嘘がバレる人は「聞いてないことを喋る」。元刑事が語る「嘘の見抜き方」

2024年8月28日

「この人は果たして本当のことを話しているのか」を知りたいとき、「ウソのサイン」をヒントにすれば真実に辿り着きやすくなる──そう語るのは、千葉県警で警部として詐欺、横領、贈収賄事件などを約20年担当した森透匡さんです。

現在は「ウソや人間心理の見抜き方」をテーマに、大手企業や経営者団体へ講演・企業研修を行う森さん。採用面接から契約、社内で起きた不正やハラスメントの原因究明など、あらゆるビジネスシーンにおいて、森さんのノウハウは活用されています。

人がウソをついているかを知りたいとき、どういったコミュニケーションを取れば良いのでしょうか。森さんに「ウソの見抜き方」のコツを伝授いただきました。

「ウソのサイン」は真相究明の近道

──まず「ウソのサイン」とはどういったものを指すのでしょうか?

人が動揺したり、焦ったりしたときに表れる行動や発言のことです。警察官が容疑者の取り調べをするときは、質問を投げかけることで「ウソのサイン」が出るかどうかを見極め、怪しいと感じたところを掘り下げるんです。

──なるほど。どういった行動が「ウソのサイン」に該当するんですか?

聞いていないようなこともよく喋るようになる、というのはよくあるケースです。

たとえばパートナーが夜遅く帰ってきて、あなたが「どこで飲んできたの?」と質問したとします。普段なら「新宿」とだけ返ってくるでしょう。

でも、続けざまに「同僚に二次会まで連れてかれちゃって」や「女の子はいなかったんだけど」と多弁になったら、相手は隠しごとをしている可能性があります。

──なぜそれが「ウソのサイン」になるのでしょうか?

必要以上のことを返すのは、「聞かれる前に全部答えてしまおう」という心理の裏返し。当人にとっては、ボロが出る前にその話題を終えたい一心なんですよね。その焦りが、自然と会話の中に表れた結果、ベラベラと余計なことまで話してしまう、と。

また「どこで飲んできたの?」という質問に対し、「えっ、どこで飲んできたかって?」と投げかけられた質問をおうむ返しにするのも、ウソのサインの一つなんですよ。ウソをごまかすための返答を考えるために、無意識で時間稼ぎをしようとしているんです。

──話し方や質問に対するレスポンスがヒントになるんですね。

あとは質問を投げた時に「顔を触る」「椅子に座りなおす」というちょっとした仕草もヒントになります。とにかくじっとしていられなくなるというか。逆にウソをうまくつきたかったら、首から下をあまり動かさないように意識することをおすすめします(笑)。

──相手の一挙一動をチェックしすぎて、逆に怪しまれないようにしなきゃいけませんね。

ただ、大前提として忘れてはいけないのは、別に「ウソを見抜くこと」がゴールではない、ということです。それよりも重要なのは「ウソのサイン」をもとに「ウソをつくことになった原因」を探ることだと思います。

そもそも本人が「これはウソでした」と認めない限りは、本当のことなんて分からないですよね。証拠がない限りは「怪しい」止まりなんです。その代わり「ウソのサイン」を頼りにすれば、その箇所を掘り下げて聞いたり、ほかのアプローチを試して証拠を入手したりと、真相究明の近道になります。

唐突で「刺激」になる質問でウソのサインを引き出す

──では「怪しい」と感じたポイントの話題を掘り下げるとき、どういった質問をすれば良いのでしょうか。

相手にとってより刺激となる質問をすれば良いんです。ここでいう刺激というのは、短いフレーズの端的な質問を予期しないタイミングで突く、ということです。

──具体的には、どういった質問になりますか?

分かりやすく説明するために、まずはあえて逆の質問例を挙げますね。よく記者会見の中継で、報道陣が長い質問を投げかけるシーンを見たことがありませんか?「1つ目はこうです。そして2つ目は……」といった具合のものです。

実はあの質問の仕方だと意識が分散され、どの質問やフレーズが相手に刺激になっているかが分かりにくくなってしまい、ウソを見抜きにくくなってしまうんです。

──単刀直入に聞かれた時の方が、言い訳を考える隙もなくてうろたえてしまいそうです。

質問に対して後ろめたいことがなければ、どれだけストレートな質問であっても「そんなことないよ」と即座に反応できますからね。しかし後ろめたいことがあると「どこでバレたのか」「どう答えれば乗り切れるのか」とどんどん考えが膨らみ、明確な回答ができなくなるんです。

また、予期しないタイミングで急に質問されると動揺しますよね。だから面接や面談においても相手の「ウソのサイン」を掘り下げるとき、相手が予想していない流れの中で唐突に質問を差し込んでみると、より「怪しいポイント」の解像度が上がってくると思います。

──ちなみに、先ほど「ウソが見抜きにくくなってしまう例」を挙げていただきましたが、ほかに「ウソの見抜き方」が使いにくくなってしまうシーンはありますか?

「ウソの程度」が当人にとって重要ではないときほど、見抜くのは難しくなります。

たとえば商談の場で、商品を購入するかどうかを検討しているクライアントが「前向きに検討します」と言ったとしましょう。商談における「前向きに検討します」はもはや常套句。それが仮に「絶対購入しない」と決意している場合でも、抵抗なく言えるウソなんです。

そうやって言い慣れたウソほど、サインを見極めるのは難しくなります。

相手を観察し、共感することがコミュニケーションの要

──しかし、一番は相手がウソをつくこともなく、正直に真実を話してくれることですよね。話す相手から本音を引き出すために、森さんが意識することはありますか?

目線を落とし、同じ立場であることを示すことが一番重要だと思います。

事情聴取をするとき、上から目線で「やったでしょ」と問い詰めようとすると「俺は調べられている立場にある」「裁かれる立場にある」という意識になってしまうんです。頑なに心を閉ざしてしまい、ウソどころか言葉すら発しなくなる場合もあります。

何かを隠している相手というのは「この人を信頼して喋っていいのか」と周りを常に疑っている状態。だからこそ対等の立場であることを伝えることで「話していい相手」だと認めてもらう段階は踏むようにしています。

──会話の中で「本音を話していい相手」だと思ってもらうために、相手にはどういったことを伝えればいいのでしょうか?

「ぼくが君の立場だったら同じことをやってしまったかもしれないね」とはよく伝えていました。実は、取り調べの上手い人はそういった共感力が高い「人たらし」が多いんですよ。

ぼくが千葉県警に勤めていたとき、非行少年とコミュニケーションをとるのがとても上手い女性警官がいたんです。彼女はトータルで1,000人以上もの未成年を補導してきた実績があって、どんな非行少年でも懐に入るのが得意な人でした。

──その人はどんなテクニックを持っていたんですか?

たとえば万引きの疑いをもつ中高生がいるとします。頭ごなしに「お前、万引きしただろ!」と問い詰める警察官が多いなか、彼女は違った。「へー、万引きしちゃったんだ。実は私もね、昔、万引きしたことがあるんだよ」と伝えると、相手は「えーっ、お巡りさんもしたことあるの?」と距離感が急に近くなり、なんでも話してくれるようになるそうです。

もちろん、彼女が本当にしたことがあるかどうかは別ですよ。でも、その話をすると自然と中高生たちとも打ち解けられるようになったと聞きました。

そうやって対等な目線で接してもらえると、人は安心します。いつもは厳しい課長が「実は嫁さんのケツに敷かれていて……」なんて人間味を出してきたら「こんな怖い人なのに意外だな」と好感を持てるじゃないですか。

結局ビジネスの場面でも、コミュニケーションの方法は同じだと思うんです。

──森さんは「ウソの見抜き方」を含めたコミュニケーションスキルを身につけるために、現役警察官時代にどういったことを実践していましたか?

ぼくの場合、まずは人をちゃんと観察することから始めました。

先ほども言った通り「ウソのサイン」は仕草や表情、言葉に表れます。でも「平常時から顔を触る癖がある人」や「質問をおうむ返しにする人」もいる。

「この人、何か怪しいな」と感じ取るためには普段の様子もチェックできていないと意味がない。そう気付いてから取り調べがスムーズになりました。

実は、それってチームをマネジメントする立場にある人にとっても重要な心がけだと思っていて。「部下が問題を抱えていそう」「メンバーが辞めるかもしれない」というサインに気づける人は、普段からチームの一人ひとりをちゃんと観察していると思うんですよね。

そして対等な会話を通し「何か隠していることがありそう」と違和感があれば、原因を探っていく。そういったコミュニケーションが、組織の環境をより良くしていくと思います。

人間だからウソをつかない人はいませんし、みんな結局のところは「心」が大事なんです。「本音を引き出す」「ウソを見抜く」より先に、人としてちゃんと相手を見ることができているかを、皆さんには意識していただきたいです。

(文:高木望 写真:鈴木渉)

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ライター高木 望
1992年、群馬県出身。広告代理店勤務を経て、2018年よりフリーライターとしての活動を開始。音楽や映画、経済、科学など幅広いテーマにおけるインタビュー企画に携わる。主な執筆媒体は雑誌『BRUTUS』『ケトル』、Webメディア『タイムアウト東京』『Qetic』『DIGLE』など。岩壁音楽祭主催メンバー。
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