P&Gでエース扱い→転職後「仕事できない人」に。評価が180°変わった”ある理由”

2025年7月11日

スタジオパーソルでは「はたらくを、もっと自分らしく。」をモットーに、さまざまなコンテンツをお届けしています。

新卒でP&Gにマーケターとして入社し、LOUIS VUITTONなどのラグジュアリーブランドを展開するLVMH(エルヴェエムアッシュ モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)でTAG Heuerのマーケターを経て独立。現在は、コンテンツ制作やメディアのブランディングを担うライターチーム「ウィライト」を運営するトイアンナさん。

大手外資系企業2社を渡り歩き、華々しいキャリアを持つ彼女ですが、P&Gから転職した途端に「仕事ができない人」になり、苦しんだ時期もあったそう。

そんな経験を経て近年、『確実内定 就職活動が面白いほどうまくいく』『えらくならずにお金がほしい』などキャリアに関する書籍を執筆し、就活支援も行う彼女は「会社に対して正しい絶望を持つべき」と言います。

「この会社ではたらくのがつらい」「上司と合わない」など、会社員としてはたらく上でぶつかる悩みの解決策と、楽しくはたらく考え方を教えてもらいました。

P&Gに入社するも2年で退職。定時帰りのホワイトなはたらき方を手に入れるも「仕事ができない人」に

──就職活動やキャリアをテーマに多くの記事を執筆されているトイアンナさん。ご自身の新卒入社先にP&Gを選ばれたのはなぜでしょうか?

「女性でも社長になれる会社」だったからです。私が就職活動をした2012年はリーマンショックの影響がまだ残っていた時期。リーマンショックの時は、女性は産前産後休暇や育児休暇を取る可能性があるから、という理由で真っ先に解雇される状況がありました。会社説明会に行っても「女性は採用しません」と言われたり、面接で「30歳になったら辞めてくれますか」と聞かれたりして、当時の私でもドン引きしていましたね。

そのような状況を見て「女性でもはたらき続けられる環境が整っているのは、外資系企業しかないのかもしれない」と思い、就職活動は外資系企業やリベラルな社風の日本企業に絞っていました。P&Gは当時から女性役員も活躍しており、まさに女性でもキャリアを築ける環境が整っていたんです。

──念願のP&Gではたらき始めて、入社後のギャップなどはありましたか?

想定外だったのは、とにかく体力勝負の世界だったことです。当時の出世している方々は、ハードな仕事の合間に毎日10㎞のジョギングしたり。仕事内容や時間の面からも、とにかくフィジカルの強さが必要だったんです。

幼少期から自分の弱みは「体力」だと理解していた私は、入社してすぐにP&Gで長期的にはたらくのは無理だと悟りましたね。食器用洗剤のジョイと芳香剤のファブリーズのマーケティングを担当し、当時の史上最高シェアを達成したものの、2年はたらいたところで体力の限界を感じて……。「自分の体力のことを考えて、もう少しゆるくはたらける会社でマーケティングを続けたい」と転職エージェントに相談し、LVMHに転職しました。

──P&GからLVMHに転職してはたらき方は変化しましたか?

定時帰りが当たり前のはたらき方を手に入れた代わりに、仕事の評価がドン底に落ちました(笑)。「私ってシゴデキじゃん」と天狗になっていた当時の私にとって、衝撃でしたね。同じマーケティング職でも会社が変わっただけで、一瞬にして「仕事ができない人」になるのか、と。

この経験で気付いたのは、「仕事ができる」の定義は会社によってまったく違うということです。ある会社で「仕事ができない」と言われている人も、はたらく場所を変えるだけで「仕事ができる人」になれる。この変化を肌で感じたからこそ、キャリアについて人に伝えられるようになったので、今となっては良い経験でしたね。

面接で見るべきは「コミュニケーションスタイル」の違い。上司と合わない本当の理由はどこに?

──いわゆる「しごでき」の定義や評価は会社によってそれほどまでに違うんですね。今のトイアンナさんが20代の自分にアドバイスをするとしたら、なんと伝えますか?

「コミュニケーションスタイルが合っている会社に入れ」ですね。具体的には同じ物事を伝えるときに、すべてを言葉に出して伝えるのか、ある程度オブラートに包んで伝えるのか。「社風」というよりも「コミュニケーションの種類」は会社によって大きく違います。

P&Gはすべてを言葉に出して伝える、ストレートなコミュニケーションを取る人が多い企業でした。上司とのフィードバック面談でも「あなたの業績は下位25%だから、このままだと昇給しない」「評価を上げるためには、このような選択肢がある」とはっきり伝えてくれます。

時に感情もオープンにしながら会話してくれる、この率直なスタイルが私には合っていましたが、ここまでストレートだと傷ついてしまう人もいますよね。どちらが良い悪いではなく、こればかりは相性の問題です。上司と合わないと感じる時も、こうしたコミュニケーションスタイルの違いが原因になりやすいと感じています。

──上司と合わないストレスは大きいですよね……。とはいっても、はたらく中ではいろいろなタイプの上司と出会うと思います。合わないと感じる人と仕事することになったとき、どうしたらいいのでしょうか?

上司とうまくコミュニケーションが取れないと感じたら、まずは「コミュニケーションスタイルの違い」を言語化してみるといいですよ。上司の発言や行動で気になることがあったら、「どのような意図で上司はこう言ったのか」を自分で考えて、紙にでも書き出してみる。その後、書いた考えに対して「あえて別の視点で意見を書いてみる」のがおすすめです。たとえば「上司が不機嫌だった。私のミスに怒っているのかもしれない」と感じたときに、「いや、上司はただお腹が痛かっただけかもしれない」とか。

というのも、部下は「上司に嫌われている」と思っていても、ほとんどの上司はなんとも思っていないケースが多いんですよね。過去に統計を取ってみたところ「上司が部下と接している、または部下のことを考えている時間」は業務時間のうちわずか6%という数字になりました。管理職は忙しくて、部下のことを考えている余裕なんてないんです。

ただ、上司からの当たりが強いときは、上司の期待値に応えられていないか、コミュニケーションがうまくいっていない可能性が高いです。上司の余裕がありそうな時に不足部分を聞いてみたり、上司が仲良くしている人を真似したりしてもいいかもしれませんね。

はたらく楽しさは「正しい絶望」から始まる

──会社で自分らしくはたらくために必要なことはなんでしょうか?

「正しい絶望」を持つことです。会社は自分の夢を叶えてくれないし、希望通りの場所にはなってくれません。「会社が○○してくれない」と考えるのではなく、「自分のキャリアで○○を達成したいから、会社のこの部分を使おう」というマインドに切り替えると、楽になります。

自分がやりたい仕事、ほしいポジションがあったとしても「会社は用意してくれない」という前提があると、自分が次に何をすべきかが見えてきます。今いる部署でやりたい仕事は本当にできないのか、希望する部署に配属されるにはどうしたらいいのか。キャリアの主体を「会社」から「自分」に変えると、自分が望む方向に進むための思考や行動になり、それが結果として楽しくはたらけるようになることにつながるのだと思います。

あとは、転職を考えていない時期から、自分の市場価値を知っておくのも大切です。自分は今どれくらいの評価があり、年収はいくら程度なのかをキャッチアップしておく。それが自分の希望する会社や年収に合わないのであれば、今の自分に何が必要なのかを考え、足りないものを補うようになるはずです。自分の価値と市場の状態を常に把握しておくことで、転職したくなったときにも冷静な判断ができるようになります。

──時には「社内政治」と呼ばれるようなことも、頑張らないといけないのでしょうか?

実は社内政治をうまく活用できるのって、全員ではなく、限られた人だけなんですよね。

この結論に至った背景として「えらくならずにお金がほしい」を執筆した時に、出世している友達に、どんな社内政治をしているか聞いてまわったんです。でも、彼らがやっていたのはシンプルに役員レベルの人と食事に行っていることだけで。オフィスにいる人を誰かれ構わず片っ端からランチに誘っているんだそうです。

こうしたコミュニケーション能力が高い人は、自然と社内政治に溶け込んでいける。でも、私を含めて「とてもじゃないけど真似なんてできない!」と感じる人もいるのではないでしょうか。社内政治ができるのは、もともと社内政治が苦なくできる人だけです。だから、多くの人にとっては社内政治よりも、「地雷を踏まないこと」「やってはいけないこと」を意識するほうが、楽しく自分らしくはたらくためには現実的な方法ではないかなと。社内の人にあまりにもプライベートな話はしないとか、悪口を耳にしても同調せずに「知らなかった〜」と流すとか、ですね。

どこでも自分らしくはたらくには「置かれた場所で咲く」のではなく「どんな花を咲かせるか」を決める

──楽しくはたらくことを望んでいる一方で、これから先のキャリアをまだ想像できない人も多いと思います。

キャリアというと仕事を想像しがちですが、キャリアの軸は仕事ではなく「どんな人生を歩みたいか」であるべきです。究極、「20代でFIRE(経済的に自立して早期リタイアすること)して、30代以降ははたらきたくない」「週休4日ではたらきたい」などをゴールにしてもいいんです。

30代で完全退職を目指すなら、できるだけ早く高収入を得られる仕事に就いて、20代は貯金すればいいですし、週休4日ではたらきたいなら、週3日勤務の求人を探すか、フリーランスとしてはたらくか、という選択肢が出てきます。そうすると、考えるのは雇用形態や職種ではなくなりますよね。ゴールさえあれば「今いる環境をどう活用するか」という視点も得やすくなります。

──「どんな人生を歩みたいか」がキャリアの軸……。それすらも想像できない場合はどうしたらいいでしょうか?

20代で「どんな人生を歩みたいか」なんて想像できないのは普通です。そんなときは、まずは「無意識レベルでできること」を仕事にしてみるといいと思います。昨今「好きを仕事に」という言葉をよく耳にしますが、個人的にはあまりおすすめしません。たとえば、私がカラオケが好きだからといって、アイドルになれるわけではないですよね。好きなことと向いていることは必ずしも一致しないですし、仕事は需要があって初めて成り立つものです。

無意識レベルでできることは、誰かに褒められても本人にとっては「できて当たり前」なので、何がすごいのか自覚できないもの。このレベルで自分が努力せずにできることこそ、仕事にすると結果も出しやすいのです。

自分で分からなければ、小学校のときから褒められていたことを思い出してみたり、友達に「私って何が得意だと思う?」と聞いてみたりするのも一つです。自分がまだ気付いていない才能が見つかるかもしれません。

──最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?

環境に身を委ねるのではなく、キャリアを自分でコントロールする感覚をぜひ持ってみてください。「置かれた場所で咲きなさい」と言いますが、私はむしろ「どんな花をこの環境で咲かせるか」を自分で決めることが、楽しくはたらくことにつながると考えています。今の環境で何ができて、どう動くかを自分で考える。自分で考えて選択した道であれば、どんな環境でも自分らしいはたらき方が見つかるはずです。

(「スタジオパーソル」編集部/文・写真:粒衣杏 編集:いしかわゆき、おのまり)

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ライター / 広報粒衣杏
新卒で建設業界の中小企業へ入社。1年半の現場経験を経て、広報・マーケティングチームの立ち上げメンバーとして配属。6年半の間、コーポレートサイト・オウンドメディアサイト運営のかたわら、社内外広報物の制作やイベント運営に携わる。 2024年4月に独立。 現在は中小企業を中心に広報戦略立案やディレクション、ライティング、SNS運用、イベント企画運営まで幅広くサポートする伴走型広報支援を行っている。

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