記憶力を高めるには?日本チャンピオンに、仕事に役立つテクニックを聞いてみた
名刺交換をした人たちの顔と名前を覚えられない、仕事のタスクを忘れてしまう——そんなことはないでしょうか。今すぐ記憶力を高めることができたらいいのに……。そう思って訪ねたのは、「世界記憶力グランドマスター」の称号を持つ記憶のスペシャリスト・池田義博さん。
「世界記憶力グランドマスター」は、「世界記憶力選手権」でランダムに並んだ数字を1時間で1,000桁以上記憶するなど、3つの種目を達成した人だけに与えられる称号です。そんな超能力のようにも思える記憶術を持つ池田さんは「記憶は生まれ持った才能ではなく、テクニック」と言います。そのテクニック、ぜひ教えてください!
記憶力は何歳からでも鍛えられる
──最近、やろうと思っていたことをすぐ忘れてしまいます。大人になってからでも記憶力を高めることはできるのでしょうか?
記憶力は何歳からでも鍛えられるので、安心してください。
年を取ると記憶力が低下すると多くの人は思っているようですが、決してそんなことはありません。子どもだって、思い出せないことはたくさんあります。
実際、私が記憶力のトレーニングをはじめたのは40代半ばでした。約10カ月のトレーニングで「記憶力日本選手権大会」に出場して優勝し、「記憶力日本一」になったのです。
つまり、記憶力がいいというのは特別な才能や年齢によるものではなく、記憶する方法を知っているかどうか。脳の記憶の仕組みをうまく利用するテクニックを知っていれば、誰でもすぐに記憶力をアップすることができます。
記憶術の基本は「イメージ化」「抽象化」
──脳の記憶の仕組みを利用するテクニックとは、どんなものでしょうか。
記憶のコツ①「イメージ化」
文字や数字をイメージ変換して記憶する
まず最初にお話するのが、記憶術の基本的な考えの1つである「イメージ化」です。
脳は数字や文字などの情報を覚えるのは苦手ですが、実は絵や映像のようなイメージを覚えるのは得意なのです。そこで、文字や数字などはイメージに変換して覚えていきます。
◇イメージ化のテクニック①
イメージでストーリーを作る
たとえば、私が参加した記憶力の大会では、ランダムに並ぶ1,000桁の数字を覚える競技があります。数字をそのまま覚えるのはとても難しい。そこで、私は1,000桁の数字をストーリーにして覚えています。
まず、事前に0〜99の数字にキャラクターやモノ、行動などのイメージを割り当てておきます。たとえば、0はマイケル・ジャクソン、1はサッカーボール、2は逆立ち、という感じ。 問題用紙に012……と数字が並んでいたら、マイケル・ジャクソンがサッカーボールの上で、逆立ちをしている。そのイメージを例えば自宅の玄関ドアに紐づけておく……そして思い出すときには頭のなかで玄関ドアを見ると先程の映像が出てくるので、「マイケルだから数字は0、サッカーボールだから数字は1、逆立ちしているから数字は2、というようにもとの数字を思い出せるんです。
──へんてこなストーリーになるほどインパクトがあって、記憶に残りやすそうですね。
イメージを貼り付ける場所は、先程の玄関ドアのように「自分がよく知っている身近なもので、今後も変化しないもの」を選ぶのがおすすめです。
たとえば、自宅の玄関を思い浮かべて、玄関ドア、マット、棚、時計など、玄関にあるもののイメージと記憶したい情報を結び付けて、玄関を記憶装置とすることもできます。
イメージを貼り付けるのは場所でなくても大丈夫です。スーパーでリンゴとティッシュペーパーを買いたいときに、自分の親指にリンゴがくっついているイメージ、人差し指にティッシュペーパーを巻いたイメージを連想する。そうすれば、親指を見てリンゴを買うことを思い出せます。
◇イメージ化のテクニック②
語呂合わせで情報をイメージ化する
また、「鳴くよ(794)ウグイス平安京」のような語呂合わせもイメージ化のテクニックの1つ。数字に別の意味を与えることで頭にイメージが残りやすくなります。資格試験勉強で覚えにくい内容がある場合などは、自分なりに語呂合わせを作って違うイメージに変換して覚えてみてください。
◇イメージ化のテクニック③
記憶したい情報を絵にする
また、記憶したい情報に関連するもののイラストを描いたり、図解することも効果的です。絵に描く過程で、情報が整理されるので、そのイメージが記憶に残り、思い出しやすくなります。
情報量を圧縮して覚えやすくする「抽象化」
記憶のコツ②「抽象化」
情報の共通点を見つけ、関連付ける
「イメージ化」しただけだと脳の中で、それぞれのイメージをバラバラで覚えている状態なので情報量が多いままです。そこで、記憶しやすくためには情報を圧縮してあげる必要があります。そのためには、「情報の共通点を見つけて、分類し、抽象化して覚えておく」ことが大切です。
たとえば、江戸幕府の将軍を覚えるとき、名前に「家」という字が入っている人が多いと気づきますよね。これに気がつかないと15個の名前を個別に覚えることになりますが、ほとんどに「家」がついてることに気づけば、情報が圧縮されて覚えやすくなります。
同じように、英単語を覚えるときなら、接頭語に気がつくことで関連する単語を1つのグループとして覚えることができます。たとえば、「in」がついていたら「内側」に関する意味だなと想像できます。思い出すときも共通のルールを思い出せば、関連する単語を芋づる式に思い出すことができます。
また、はじめて見る情報に接したときに、「自分がすでに知っている情報と関連づけることができないか」と考えることも大事です。既存の記憶と関連づけることができれば、情報を整理して1つずつ覚えるよりも少ない労力で覚えることができます。
日ごろから情報の「イメージ化」や「抽象化」を意識しておくと、思い出すときもイメージや共通点がタグとなって、すぐに情報を思い出せるようになります。最初のうちは意識してイメージ化する訓練が必要だと思いますが、慣れれば自然と記憶力がよくなっていきますよ。
ビジネスに役立つ、記憶のお悩みQ&A
ここからは具体的なビジネスシーンでよくある記憶のお悩みについて池田先生に質問をしました。Q&A形式でご紹介します。
Q:会議中で聞いた内容をすぐに忘れてしまいます。どうしたら覚えておけますか?
A:会議では細かい情報はメモして、脳のエネルギーを思考にあてよう。
まず、会議で何を覚えておくべきかを考えましょう。細かい数字や固有名詞などをすべて自分の頭に記憶することは不可能です。会議の内容で自分の頭に記憶しておくべきなのは、決定までの流れや発言のニュアンスなど。そのほかの細かい情報は、やはりメモをとるのが良いでしょう。
脳には短時間の情報を記憶するワーキングメモリという機能があります。脳内のメモ帳のようなものですが、ワーキングメモリは容量が少ないので、大量の情報が入ってくると前に覚えていた情報が押し出されてしまいます。
そこで必要なのが、ワーキングメモリを補ってあげること。大事なことをメモ帳に書き写して、一時的に情報をアウトプットしておきます。たとえ忘れても、メモを見ればすぐに思い出すことができます。 また、情報を外に出すことによって、脳は思考に集中できるようになります。考えることで感情が動き、会議の流れやニュアンスも記憶しやくなるはずです。
Q:ビジネス書や参考書などの本を読み終わった後に、内容をすぐに忘れてしまいます。
A:記憶として定着するかは、「本を読む前の意識の差」による。
心理学に「サバイバル効果」というのがあります。サバイバル状況に置かれた状況を想像してから道具の名前を覚えるグループと、何も情報がない状態で道具の名前だけを覚えるグループでは、前者のほうが多くの道具の名前を記憶できたという実験があるんです。
読書もこれと同じ。何も考えずに漠然と本を読み始めたら、たいして記憶に残らないのは当たり前です。
大事なのは、事前に「この本から自分は何を得たいのか」「この本の情報を何に役立てたいのか」を明確にしておくことです。その上で本を読めば、自然と自分にとって必要な情報が浮かび上がってきます。
レビューを書く、友人とこのネタでトークする、名言をメモするといったアウトプットのイメージが事前にできている場合も、内容を覚えやすいでしょう。
加えて、「興味がある」ことも重要です。興味を持って情報を取得すれば、自然と関連づけがしやすくなりますし、何度も頭の中でイメージしたり、それについて話したりするので、記憶が定着しやすくなります。
Q:仕事で名刺交換した人の名前や顔がなかなか覚えられません。覚えるコツはありますか?
A:まずは「覚える」ことを意識。「イメージ化」+「名前を呼ぶ」で記憶の定着率アップ
人間は興味があるものは自然と覚えますが、仕事で会う人の顔にはあまり興味がないのでなかなか覚えられないものです。
記憶には、「覚える」「覚えておく」「思い出す」の3つのステップがあります。最初の「覚える」作業をしていなければ、そもそも情報がインプットされず、記憶に残りません。
そのため、まずは「覚えよう」と意識を持つことが重要です。読書の方法と同様に、「今日の会議に参加している人の名前を覚えよう」と事前に目的を明確にしておくだけでも記憶として定着しやすくなるでしょう。
もう少しテクニック的な話をすれば、名前と顔を覚えるために先ほど紹介した「イメージ化」を応用することができます。たとえば、同じ名字の有名人や知人を連想してみる。あるいは、「金本さん」という男性がいたら「金ぴかの部屋で膨大な本に囲まれている男性」をイメージしてみる。
もう1つの方法が、「アウトプットを増やす」ことです。その人と話すときにできるだけ名前を呼びかけてみる。「こんにちは」と言うよりも、「金本さん、こんにちは」と言ったほうが名前と顔とシーンが結びつきます。
記憶力アップは「覚えよう」という意識から!
記憶力を上げるためにまず大事なのは、覚えようとする意識があるかどうか。
「これは覚えておこう」と思ってイメージ化や関連づけをする習慣が身につけば、自然と記憶力が上がり、仕事や勉強の効率もアップしそうです。「記憶力に自信がない」という人は、まずは記憶することを意識してみてください。
(文:村上佳代 写真:小池大介)
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