パニック障害になった水溜りボンド・カンタさんが語る、「歯を食いしばって休む」ことの大切さ

2025年3月12日

登録者400万人超えの言わずと知れた人気動画クリエイター・水溜りボンド。動画の企画・編集を担当しているカンタさんは、映像会社を立ち上げたり、自身のエッセイを発表したりするなど、クリエイターとして精力的に活動しています。

そんなカンタさんにはかつて、はたらきすぎたためにパニック障害や突発性難聴を発症した経験があると言います。「忙しくて季節の変化さえ分からなくなっていた」という時期を経て、カンタさんがどのようにはたらくことや休むことと向き合えるようになってきたのか、お話を伺いました。

活動10年目、初めての長期休暇は「嫌々」とった

──「水溜りボンド」としても一人のクリエイターとしても精力的に活動されているカンタさんですが、2024年は特に忙しくはたらかれていた印象です。

いろいろやらせてもらいましたね。今30歳で、ぼくは20歳のころから動画クリエイターとして活動しているので、ちょうど活動10年目を迎えたところなんです。2024年は『ぷよぷよ』でいう、連鎖が続いていくような感覚の1年でした。初めてのエッセイを出したり、自分が育った川崎市の宣伝部長になったり、アートや映像制作もしたり。もともと自分が好きだったことや昔お世話になった人たちとの縁がつながっていって、人生の伏線を回収するような年でしたね。

──カンタさんは活動を10年続けてこられた中で、これまでほとんどお休みをとったことがなかったとか。

そうなんです。YouTube上では2015年から毎日投稿を6年間続けてきましたし、それ以降も忙しくはたらいてきたと思います。今年初めて、思いきって1週間の休みをとったんですよ。

──「さすがに疲れた、休みたい」と思ったんでしょうか?

いや、違うんです。こんな言い方変なんですけど、僕、嫌々休んでいるんですよ(笑)。

──嫌々、ですか?

はい。僕はもともと、子どもの頃に剣道をやっていたからなのか、常に粛々と目の前のことに取り組むべきだ、そのためには努力を欠かしちゃいけないって思いが強くて。心の中にリトルサムライがいるんです(笑)。古臭い考えかもしれないけど、そういうところが自分の好きな部分でもあったんですよね。

……引かれるかもしれないけど、休まずはたらいていた頃の僕の家にはベッドがなかったんです。窓の近くに椅子を置いてそこで寝ていて。3時とか4時まで仕事をしてから寝て、朝になると寒いので自動的に起きるっていう仕組みをつくっていたんです(笑)。たぶん、人の倍くらいはたらいていたんですよ。

でも、人の倍はたらいて人の倍の結果が出るのって当たり前じゃない?とあるとき思ったんですよね。死ぬほどはたらいて消費者を煽って、そこで生まれた需要に応えるためにまたはたらいて、どんどん経済が加速していく。それが資本主義と言ってしまえばそれまでだけど、そういう競争社会って果たして正しいのかな、とふと思って。

──はたらき方に対する考えが変わったきっかけが、何かあったのでしょうか?

大きかったのは最近、映像会社を立ち上げたことですね。新たに家族ができるメンバーもいたので、会社のメンバーの将来を本気で考えたときに、彼らには格好いい会社ではたらいていてほしいなと思ったんです。いくらすごいものをつくっていても、徹夜して家に帰らないのって、格好いいことではないなと。やっぱり休みってうれしいものであってほしいし、「正月何していたの?」みたいな話で盛り上がれることこそが人生なんじゃないかと思って。

それに、「毎日はたらくんだ」とか「インフルエンサーは数字が落ちたら終わりだ」と僕が発信することが、今後新たに出てくるインフルエンサーの人たちにとって果たして良い影響を与えるのだろうか?というのも考えました。だから、僕が無理にでも休まなければならないという感覚があったんですよね。

はたらきすぎて、自分の夢まで編集していた

──カンタさんは、かつては毎日必死にはたらきすぎていたために、パニック障害や突発性難聴を発症したこともあるとお聞きしています。その時のことも伺えますか?

パニック障害になったのは、何年か前のことですね。再生数をもっと伸ばさなきゃ、新しい企画を考えなきゃという焦りが常にあって、毎晩10km走らないと眠れなくなっていた時期があるんです。たぶん、焦りを解消させるために走っていたんでしょうね。それは良いとしても、朝から晩まで動画編集をし続けているものだから、寝ていても夢を編集しているんですよ。「ここテンポ悪いな、効果音入れたほうが良いんじゃないか?」って(笑)。

「常に動き続けないと」という強迫観念があったし、動いた分結果も出ているから、止まれないんですよね。アクセルはもう踏んでいないのにどんどんスピードが上がっていって、止まり方がわからないみたいな。はたらきすぎて、季節の変化とか気温の変化もわからなくなっていましたね、当時は。

あるとき、寝ようとしたら体が震えて止まらなくなったんです。お湯を飲んでどうにか落ち着こうとしたんですけど、そのお湯が体にかかっちゃうくらい手が震えて。そういうことが何度かあって、突発性難聴にもなったり、結構ボロボロで。病院にも行きました。

──そこでパニック障害になってしまっていたのですね。

でもそのときは、「まあ、これも動画で話せばいいか」みたいなマインドだったんです。動画が伸びたら200万再生とかとれるから、それで安心できるなって。今振り返ると普通じゃなかったと思います。

──そこまでして必死に仕事を続けていた理由は、やはり責任感なのでしょうか?

責任感もあれば楽しさももちろんあるし、ある種の中毒性もあったのかもしれないですね、今思えば。やっぱり「おもしろい」という評価を一度手渡されてしまうと、どうしてもそれを手放しづらくなりますから。動画を投稿して、「元気が出ました」ってコメントを一つ見るだけで、頑張れちゃっていたんですよ。

100万人が毎日待ってくれているのに、ちょっとお腹痛いから休むわ、なんて言えなかった。こんなに幸せな状況を手放すわけにはいかないと思っていましたから。僕もそうだし、自分が犠牲になってみんなが喜ぶならそうしたいって人は、きっと多いと思います。

きつくても、歯を食いしばって休んでほしい

──チームではたらいていると「自分が休むことでほかの人の負荷が増えるのではないか」と悩む人も多いと思います。カンタさんの場合はどのように対処しているのでしょうか?

僕はようやく最近、周りの仲間を頼れるようになりました。これまでは責任を全部自分で背負おうとしちゃっていたんですけど、それだと周りが成長できないんですよね。今は仕事のやり方に対しても意見を言い合える信頼関係が築けているし、周りが「カンタが休めるように俺らが背負うよ」と言ってくれることもあって、楽になりましたね。

──休めるようになったことで、自分が変化したと思うところはありますか?

YouTubeのチームのメンバーに、「昔のカンタみたいだよね、最近」って言われることが増えました。僕のチームって高校からの同級生もいて、長い付き合いの友達が多いんです。

僕、チームメンバーに対して、数年前はYouTubeの話しかしなかったと思うんです。それが最近、趣味や家族のことも話すようになったんですよね。数字を追い続ける強迫観念がなくなったら、ようやく人に対しての興味が戻ってきたというか。

2024年に初めてとった1週間の休暇に関しても、その中でめちゃくちゃおもしろいこともあったんですけど、特に動画にはしないようにしているんです。昔だったら「ちょっと動画回す?」って回していたはずなんです、それで再生数とれそうって思っちゃうから。そう考えると、死神と契約しているみたいなものですよね、インフルエンサーって。たとえば、腕を骨折したことですら動画のネタとして考えてしまうのって、怖くないですか?でも、ようやく動画クリエイターとしての活動を自分のプライベートから切り離せるようになったのは大きな変化ですね。

──2024年の初めにとった長期休暇のほかにも、日常的にお休みできるようになったのですか?

そうですね。休みの日は自分のスケジュール帳にヤシの木を描いて、みんなにも休みだということを共有するようにしています。以前は休みだと伝えても電話がかかってきたり、LINEが来たり、ちゃんと休めることができませんでした。今はチームのみんなにもきちんとぼくの考えが伝わっていて、完全オフにすることができています。

──カンタさんに限らず、仕事にやりがいを感じていたり、「自分がいなければ仕事が回らない」と強い責任感を持ったりしている人ほど、休むことに勇気が必要だと思います。そんな人にカンタさんが「休むコツ」を伝えるとしたら、どうアドバイスしますか?

きついと思うけど、歯を食いしばって休んでください、ですね(笑)。具体的にできることとしては、やっぱり思いきって周りを信頼して、スマホを見ないようにするのは大切だと思います。僕の場合は、プライベート用のスマホをもう1台契約して、休みの日はそのスマホしか持たないようにしていますね。本当に大変なことがあったときにだけこっちに連絡してくれ、と周りには伝えています。

──今回、カンタさんのようなクリエイターから休むことの意義についてお話を聞けたおかげで、救われる人も多いと思います。

そうだといいですね。今は、自分の幸せや自分の周りの人の幸せがあってこそ、それ以外の人たちのことも本当に幸せにできると思うようになりました。だって、ファンの人たちだってたぶん、僕がつらい思いをして活動を続けているってわかったら嫌じゃないですか。自分が救われた気になっていたのはエゴだったのかって。ファンの人たちってちゃんとそこまで見てくれていますし、僕たちのファンってそういう真面目な人たちが多いと思うので。

だから今そういう人たちに僕が投げかけられるメッセージがあるとしたら、「大変な日は誰にでもあるし、そういう日に歯を食いしばって頑張ることも格好いいけど、思いきって頑張らないことだって格好いいよ」ってことですね。自分が10年必死にはたらき続けたからこそ、ようやく本音でそう言えるようになった気がします。

(文:生湯葉 写真:小池大介)

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ライター生湯葉シホ
東京都在住。Webメディアや雑誌を中心に、エッセイやインタビュー記事の執筆をおこなう。2022年、『別冊文藝春秋』に初めての小説「わたしです、聞こえています」掲載。『大手小町』にて隔週でエッセイを連載中。

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