【医師監修】寿命が縮む⁉「座りっぱなし」のリスクと体の動かし方
昨今の社会情勢に伴い、生活やはたらく環境が大きく変わったという方も多いのではないでしょうか。連載「はたらくHack!」では、この時代を元気に自分らしく“はたらく”ためのエッセンスをご紹介していきます。
第11回目のテーマは「座りっぱなし」のリスクと体の動かし方です。
コロナ禍となり、リモートワークが中心のはたらき方に変わった人も多いよう。通勤する必要もなく、1日中座っていられるのだから体が楽かと思いきや、そこにはさまざまなリスクが伴い、不調を訴える人が増えているといいます。座りっぱなしに潜むリスクと、不調となるメカニズム、そして不調を発生させないための予防法をテレビや雑誌などでも活躍されている、かわかみ整形外科クリニック院長の川上 洋平先生に伺いました。
川上 洋平先生
かわかみ整形外科クリニック院長 医師・医学博士
神戸大学医学部卒業。米国ピッツバーグ大学に留学し、膝関節外科、再生医療、スポーツ医学を学び、神戸大学病院、新須磨病院勤務を経て、患者さんにやさしく分かりやすい医療を提供することを目的に、かわかみ整形外科クリニック(神戸市垂水区)を開業。日本整形外科学会専門医。日本リウマチ財団登録医。
■トピック ・1時間座り続けていると平均余命が22分間短くなる⁉ ・肩・首・腰に効く!4つのおすすめストレッチ ・30分に1度は正しい姿勢に座りなおし、バスタイムではしっかり湯船に浸かろう! |
1時間座り続けていると平均余命が22分間短くなる⁉
――座りっぱなしは良くないと聞きますが、どうしてですか?
同じ姿勢でいることで血流が悪くなります。すると、肩こりなど体に痛みが出たり、病気を引き起こししてしまいます。
――そんなに血流が悪くなるのですか?
立ったり歩いたりしていると、下半身の筋肉がよく動きます。下半身の筋肉が占める割合は、全身の約70%。中でもふくらはぎは、血液を心臓に戻すポンプの役割を担っている重要な筋肉ですが、座りっぱなしだと、このふくらはぎが動きません。それに、体の筋肉の中でも大きい太ももの筋肉もほとんど動きません。そのため、血流が悪くなり、代謝も低下してしまうのです。
――具体的にはどのような病気を引き起こすのでしょうか?
代謝の低下は肥満や糖尿病を招き、血流の低下は高血圧や冷えの原因になると言われています。
また、同じ姿勢でいることで、肩や首のコリ、腰痛なども引き起こされます。これは、筋肉が緊張し続け、筋肉内の血液の流れが悪くなることで起こります。
――血流の悪化でなぜ痛みが?
血流が悪くなると、筋肉の中で酸素が不足し、乳酸などの疲労物質がたまります。これが神経を刺激して、重だるさや痛みを引き起こします。すると、筋肉がさらに緊張し、血行がますます悪化する――、悪循環に陥ってしまいます。
――こんなにリスクがあるとは……。デスクワーカーは、同じ姿勢で座り続けないよう、意識することが大切ですね。
そのとおりです。オーストラリアのシドニー大学が行った「世界20カ国における平日の総座時間」の調査では、日本人の平日座位時間は1日7時間(中央値)で、世界20カ国の中でも最長でした。また、1時間座り続けていると平均余命が22分間短くなるという結果や、座る時間が1日11時間以上の人は、4時間未満の人に比べて死亡リスクが40%高まるという報告もあります。(*1、*2)
30分以上座りっぱなしだと、血流が悪くなると言われているので、30分に一度は立ち上がり、5分間ぐらいはウロウロと歩きまわると良いと思いますね。
――歩きまわる以外のセルフケア法はありますか?
デスクワーカーが悩む身体の不調で多いのが首こりや肩こり、腰痛です。それぞれに予防・改善におすすめのストレッチがあるので、ご紹介します。休憩時間にぜひ実践してみてください。
肩・首・腰に効く!4つのおすすめストレッチ
■肩こり・首こり改善のためのに
肩こりや首こり解消には、「肩甲骨はがしストレッチ」が有効です。肩甲骨はがしとは、緊張で固くなっている肩甲骨周りの筋肉をゆるめ、肩甲骨の可動域を広げること。肩甲骨周りには、肩甲骨を背中の中央に寄せる筋肉、上に引き上げる筋肉のほか、首からの筋肉もつながっているので、肩甲骨周りをほぐすことは首こり解消にも効果的です。
デスクワークで体が固まったと思ったときはもちろん、朝と夜寝る前に5セットずつ行うのがおすすめです。
【肩甲骨はがしストレッチ①】
(1)両肘を曲げて、手の指を鎖骨部分に当てます。
(2)曲げた両肘を体と平行にゆっくりと上げ、肩より高い位置にまで引き上げます。腕が上がらない人は無理のない範囲で行ってください。
(3)息を吸いながらゆっくり両肘後ろに引きます。このとき、左右の肩甲骨をギュッと寄せることを意識し、5秒キープ。
(4)肩甲骨を寄せたまま、肘を後ろ回しに5回、大きく回します。
(5)肩甲骨を寄せたまま、ゆっくりと肘を下げ、脱力します。
【肩甲骨はがしストレッチ②】
(1)立って体の後ろで手を組みます。組めない人は、指先を絡めるなど、無理のない範囲で行ってください。
(2)息を吸いながらゆっくり組んだ手を体から離し、上へ引き上げます。この際、肘はできるだけ曲げないようにしましょう。
(3)しっかりと引き上げたら、そのまま5秒キープ。
(4)組んだ手を放し、脱力します。
【首ストレッチ】
首こりの場合は、「肩甲骨はがしストレッチ」に加えて、首の運動をするのが効果的です。
(1)腕を体の真横で脱力し、そのまま両肩をギュッと引き上げ5秒キープし、脱力します。
(2)右の手のひらを左側頭部に当て、手で押すようにしながら頭を右にゆっくりと倒します。
(3)(2)の状態のまま、右手は頭を右に倒す方向に力を入れ、頭は戻るように力を入れ、首の左側の筋肉が伸びるよう意識。このまま5秒キープしたら戻します。
(4)(2)と(3)を逆手、逆方向で行い、戻します。
(5)両手を頭の後ろにあて、手で押すようにしながらく頭を前に倒します。
(6)(5)の状態のまま、両手は頭を前に倒す方向に力を入れ、頭は戻るように力をいれ、首の後ろの筋肉が伸びるように意識。このまま5秒キープしたら戻します。
■腰痛改善のために
座りっぱなしの姿勢は、腰に負担がかかる状態です。また、お尻の筋肉が体重で圧迫され、血流も低下しています。今回は、ニュージーランドの理学療法士 ロビン・マッケンジー氏が考案し、「腰痛に効果がある!」と評判の寝た姿勢で上半身を反らせる「マッケンジー体操」(*3、*4)をご紹介します。
朝と夜寝る前に行いましょう。ただし、腰が強く痛むようであれば、こちらの体操は避けてください。
【マッケンジー体操】
(1)うつ伏せになり、両手を顔の横に置きます。
(2)両肘をついて上半身をゆっくりと持ち上げます。
(3)2~3秒キープしたら(1)に戻ります。
(4)(2)~(3)を10セット行います。
(5)(2)の状態から、ゆっくりと腕を伸ばし、手の平で体重をささえます。腰を反ると痛い人は無理のない範囲で行ってください。
(6)2~3秒キープしたら(1)に戻ります。
(7)(5)~(6)を10セット行います。
30分に1度は正しい姿勢に座りなおし、バスタイムではしっかり湯船に浸かろう!
――ほか、座りっぱなしになりがちなデスクワーカーが心がけたほうがよいことはありますか?
仕事に夢中になっていると、知らず知らずに猫背になったり、癖で脚を組んでしまうことも少なくないと思います。30分に1回は、背筋を伸ばし、膝の角度が90度になるといった“正しい姿勢”に「座りなおす」ことを意識するといいと思います。厚生労働省からもガイドラインが出ているので参考にしてみてください。(*5)(厚生労働省のガイドラインから抜粋した望ましい姿勢は、こちらでもご紹介しています)
また、肩こりや腰痛は、温めて血行を良くすることで症状を和らげることができます。バスタイムでは、38~40℃のお湯を入れた湯船に10分以上を目安に、のぼせない程度しっかり浸かりましょう。
交互浴とよばれている方法も血行改善効果があり、おすすめです。40〜42度の湯船に浸かったあと、17〜20度の冷たいシャワーを浴びます。これを3~5回繰り返し、最後は冷たいシャワーで終えます。
肩こりや腰痛でも、ひどい痛みが続くようであれば病気の可能性も。つらい場合は病院へ。
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<参考文献> *1 Bauman A, Ainsworth BE, Sallis JF, Hagströmer M, Craig CL, Bull FC, Pratt M, Venugopal K, Chau J, Sjöström M; IPS Group. “The descriptive epidemiology of sitting. A 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ) ”. Am J Prev Med.『American Journal of Preventive Medicine』41(2):2011, pp. 228-35. *2 van der Ploeg HP, Chey T, Korda RJ, Banks E, Bauman A. “Sitting time and all-cause mortality risk in 222 497 Australian adults”. 『Arch Intern Med』172(6): 2012,pp.494-500. *3 松平 浩:「骨関節疾患リハビリテーション-Up to date- 慢性腰痛のリハビリテーション」(『リハビリテーション医学』47 No.5.) : 2010, pp. 282-289. *4 国際マッケンジー協会日本支部ホームページ https://jp.mckenzieinstitute.org/ *5 厚生労働省:「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて」(令和元年7月12日基発0712第3号) |
※本記事で提供する情報は、診療行為、治療行為、その他一切の医療行為を目的とするものではなく、特定の効能・効果を保証したり、あるいは否定したりするものではありません。
(文:佐藤美喜)
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