさんを、西本さんはどのようにケアしていますか?

動向を追いながらも、基本的には静観しています。自分の良くない部分に気づかないうちにアドバイスをしても「俺は間違ってない!クレームを入れた依頼者の方がおかしい!」って聞き入れないおっさんがいるので。

それよりも「依頼者から良い評価がもらえない」「人気が出ない」と悩み始め、僕に相談をしてきて初めて助け舟を出すことが多いかもしれません。よく「最初は聞いてあげて、話題がなくなったら自分の話をしてもいいよ」ってアドバイスしています。

「物知りじゃないおっさん」の方が評価が高い

――先ほど「7割が相談系で、3割が作業系」とおっしゃっていましたが、作業系の依頼とはどういったものになりますか?

本当にバラバラですよ!カメラマンとしてInstagramに載せるための写真を撮ることもあれば、「自宅のドアにカマキリがいて怖いから捕まえてほしい」という依頼まで(笑)。「演劇のチケットが余ったので一緒に行ってほしい」という問い合わせが、公演の前日に来ることもあります。

あとは転売行為に加担しない前提で、コミケに買い子として駆り出されることもあります。依頼者本人が行けない代わりに地下アイドルのライブへ行って、物販に並ぶこともあるし……僕、池袋の『アニメイト』は10回以上行きました。

――西本さんご自身は、アニメやアイドルといったカルチャーがお好きなんですか?

いえ、依頼者に誘われて初めて触れるものばかりです。「なんでおっさんがここにいるの?」と変な目で見られることはありますが(笑)、結果的に楽しんでいることが多いですよ。

――西本さんのように自分の知らないもの・ことを楽しめる人ばかりではないですよね。

実際、おっさんから「話題についていけない」と、悩み相談を受けることはあります。そういうときは「楽しめ、ニコニコしとけ、寝るな」と伝えます。初めて触れるカルチャーだったとしても、それを態度で否定することは誘った相手にも失礼ですからね。

とはいえ、別に無理して詳しくなる必要はないと思っています。むしろ世のおっさんが陥りがちな「まずは取説から!」という行動は避けたほうがいい。SNSを始める前に「Twitter攻略」みたいな本を買って挫折するおっさん、結構周りにいるんです。

――なぜおっさんは「取説」に走るんだと思いますか?

人の要望に100%応え、評価されたい気持ちが強いんです。彼らはとにかく失敗したくない。無知な自分を人に見せたくないんでしょうね。

準備をする大切さもわかりますが、人とのコミュニケーションを「仕事」と捉え、評価を求める気持ちが見え隠れすると、相手も心を開けません。それよりかは、分からないことを積極的に聞く「物知りではないおっさん」の方が好かれると思うんです。

「人の応援をしたい」おっさんは良いおっさんになれる

――西本さんは「おっさんレンタル」を副業で運営されているそうですが、普段はどういったお仕事をされているんですか?

個人のお客さんに対し、洋服からインテリア、旅行などをコーディネイトする仕事を、フリーランスで15年続けています。その前は百貨店に勤め、ディスプレイのスタイリングなどを行なっていました。

「おっさんレンタル」自体は「おっさんが人の役に立つ」というコンセプトのもと、2012年に始めました。面白半分で始めたものの、気づけば今年で10周年を迎えます。

――「おっさんレンタル」を始めた当初から、西本さんの中で「理想のおっさん」像に変化はありますか?

最初のころは、仕事もプライベートもバリバリこなすような存在こそが「求められるおっさん」だと思い込んでいました。若者と肩組んで、笑っているような感じです(笑)。でも「マウントを取って変に馴れ馴れしいおっさんは嫌われる」と気づいてから、もっと純粋に「人の役に立つおっさん」にフォーカスを当てるようになりました。

実際、表情が暗くてコミュニケーションが苦手なおっさんでも、上から目線じゃなく淡々と話ができる人は好かれるんですよ。面接で「人の応援ができたら」というワードが出てきたら「お、この人いい仕事しそうだな」とも思います。

――最後に、「嫌なおっさん」化しないために心がけておくべきことを教えてください。

「ああいう嫌な奴にはならないぞ」って意識し始めると、気づけばその道を進んでしまうそうですよ。嫌な言動をする人を見かけたら「かわいそう」って思うのがちょうど良いかもしれませんね。

そしてこれは僕個人の主観ですが、定年退職して余暇を過ごすよりも、早期退職してセカンドキャリアを歩み始めた方が「嫌なおっさん」にはならなさそうです。「自分の実績や経験にすがりつかないこと」を意識すれば良いのかな、と思います。

ちなみにスーツと名刺を奪われてしまったおっさんは気力を失い、徐々に捻くれていきがちです。だから「ほけんの窓口」のように、おっさんの将来に向けて相談に乗る「おっさんの窓口」をつくりたいな、とは思っています。世のおっさんがグレる前に、気力を与え直すビジネスはしたいですね。

(文:高木望 写真:鈴木渉)

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ライター高木 望
1992年、群馬県出身。広告代理店勤務を経て、2018年よりフリーライターとしての活動を開始。音楽や映画、経済、科学など幅広いテーマにおけるインタビュー企画に携わる。主な執筆媒体は雑誌『BRUTUS』『ケトル』、Webメディア『タイムアウト東京』『Qetic』『DIGLE』など。岩壁音楽祭主催メンバー。
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