【産業医監修】健康も仕事も制す!? 「新・睡眠のゴールデンタイム」 の眠り方
昨今の社会情勢に伴い、不要不急の外出を控えたりと生活環境が大きく変わりはじめて約1年。はたらく環境が大きく変わったという方も多いのではないでしょうか。連載「はたらくHack!」では、この時代を元気に自分らしく“はたらく”ためのエッセンスをご紹介していきます。
第三回目のテーマは「睡眠」。
睡眠不足で集中力がなくなり、午前中から大あくび。そんな経験をしたことのあるビジネスパーソンは多いはず。でも、リスクはパフォーマンスの低下だけではありません。睡眠をおろそかにすると、物事の捉え方がネガティブになって不安や抑うつを感じやすくなるなどのメンタル不調に陥ったり、発熱などの身体疾患を引き起こす危険も高まるとか。
そこで今回は、睡眠の大切さから、疲労をしっかりと回復させる睡眠テクニックまでを教えてもらいました。
原島浩一先生
原島産業医事務所代表
認定産業医 労働衛生コンサルタント
群馬大学医学部および群馬大学大学院卒業後、放射線科医として癌の治療に従事。2007年から数社の専属・嘱託産業医を務める。
■トピック ・睡眠に重要なのは、量(時間)と質。わずか5日間の睡眠不足でネガティブに⁉ ・睡眠の質を高める、「新・睡眠のゴールデンタイム」は入眠後、最初の3時間! ・質のよい睡眠をとるために、朝一番で太陽の光を浴び、寝る目に睡眠儀式を行おう! |
日本人の睡眠時間は短い!
わずか5日間の睡眠不足で、気持ちがネガティブに
――満足する睡眠時間は人によってさまざまだと思うのですが、理想の睡眠時間はあるのでしょうか?
NPO法人「アメリカ睡眠団体」(NSF)*1 によると、成人(26~64歳)の場合、7~9時間の睡眠をとるのが良いとされています。
――7~9時間というのは、ビジネスパーソンにはちょっとハードルが高い気がしますが……。
睡眠を疎かにすると、日中に睡魔に襲われて仕事のパフォーマンスが低下するだけでなく、不安障害などの精神的な病気や、発熱や痒みなどを伴う身体疾患を引き起こすリスクも高まります。
ある研究では、わずか5日間の睡眠不足(1日4時間睡眠)で、ネガティブな情動刺激に対しての反応が高まり、不安、抑うつ傾向が強まったそう。また、睡眠習慣と休退職の関係性についての研究では、残業時間やはたらきがいなどより、睡眠関連習習慣が離職や求職に繋がる原因であるという調査結果も出ています。
2021年のOECD(経済協力開発機構)の調査 *2 では、日本の睡眠時間は加盟国の中でも最も短く、最下位でした。できるだけ睡眠時間の確保を意識し、優先してもらいたいと思います。
――睡眠不足は万病の元なのですね。でも、そう簡単に生活環境やはたらき方は変えられない……。
そうですよね。そこで注目していただきたいのが “睡眠の質”です。質で量(時間)を代用することはできませんが、質を良くすることでビジネスパフォーマンスの低下に繋がる疲労を回復することは可能です。
睡眠の質を高める、「新・睡眠のゴールデンタイム」は入眠後、最初の3時間!
――睡眠の質を高めにはどうすればいいのでしょうか?
睡眠中は、深い眠りの「ノンレム睡眠」と浅い眠りの「レム睡眠」を繰り返しています。約90分周期で、一晩にノンレム睡眠とレム睡眠を4~5回繰り返すのですが、後半になるほどにノンレム睡眠の持続が短くなっていき、そして、目を覚まします。
この中でもっとも大切にしたいのが、入眠後の約3時間。この間の1~2回目のノンレム睡眠時に、“徐波睡眠(騒音や刺激があっても目覚めるのが難しいほどの深い眠り)”に入ることが重要です。
――徐波睡眠時に体内で何かが起こるのですか?
はい。この徐波睡眠時に、成長ホルモンが多く分泌されます。成長ホルモンと聞くと「身長期を過ぎた大人には関係ないのでは?」と思うかもしれませんが、それは大きな間違い。成長ホルモンは疲労回復因子にはたらきかけ、壊れた細胞の修復や疲労回復を行うホルモンでもあるのです。つまり、入眠後の最初の3時間に深く眠ることができれば、疲労が回復する質のよい睡眠がとれて、集中力も回復。パフォーマンスの向上に繋がるというわけです。
――以前、22時~26時に寝るとよいと聞いたことがあるのですが……。
かつて、成長ホルモンは、22~26時にもっとも分泌するとされていました。その時間帯は睡眠にベストな時間帯とされ、「睡眠のゴールデンタイム」といわれていたのです。でも、実は成長ホルモンが分泌されるのは、入眠後3時間の深い眠りについたときだった。つまり、入眠後3時間が「新・睡眠のゴールデンタイム」というわけです。
質のよい睡眠をとるために、朝一番で太陽の光を浴び、寝る前に睡眠儀式を行おう!
――ここまでのお話から、「眠りはじめ」はとても重要なのだと理解しました。
その通りです。そして、その眠りに誘導し、深くし、安定させてくれのが、睡眠ホルモンとも呼ばれるメラトニン。このホルモンには免疫システムを強化する作用や抗酸化作用があります。
抗酸化作用とは、活性酸素(DNAを傷つけ細胞機能を低下させるもので、「疲労」や「老化」に結びつくもの)から体を守る作用のこと。つまり、メラトニンは深い眠りに導き、寝ている間に細胞レベルから体を修復して疲労を回復してくれるということです。
――メラトニンは、成長ホルモンと同様、“質のよい睡眠”に欠かせないホルモンなのですね。メラトニンの分泌を促す方法はあるのですか?
メラトニンは、朝起きて太陽の光を浴びてから14~16時間ほどで自然に分泌されるホルモンです。ですから、朝起きたら“光を浴びる”ことが重要。光を脳が感知するとメラトニンの分泌が制御され、体内時計がリセットされて、今度はセロトニンというホルモンが分泌されます。セロトニンの分泌量が減るとメラトニンの分泌量も減ってしまうため、日中にしっかりとセロトニンを増やすことが肝心で、そのためには、朝食を摂る(効果的な朝食の摂り方などは前回の記事を参照)ことも大切です。
――ほか、“質のよい睡眠”をとるために大切なことはありますか?
ぜひ、行っていただきたいのは下記の3つです。
・寝る前は明るくし過ぎないように間接照明などにし、寝るときはしっかりと暗くする
・スマホやテレビは見ない
・眠りを浅くするアルコールや覚醒作用のあるカフェイン、タバコは控える
また、上記を含め、自分にあった「入眠儀式」を行うのもおすすめです。
――入眠儀式……とは、なんですか?
入眠儀式とは、スムーズに寝付くために行う、寝る前のルーティンの行動のことです。たとえば、ストレッチをする、アロマを楽しむなど、リラックスすることならどんなことでもかまいません。ルーティン化するうちに、脳や体が「寝る前の行動」と記憶し、その行動をとると自然と眠りに誘われるといわれています。
また、なかなか寝付けないときは、布団の中でゴロゴロせず、布団から一度出て、眠くなってから入るようにしましょう。布団やベッドは寝るための場所と脳や体に記憶させることも大切です。
――最後に、質のよい睡眠をとれたかどうかをチェックする方法はありますか?
快眠・熟睡の指標は主観によるもので明確な基準はありませんが、快眠していると得られる状態は下記といわれています。日常的に感じられているか、ぜひチェックしてみてください。
・寝つきが良い
・目覚めがスッキリとしている
・日中も眠気を感じずに活発に動けている
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次回は、睡眠の中でも「仮眠」をテーマにした情報をご紹介します。
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<参考文献> *1 NPO法人「アメリカ睡眠財団」.「How Much Sleep Do We Really Need?」. 2021 https://www.sleepfoundation.org/how-sleep-works/how-much-sleep-do-we-really-need *2 OECD:Balancing paid work, unpaid work and leisure https://www.oecd.org/gender/data/balancingpaidworkunpaidworkandleisure.htm 三島和夫(国立精神・神経医療研究センター):「Sleep debt elicits negative emotional reaction through diminished amygdala-anterior cingulate functional connectivity(睡眠負債は扁桃体-前帯状皮質間の機能的結合の減弱を介して、ネガティブな情動反応を惹起する)」2013 志村哲祥(東京医科大)など:「睡眠および睡眠リズムの問題は職務要因とは独立した有意な離職リスク因子である」2019 |
※本記事で提供する情報は、診療行為、治療行為、その他一切の医療行為を目的とするものではなく、特定の効能・効果を保証したり、あるいは否定したりするものではありません。
(文:佐藤美喜)
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