【インドネシアのはたらき方】経済成長の著しい国で自分らしい生活と仕事観を模索する

2022年11月25日

連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。     

今回は、スペインのはたらき方をご紹介します!

インドネシア共和国 Data(2021年)
国内総生産ランキング(GDP) :17位/194ヵ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :87位/149ヵ国中(日本:56位)

<お話してくれた方>
アランガ・ファンギ・ムラワーマンさん
インドネシア国籍|27歳|旅行会社経営
インドネシア諸島のほぼ中央に位置する、ボルネオ島東岸にある港湾都市バリクパパンに住み、旅行会社のオーナーとしてはたらいている。大学では科学技術をメディアなどに効率よく伝えるコミュニケーションサイエンスについて学び、ビデオグラファーや編集者として会社勤めをしていた。しかし会社勤めでストレスが溜まり、もっと自由に自分の好きなことを仕事にしたいと考え、旅行会社を設立。 趣味はサッカーと旅行。特にバックパッカースタイルで旅をするのが好き。

Q.あなたはどんな人?

――まずは、ファンギさんのお仕事について教えてください。

私は旅行会社のオーナーとしてはたらいており、飛行機のチケットや旅行ツアーを相場より安く、ネットやアプリで販売しています。また、少人数の旅行ツアーではガイドとして同行することもあり、お客さまの好みに合わせてカスタマイズしたツアーを楽しんでもらっています。

ファンギさんのワークスペース。旅行会社を設立しオーナーとしてはたらいている。

――どういう経緯で旅行会社を設立したのでしょうか。

コミュニケーションサイエンスを大学で学んだこともあり、ビデオグラファーや編集者として科学技術について広く伝える仕事を2年ほどしていました。当時はメディア関係の企業に所属していたのですが、会社勤めは自由な時間や給料が少ない割にプレッシャーが強く、自分に合っていないなと感じていました。

そのころ、日本人のガールフレンドがいたのですが、彼女に会いに行くお金を捻出するために、安く飛行機のチケットを購入していて。それを相場より安い値段で売って稼ぐ、という副業もしていました。

インドネシアでは、クーポンや購入するタイミング、サイトによっては安くチケットが入手できます。そうして購入したチケットを、自分で作ったWebサイトで高く売っていたんです。相場の1割引の値段で売っても利益が出ていました。

これがうまくいき、同じような方法で国内ツアーを安く提供したりして、今では旅行会社のオーナーとしてはたらくようになりました。少人数の旅行ツアーでは、ガイドとして同行するような仕事もしています。

――ファンギさん自らツアーガイドとして旅行に同行するんですね。

そうなんです。インドネシアは大小さまざまな島が1万島以上あり、島ごとに文化が違います。なので、それぞれの島に旅行するだけで「違う国みたい!」と言う人が多く、国内旅行でも、まるで海外旅行をするような異文化を体験できるんですよ。

たとえば、首都ジャカルタのあるジャワ島はイスラム教徒が多いのですが、観光で有名なバリ島はヒンドゥー教徒、フローレス島はキリスト教徒が多いというのも特徴です。そういうわけで国内ツアーも人気があり、お客さんの希望に合わせてツアーを構成し、ガイドとして同行するという仕事も需要があるんです。

私は日本が好きなので、何回も行ったことがあるんですよ。日本語もたくさん勉強して、簡単な会話もできるようになりました。日本に旅行に行きたいインドネシア人はたくさんいるので、日本へのツアーを企画して添乗することもありますよ。

バックパッカーの経験を活かしてツアーガイドとしてお客さまの旅行に同行することも

――ファンギさんは仕事を楽しんでいますか?

もちろん楽しんでいます!大学時代からバックパッカーとしてシンガポールやマレーシア、タイや日本など、たくさん旅行しました。その経験を活かせるのがとても良いですね。仕事を通して自分も旅行ができますし。旅行をする楽しさを、お客さんに提供できるのも魅力の一つです。

――仕事のモチベーションはなんですか?

好きなことを仕事にできて、会社員時代より自由で給料も高いというところですね。お客さんに快適で楽しい旅行を提供して、「楽しかった!」と言ってもらえることもモチベーションにつながります。旅行をすることは、自分にとってとても幸せな時間です。この幸せを多くの人に提供して、世の中の幸せを増やしたいと思っています!

――オフはどのように過ごしているのですか?

旅行したり、友達とサッカーしたりしています。YouTubeを観たりゲームをしたりするのも好きですよ。

趣味の旅行でスキーを満喫。自分の好きなことを仕事にできているのでとても満足しているという。

Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。

――インドネシアのはたらき方について教えてください。

インドネシアの給料額は低く、十分ではないと思います。また日系企業ではたらく人を見たり、日本に何回か旅行に行ったりした経験から、日本と比べるとインドネシアのはたらき方はのんびりで、仕事の質やプロ意識が低いと感じることもあります。

インドネシアの人口は2億7千万人ほどで、人口の多さは世界第4位です。「従業員の代わりはいくらでもいる」という認識が一般的なので、会社では給料が上がりにくいように思います。この現状が、プロ意識の低さにつながっているのかもしれません。

しかし、インドネシアの経済はどんどん成長し、仕事の質も少しずつ上がってきているように感じてはいます。

インドネシアは多文化国家なので、同じ国民でも文化や言葉、宗教が違うことが普通。多様性の中で、みんなが快適にはたらけるように努めています。国の方針で、2045年までに先進国の仲間入りすることを目指していますし、ASEANの中でも経済国だという自負があるので、都心ではバリバリはたらいている人が多いんです。一方で、田舎はいまだにのんびりとした空気が漂っていますけど。

――インドネシアの労働時間はどれくらいなんですか。

大体朝の7:00〜8:00の間にはたらき始めて、夕方17:00〜18:00ごろに帰ります。法律で週40時間以内しかはたらいてはいけないと決まっています。残業もときどきありますが、ほとんどしないですね。

都心は通勤ラッシュの渋滞が本当にひどくて、「労働時間よりも通勤時間の方がツラい」という話もよく聞きます。日本だと電車が混むみたいですが、インドネシアは鉄道が未発達なので、バイクや車の渋滞がひどいんです。ほぼ前に進めない時間帯もあって、首都ジャカルタの大渋滞は名物と言われているほどです。

絶対に遅刻できない日は、渋滞に巻き込まれないように徒歩で会社に行ける距離にあるホテルに泊まる、ということもあります。

――インドネシアの一般的な職業を教えてください。

昔は農家や漁師が多かったみたいです。インドネシアは農業に適した土地で、お米がたくさん取れますからね。お米が大好きな国民性で、マクドナルドにもお米のメニューがあるくらいです。

私の親世代はエンジニアや外資系のオイル・ガス会社ではたらく人が多いのですが、会社勤めは給料が低く、自由が少ないので、「自分らしいはたらき方がしたい」と起業したり、スタートアップ企業に転職したり、インスタグラマーやYouTuberになる若い人が増えてきました。

――世代によって結構違いがあるんですね。

そうなんです。インドネシアは農業以外に油田を持っているという経済的に有利な点があります。なので、経済成長が速く、社会の移り変わるスピードもとても速いんです。

これまでは農業と工業で国の経済を豊かにしようという方針で、人口もマーケットもどんどん拡大してきました。その結果、ASEANの盟主国として東南アジアでトップの経済国になり、人口も東南アジアで一番多い国になったんです。マーケットも人口も拡大しているということは、ビジネスチャンスがたくさんあるということですね。

このチャンスを狙って若者は新しいビジネススタイルを模索しているんです。私も起業しましたし、SNSを活用している若者も多いです。私の姉もインスタグラマーとして生計を立てているんですよ。YouTuberになろうとしてたころ、姉にいろんなアドバイスを受けたものです。

インドネシアは、国としてはまだまだ発展途上ですが、経済成長の著しい国で、チャンスがたくさんあるのは素晴らしいことだと思います。

家族旅行での一枚。いろんなはたらき方を家族に相談したり、アドバイスをもらったりしながら模索している。

――ビジネスチャンスがたくさんあるのはとても素敵ですね。

そうなんです。最近は「国をあげて観光業を盛り上げよう」という風潮があり、これが旅行会社を設立する動機の一つになりました。これまで、インドネシアの観光といえばバリ島一強だったので、もっとインドネシアの魅力を発信していきたいです。1万以上の島があるので、島ごとの特徴を楽しんでほしいですね。

――インドネシアの初任給はどれくらいですか?

職種やスキルによって大きく変わりますが、首都のジャカルタだと月に4万円程度です。私の住むバリクパパンでは2万8千円程度でしょうか。経済成長が著しいと言いましたが、島ごと、町ごとにかなり経済格差があるんです。

――経済格差について、何か対策はされているんですか?

最近は国をあげたビッグプロジェクトが議論されています。それは、首都をジャワ島にあるジャカルタから、私の住んでいるボルネオ島のバリクパパン郊外に移すという計画です。

ジャカルタは経済がとても発展していますが、先ほども言ったとおり交通渋滞が激しく、また環境汚染も進んでいるので、2024年までに首都を移してこの問題を解決しようということなんです。

私はバリクパパンの空気が好きなので、ジャカルタのようにせかせかした、渋滞する町になってほしくはありませんが、経済的にはとても良いと思っています。首都移転に伴う建物の建設など、ボルネオ島で雇用がたくさん生まれました。これでインドネシアの経済格差が少しでも解決されることを期待しています。

新しい首都は「ヌサンタラ」という名前になる予定です。首都移転については100%賛成できないものの、バリクパパンでの賃金が上がり、観光客がたくさんボルネオ島に来てくれたらうれしいです。

ファンギさんの住む町バリクパパン。この郊外に首都が移転する予定とのこと。

――そうなんですね。ところでインドネシアではどうやって最初の仕事を探すのですか?

多くの国がそうだと思いますが、会社に入るには即戦力になれる経験やスキルが必要になります。インドネシアはアルバイトの仕事がたくさんあるので、学生のうちにはたらいて経験を積んで、学校を卒業したら希望する会社の面接を受けにいく、というのが一般的ですね。

Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査 インドネシアの順位。※調査結果は、2021年に発表した第1回目調査のデータ

――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、インドネシアは116ヵ国中8位でした。この結果を受けて、どのように思われますか?

良い結果ですね。思ったより高い順位で驚きました。私ももちろん、仕事を楽しんでいます!

インドネシアの人たちはゆったりとした時間の中ではたらいているので、こういう結果になるんだと思います。

――一方、Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は116ヵ国中110位でした。

ほぼ最下位ですが、その通りだと思います。ASEANの中ではトップの経済力を持っていますが、まだまだ給料が低いですからね。少ない給料の中、惰性で仕事をする人も少なくありません。そういう意味で、この結果は妥当だと思います。

経済成長しながらもっと「はたらくこと」に意義を見出せてモチベーションを保てるようになればいいと思っています。インドネシアでは若者を中心にはたらき方を模索している最中なので、この順位も上がっていくと期待しています。

――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は38位でした。

妥当な結果でしょうね。私も起業する前、2年ほど会社勤めをしていました。会社勤めをしていたころ、より良い給料や労働環境を求めて転職し、2つの会社ではたらいた経験があります。インドネシアはビジネスチャンスがたくさんある国でマーケットも大きく、またどんどん成長しているので、多くの人は良い環境や給料、自分にあった仕事を求めてチャンスがあれば転職します。

「多様性の中の統一」というのがインドネシアの目標。多文化な国なので、いろんな職場環境があります。自分に合った環境を見つけて、はたらきやすい環境に出会ってほしいですね。

いろんな宗教、文化が交じる国、インドネシア。人々は自分に合った環境、はたらき方を模索している。

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら

※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。

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SAGOJOライター伏見碧
大学院で機械工学を専攻し、終了後はメーカー企業の研究所で勤務。
数年働き、北欧アウトドアを体験するために退職し、北欧デンマークに1年間滞在。
現地の学校でアウトドアを学ぶ。
現在は北欧アウトドアライターとして記事を書き、その魅力を発信している。
自身のサイトではデンマーク生活を漫画形式で紹介。
また、デンマークの旅行代理店と提携し、日本人向けに北欧ネイチャーツアーの企画立案も担っている。

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