【産業医監修】咀嚼で幸せホルモンを増やして、疲れた脳にはブドウ糖を!
昨今の社会情勢に伴い、不要不急の外出を控えたりと生活環境が大きく変わりはじめて約1年。はたらく環境が大きく変わったという方も多いのではないでしょうか。連載「はたらくHack!」では、この時代を元気に自分らしく“はたらく”ためのエッセンスをご紹介していきます。
第二回目のテーマは「食」。
朝ごはん、食べていますか?「忙しいから」「ダイエットしたいから」などと、朝食を抜いたり、ジュースやスープだけですませていると、ネガティブ思考になったり、集中力が低下してしまう可能性があるのだとか。
また「夕方になると頭が疲れて回らない……」といった状態も、食べるもので改善が可能だそう。
ビジネスパフォーマンスの向上に役立つ“食”にまつわるコツやテクニックを、産業医の原島 浩一先生に伺いました。
原島浩一先生
原島産業医事務所代表
認定産業医 労働衛生コンサルタント
群馬大学医学部および群馬大学大学院卒業後、放射線科医として癌の治療に従事。2007年から数社の専属・嘱託産業医を務める。
■トピック ・朝ごはんは「飲む」より「食べる」!咀嚼することで、“幸せホルモン”・セロトニンの分泌がアップ! ・和食の朝ご飯がいい⁉魚、大豆製品など良質なタンパク質がセロトニンの原料になる ・脳は、1時間に5グラムのブドウ糖を消費する。おやつはブドウ糖で決まり! |
朝ごはんは「飲む」より「食べる」!咀嚼することで、“幸せホルモン”・セロトニンの分泌がアップ!
――朝食はなぜ摂ったほうがいいのでしょうか?
脳にとってエネルギーとなるのは、皆さんご存じのブドウ糖です。脳は睡眠中もブドウ糖を消費しているので、朝は脳がエネルギー不足になっている状態。ブドウ糖の元となる朝食をきちんと摂らないと、いつまでもスッキリしなかったり、頭が働かなかったり――、仕事のパフォーマンスが落ちてしまいます。
でも、ブドウ糖を摂りさえすればいい、というわけではありません。栄養のバランス良く、朝食を「食べる」ことが重要です。
――ついつい、朝食をドリンクだけで済ませる人も多いと思いますが……。
栄養をバランスよく摂るだけであればドリンクでもいいし、手軽ですよね。でも、「飲む」と「食べる」には、大きな違いがあります。
それは”咀嚼”をするかどうか。咀嚼という行動は、ポジティブに仕事へ向かう気持ちになれるかどうかを大きく左右します。
――”咀嚼”することが、ポジティブになることに繋がるのですか?
咀嚼は、一定のリズムで同じ動きを繰りかえす「リズム運動」です。そして、このリズム運動がセロトニンの分泌を促すと言われています。
セロトニンは、心の安定を保ったり、脳を活発にはたらかせる役割を担う脳内物質。セロトニンが増えると、頭がスッキリしてポジティブな気分で過ごせるようになるといわれています。特にストレスに対して有効なので、“幸せホルモン”と呼ばれることもありますね。逆にこのセロトニンが不足すると、ストレスを強く感じたり、疲労感が増したり、向上心の低下、意欲低下などの症状がみられるようになると言われています。
――リズム運動がポイントならば、咀嚼ではなく、ウォーキングなど、体を動かす運動でもよいのですか?
はい。歩行でも同じようにセロトニンが分泌されます。自転車エルゴメーターを使った血中と尿中のセロトニンレベルを測定した研究でも、“ペダリング運動後に有意に増大した”と報告されています。*1
ただ、リズム運動はやり過ぎて疲れてしまったり、嫌々行うとセロトニンの働きが低下したり、その効果が期待できないとも言われています。
――咀嚼は誰もが手軽にできるリズム運動というわけですね。
また、リズム運動さえすれば、セロトニンが生成されるというわけでもありません。セロトニンの生成には、必須アミノ酸の一種であるトリプトファンという栄養素が必要不可欠。そして、トリプトファンは人間の体内では生成できないため、食事から摂る必要があるのです。
和食の朝ご飯がいい⁉魚、大豆製品など良質なタンパク質がセロトニンの原料になる
――トリプトファンが多く含まれる食材には何があるのでしょうか?
肉類や赤み魚、豆腐・納豆などの大豆製品、チーズなどの乳製品といった良質なたんぱく質をたくさん含むものです。
また、ビタミンB6もセロトニンの生成に関わりがあり、一部では生成されたセロトニンを脳内に取り込むためには、炭水化物が必要とも言われています。
ビタミンB6を多く含む食材は、青魚や鶏肉、バナナ、ナッツなど。炭水化物はご飯やパンなどです。
焼き魚に納豆、漬物、味噌汁、ごはんといった、和食の朝食は、噛み応えのあるもの含まれているし、タンパク質も豊富。ビジネスパーソンにおすすめしたい朝食です。
脳は、1時間に5グラムのブドウ糖を消費する。
おやつはブドウ糖で決まり!
――小腹が空く午後のおやつタイムに食べると良いものはありますか?
ブドウ糖ですね。冒頭でも少し触れましたが、ブドウ糖は脳にとって、もっとも即効性のあるエネルギー源です。
人間は1日に120グラムのブドウ糖が必要で、1時間に5グラムが消費されると言われています。通常、ご飯やパンなど糖質を含む食物を通じて体の中でつくられ、脳に運ばれているのですが、体内にあまり貯蔵できません。
夕方に、ぼーっとしたり、脳疲労を感じるとこはありませんか?
そんなときは、昼食から時間が経ち、脳がエネルギー不足になっている可能性があります。ですから、そこでブドウ糖を摂取すれば、頭がスッキリして、もうひと踏ん張りする元気が出てくるかもしれない、というわけです。
ちなみに、糖類と一言でいっても種類がさまざまあり、ブドウ糖と砂糖は違う種類(※)です。脳にとって、エネルギー補給効率の良さ、効果が表れるまでのスピードは、砂糖よりも、ブドウ糖をダイレクトに摂るほうが効率的なんです。
(※)ブドウ糖は単糖類、砂糖は二糖類
――ブドウ糖をとると、ほかにはどのような効果が期待できるのですか?
ブドウ糖と脳の関係についての研究はたくさんされており、ブドウ糖を摂ると記憶力が高まったり、文章作成能力や理解力がアップした、という論文もあります。また、甘味はリラックス効果もありますから、イライラなどネガティブな感情をリセットするにも有効です。
脳疲労を感じたり、気持ちをリセットしたくなったら、ぜひ摂取してみてください。
私自身も「疲れたな」と感じたら、タブレットタイプのブドウ糖を摂っています。ブドウ糖が多く含まれたラムネなどもいいと思いますね。味も種類もいろいろあるので、数種をデスクに用意しておき、気分で食べ分けるのも楽しいかもしれません。ただし、摂り過ぎはNGですよ!
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次回は「睡眠」をテーマにした情報をご紹介します。
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<参考文献> *1 麓 正樹:「リズム性運動とセロトニン神経 : ペダリング運動の影響」(『千葉体育学研究』33巻)2010, pp.27-29 高田 明和, 小川 睦美, 清水 史子 他:「脳の栄養 : ブドウ糖(砂糖)とトリプトファンを中心として」(『砂糖類・でん粉情報』 農畜産業振興機構調査情報部 編)(31)2015, pp. 44-51 高田 明和:「砂糖は脳を活性化する」(『砂糖類・でん粉情報』 農畜産業振興機構調査情報部 編)2014, pp. 36-40 |
※本記事で提供する情報は、診療行為、治療行為、その他一切の医療行為を目的とするものではなく、特定の効能・効果を保証したり、あるいは否定したりするものではありません。
(文:佐藤美喜)
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