【デンマークのはたらき方】自分に合った生き方を探して「ヒュッゲな暮らし」を楽しむ
連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。
今回は、デンマークのはたらき方をご紹介します!
デンマーク(デンマーク王国) Data(2021年)
国内総生産ランキング(GDP) :36位/194ヵ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :3位/149ヵ国中(日本:56位)
<お話してくれた方>
マリア・アンナ・ソフィー・シチャンさん
スウェーデン国籍|57歳|学校教員(フォルケホイスコーレ)
デンマーク第3の都市・オーデンセがあるフュン島で、成人教育機関「フォルケホイスコーレ*」の教員をしている。スウェーデン人の母とオーストリア人の父の元、スウェーデンで育ち、デンマークの大学に進学。大学では哲学や北欧文学について学んだ。フォルケホイスコーレでは、「アウトドア」や「自然と人間の共生」、「サスティナブル」などのクラスを担当している。 夫とは17年の結婚生活の後に離婚。2人の子どもはそれぞれ独立し、現在は愛猫2匹と暮らしている。趣味はカヤックやスキー、マウンテンバイクなどアウトドアアクティビティのほか、アマチュアオーケストラでフルートを吹いたり、読書したりするのも好き。
*フォルケホイスコーレ:デンマーク発祥の北欧独自の成人教育機関で、直訳すると「国民高等学校」。大学進学前や、職種を変える人生の節目などに幅広い年代の人々が通う。対話を中心とした実践的な教育で、試験や成績といった評価制度がないのが特徴。自分にできることや社会に役立つことを身につけていく。
Q.あなたはどんな人?
――まずは、マリアさんの現在のお仕事について教えてください。
フォルケホイスコーレの教員をしています。教員としてだけではなく、生徒たちの進路や人生相談、悩み相談などを受けるメンターとしての役割も担っています。アウトドアアクティビティの楽しみ方や、自然と人間がどう共生していくかなど、「サスティナビリティ」についてのクラスを教えているんですよ。
生徒が自己達成感や肯定感を高められるよう、森やビーチ、丘などに出かけ、体を動かしながら学びを深めるよう努めています。全寮制の学校なので、生徒と生活を共にすることもありますね。
――どんな生徒がフォルケホイスコーレに来るのでしょうか。
高校を卒業した時点で自分のやりたいことがわからない人、転職時に自分を見つめ直したい人、ハンディキャップがあってなかなか社会に出られない人、自分に自信がなくて生きる目的を見失っているような人など、さまざまです。
自分の専門分野を変えたい時などに、フォルケホイスコーレで新しい分野を試す人もいます。学校によって特色があり、アウトドアに強い学校や、アート、音楽に強い学校などもあります。海外からの生徒を受け入れているところもあり、国籍や年齢、性別も多種多様です。
自分のことは、案外自分自身ではよく分からないものですよね。自分はどんなことが好きなのか、どういう生き方をしたいかを、人生の節目で考えるのはいいことだと思います。歳とともに変わっていくこともありますしね。
――どのような経緯で、フォルケホイスコーレの教員としてはたらき始めたのですか?
前は清掃会社ではたらいていたんですが、同僚が「フォルケホイスコーレの教員の空きがある」と教えてくれて、私を推薦してくれました。デンマークは人とのつながりが重要な社会なので、仕事も知人に紹介してもらうことが多いんです。
元々フォルケホイスコーレの仕事に興味があったのでとてもうれしかったですし、今の仕事が大好きです。
――仕事のモチベーションはなんですか?
フォルケホイスコーレという学校は、社会においてとても意味のある場所だと思っています。人生の節目に自分を見つめ直すことは、誰にとっても大切なことですから、その手助けができるこの仕事には大きなやりがいを感じています。ただ一方的に教えるだけでなく、お互いに学びあって成長し、人として成長できるのがフォルケホイスコーレのいい所ですね。
生徒が自分の居場所を見つけ、達成感を感じ、肯定感を彼らなりのやり方で育むことが大切。私の知識や経験が役に立つのはうれしいです。
――オフタイムの過ごし方を教えてください。
アマチュアオーケストラでフルートを吹いたり、カヤックやハイキングなどのアウトドアを楽しんだりしています。天気のいい日は、外で日光浴をしながら本を読んだり、歌を歌ったりするのも好きです。
――外で過ごすのが好きなんですね
そうですね!デンマークは秋から冬になると日照時間がとても短くて、曇りや雨の日ばかりなので本当に太陽が恋しくなるんです。なので、太陽が出ている日は外に出てたくさん光を浴びたいんですよ。
でも居心地のいい自分の家で、猫たちに囲まれながら過ごすのももちろん好きですよ。デンマーク人はヒュッゲ*をとても大切にしますから。
*ヒュッゲ(Hygge):デンマーク語で、「お気に入りのもの」、「人に囲まれて過ごすリラックスした時間」という意味の言葉。定義は曖昧で、人によっていろんなヒュッゲを楽しんでいる。
Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。
――デンマークのはたらき方について教えてください。
職種によっていろいろなはたらき方がありますが、週37時間以内と法律で決まっています。一般的には朝9時から夕方16時まではたらきますが、私の場合は全寮制のフォルケホイスコーレが職場なので、勤務時間は朝7時から夕方の16時まで。ほかの職場では、フレックス制や時短勤務、テレワークも一般的で、自分に合ったはたらき方が選べます。
――マリアさんは少し労働時間が長いんですね
時間だけ見るとそう思われますが、実はそうでもないんです。
デンマークの一般的なお昼休みは30分。会社勤めの人などは、ご飯を食べながら仕事をして帰る時間を早くしたりしています。フォルケホイスコーレはお昼休みが1時間ほどありますし、生徒の休憩時間は私たちも休み時間なので、その分トータルの時間としては少し長めに感じられるかもしれません。
――日本では最近「週休3日制」が議論されているのですが、デンマークの状況はいかがでしょうか?
一部の職種ではもう導入しているかもしれませんが、私の周りではまだまだですね。私の仕事のように、機械ではできないような仕事だと週休3日制は少し難しいかもしれません。
でも、コンピューターやAIなどの性能が上がってきているので、不可能なことではないと思っています。はたらき方の選択肢が増えることは、とてもいいことですね。
私の場合、平日でも自分の時間をしっかり取ってリフレッシュしているので、週休2日でも特に問題ありません。イースター休暇や夏季休暇、クリスマス休暇など大型連休もありますし、オンとオフのバランスは今でちょうどいいと感じています。
――デンマークの初任給はどれくらいですか?
職種によってかなり違いがありますし、はたらき始める時期も人それぞれなので何とも言えないですが、国全体の平均年収は44,513dkk*(約881万円)くらいです。
教育費無料、医療費無料など高福祉国家を運営するために、50%程度が税金として徴収されます。
福祉が整っているので、本当に困ったことになることは少ないですけど。仕事に必要な経験を積むためにフォルケホイスコーレに来る人もいるんですよ。私もフォルケホイスコーレの教員としてはたらくまでに、いくつかの仕事を経験しましたし。
*1dkk(デンマーククローネ) 18円換算で、約881万円
――ちなみにデンマークでは、どうやって最初の仕事を探すんですか?
デンマークでは就職時から専門的なスキルや経験が求められるので、学生の間にボランティアやインターンシップをする人が多いです。
エンジニアや医者などは別ですが、大学や大学院を出ても仕事を探すのが難しい、という面があります。国が小さくマーケットが集中しやすいので仕方がないのですが、就きたい職業に就けるまでアルバイトをする人も少なくないですね。
転職の際には、知人に就職先の相談することもよくあります。最近ではフェイスブックなどのSNSで転職活動をすることも増えてきました。
デンマークだけでなく、スウェーデンなどほかの北欧諸国も知人づてで仕事を見つけるのは一般的です。私の印象では、スウェーデンの方がデンマークより少しコミュニティが閉鎖的のように感じます。
仕事において「信頼関係」は重要なので、コネでつながっていくことは、ある意味合理的かもしれないですね。
――デンマークは世界幸福度ランキングが高く、ここ数年トップ3に入っていますが、そのことについてどう感じていますか?
私は自分の生活にとても満足しているし、幸せを感じることが多いですが、課題も多いと感じています。特に若い人々や子どもたちはストレスを抱えている人も多く、自殺率も決して低くはありません。
デンマークは大学生に返済不要の奨学金が月に数万円出ますし、公立学校は学費が無料なので、自分にあった教育を探すことは金銭的には難しくありません。でも、選択肢が多すぎて、自分のやりたいことを見つけるのが難しいということがあるかもしれません。大学を出ても、仕事を見つけることは大変ですし、やりたいことを見つけても、試験を受けて資格を取るというところでつまずく人も多いようです。
そう考えると、幸せを感じている人はそんなに多くないかもしれません。確かに社会福祉は充実していますし、治安もいいので生活はしやすいですけどね。
――マリアさんはどうやって幸せな生活を見つけたんですか?
自分が何をしたら楽しいのか、どうやったら不快なことを避けられるのか、自分なりにヒュッゲな時間の過ごし方などを見つけられれば、幸せを感じやすいと思います。はたらき過ぎたり、悩み過ぎたりすると周りが見えず、辛くなるので、「自分なりの生き方」を見つけることが大切です。
幸せになるために、お金はそれほど必要ではないと感じています。小さくてもよいので成功体験を積み重ね、自分を認めて生活を楽しむことが大切ではないでしょうか。フォルケホイスコーレでは、ヒュッゲな時間を大事にしながら、生徒がそれぞれの方法で幸せになれるように教員としてサポートしています。
私が教えているアウトドアクラスでは、「アクティビティの楽しみ方」ということではなく、自然の中で体を動かすこと、心を開放すること、対話から学ぶことを教えています。デンマークは自然が多いので、自然の中で楽しむ方法やリフレッシュする方法を見つけると、生活がしやすくなるんです。
――ヒュッゲの文化は面白いですね
デンマーク人はヒュッゲが大好きで、この考え方を仕事にも取り入れる人が多いんですよ。たとえばお気に入りのマグカップでゆっくりコーヒーを飲みながら、窓の外の景色を眺めて同僚とおしゃべりするということも、ヒュッゲの一つです。オンでもオフでも、自分なりのヒュッゲが見つかると人生が充実すると思いますね。
Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?
――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、デンマークは116ヵ国中24位でした。
思ったより高くないですね。私は自分の仕事が大好きで毎日を楽しんでいます。でも、自分の仕事が退屈で、楽しくないと思っている人もいるのでしょうから、それは仕方がないですね。
かくいう私も、前の仕事は楽しくなかったのでそういう人がいることも理解できます。
今思うと、前の仕事について「楽しくない仕事」と決めつけていたのも良くなかったと思います。どんな仕事でも、自分なりに楽しめるように努力できると思いますし、そう思えれば、結果的に楽しくなるのかもしれません。
これまでの仕事で培った知識や経験はとても意味のあること。今すぐ天職に出会えなくても、自分の気持ち次第で今の状況も良くなるということを教えていきたいです。まあ、そうもいかないケースもあるので、一概には言えないですけど。
――Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は37位でした。
思ったより高くないですが、若い人たちの意見を反映すると妥当な結果だと思いますし、世代間でギャップがあるように思います。
デンマークでは新卒にも即戦力性が求められるので、若いうちはなかなか自分に合った仕事を見つけにくいんです。フォルケホイスコーレに来る学生も、自分の仕事に意味を見いだせないと悩む人がいます。知識と経験を積めれば、だんだん自分に合った仕事ができるようになり、仕事にやりがいを見つけられるようになることが多いですね。
――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は17位でした。
妥当な結果だと思います。今のフォルケホイスコーレの教員をする前は、私もいろんな仕事をしていました。
私の国籍はスウェーデンですが、デンマークではたらいています。逆にデンマーク国籍の人がスウェーデンではたらくこともできるので、自国以外でも仕事に就けるということは、選択肢が多くてありがたいですね。
デンマークでは転職することは普通のこと。いろんな仕事を経験する中で、同僚との付き合い方や人と信頼関係の築き方などを学べたことは、先々にも生かせる貴重な経験でした。自分の天職を見つけるまでは、様々な経験が必要なんだと思います。
いろんな仕事に就くことができる、転職できる、ということは、選択肢が多い証拠ではないでしょうか。
――フォルケホイスコーレの教員はマリアさんにとって天職なんですね!
そうなんです。今のフォルケホイスコーレ教員の仕事は大学時の専攻と直結していませんが、社会で得た経験をいかせています。デンマークは学歴主義ではなく、経験を積めば自分で選択肢を広げられる国。自分の仕事を通じて、デンマークがもっとはたらきやすい国になれればと期待しています。
伸び代があるというのはワクワクするし、やりがいがありますね。
――転職に出会われたマリアさん。デンマークの「ヒュッゲ」文化は、仕事探しや働き方にも根付いているのですね。本日はありがとうございました!
「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら。
※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。
※ この記事は「グッ!」済みです。もう一度押すと解除されます。
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数年働き、北欧アウトドアを体験するために退職し、北欧デンマークに1年間滞在。
現地の学校でアウトドアを学ぶ。
現在は北欧アウトドアライターとして記事を書き、その魅力を発信している。
自身のサイトではデンマーク生活を漫画形式で紹介。
また、デンマークの旅行代理店と提携し、日本人向けに北欧ネイチャーツアーの企画立案も担っている。
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