【産業医監修】ストレスと上手に付き合うために。「ストレスコーピング」を取り入れよう!
昨今の社会情勢に伴い、不要不急の外出を控えたりと生活環境が大きく変わりはじめて約1年。はたらく環境が大きく変わったという方も多いのではないでしょうか。連載「はたらくHack!」では、この時代を元気に自分らしく“はたらく”ためのエッセンスをご紹介していきます。
第8回目のテーマは「ストレスコーピング」。
「ストレス、ありますか?」。そう問われたとき、「何もない!」と自信を持って答えられるという人は、実はストレスに気付いていないだけかもしれません。
現代社会は情報が溢れ、ネガティブな話にも自然に触れてしまうためストレスがたまりがち。その上、コロナ禍となり環境変化によるストレスも受けやすい状況です。知らず知らずにストレスをため込むと、体や心の調子を崩してしまう可能性があります。そうなる前に、日ごろから自分のストレスを向き合って、上手に対処しませんか?
今回は、「ストレスとは何か」から、ストレスと上手に付き合っていくための手法「ストレスコーピング」について、産業医の原島浩一先生、臨床心理士/公認心理士の小林志代先生に伺いました。
原島浩一先生
原島産業医事務所代表
認定産業医 労働衛生コンサルタント
群馬大学医学部および群馬大学大学院卒業後、放射線科医として癌の治療に従事。2007年から数社の専属・嘱託産業医を務める。
小林 志代先生
原島産業医事務所
臨床心理士、公認心理士
東京国際大学および東京国際大学大学院卒業後、心理職として、精神科病院やクリニックでの臨床に従事する傍ら、学校や企業での相談活動も経験。2018年から現職。
■トピック ・ストレスを構成する要素は3つ。「ストレッサー」「ストレス耐性」「ストレス反応」 ・自分の状態を知ろう!セルフモニタリング7つのステップ ・コーピングとストレスには相性がある。模索し続け、対処法精度をアップさせよう! |
ストレスを構成する要素は3つ。
「ストレッサー」「ストレス耐性」「ストレス反応」
――ストレスという言葉は日常的によく使われますが、そもそもストレスってなんですか?
ストレスは、次の3つの要素から成り立っています。
1. ストレッサー
ストレスの元になるもの。仕事や人間関係の問題から、熱さ・寒さといった環境的なものまで「嫌だな」と思う外部からの刺激(ときには、嫌だなと自覚がない場合もあります)、すべてがストレッサーになります。
2. ストレス耐性
ストレスに上手に適応できる力やスキルのこと。弾力の意味を持つレジリエンス(resilience)ともいわれています。ストレス耐性には、遺伝や育ってきた環境、幼少期の体験なども関係してくると言われていて、個人差があります。
3.ストレス反応
ストレスを感じたとき、生物が生き延びるために解消しようと起こる防御反応。影響が出る部分としては、「身体面」「心理面」「行動面」の3つに分類することができます。
「身体面」では、肩こりや目の疲れ、不眠など。「心理面」では、イライラや落ち込み、不安など。「行動面」では、生活の乱れ、暴飲暴食、暴言暴力、飲酒喫煙などがあります。
――ストレッサーに対応できないと、ストレス反応が起こるということですね。
ストレス反応は、「ストレスに晒されているよ」という体からのメッセージです。反応が起こることは決して悪いことではありません。ただ、ストレス反応が悪化したり慢性化していくと、生活習慣病などの身体疾患やうつなどの精神疾患を引き起こしかねないので注意が必要です。
ストレスは生きていれば必ず受けるもの。ストレスをゼロにすることはできませんし、人間関係や仕事のストレスも成長のためにはある程度必要なものです。
だからこそ、ストレスと上手に付き合っていくことが大切です。そして、その手法のひとつとしてぜひ試してもらいたいのが「ストレスコーピング」です。
――ストレスコーピングとは?
ストレスコーピングは、「ストレスに意図的に対処していくこと」です。たとえば、映画を観たり、ケーキを食べたり。――どんな行動でも構わないのですが、ストレスを和らげたり、解消するために自分で決めて行ったら、それはすべて「コーピング(対処行動)」になります。
ストレッサーやストレス反応は人によってさまざまです。効果的なコーピングを行うためにも、自分がどんなときにストレスを感じ、どんなストレス反応を起こしやすいのかを知っておくことが役に立ちます。その方法として、まずは「セルフモニタリング」というものをご紹介します。
自分の状態を知ろう!セルフモニタリング7つのステップ
――『セルフモニタリング』は、いつ、どのように行えばいいのでしょうか?
「ムカつく」「悲しい」「辛い」など、何かしらストレスを感じたときに、都度行うといいと思いますね。
セルフモニタリングは、「ストレスを感じたときの自分を知る」ことができるので、これを行うだけでも気持ちが楽になるという人もいます。
やり方は次の7つのステップ。順番にやってみてください。
Step1:「ストレス体験」を書き出す
ストレスを感じた状況について、思いつくまま自由にできるだけ具体的に書きます。
例:タスクは山積みで〆切りも迫っているのにトラブルが発生。タスクは残業でこなしたが、タスク管理ができていないと上司に怒られた。彼女とのデートの約束を延期した。
Step2:ストレッサーを書き出す
ストレスを引き起こした外部の環境をストレス体験の中から見つけて書きます。
例:・〆切の迫った山積みのタスク
・トラブルの発生
・上司が事情を分かってくれない
・彼女との関係が心配
Step3:自動思考を書き出す
ストレス状況で自動的に頭に浮かんできた思考を具体的に書きます。
例:・自分には能力が足りないのかな
・こちらの言い分も聞いてほしい
Step4:「気分・感情」を書き出す
ストレス状況での気分・感情を書き出します。たとえば、悲しかった、ムカついた、辛い、心配などです。
Step5:「身体反応」を書き出す
体の起こる生理的現象を書き出します。たとえば、口が乾いた、手足に汗をかいた、イライラした、などです。
Step6:「行動」を書き出す
ゴミ箱を蹴飛ばした、同僚に愚痴をいった、などです。もし、何もしなかったとようなら、何もしなかったと書きます。
Step7:観察結果をまとめる
下のように、表などを作成して記入するのもおすすめです。
――自分の状態を「見える化」するんですね。
その通りです。こうして頭で考えていることや行動を書き出すことで、自分が感じやすいストレスの傾向や、どのような思考になりがちなのかが見えてきます。
たとえば、仕事でタスクがこなせないと「自分は無能だ」と思ってしまう癖がある、といったように。こうして、自分の癖が分かれば、同様のストレスを感じる状況下に置かれたとき、どう対処をすればいいか冷静に考えやすくなります。
コーピングとストレスには相性がある。
模索し続け、対処法の精度をアップさせよう!
――次は「コーピング(対処行動)」ですね。どのように行えばいいのでしょうか?
まず、起きてしまったストレスに意識的に対処するために、自分が癒されたり、楽しめることをリスト化します。
いろいろなストレスに対応できるよう、100個を目標にできるだけ具体的に書き出してみてください。 コーピングには、行動を伴う「行動コーピング」と、頭の中でイメージしたり、これまでの考え方を変えてみる「認知コーピング」があります。その2つを分けて、下記のようにリストアップしてみてください。
<行動コーピング(例)> (1)〇〇店のケーキを食べる (2)ラベンダーの香りの入浴剤を入れたお風呂に入る (3)赤ワインを飲みながらクラシック音楽を聴く (4)空を見ながら深呼吸をする (5)信頼できる先輩に相談する (6)友達に悩みを話す (7)鏡の前で笑顔をつくる (8)花を買ってきて飾る (9)クッションを壁に投げつける (10)1日中パジャマのままでダラダラ過ごす など。 |
<認知コーピング(例)> (1)仕事が終わってから飲むビールのおいしさを思い浮かべる (2)犬のいる生活を想像する(3)大自然の中で寛いていることを想像する (4)宝くじに当選したときを妄想する (5)初恋のときに感じたドキドキ感を思い出す (6)自分の支えになっている人を思い浮かべる (7)出世した自分を思い浮かべる (8)なるようにしかならないと考える (9)この程度で済んでよかったと思う (10)いい勉強になったと捉える など。 |
「行動コーピング」と「認知コーピング」は、どちらも同じくらいの数をリストアップできるのが理想です。
「行動コーピング」をリストアップする際には、お金や時間があまりかからないものを数多く入れるようにするといいと思いますね。いくらストレス解消になると言っても、お金や時間がかかるものばかりでは、日常的には使えないことになってしまいますから。また、当たり前ですが、痴漢や万引きといった犯罪、誰かを傷つける行為は不適切です。
――100個はなかなかハードルが高いと思いますが、なぜ、そんなにたくさん……?
たとえば、お酒を飲んだり、ケーキを食べるというコーピングばかりやっていては、体によくありませんよね。また、一時的に気持ちが紛れたり、癒されたりすることも大切ですが、長い目で見た場合に自分が健やかであることも大切。つまり、バランスも重要です。
それに、ストレスとコーピングには相性があります。ストレスを受けたときの状況やストレス反応などによって、使えるコーピング・適しているコーピングが変わるので、コーピングレパートリーは多ければ多いほど良いと言えると思います。
思いつかなくなったら、1つのことを具体的に細分化できないかを見返してみてください。たとえば「ビールを飲む」とあったなら、「〇〇メーカーのビールを飲む」「〇〇メーカーの発泡酒を飲む」「〇〇メーカーの第三のビールを飲む」といったように細分化していきます。こうして細分化することで、同じ類のストレスでもその強さによってコーピングを変えることができます。
――ストレスを感じたら、このリストからコーピングを選んで行えばいいのですね。選ぶ際のコツはありますか?
基本は、イライラや緊張などのストレスであれば発散やリラックスできるコーピング、落ち込んでいるときは気持ちがアップするようなコーピングを選んで試してみるといいと思います。しかし、逆に、落ち込んでいるときには、暗い曲を聴いた方が落ち着いたり、あえて気が済むまで泣いてみることで気持ちが楽になることもありますから、自分が心地よいと感じられるかどうかを軸として、いろいろなコーピングを試してみるといいと思いますね。
たとえば、森林の香りのアロマを焚きながら、自然の中で寛いていることを想像する、といったように、行動コーピングと認知コーピングを組み合わせてもいいと思います。また、コーピングはアップデートしていくことも大切。なぜなら置かれた状況や立場によって、癒されたり、楽しめることも変わるからです。ときどきリストを見直をしましょう!
そして、コーピングを試したら、心がどのように変化をしたか必ず確認をしてください。
――確認、ですか?
ストレスとコーピングは相性が大事。どんなストレスが、どのコーピングで、どのぐらい楽になったかをノートなどに書き留めておきましょう。セルフモニタリングでご紹介した表に、「使ったコーピング」、「心の変化・感想」、「相性」といった項目を設けておき、表を共有してもいいと思いますよ。
――書き留めるのは、データとして残すということでしょうか?
はい。データがたまっていけばストレスとコーピングの相性の良し悪しが見えてきて、コーピングの精度も高まっていくはずです。
人とストレスは切っても切れない関係。上手に付き合っていくために、ぜひコーピングをやってみてはいかがでしょう。
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<参考文献> 熊野 宏昭(監修)、伊藤 絵美(監修)、NHKスペシャル取材班(監修):『「キラーストレス」から心と体を守る!」マインドフルネス&コーピング実践CDブック』(主婦と生活社):2017 |
※本記事で提供する情報は、診療行為、治療行為、その他一切の医療行為を目的とするものではなく、特定の効能・効果を保証したり、あるいは否定したりするものではありません。
(文:佐藤美喜)
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