マスク時代に爆売れした神リップ!KATE「リップモンスター」はなぜバズり続けるのか
カネボウ化粧品のメイクアップブランド・KATEのリップ「リップモンスター」は、2021年5月の発売以来SNSで記録的にバズり、1年が経っても店舗での売り切れが続出するほど爆売れしています。どのドラッグストアにも売り切れの札があり、見つけることすら難しい状態です。
コロナ禍の影響でマスクが定着しリップの売上が落ちている中、インフルエンサーが普段使いコスメとしてYouTubeやTwitterで紹介し、長期的にバズり続けている理由は、バズを発生させる商品作りとコミュニケーションにあります。企画・開発段階から徹底的にバズを意識し、緻密にプロモーション戦略を練っていたそうです。
トレンドの変化が激しいSNS時代に、人の興味関心を引き続けるにはどうしたらいいのでしょうか。カネボウ化粧品で10年以上PRに携わってきた、KATEのPR担当・若井麻衣さんに話を聞きました。
あえて「常識」と「定番」を覆し、圧倒的な独り勝ちに
――「リップモンスター」は、2021年5月の発売当初からずっと品切れが続いていますが、どれくらい反響があったのでしょうか?
2022年3月末時点で累計出荷数は260万本を突破しています。リップモンスターがヒットしたことで、全メイク市場の口紅カテゴリ―において初めてシェア№1を獲得しました。
――すごい売れ行きですね……!マスク時代にあえて新作リップを発売した理由について教えてください。
確かに、コロナ禍でマスク必須になってから化粧品市場全体が落ち込み、特にリップの売上が落ちていました。でも、KATEの開発メンバーの中には「本当にみんなリップをつけたくないと思っているのか」「マスクをしていてもメイクを楽しみたいと思っている人はいるのではないか」という声が上がっていました。
そこで、SNSを中心にお客さまの声を拾い集めると、トレンドに敏感な若年層中心に「どんな時でもメイクを楽しみたい」というニーズが見受けられたので、それに応えられるリップを作ろうと考え、企画を行いました。
当然ながら、マスク時代にメイクを楽しむなら、マスクをしても色が落ちにくいリップが理想的です。一般的に、色が落ちにくいリップは唇が乾燥しやすいというイメージを持たれることが多いですが、独自技術を駆使して「つけたての色の落ちにくさ」と「保湿力」を両立させることを特に意識した商品になりました。
――とはいえ色が落ちにくいリップはほかのブランドからも出ています。そんな中、リップモンスターがSNSで話題になり、爆売れしている理由はなんなのでしょう。
つけたての色が長時間持続するという品質の高さに加え、何だかすごそう!と期待を感じさせる「リップモンスター」という商品名や、SNSでつぶやきたくなるカラーネームの影響が大きいと思います。また、トレンドを押さえたカラーバリエーションも人気の一つです。
リップモンスターはレッド系、ピンク系、ブラウン系など広いカラー展開にはせず、あえてブラウン系のカラーに特化し、絶妙なニュアンスの違いを楽しめるようになっています。
というのも、SNSでのリサーチの結果、最近の若年層は同系色のリップを何本も買って、ちょっとしたニュアンスの違いを楽しむ傾向があったんです。去年はブラウン系のリップがトレンドだったので、ブラウン系のカラーバリエーションを充実させたことが差別化になり、ヒットを後押ししました。
――尖った戦略ゆえの独り勝ちですね!「リップモンスター」というキャッチーな名前は、どのようにして生まれたのでしょうか?
色の落ちにくさと保湿力を両立するだけでは「メイクを楽しみたい」というニーズを完璧に叶えることはできないと思い、ワクワク感を感じてもらえる工夫をしました。そこで「なんだかすごそう!」と期待感を煽りつつ、KATE史上最強の落ちにくさであることも表現できる名前が選ばれました。
また、各色のカラーネームもキャッチーで、SNSでつぶやきたくなるネーミングが意識されています。単におもしろそうな名前を付けるのではなく、その色を使った時の気分など、各色から連想できるイメージがカラーネームになっているんです。
「この色名にはどんな意味があるんだろう?」と考察してくださる方も多く、公式YouTubeチャンネルでカラーネームの意味について回答するなど、SNSコミュニケーションのきっかけにもなっています。
SNSをフル活用して話題をつくり、発売前からバズらせた
――リップモンスターはSNSでバズっていますが、ネーミング含め、若井さんはどのようにPR戦略を立てたのでしょうか?
機能性が高い商品であってもPRせずにバズらせるのは難しいので、商品開発からSNSコミュニケーションに至るまでを戦略的にPR設計し、発売前からSNSを駆使して評判形成しました。SNSで種まきしておくと販促になるのはもちろん、商品名を検索した時にリアルな情報が出るようになり、発売当初から高い口コミ効果を発揮できます。
2021年5月1日が発売日ですが、4月20日からYouTubeの公式チャンネル「KATECHANNEL」で商品情報を公開しました。同時期に口コミサイトなどでサンプリングしたり、美容メディア向けに発表会を開催したりして、リップモンスターの関連投稿を促しています。その甲斐あって、SNSでは発売前に多くの投稿数を獲得し注目されました。
さらに5月1日からTikTok施策も行い、メイクを楽しめるプロモーションも展開しています。複数のメディアで話題化につながるネタづくりをした上で発売日を迎えられたので、すぐに欠品するほどのスピードで話題になったのだと思います。
その後も一過性のブームにならないよう、限定色やミニサイズなど新商品を定期的に追加しています。バズった商品は短命になりがちなので、話題が尽きないように新しい取り組みをして、お客さまに興味を持っていただき続けるのが大事だと考えています。
自分の言葉で説明しなければ、人の心は動かせない
――若井さんは、最初からPRのお仕事に就いていたのですか?
いえ、2006年に新卒でカネボウ化粧品に入社し、最初は営業職に就きました。ただ、元々メディアに興味があったので、雑誌のタイアップ広告などを担当する部署に手を挙げて異動し、そこからPRも兼務するようになりました。10年以上PRを続け、今はKATEとfreeplusの2ブランドを担当しています。
――PRは社内と社外をつなぐ役割があり、人との関わりがとても重要視される職種だと思います。社内ではどんなコミュニケーションをしていますか?
積極的に対面コミュニケーションを取って、直接話を聞くようにしています。社内ネットワークでブランドに関する情報は共有されていますが、それだと資料ベースの情報しか入ってきません。特に開発担当者はお客さまをよく見ているので、しっかりヒアリングを行って生の情報を集めます。
――会議などで話しているのですか?
いえ、「この情報が知りたい」と思ったタイミングで、自分から話を聞きたい相手のところに足を運びます。定期的に会議や打ち合わせをしていますが、大勢がいる場だとかしこまって本音まで引き出せないので。
また、違うブランドのPR担当者ともよく「今の若い子にはこんなトレンドがあるんだよね」などと情報交換し、お互いに参考にしあっています。
――お客さまやメディアとのコミュニケーションで、意識していることはありますか?
常に「自分だったらこの商品を使った時にどう思うか?」という視点を持ち、自分の言葉で商品の魅力を伝えるようにしています。KATEは10~20代の若い方が中心ですが、自分はターゲットじゃないからと切り離さずに、私だったらどう使うかな?と想像すると見方がぐっと深くなるんです。
あと、商品の魅力を伝える時は「なぜ今の世の中に必要か」「なぜこういう商品にしたのか」といった背景から相手に共感してもらえるストーリーまで伝えています。昔の私だったら「リップモンスターはこんなに発色が良くて落ちないんです!」と商品の特徴ばかり強調していたと思います。でも、それだと資料をただ読み上げているようなもの。一方的な話にしかならず、相手の耳を素通りしてしまうんですよね。
いろいろな人との会話や自分の意見を入れこんで、ストーリーに血を通わせた時に、初めて自分の言葉で説明ができると思います。
――自分の言葉で話すコツは何だと思いますか?
教科書通りのことを言うのではなくて、人から受け取った言葉を自分で咀嚼して、感じたことを言語化する習慣をつけることでしょうか。いろいろな人と話して、多種多様な意見を柔軟に取り入れ、それを自分なりの言葉に変えるというステップを踏んでいます。
――積み重ねが大切ですね。最後に、今後の展望を教えてください。
リップモンスターのように世の中の既成概念にとらわれずに新しい商品をお届けして、どんなときでもメイクを楽しんでもらえる提案をしていきたいです。PR担当としては、コミュニケーションを通じて、お客さまとのつながりをつくっていくことが目標です。そのためにも、私自身が既成概念にとらわれず、自由にメイクを楽しむようにしています。
社内外にも有名なPR担当者はたくさんいますが、それぞれ歩んできた歴史も担当しているブランドも違いますから、参考にしつつも私らしいやり方でPRしたいですね。「おもしろい」「共感する」「使ってみたい」といったワクワク感を皆さんに提供できたらうれしいです。
(文・秋カヲリ 写真提供・花王株式会社)
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