東大卒→LINE→おにぎり屋。「人生の夏休みなの?」と呆れられても、私が26歳で出世ルートを捨てた理由

2026年4月15日

スタジオパーソルでは「はたらくを、もっと自分らしく。」をモットーに、さまざまなコンテンツをお届けしています。

今回お話を伺ったのは、コミュニケーションアプリとして国内最大シェアを誇るLINE株式会社から、「おにぎり」の世界へ飛び込んだ川原田美雪さんです。川原田さんはLINEを退職後、おにぎり専門店を運営する企業の代表に就任し、都内で5店舗展開。2025年には、おにぎりで世界進出を目指すRice Platformer株式会社を設立しています。

東大大学院卒、大手IT企業の期待の若手という、一見すると「誰もがうらやむキャリア」を捨て、なぜ彼女はまったく異なる道を選んだのでしょうか。川原田さんの言葉には、「はたらく」を楽しくするための、そしてはたらくことの本質が詰まっていました。

「おにぎりで世界を取る」がおもしろそうだから、私はLINEを辞めた

──川原田さんは東大の大学院で工学を学んだ後、LINEに入社していらっしゃいます。そもそも、なぜIT業界を選んだのでしょうか?

中学生のときに見た映画『サマーウォーズ』に影響を受けたのがきっかけでした。仮想空間が社会インフラになっている世界で、主人公たちがそのプラットフォームを守って世界を救う。社会の土台を守る主人公たちの立ち位置そのものに、すごくあこがれたんです。

就職活動でも「社会のプラットフォームをつくる仕事に就きたい」という想いは変わらず、そこで真っ先に浮かんだのがLINEでした。

当時のLINEは、決済機能を立ち上げたばかりで、生活のプラットフォームとして本格的に進化しようとしているフェーズで。私は、プラットフォームをビジネスとして成立させ、持続可能なインフラにするまでの過程に興味があったので、まずはマネタイズの仕組みを学ぶためにLINEの中の広告営業を志望しました。最終的にはチームで目標予算を大幅に達成し、個人でも新人賞をいただくなど、充実した日々を過ごさせてもらいましたね。

──それだけ活躍されていたのに、なぜLINEを離れることに?

出世すればするほど、お客さまと向き合うよりも、社内のマネジメントや資料作成に割く時間のほうが増えていきます。大きな会社で責任を持つ以上それは仕方のないことですが、「これは自分がありたい姿ではないかも」と感じてしまって。

そんなときに、大学時代にお世話になっていた方から電話をいただいたんです。「おにぎりで世界を取れる人を探しているんだけど、誰かいい人いない?」と。ミーティングの合間の、わずか5分ほどの電話でしたが、「それ、私しかいないですね」と即答していました(笑)。

──即答ですか!なぜそこまで迷わずに答えを出せたのですか?

「おにぎりで世界を取る」というビジョンが、素直にめちゃくちゃ面白そうだったからです。

LINEの仕事では、お客さまや市場と向き合う時間が減っていくことに悩んでいました。でも、おにぎり屋の社長なら、現場でお客さまの反応を見ながら自分の手で商品やブランドをつくっていけます。当時の私は、現場で手触り感を持ってはたらける環境を求めていたんです。

しかも、日本国内で成長が鈍化しているIT市場と違って、「食」なら世界中に市場があります。新しくて、デカくて、誰もやっていないこと。突拍子もないけれど、ほかのIT企業に転職するより、よっぽど自分がワクワクできる挑戦だと思えました。そうしてRICE REPUBLIC株式会社の新取締役社長への就任が決まりました。

──大きなキャリアチェンジにあたって、不安はありませんでしたか?

もちろん、周囲は大反対でした(笑)。先輩たちには「出世ルートに乗っているのに何しているんだ」と呆れられ、東大の同級生からは「人生の夏休みなの?」とまるで遊びのように言われました。

でも、そんな状況だったからこそ、私にはこの挑戦がもっともっと面白いものに思えてきたんです。当時はいい意味で世間知らずだったこともあり、「うまくいかなかったらまたどこかに就職すればいい」くらいに捉えていて、不安な気持ちは不思議とありませんでした。

夜の虎ノ門で一人、洗い物。1日2,000個売る「最強の店」ができるまで

──IT業界から飲食業界という、まったく異なるフィールドに飛び込まれたわけですが、実際におにぎり屋を始めてみていかがでしたか?

正直に言うと、RICE REPUBLICに来てすぐのころは何もできませんでした。現場へ入っても、洗い物はやり直しになるし、レジは打ち間違えるし……。営業中、自分がどこに立つべきかさえ分からない。それに、LINE時代に扱っていたのは億単位の数字だったのに、目の前にあるのは「300円のおにぎりが10個余った。この損失をどう挽回しよう」といった現実です。

ときどき大学の後輩がおにぎりを買いに来てくれることがありましたが、「彼らの年収よりこの店の年商のほうが少ないんじゃないか」と考えてむなしくなる日もありましたね。

虎ノ門ヒルズの店舗前を、キラキラした外資系コンサルの人たちが次々と通りすぎていく。夜に一人で片付けをしているときは、「何をやっているんだろう」と、考えが止まってしまうこともありました。

──そこからどのように「おにぎりを1日2,000個売る店」へと成長させていったのでしょうか?

ビジネスメディアへの露出を増やしたり、具材をあえて表に見せる華やかな盛り付けしたりと、既存のおにぎり屋さんが取らないような戦略を仕掛けていきました。そして何より、虎ノ門という立地に頼らず、丸の内・銀座・渋谷からどう顧客を呼び込むかという商圏設計、そのためのデータ分析、オペレーション設計など、前職で培ったノウハウをすべて注ぎ込みました。

LINEの広告営業も、おにぎり屋の経営も、売上を最大化する要因は“人”です。接客が得意な人、おにぎりを握るのがうまい人、私のように現場作業は苦手だけどシステム構築や営業が得意な人など、一人ひとりの強みを最適配置するという、チームマネジメントの本質は同じだったんですよね。

──過去のキャリアが、まったく違う業界でも武器になったんですね。

そこに気付いてからは仕事が本当に楽しくなりました。アルバイトスタッフと話しながら「この子の強みはなんだろう」と探ったり、お客さまに「どうして今日はこの商品を選ばれたんですか?」と直接伺ってみたり。現場で拾った小さな気付きが、すべて戦略に変わっていく感覚がありました。

一度は断念した「世界進出」。今度こそ、おにぎりを世界のファストフードに

──RICE REPUBLICのおにぎり事業は順調に成長していたように見えますが、2025年に川原田さんはRice Platformer株式会社を立ち上げていらっしゃいます。なぜ新会社を?

事業方針の転換により、RICE REPUBLICのおにぎり事業を縮小することになり、当然ながらオーナーではない私にはその方針を変える権限はありませんでした。

もともとは誘われて引き受けたおにぎり事業でしたが、やればやるほど「おにぎりで世界を」という夢が自分のものになっていって。それなのに、それを最後まで貫く立場にいなかったので、今度は自分のリスクで自分の信じるビジョンを形にしたいと思い、新しく会社を立ち上げました。

──今回の起業には迷いはありませんでしたか?

これまでの転機よりも今回の決断のほうが葛藤は大きかったです。自分で会社を立ち上げるということは、自分でリスクを背負うということ。就職して、いわゆる“普通のルート”に戻る選択肢も頭をよぎりました。

でも、この不安の正体は「起業の情報やリスクについて何も知らないこと」だと気付いて。そこから、開業資金、国の制度、業界の実情など、徹底的にリサーチすることに加えて、いろいろな人に話を聞いてまわったんです。リスクが見えれば覚悟も決まると信じて、+一から勉強し、最終的にRice Platformerを立ち上げることを決めました。

──不安に正面から向き合うことで、それを乗り越えたのですね。新たに立ち上げられたRice Platformerを通じて、これからどんなことを実現していきたいですか?

夢は今も変わらず「おにぎり事業で世界進出」です。日本を代表するブランドとして世界の人に認知してもらえる会社に成長させて、日本のソウルフードを世界の食卓に広めたいです。

ハンバーガーやサンドイッチがこれだけ世界中にあるのなら、おにぎりだって同じようになれるはず。マクドナルドの横におにぎり屋があるのが当たり前、という世界を目指しています。

仕事は人生の手段。自分を好きになれるなら、それがあなたの天職

──川原田さんにとって、仕事していて「楽しい」と思える瞬間はどんなときですか?

知らなかったことを知るときが一番楽しいです。お客さまの購買行動、マーケティング施策の反応、海外市場の特性など、現場レベルから経営レベルまで、毎日何かしらの新しい学びがある。それが仕事の楽しさですね。「今日は何が起きるんだろう」とワクワクしています。

結局、私は「新しくて規模の大きいこと」が大好きなんです。規模が大きければ大きいほど、まだ誰もやっていないことであればあるほど、ワクワクする。そういう好奇心が、私の原動力なのかもしれません。

──川原田さんのように、ワクワクすることを仕事にするには、何が必要だと思いますか?

仕事を選択する上で大切なのは、「どんな状態でいる自分が好きか」だと思います。私は、おにぎりを通して、日本の文化を世界に表現できるプラットフォームをつくりたい。その大きな夢を追いかけている自分が好きなんです。

たとえば、“推し”と会うのが好きな人なら、そのために必要なお金を稼げて自由に休みが取れる仕事がその人にとっては天職なはず。仕事は、目的をかなえるための手段であってもいいんです。「好きなことを仕事にできるか」ではなく「好きな自分でいられる場所はどこか」を考えるほうが、本質的だと私は思います。

──最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?

大切なのは、自分を好きになる努力をすること。小さくてもいいから、「この決断をした自分が好きだな」と思える選択を、一つずつ積み重ねてみてほしいです。

昔は、自信のない自分のことが嫌いでした。でも、「Rice Platformer」という自分を表現できる場所をつくり、納得できる選択を続けていたら、いつの間にか自分のことを好きになっていたんです。

今の仕事を続けるべきか、転職すべきか、起業すべきか、正解はありません。でも「どうすれば自分を好きでいられる?」と考え続けることはできる。そうやって、むしろ悩むこと自体を楽しめれば、仕事も人生も楽しくなるはずです。

大切なのは肩書きでも年収でもなく、好きな自分でいられるか。それが私のはたらくことに対する答えです。

(「スタジオパーソル」編集部/文:間宮まさかず 編集:いしかわゆき、おのまり 写真提供:川原田美雪さん)

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ライター/作家間宮まさかず
1986年生まれ、2児の父、京都在住のライター・作家。同志社大学文学部卒。家族時間を大切にするため、脱サラしてフリーランスになる。最近の趣味は朝抹茶、娘とXGの推し活、息子と銭湯めぐり。
著書/しあわせな家族時間のための「親子の書く習慣」(Kindle新着24部門1位)

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