「プリ機」開発者に聞く、“大人よがり”にならずに「JKマインド」を保つには?

2022年12月7日

1990年代に登場して以降、どの時代においても女の子の人気コンテンツとして君臨し続ける「プリントシール機」。「動画を保存できる」「透明なシール台紙に印刷される」など、時代のトレンドに応じ、新たな機能がアップデートされ続けています。

しかし、実際のプリントシール機の開発に携わっているのは社会人。ターゲットが年の離れた世代であるにも関わらず、なぜ「こういう機能が欲しかった!」というニーズに応えられるのでしょうか?プリントシール機の大手メーカー・フリュー株式会社でプリントシール機のプロモーションを担当する小川菜摘さんに話を伺いました。

年200回以上のヒアリングからネクストトレンドをキャッチする

――フリューでは毎年新しいプリントシール機をリリースされていらっしゃいますが、どれくらいのペースで企画を動かしているんですか?

製品のバージョンアップも含め、年間で約9機をリリースすることになっています。新機種の場合、企画からリリースまでに1年半ほどの準備期間が設けられていますね。しかし、今や「盛れるプリントシール機」は世の中にたくさん出回っています。差別化を図るためには、「盛れる」以外の新しさや驚きを、商品に付与する必要があるんです。

「1年半後、ユーザーはこういう新しさを求めているに違いない!」という強い気持ちで毎回コンセプトを決めたうえで、新機能のアイデアを考えるようにしています。

2017年の入社後、プリントシール機の商品企画を経て現在プロモーションに携わる小川さん。

――1年半後のトレンドを狙い撃ちするのは難しいのでは。どのようにコンセプトを考えているのでしょうか?

年間に200回以上は女子高校生にグループインタビューを行っているのですが、そこからヒントを得ることが多いです。流行りのコンテンツを聞く実態調査的なコミュニケーションをとることもあれば、試作品についてヒアリングすることもあります。

私自身も現在、プロモーションのヒントを得るためにインタビューへ頻繁に立ち会っています。先々週も参加しましたし、今週も、明後日に話を聞く機会を設けています(笑)。ただ気を付けなければいけないのは、彼女たちの意見をそのままプリ(編集部注:プリントシール機のこと)の新機能として反映しないこと。現在進行形のブームをキャッチするのは流行の「軌道」を確認する上で重要ですが、企画に反映させる場合は実装までのタイムラグを加味しないと、時代遅れになってしまいます。

たとえば、今は「韓国系」が女の子の代表的な理想像。しかし、1年後には現在のK-POP路線も少し落ち着くかもしれない。「去年がこうで今年はこうなった。じゃあ次はこうなるかも」とトレンドの流れがどの方向へ進んでいるかを考える時だけ、今のトレンド情報が一つの指標になります。

そして1年半後を見据え、「おしゃれな写り」というコンセプトが決まったとするじゃないですか。それが今の若い子たちに好まれないことが判明した場合でも「やっぱりやめようか」とは全面的には引き下がらないんです。「どこを調整すればおしゃれな写りが受け入れられるのか」をさらなるヒアリングで確認し、チューニングします。

――仮にコンセプトに対する意見が半々に分かれた時、どういった判断を下すことが多いですか?

我々が提示した「新しさ」や「驚き」に対する賛否が分かれたとしても、「こっちの意見の方が多いから、こっちを採用しよう」という多数決はあまり取りません。

コンセプトに対し「好き」と言ってくれる子もいれば、「イマイチ」と言う子も必ず存在します。それらの意見を整理してまとめていくことで、最終的な製品に落とし込んでいきます。

「平成ギャルの窓口になる」よう実装したキャンペーン

――小川さんは今年8月、「ルートミー」という機種に「平成ギャルスペシャルモード」という機能を搭載するキャンペーンに携わっていらっしゃいました。どういった経緯で企画がスタートしたのでしょうか。

昨年、各ファッションブランドが90年代の要素を取り入れたアクセや服をリリースし、それを「かわいい」と今の子が認識する「平成ブーム」が訪れたんです。そのブームがプリの世界にも入り込んでいるように感じました。

2022年8月5日(金)~10月2日(日)の期間中、「平成ギャル」をテーマとした撮影フレームとシールふちが搭載。セット名も「ひ°ω<セッ├(ぴんくセット)」「ヵ゛于ネ夕セッ├(ガチネタセット)」などのギャル文字表記に。

90年代〜00年代、プリのトレンドはとにかくコテコテに落書きをすることでした。そして現在、トレンドに敏感なユーザーが「我等友情不滅」のようなフレーズとともに「平成風の落書き」をするようになった印象があり「もっと深掘りしたコンテンツを出せるのでは」という発想に至りました。

――メインターゲットにしているのは、そういった「平成ギャル」に憧れているティーンですか?

メインターゲットにしていたのは、中1から大学2年生。その中でも、平成時代の「派手カワイイ」テイストを軽く取り入れたい、という子ですね。むしろ「当時の平成ギャルになりたい子」って、実際にはほとんどいないんです。

そのうえで意識したのは、どんなタイプの子でも飛び込みやすい「平成ギャルの窓口」になるようなデザイン。今のティーンは「量産型」や「韓国風」「ストリート」など、いろんなタイプのファッションに分かれています。そこで「平成ギャル」を我々から押し付けるのではなく、どんな子でも楽しめる「ギャルデザイン」をバリエーションに取り入れました。

――実際に、ユーザーからはどんなリアクションがありましたか?

「私はこのタイプで撮ったよ」というさまざまな反応が届いたので、狙い通りでした。わざと読みにくいギャル文字をディスプレイに搭載したのですが、それを面白がって写真に撮り、SNSにアップしてくれたり。

また、当時リアルタイムでプリを撮っていた20代後半〜30代が「私の時はもっとギャルだった」「平成ってレトロじゃないし!」って反応してくださったり(笑)。

ただ正直、平成ギャルは「これからブームが広まっていきそう」というタイミングで急いで搭載した経緯があり、ヒアリングもほとんどしませんでした。夏時期はプリを撮影する機会が増えるからこそ「シーズンを盛り上げるために、このタイミングを逃すな〜!」って、大急ぎで実装したんです。

小川さんに描いてもらった「平成ギャル風のらくがき」。
搭載された「まぢムリ…超カワE」のようなデコフレームに自身で落書きを追加すると、さらに「平成ギャル感」がUP

リサーチするときに気をつけること

――小川さんが流行をチェックする際、意識することを教えてください。

「女子高校生の目線になって体験する」ことは心がけています。たとえば、ネットで「10代に流行っているコンテンツ」のまとめ記事を見かけるのですが、それは大人が調べた「大人目線」での情報発信であることが多いんです。鵜呑みにするのではなく、「自分が女子高校生だったら、そのコンテンツのどういうところに惹かれるか」を意識するようにします。

よく弊社ではその感覚を「マインドJK」と言っているのですが(笑)、インタビューで教えてもらったコンテンツやトピックを体験する時、彼女たちの目線に立って「面白さ」を咀嚼するようにすると、「全然理解できない!」と葛藤することも無くなります。

仮に良さが分からない時があったとしても、それは自分自身の知識がまだ浅いから。とにかく勉強します。最近だと「推し活」をする女子から、二次創作が好きなオタク層のトレンドまでを網羅するようにしていますよ。

――小川さんが「マインドJK」を維持し続ける秘訣を教えてください。

最近では完全に女子高校生目線のSNSアカウントを作り、彼女たちがフォローしているアカウントや彼女たちの投稿を都度チェックしています。「夏休み前になるとインフルエンサーや企業はこういう投稿をするのか」「体育祭後はこういった写真をアップする人が多い」という傾向をキャッチしやすくなるんです。

あと、若い子が入っていく店や並んでいる店を見たら、躊躇なく並ぶようになりました。人だかりがあるだけでフラッとチェックしに行っちゃいます(笑)。年齢はこれからもターゲット層から離れていく。そうやってある程度の努力がないと「マインドJK」は維持できなくなってきました。昔の方が年齢も近かったぶん、努力せずに入り込めた気がします。

――積極的にターゲットの興味を知ることが、トレンド予想の打率を上げることにつながっているんですね。

あと、年下の世代をターゲットにする私たちがマーケティング施策を行ううえでは、過去の情報を頼ってしまうと現実と乖離してしまうことが多いので、注意しています。

例えば昔自分たちが女子高校生として経験したことがあることでも、自分たちの価値観や、数年前にインタビューした時のデータを過信して「今もそうだろう」と想像するのは命取り。商品をリリースしたり、プロモーションを打つ時は自分の価値観で進めないよう心がけています。むしろそこを意識しないと「大人よがり」になっちゃうんですよね。

――最後に、小川さんの考える仕事のやりがいを教えてください。

今のティーンのトレンドは、本当にめまぐるしく変化するんです。新しいコンテンツもどんどん登場するので、私が「どんどん新しいことを体験したい」と思う性格なのもありますが、そこに面白さを感じます。

何より、自分はプリが好きでこの会社に入りました。仕事で大学生や高校生と話す中で「高一の時はこの機種にハマり、高三でこの機種にハマった」という話や「親子三世代でプリを撮っている」というエピソードも聞くんですよ。そういう時、「プリという文化をもっと楽しく、継続させていきたいな」と気合が入ります!

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ライター高木 望
1992年、群馬県出身。広告代理店勤務を経て、2018年よりフリーライターとしての活動を開始。音楽や映画、経済、科学など幅広いテーマにおけるインタビュー企画に携わる。主な執筆媒体は雑誌『BRUTUS』『ケトル』、Webメディア『タイムアウト東京』『Qetic』『DIGLE』など。岩壁音楽祭主催メンバー。
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