1食で8kg、胃袋は筋肉痛に…過酷すぎる職業「フードファイター」とは。ロシアン佐藤が語る

2025年8月13日

スタジオパーソルでは「はたらくを、もっと自分らしく。」をモットーに、さまざまなコンテンツをお届けしています。

IT企業のエンジニアとしてはたらきながら、8kgの食事トレーニングを重ねて大食いの世界大会に挑んだ元フードファイター・ロシアン佐藤さん。ちゃんこ鍋の大食いで食道を火傷し、全力で挑んだ世界戦の後には「勝ちたい気持ちが湧かない」と“燃え尽き”も経験しました。

現在は登録者112万人を超えるYouTubeチャンネルで、「思い出レシピ」や「日常の朝ごはん」を丁寧に再現しながら、元上司と立ち上げた会社の代表としても奮闘中です。経営・事業推進に加えてインフルエンサーとしての活動を時間関係なく行い、毎日15時間も稼働していますが、深夜に10人前の食事を作って大食いする忙しい日々も「楽しくてしょうがない」と言います。異色のキャリアと、ハードワークを楽しめる理由について伺いました。

新卒エンジニアがフードファイターになり、世界大会で燃え尽きるまで

――ロシアン佐藤さんは高専卒業前にフードファイターとしてデビューし、ほぼ同時に新卒のエンジニアになられたんですよね。

はい、2008年の『元祖!大食い王決定戦』がデビュー戦でした。卒業のタイミングで同級生に「出てみたら?」ってすすめられて応募したんですけど、まさか5位に入れるとは思っていなかったです(笑)。

番組のオンエアとほぼ同じタイミングで高専の電子情報システム工学専攻科を卒業して、IT企業にシステムエンジニアとして入社しました。わりと理系脳で、レシピも多くの料理で「おいしい」と感じる目安だと言われている0.8%の塩分濃度を意識して作っています。

――フードファイターになる前から、日常的にたくさん食べていたんですか?

学生のころから1食6㎏くらいは普通に食べていて(笑)。ラーメン5人前のチャレンジメニューを出すお店に行ったこともあります。

――フードファイターになってからはトレーニングもされていたんですよね。

大会前は3日に1度の頻度で“胃の柔軟体操”をしていました。1食8㎏食べて、お腹がキューピーさんみたいになる(笑)。胃袋をぐいぐい伸ばして、大会当日に一番詰め込めるようにするんです。それだけ食べると、お腹周りが筋肉痛になるんですよ。

――8㎏!大食い大会で一番過酷だったのは?

一番過酷だったのは、ちゃんこ鍋です。食道が全部やけどして、飲み込むのも地獄みたいになっちゃって。それ以降、大食い大会で激熱メニューは出なくなったって聞いています。

――それは壮絶です……。2021年にフードファイターを引退するまで、何度も大会に出場されていますね。

2009年には「元祖!大食い王決定戦」で準優勝、2014年と2016年には「大食い世界一決定戦」の日本代表としてアメリカチームと戦いました。2016年はチームのリーダーで、日本の勝敗が私にかかっていて。プレッシャーでしたね。

その世界戦が、私史上最高の勝負。自分の気持ちを一番つくって臨んだ試合でした。食べたい気持ち、勝ちたい気持ち、全部を込めて食べましたね。勝てなかったんですけど、やり切りました。

――その後に“燃え尽き”を感じたのでしょうか?

はい。完全燃焼したからか、それ以降はびっくりするくらい「勝ちたい」という気持ちが湧いてこなくなってしまって。大会も基本的に「美味しいから食べたい」「次の美味しいものが食べたいから勝ちたい」っていう、食べたい気持ちがモチベーションだったんですけど、すっかり消えちゃった。あんなに好きで食べていたのに、勝ちたいと思っていたのに、それがない。そんな自分が大会に出ていいのかな?って悩むようになりました。

――それで2021年に引退をしたんですね。

大会は「勝ちたい人」のためのものだと思っていて、「美味しく食べたい」だけの私は出るべきではないんじゃないか、というモヤモヤが募っていって。、フードファイトという競技からの引退宣言をしました。

「私はカリスマじゃない」社長としての葛藤と決断

――フードファイターとしても活躍している最中の2016年、システムと食に関する事業を行うエッジニア合同会社を立ち上げた経緯は?

前職のシステム会社で上司だった塚田さんに「一緒に会社をやろう」と声をかけられたんです。長年の信頼関係があったので、「塚田さんと一緒なら」と共同代表になりました。2015年から趣味で始めた私のYouTubeの反響も出始めた時期で、大食いを仕事にしたいって気持ちが芽生えたタイミングでもあって。それからは趣味ではなく会社の事業として、YouTubeを運営するようになりました。

――共同代表になってから、変化はありましたか?

もともと自分から行動するのは苦手な受け身タイプだったんですが「自分が動かないと誰も動かない」って気付きましたね。会社って「この事業でどう利益を出すか」とか「5年後にどうしたいか」とか、先のことを考えなきゃいけないじゃないですか。その旗を立てるのが、思った以上に難しくて。

――旗を立てられなかったんでしょうか?

「エッジニアってなんの会社なの?」「このチームで、どこを目指すの?」って聞かれても、答えが出せなかったんです。「情熱から生まれた「感動」と「幸腹」あふれる社会に。」という理念はあるけど、抽象的すぎて。せっかく誰かが動いてくれても、ゴールが不明瞭だからすれ違って無駄になってしまうこともありました。

――今はどんなゴールを設定していますか?

大きな目標は「おてもとプロジェクト」をちゃんと自走する事業に育てること。“すべての人に幸腹な食卓を”という想いから生まれた取り組みで、全国各地のこだわりの食品を物語とともに届けるプロジェクトです。オンラインのセレクトショップやリアル店舗の運営など、少しずつ形にしています。

リアル店舗の予約制レストラン「OTEMOTOの?」

今はYouTube関連の収益が会社の売上の約半分を占めるようになってきたので、
「おてもとプロジェクト」への投資にまわし、少しずつ広げているところです。

――プレッシャーもすごいのでは?

苦しくなったこともありましたね。クリエイターとしても代表としても、みんなの期待に応えようと無理してしまって。視聴者さんからも「元気ないね」ってコメントがつくようになって、ようやく「無理しているな」って気付いたんです。それからは本当にやりたい企画だけに絞って、楽しく元気にはたらくようにしています。

9時から2時まではたらいても「楽しくてやめられない」ワケ

――2015年から始めたYouTubeでは、最初の動画がいきなり3万回再生されたとのこと。順調なスタートですね。

いえ、実は大炎上でした(笑)。当時、大食いジャンルでYouTubeをやっていたのは、木下ゆうかちゃんくらいだったんです。木下ゆうかちゃんは人気のフードファイターで、YouTuberとしてもいち早く成功していた存在。だから「木下ゆうかの真似だ」「二番煎じだ」といったコメントが大量について、コメント欄が荒れに荒れちゃって。

――炎上をどう受け止めたんでしょうか?

大食いの世界ってよく叩かれるんですよ。食べ方やお箸の持ち方で批判されるのが当たり前だから、テレビ出演で鍛えられてはいたんです。コメントは「応援」「意見」「中傷」に分類して、納得できる意見は取り入れるようにしていました。

――前向きですね。経営しながらも、プレイヤーとして動画投稿を続けられる理由は?

やっぱり楽しいからですね。会社で9時からはたらいて、21時に帰宅してから10人前の料理を作って完食するまでの動画を2時まで撮影する日もあるんですけど、「やめたい」と思ったことは一度もないんです。視聴者さんに「動画を見て癒されました」って言ってもらえるのがうれしくて。

私の動画って、ド派手な企画じゃなくて“日常のごはん”がテーマ。朝ごはんをていねいにつくるとか、思い出の味を再現するとか、そういう何気ない食の幸せが届けられるのがすごくうれしいんですよね。

――体力勝負の撮影ですね。思い入れのある企画はありますか?

大好きな企画は、視聴者さんからレシピを募集する“思い出レシピ”。「亡き母が作ってくれた絶品ジャガイモ料理」など、視聴者さんの心に残っている料理のレシピを送ってもらって、私が再現していくんです。視聴者さんから「泣きました」「懐かしくて胸がいっぱいになりました」といったコメントをもらえると、本当にやって良かった!と思います。

「大食い女の日常」というVLOGシリーズも人気です。たとえばトーストと目玉焼き、簡単なお味噌汁というシンプルな朝ごはんを、丁寧に準備するんです。生活の中にある“当たり前の豊かさ”を感じてもらえるように意識していますね。視聴者の方からも「こういう時間が大切だよね」「見ていて落ち着きます」と言ってもらえることが多くて。

――楽しくはたらくために、ロシアン佐藤さんが大切にしていることを教えてください。

「できないことはできない」って言うことですね。創業期は「代表だからちゃんとしなきゃ」って虚勢を張っていたんですけど、それで潰れそうになったときに「私はカリスマじゃない。等身大のままで、できることをやろう」と決めました。

だから、大好きな朝食Vlogや思い出レシピなどを発信して「特別じゃないけど、心が温かくなる食卓」の価値を届けていきたいなって。「食べるって幸せ」と思える瞬間を、等身大の飾らない姿で伝えたいです。

(「スタジオパーソル」編集部/取材・文:秋カヲリ 写真:林友祐)

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エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

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