【スロベニアのはたらき方】学生時代から自分に合う職業探し!世代間では価値観の違いも……

2022年4月4日

連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。

今回は、スロベニアのはたらき方をご紹介します!

スロベニア共和国 Data(2020年)
国内総生産ランキング(GDP) :83位/194ヵ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :29位/149ヵ国中(日本:62位)

<お話してくれた方>
イレナ・ノセさん
スロベニア国籍|39歳|ジュエリーデザイナー

スロベニアの首都リュブリャナで生まれ育ち、現在もリュブリャナに在住。手先が器用だった父親の影響を受け、幼いころよりデザインに興味を持つ。大学で社会学を専攻する傍ら、ジュエリー製作を独学で学び、広告代理店での就業を経て、27歳で個人事業主として独立。カラフルで鮮やかなジュエリーは、スロベニアだけでなく、ヨーロッパ諸国にもファンが多い。

Q.あなたはどんな人?

――イレナさんの現在のお仕事について教えてください。

指輪やピアスなど、ジュエリー全般のデザインから製作、販売までを一貫して行っています。週末に開催されるフリーマーケットに出店することからはじめたのですが、今ではオンライン販売も行っています。

値段の付け方も分からないまま、勢いと熱意で出店を決意

――どのような経緯で今の仕事をはじめましたか?

子どもの時からものを作ることが好きで、20歳くらいから自分でジュエリーをデザインするようになりました。当時は大学に通いながら広告代理店でもはたらいていたので、すきま時間に活動していた程度でした。しかし、その会社の倒産をきっかけに、自分が一番好きだったジュエリーデザイナーを本業にしようと決めたのです。

――勤めていた企業の倒産が、独立のきっかけになったのですね。

その広告代理店は主にWeb広告を扱う会社で、私を含めて6名ほどの小さな会社でした。私は秘書や庶務などの事務作業を担当していたので、会社の売上げや業績などは知らされていませんでしたが、経営がうまくいっていないことは肌で感じていました。

倒産する1年前に自分のブランドを立ち上げていたこともあり、倒産時は新しい勤め先を探すのではなく、独立してビジネスをすることを選んだのです。

――現在は個人事業主として活躍されていますが、会社員時代で良かったと感じる点はありますか?

会社には同僚や仲間がいるので、連帯感を感じられたのが良かったです。一人ぼっちでジュエリーを製作していると、ふと寂しさを感じる時があります。

あとは、社内行事も懐かしいですね。12月になると、スロベニアでは多くの企業がクリスマスパーティーを開催し、大勢の社員が集まって賑やかな時間を過ごします。それがあまりにも羨ましくて、独立後も、個人事業主の友人ら3名と一緒にパーティーを開いたこともあります(笑)。

Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。

――スロベニアは、イレナさんのように個人事業主としてはたらく人が多いのですか?

国全体で見ると、個人事業主の数は増えてきていますね。リーマンショックが起きた2008年を機に、企業は社員を雇用せず、個人事業主と業務委託契約を結ぶケースが多くなったからです。

――どうしてですか?

経済が不安定になり、企業側が社員の保険や福利厚生などを負担することが厳しくなったという事情が大きいですね。その点、個人事業主は自分たちで社会保険などを負担し、仕事も発生ベースで依頼されて受けるので、企業にとっては助かるのだと思います。

そういう状況のため、スロベニアでは安定的にキャリアプランを描ける職業が人気です。

特に、公務員や教師は失業する可能性も低いですし、勤続年数が長くなるにつれて給料も上がりますから、ライフプランも描きやすいですね。大学の研究職も人気です。

――スロベニアのはたらき方にはどんな特徴がありますか?

世代によってはたらき方はかなり異なります。35~45歳の私たち世代は「イプシロン世代」と呼ばれていて、ユーゴスラビアの解体、社会主義体制からの独立を経験した世代です。
※1991年にスロベニア共和国は独立

独立後は、国全体が経済成長を目標に掲げていたので、私たちや私たちの親世代は意欲的にはたらきましたし、キャリアを何よりも優先してきました。私も午前中にジュエリー製作、午後に市場で販売、夕方に事務作業と、寝る時間以外は仕事をしていることが多かったです。

2019年より実店舗も旧市街エリアにオープン

――仕事熱心な世代なんですね……!

「日本人みたい(笑)」と、友人と冗談を言い合うこともありましたが、それくらい仕事が大切でした。しかし、数年前に大病を患った経験から、休息をとる大切さも今では実感しています。

――ほかの世代のはたらき方はどうですか?

私より年下の、特に20代の人たちは、仕事よりプライベートを重視していると思います。繰り返しになりますが、2008年のリーマンショックでスロベニアは大打撃を受け、景気も冷え込みました。

多くの企業が破綻する中で、就職先を探すことは困難でしたし、キャリアに対するビジョンが持てず、はたらくことへのモチベーションが低下しました。その影響からか、仕事は勤務時間内に留め、仕事以外の時間を趣味や友人・家族と過ごす時間に充てているようです。

――仕事の価値観も時代によって変遷がありますね。ところで、スロベニアでは、一番はじめの就職先はどのように選ぶのですか?

スロベニアの大学では、カリキュラムの一環として就業経験を課すことがあるので、学生のうちから企業ではたらく人たちが多く、卒業後にそのまま正式採用されることもあります。学生を雇うと企業側は国に支払う税金の一部が免除されるので、積極的に受け入れてくれます。学生専用の求人を紹介する人材サービス企業もあるんですよ。

――イレナさんが大学生だった時は、どんな経験を積みましたか?

倒産した広告代理店のほかに、イベントを企画する仕事、証券会社の事務スタッフ、それにジャーナリストとしてもはたらきましたね。自分に合った職業を見つけたかったので、あえて異なる業種を経験しました。人とのつながりがその後の就職や転職にも関わってくるので、人脈を広げることも重視していました。

Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査 スロベニアの順位。※調査結果は、2021年に発表した第1回目調査のデータ。

―――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、スロベニアは116ヵ国中40位でした。

以前、スロベニア国内で同趣旨のアンケートが実施された際、「楽しんでいる」と答えたのは全体の半分程度だったので、今回はより前向きな結果となって良かったです。私もジュエリーデザイナーという自分の仕事を愛しているので、はたらくことは楽しいですよ。

―――「好き」以上に、愛しているのですね!

自分のアイデアを商品化するというクリエイティブな仕事が楽しいです。1つのイメージだったものが実際の商品になるまで試行錯誤を繰り返すのですけど、完成した時の充実感は格別なんです。

それに、お客さまの反応を直接見ることができるのも、仕事のやりがいにつながっています。

ある時、オーストリアから来た親子が私のジュエリーを見て、「こんなにキレイなものは見たことがない!」と言ってくれ時はすごくうれしかったです。ヨーロッパ各国から、毎年のようにお店に来てくださる方々もいますし、お客さまだった方がお友達になったこともあるんですよ。

――では、Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という実感もありますか?

私の仕事は、病気を治療することや、貧困問題を解決することもできません。だけど、私がデザインしたジュエリーによって人々が幸せを感じてくれたのなら、そこには意味がちゃんとあると思います。

―――実感したエピソードはありますか?

以前、スコットランド人の旦那さんが、私が作ったネックレスをイギリス人の奥さんにプレゼントされました。数年後、その奥さんから「壊れたので修理してほしい」と依頼を受けました。私は同じデザインで新しいものをお勧めしたのですが、奥さんは「亡くなった主人の思い出が詰まったものを身に着けていたいから」と打ち明けてくれて……。

奥さんはイギリスからわざわざ郵送してくださり、ネックレスが元通りになったことをとても喜んでくれました。ジュエリーが直ったからといって、亡くなった人が生き返るわけではありませんが、それでも私のジュエリーが、その人の悲しみを和らげる助けになれたのだと思えたのです。

カラフルな色合いと優美な曲線が目を引くジュエリーは1つ1つが手作り

――スロベニア全体では「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」と実感している割合は57位でした。

上位にいないのが悲しいことですよね。しかし、先ほど言ったように、仕事より生活を優先するスロベニア人が多くなってきたので、はたらくことに意義を求めることが少なくなってきたのではないでしょうか。

――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は72位です。

雇用の選択肢は、私も少ないのかなと感じます。スロベニアは家族経営の企業が多いので、代々家族で事業を受け継ぐか、もしくは近隣のヨーロッパ諸国ではたらくことが多いです。特にリュブリャナは家賃も高く、給料の半分くらいの金額になるので、家賃が安い国外での仕事を希望する人も少なくありません。

私自身は、好きなことをそのまま本業として選べたので、スロベニア人の中でも恵まれているのかなと思います。最近は裁縫も新たにはじめたので、ゆくゆくはジュエリーだけでなく、手芸用品も商品に加えていきたいと思っています。

仕事はアイデンティティの一部だと語る、イエナさん

――学生時代からさまざまな職種に加え、会社員と個人事業主も経験したからこそ、自分に合った仕事を見つけ、誇りを持っている様子がうかがえました。本日はありがとうございました!

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら

※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。

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SAGOJOライター浅井みらの
イタリア生まれ、ドイツ育ちの日本人。アメリカの大学でジャーナリズムと国際関係を専攻。
新卒で旅行会社H.I.S.に入社し、団体旅行部門で企画、営業、添乗を経験。現在は旅ライターとして見知らぬ魅力的な場所を開拓中。
SAGOJOをはじめ、トラベルjp、楽天トラベル、自身のサイトなどで執筆中。

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