占いコンテンツはどうつくられる? 人気占星術・タロット占い師・七嶋ナオに聞く仕事の裏側

2024年2月1日

ついついチェックして一喜一憂してしまう雑誌やWeb、テレビの占い。個人鑑定と違い、大勢の読者が目にする「占いコンテンツ」はどのように制作されているのでしょうか?

今回お話を伺った七嶋ナオさんは、現在、西洋占星術とタロットカードを使った個人鑑定を行いながら、BRUTUS WEBで週間占いを発信している人気占い師です。占い師になったきっかけ、個人鑑定と万人向けの占いの違い、占い師に求められる資質など、「占い師」という仕事について深掘りしていきます。

営業職から占い師へ。七嶋さんが占いを始めた理由

──七嶋さんが最初に占いを始めたきっかけを教えてください。

現在はタロット、占星術、2つの方法で占いを行っているのですが、占いを始めたきっかけは13歳の時に兄からタロットカードをもらったことでした。その後、西洋占星術を始めたのは33歳の時ですね。子育てで悩んでいた時に、西洋占星術界の大御所である石井ゆかりさんの言葉に胸を打たれ、西洋占星術を始めました。

──占いをお仕事にすることを決めたのはいつですか?

大人になってからも、最初は仕事としてではなく友達を占っている程度でした。段々と人が増えてきたので、副業で占い師を始めましたんです。専業占い師になったのは5年前で、それまでは会社員として営業職をやっていたんですよ。

──営業職!占いとはまったく違う領域のお仕事をされていたのですね。

そうなんです。幼いころから不思議な手紙が届いたり、いわゆる「スピリチュアルな不思議なこと」が身の回りでよく起こっていたのですが、そういった体験がすごく嫌だなと思っていたんです。

スピリチュアルな体験をしているからといっても、空を飛べるわけでもないし、触れたものを黄金に変えられるわけでもない。だから、ちゃんと真面目にはたらかなくちゃと思っていました。それで、いちばん現実的で実体のある仕事をしようと思い、最初は建築会社に就職して図面を書いたり、現場監督をしていたんです。その後、転職して長らく営業職をしていました。

──なぜ、そこから専業占い師になろうと考えたのでしょうか?

占いはあくまで趣味として楽しむもので、頼まれたらプライベートで占いをするという風に続けていました。ただ、やっぱり占いの世界に触れていることが自分にとっては自然だなと徐々に思い始めたんです。

仕事にするぞ!と意気込んで占い師を目指したわけではなく、10代のころからずっと私の中にあったものが段々と外に出てきた、という感覚で占いが仕事になったんです。

占いは紀元前3,000年前から人を魅了するキラーコンテンツ

──七嶋さんは現在、「BRUTUS WEB」で週間占いの連載を執筆されていますが、そのほかにはどのようなお仕事をされているのでしょうか?

現在は、週3日の個人鑑定に加え、週3日を原稿執筆、1日はお休みというバランスで仕事をしています。『BRUTUS WEB』のお仕事をいただいたのは編集者の方が個人鑑定を受けてくださったのがきっかけなんです。鑑定のあとに「実はこういう者なのですが、執筆のご意志はありませんか」とオファーをいただきまして。

これから別の女性誌でスタートする企画もあるのですが、それも個人鑑定を受けてくださった方が「七嶋さんを紹介したいんですけど」と、ご友人の編集者につなげてくださったんです。個人鑑定を受けた方がお仕事を持ってきてくれることがとても多いです。

──人とのつながりがお仕事に結びついているんですね。

そうですね。私、X(旧Twitter)がすごく好きで、ずっと占いに関することを呟いているんですよ。西洋占星術が好きな人たちを「星クラ(西洋占星術クラスタ)」というんですけど、本当に占いが好きなので、星クラの人たちとXを通して楽しく遊んでいる感じなんです。

そうやって私たちが遊んでいる様子を見ているXユーザーの方もいらっしゃって、X経由で個人鑑定に来てくださる方も少なくありません。段々と認知が広まっていったことが、執筆のお仕事にもつながっていったのだろうなと感じます。

──遊びと仕事の境界がないんですね。

本当に星を読むことが好きで、どこでも占いを始めちゃうんです(笑)。そもそも占いは紀元前3000年(有史以来)から存在しながら人と切り離されることのなかったコンテンツ。歴史的に見ても人類は占いが大好きですし、おもしろい、不思議だということが共存して、人を魅了するロマンがあります。

占いを通して心理状況や人間関係が見えてくることもありますし、「なんでここまで見通せちゃうんだろう?」というくらいその人の性質が分かることもあるんです。

スピリチュアルな世界があるかないか信じるのは個人の自由ですが、スピリチュアル的なものがない世界よりもある世界のほうがおもしろいじゃないですか。



──多くの読者に向けた占いと、個人鑑定とでは、占いの方法は異なるのですか?

個人鑑定は細かく具体的に星を読み、不特定多数に向けた記事の場合は抽象的により広がりを持たせて占う、という違いがあります。個人鑑定では、一人ひとり生まれた時間によって異なるホロスコープ(占星術における各個人を占うための天体の配置図)を読んでいくんです。

一方、週間占いの場合、マンデーンという手法(世の中の大きな流れや情勢を読む手法)で日本の世相を読み、その上で各星座の星を読みながら星座ごとに占っています。

──週間、月間など、期間によっても占い方に違いはあるのですか?

西洋占星術では、「基本の10天体」というものがあります。太陽・月・水星・金星・火星・木星・土星・天王星・海王星・冥王星です。毎日の占いだと月の動きをメインで読む手法が多いのですが、週間や月間の占いコンテンツを執筆する際には太陽を主人公にして、その他の天体たちとの関わりを読んでいきます。

星々が動く時期はいつなのか、そして星たちの位置によって、調和をもたらすのか、刺激的な展開となるのかを読み解いていきます。そしてその星たちの物語が皆さまにどういう影響があるのか…というように占っています。

占いとは天気予報のように付き合うもの

──個人鑑定をしていて大変なことはありますか?

問題があるケースで「変わりたくない」という気持ちの方は難しいと思います。運気を変えるためには、どうしても本人がアクションを取らなくてはならないことが多いので。

鑑定を受けてくださる方がなぜ苦しんでいたり、人と揉めていたりするのかというと、多義的な問題を抱えているからなんですよね。必ずしも星回りだけの問題ではない。そういう時は「ちゃんとお休みを取ってね」とか「もうちょっとこういう言い方をしてみたら?」と、星の話だけではなく、コミュニケーションやケアの話までするようにしています。

──占いというよりも、コーチングのようですね。

占い師をやっているとコーチングをしないといけない場面もありますね。占いやコーチングはあくまで人生における補助線のようなもので、そこに実線を引いて、ハサミを入れて、組み立てるのはクライアント様ご本人。勝手に運命が変わってくれればその方が楽ですが、自分自身で未来を創造していくことをイメージしてほしいと思っています。

地に足をつきすぎている人はちょっと足元を軽くしてあげて、浮き足立っている人は落ち着けるように言葉をかけてあげる。そのように、ちょうど良い場所に心身が置けるサポートができるのも占いの良いところです。

──占いの取り入れ方が大事なのですね。

占いは生活になくても死なないものですし、依存してしまってはいけないと思うんです。何か問題が起きて自分だけでは判断が難しい時、あるいは天気予報みたいな感じで日常的に使ってもらえると嬉しいですね。

誰かと対話することによって、自分のやりたいことがはっきりしたり、多角的に物事をとらえることができたり、他者理解を助けたりする「道具」にしてもらいたいです。占いを頭から信じるよりも、使っていく、という姿勢ですね。そんなものとして付き合っていただけたらと考えています。

──占いに対して依存的になってしまう人もいるのでしょうか?

いらっしゃいますよ。お金を払うことってものすごいエネルギーの発生する行為であり、人は大きなエネルギーを支払ったものに対して傾いてしまうんです。なので、高価な占いや、高頻度で占いに通うなど、占いにかける金額が大きくなれば大きくなるほど、ハマっていく傾向があります。

重課金になってしまう方は「対価をたくさん払ったら良いことがあるに違いない」と無意識で考えてしまうのかもしれません。あとは、自分の望む回答をしてくれる占いに巡りあうまでジプシーになってしまうようなケースもあるようです。もちろん、悪質な占いを装った詐欺もあるので、依頼者側だけの問題でもないのですが……。

私のところに鑑定依頼をしてくださるクライアント様たちはそういったことはないのですが、「そうならないための工夫」もしています。たとえば、料金はあえて事前に銀行振込してもらうなど、簡単に課金できない入金方法を選択していることもその一つです。

「個性」「研鑽」「愛」、そして「運」。占い師に求められる4つの資質

──職業としての「占い師」に求められる資質はなんだと思いますか?

占い師は資格が必要なわけでもないですし、誰でもなれるもの。だからこそ、「個性」「研鑽」「愛」「運」が必要だと思います。

「個性」というのは、自分のキャラクターをわかっていること。現実的な話ができるカウンセリングタイプ、意欲を沸き立たせるコーチングタイプ、クライアントと共感しながら魂を揺さぶるようなタイプ、知的好奇心をくすぐるようなタイプ、いろんなタイプの占い師がいます。自分のキャラクターが明確じゃないと、お客さんも迷ってしまうんですよね。私はオールラウンダーでいたいのですが、どうしても知識が先に立ちやすく、よく喋ってしまう。なので、そういう話を聞きたいっていう人が来てくださっています。

あとは、知的探究心が強く、勉強を楽しめること。何千年も前のものを現代の技術で掘り起こし、それをバージョンアップして新しい術式が生まれることもあります。勉強をすればするだけ幅が広がっていくので、「研鑽」を積み重ねていくことも占い師の大切な仕事です。

また、多くの人が怖い気持ちや苦しい気持ちを解消したくて鑑定にいらっしゃいます。

人間の愚かさや弱さや過ちも、否定せずに受け止めて、少しでも心が軽くなるようにし、そのうえでどのような方向に向かっていきたいのかを一緒に見つめる姿勢が大切だと考えています。それって人間そのものに対する「愛」でもあると思うんです。

苦しいことや辛いことって、一概に悪いことではなくて、通過儀礼的に起きることや、必要悪みたいなものもある。そんな時に、落ち込んで希望が持てなくなってしまうような鑑定をしないよう気をつけています。他者をどう癒していくのか、どういうかたちで相談にのれるのか、という引き出しがたくさんあると良いですよね。

そして、”仕事”として成立するかは「運」によるところも大きいと思います。望んで占い師になる人ばかりではなく、「運」に望まれてなるような人も不思議と多いです。

──七嶋さんは今後、どんなことに挑戦していきたいですか?

かなり挑戦的なのですが、人生の補助線になるような、占い、ボディケア、メンタルヘルスケアを総括した本を執筆したいです。占いの先に、「じゃあ具体的にどうしたら良いの?」というところまでをアドバイスできるものを書いていきたいんですよね。

「占えること」と「アドバイスができること」は別のスキルなんです。私も、最初のころはカードの意味や星は読めるけど、どうやってアドバイスをしてあげたら良いのだろうと悩み、神経科学や心理学、ケアやセラピー、中医学やハーブなど、いろんな本を読みました。

辛い思いを抱えている人に現実で役に立つことを少しでもお渡ししたいと考えています。

時には「これは占いではなく、役所に行ってこの手続きをするが良いよ」と公的な制度や支援などをお教えすることもあったりします。占いの知識はもとより、世の中のことを幅広く学ばなければなりません。ありとあらゆる分野に知識を広げ、鑑定に来てくださるクライアント様に「良い処方箋」を提供していきたいと思っています。

(文:飯嶋藍子 写真:宮本七生)

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