【ヨルダンのはたらき方】遊ぶためにはたらく。充実したオフタイムのために一生懸命はたらくヨルダンの仕事観
連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。
今回は、ヨルダンのはたらき方をご紹介します!
ヨルダン・ハシミテ王国 Data(2022年)
国内総生産ランキング(GDP) :89位/191ヵ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :134位/146ヵ国中(日本:54位)
ラミ・メルヘムさん
ヨルダン国籍|37歳|開発マネージャー(会社員)
ヨルダンの首都アンマン在住。妻ともうすぐ2歳になる娘と暮らしている。医療機器や化学製品などの製品を扱う会社で、マーケティングやプロジェクト開発を担当。以前は服飾関係の企業に勤めていたが、より良い環境を求め、現在の会社に転職した。趣味は水泳と旅行。日本にも17回旅行したことがある。
Q.あなたはどんな人?
――あなたの仕事について教えてください。
私が勤めている企業では、医療機器や化学製品、セキュリティシステムなど、ヨルダンのあらゆる産業分野をカバーする製品を扱っています。ほかの国にも輸出をしている国際的な会社で、日本政府からは「政府開発援助*(ODA:Official Development Assistance)」も受けています。
私はそこで「開発マネージャー」としての役割を担っています。製品開発のプロジェクトの立ち上げ・管理をすべく、ビジネスチャンスがないかは常にアンテナを張っています。
日本政府の援助を受けていることもあって、オフィスはきれいではたらきやすいです。チームワークも良く、労働環境はとても気に入っています。この仕事につけたことはとてもラッキーだったと思います。
*政府開発援助(ODA):開発途上国の安定と発展に貢献するため、日本政府が資金や技術提供を行うこと
――どういう経緯で、今の仕事を始めたのですか?
友人がこの会社を紹介してくれました。以前は男性向けの服を取り扱うアパレル企業に、10年ほど勤めていました。前の仕事に大きな不満はありませんが、もっと新しいことを学んでみたかったし、課題解決能力を身につけ、成果を出したいと思っていました。そのためには国際的に活躍する企業ではたらくのがベスト。友人に紹介された時に絶好のチャンスだと思い、応募したんです。
今の仕事は12年目で、アパレル企業ではたらいていた年数を超えました。今の職場はスキル向上や成果が認められることはもちろん、成長に応じて給料を上げてくれるところが気に入っています。このような職場ではたらけることは、とてもラッキーで幸せなことです。
――ラミさんは仕事を楽しんでいますか?
もちろん楽しんでいます!今の仕事は多様なプロジェクトに関われますし、挑戦のしがいがあります。常に国内外の企業と競争しながら仕事ができることにやりがいを感じますし、誇りに思っています。
――仕事のモチベーションはなんですか?
やはり良い給料をもらえることです。仕事にはやりがいもありますが、それ以上に、成果に見合った給料をもらえることは、とても大切なことです。あとは新しい挑戦ができることや、公正に扱われることも重要ですね。
目的意識を持ってはたらけること、自分が大切に扱われていると感じられること、チームワークを発揮しながら、柔軟に仕事が進められることが重要だと考えています。今の仕事はこれが全部当てはまっているので、とても満足しています。
――オフはどのように過ごしているんですか?
水泳をしたり、家族とゆっくり過ごしたり、旅行を楽しんだりしています。日本の文化が大好きで、17回も日本へ旅行したことがあるんですよ。家族を連れてまた行きたいです!
Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。
――ヨルダンのはたらき方について教えてください。
ヨルダンの労働時間は1日8時間以内、週5日勤務と法律で決まっており、残業する人はほとんどいないという印象です。
ヨルダンの人は家族で過ごす時間を何より優先するので「仕事は生活のため」と割り切って、家族の時間を充実させる傾向にあります。もちろん、生活のためといっても一生懸命はたらきますが、家族の存在や収入の方が仕事のやりがいよりも優先順位が高い傾向にある、ということです。
また、昼間は銀行の窓口ではたらいて、夕方はUber Eatsのドライバーをする、というように、ダブルワークしている人も多くいます。
――ダブルワークが一般的なんですね。
給料が十分ではない企業も珍しくありませんから。生活するためにダブルワークする人が多いんです。ヨルダンは中東でも珍しく、石油がほとんど出ない国。天然ガスや鉱物資源は多少取れるものの、砂漠の多い国なので水資源に乏しく、内陸国なので海洋資源にも頼れません。農業にも工業にも不向きで、ほかの中東諸国に比べて経済的にハンデがあるのが現状です。
そんな中でも、自国の経済を良くしようと、みんな一生懸命にはたらいてお金を稼いでいます。オフの時間を大切にする国民性なので、その時間を維持、充実させるためにお金を稼ぐ、という考え方が一般的です。そのためにはダブルワークもしますし、やりがいが少なくても給料の良い仕事を探す人が多いように思います。
――ヨルダンではどうやって仕事を探すんですか?
知り合いに仕事を紹介してもらうケースが多いですね。私自身も、今の仕事は知人の紹介でした。
ほとんどの学生はレストランやカフェ、お店でアルバイトをし、卒業前に自分の就きたい職に関係するアルバイト先を探します。そこで経験と知識を積んで、その業界でのコネを作り、希望する職を紹介してもらう、という感じです。
――なぜ人づての紹介が多いのだと思いますか?
私の住んでいる首都のアンマンはとても発展した場所で、中東でも有数の世界都市です。ヨルダンの国民の多くは首都アンマンで暮らしていて、「アンマンに住んでいる人は皆、知り合いの知り合い」というぐらい、小さいコミュニティ。そのため、仕事を探すときには「知り合いに聞いて紹介してもらう」というのが一般的なんです。
ヨルダンはイスラム教社会なので、みんなで助け合って生きていくのが普通。その職を任せられるスキルがあり、人間的に信頼できる人を紹介するので、採用する側も安心です。
理にかなっていると思いますよ。
――はたらくことに関して、近年ヨルダンでは何か変化がありますか?
ヨルダンは、パレスチナやシリアなどから多くの難民を受け入れています。特に2011年のシリア内戦からは難民の数が増えました。今では国民の15人に1人が移民で、移民の人数は世界で第4位。まさに「移民大国」です。
彼らは同じアラビア語を話すイスラム教徒なので、ヨルダンに来ても言葉や文化の壁を感じることは少ないそうです。今では政府も難民に対し、ヨルダン人と同じ水準の医療や教育を提供し、就労を許可しています。はたらき手が増え、街が発展してきたように思いますね。もちろん問題もいろいろとあり、日本をはじめとする先進国が、経済援助をしてくれているからこそ成り立っている部分もあります。
また、最近では国の80%を占める砂漠を有効活用しようと、太陽光や風力発電の開発が盛ん。エンジニアの需要が増えました。資源の少ない国ですが、たくましい人が多いので、いろんな事にチャレンジしています。
あと、ほかの国でもそうだと思いますが、新型コロナウイルスの流行で、一部の会社ではリモートワークとオフィス勤務が選択できるようになりました。私の会社も希望すればリモートワークができますが、個人的には同僚と談笑できるオフィス勤務の方が好きですね。
――ヨルダンの初任給はどれくらいですか?
職種やスキル、学歴によって変わりますが大体400〜600JDほどです*。
*1ヨルダンディナール210円計算で、約8万4千円〜12万6千円
――ヨルダンの一般的な職業はなんですか?
ヨルダンは観光が盛んなので、観光業に関する仕事をしている人も多いですよ。オフィス勤務の人だと、営業職が中心です。
――観光業が盛んなんですね。
そうなんです。日本の人にはあまり馴染みがないかもしれませんが、ヨルダンは古代都市のぺトラ遺跡や死海などがあり、観光資源には恵まれているのです。砂漠ツアーなんかも人気ですね。
新型コロナウイルスのパンデミックも収まってきたので、最近は外国からの観光客受け入れが再開されました。世界中から観光客がヨルダンに観光に来てくれて、誇らしいですね。
Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?
――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、ヨルダン116ヵ国中110位でした。この結果を受けて、どのように思われますか?
驚きの結果ですね。個人的には最下位かと思っていましたから。前述の通り、家族との生活のためにはたらく人や、条件の良さで仕事を選ぶ人が多いんです。みんな一生懸命ではあるものの、安い賃金や少ない雇用に不平不満を言う人は少なくありません。
私は今の仕事に満足して楽しんではたらいていますが、若いころはそうでもありませんでした。知識と経験を積んでやりたい仕事に就ければ、仕事は楽しくなるもの。今回「No」と答えた人も、将来は同じ質問に「Yes」と答えられることを願います。
――Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は116ヵ国中71位でした。
妥当な結果だと思います。観光業が盛んですからね。首都のアンマンもいろんなビジネスが増えてきました。これからもっと「人のためにはたらいている」という実感を持つ人が増えると思います。
――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は115位でした。
こちらも納得の結果です。先ほどお伝えした通り、ヨルダンは資源が少なく、農業も工業も発展しづらい国。観光などのサービス業がメインになります。サービス業は職種も限られていますし、選択肢が用意されているとは言えないでしょう。
それでも、最新の灌漑(かんがい)農業のおかげで、収穫できる農作物が増えてきたり、再生可能エネルギーの開発が進んできたりと、少しずつ良い変化も見られるようになりました。
ヨルダンの人は変化を受け入れながら、たくましく、明るく生きています。これから時代が進んで、私の娘が大人になるころには、もっと選択肢が増えていてほしいものですね。そのためにも、今自分ができることを探りながら、一生懸命はたらこうと思います。
――ヨルダンの人は明るいんですね。
そうなんです!資源が少なく、ハンデのある国ですが、みんな悲観せず一生懸命はたらいています。世界各地から観光客が訪れる治安のよい国ですし、オープンでフレンドリーな人が多いという点はとても素晴らしく、誇れるポイントだと思っています。
観光業も再開されて、少し国の雰囲気も明るくなりました。
いろいろな課題のある国ですが、国際社会の援助も得ながら、もっと住みやすい、はたらきやすい国になると期待しています!
「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら。
※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。
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