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片田舎のコンビニで「暇つぶし」をしたら、退屈な日々が激変した話
スタジオパーソル編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。
今回は、はたらくことの喜びや、はたらくなかで笑顔になれたエピソードについて語る「#はたらいて笑顔になれた瞬間」投稿コンテストで、審査員特別賞を受賞した記事をご紹介します。
執筆者のSayuriさんは学生時代にコンビニでアルバイトをしていましたが、最初は仕事をしている時間が修行のように長く思えて、「つまらない」と感じていました。しかし、暇つぶし感覚でいろいろな工夫をするようになったところ、はたらく感覚がいい方向に変わっていったそうです。片田舎にあるコンビニで、仕事への向き合い方はもちろん、自分の他者との関係も深まっていった話をnoteに投稿しました。
「やってもやらなくてもいい」と思うとつまらない
大学生から大学院生の間、Sayuriさんは片田舎の道路沿いにあるコンビニで週5日ほどアルバイトをしていました。丸一日はたらく日もあり、まるでコンビニで暮らすような日々でしたが、その長い時間が暇でしょうがなく「つまらない」と感じていたそうです。
コンビニの仕事は結構、やることがたくさんある。でもどれも、「別にやらなくてもいい」仕事だ。やらなくても誰も気にしないし、やっても特に気づかれない。
真夜中のコンビニ、星の王子さまと出会った日 | エッセイより
当初Sayuriさんはこのように考えていたので、やりがいはありませんでした。特にお客さんが来ない時間帯は地獄のように長く思えて、何もせずに店に立っていなければならない「無」の時間が苦痛で仕方なかったのです。
レジの周りや床や駐車場、トイレを掃除したりするのだけれど、それも10分かそこらで終わってしまう。店を見渡してみても、もともとお客さんが少ない店なので商品の品揃えもあまり力を入れておらず、なんだか全体的に「つまらない」お店だった。
真夜中のコンビニ、星の王子さまと出会った日 | エッセイより
ある時、突然こうした状態に耐えられなくなり「なんでもいいから時間を潰せる作業はないか」と店内に目を走らせました。商品棚から飲み物を売っている棚の裏にある冷蔵庫まで一列ずつ観察してみると、今までは気づかなかった課題点が次々に出てきます。
・この列、売れた箇所だけくぼんでいて気になる。
真夜中のコンビニ、星の王子さまと出会った日 | エッセイより
・この商品、人気になりそうなのに隅っこに追いやられて目立ってない。
・売れない商品っていつも売れなさそうな場所にある気がする。
・ていうかこんな商品うちにあったっけ?
・お弁当の棚、スカスカで手に取ろうという気がおきない。
研修で習った「目線の高さにある商品は売れやすい」「同じ商品が最前列を占領して並んでいると購買意欲をかき立てやすい」といったことが反映できていなかったのです。
これがコンビニの業務を「別にやらなくてもいい」仕事だと考えていた結果なのかもしれません。
売れた箇所だけくぼんでいたり、商品が隅っこに追いやられていたり、お弁当の棚がスカスカだったりすると、いかにも売れ残り感が出て切ない気持ちになります。
さっさと家に帰って、一人だけでほっとしながらご飯を食べたい。
真夜中のコンビニ、星の王子さまと出会った日 | エッセイより
そんな時に頼れる存在であるはずのコンビニで、いかにも売れ残りですと言わんばかりのお弁当が見つめ返してくる。それを買って家で食べる人たちの姿を想像すると、ちょっと切なくなった。
そこでSayuriさんは小さなコンビニ改革をスタートしました。
「暇つぶしの工夫」で没頭するほど楽しくなった
Sayuriさんはお客さんにもっと明るい気持ちでコンビニのお弁当を食べてもらうためには、「売れ残り」ではなく「自分で選んだお弁当」を食べている感覚を持ってもらうのが大切だと考えました。
きちんとしたお弁当屋さんで出来合いを買うのも、コンビニ弁当を買うのも、やっていることは同じだ。でも前者の方が「ちゃんとしている」と思えるのは、品数が豊富で彩り豊か、その中から自分で選んでいるという感覚があるからではないだろうか。
真夜中のコンビニ、星の王子さまと出会った日 | エッセイより
そう考えると品数を増やして選択肢を増やす方向に舵を切りたくなりますが、数を増やせばいいというわけではありませんでした。
当時のSayuriさんには在庫管理や発注の権限がなく、店長やベテランのパートさんに「もっと商品を増やしたほうがいいんじゃないですか」と提案したところ
新しい商品を一箱頼むと、自動的に12個(多いものは24個〜それ以上)の在庫を抱えることになる。もしその商品が売れなかったら、後で処分するか安売りしなければいけない商品が増えるだけで、利益にはつながらない。
真夜中のコンビニ、星の王子さまと出会った日 | エッセイより
といったことを教わります。
その時は腑に落ちなかったものの、今ある商品の中でどんな工夫ができるかを考え、残っているお弁当を目線の高さにある棚に寄せ集め、品数が多く見えるようにしました。
すると、品数自体は変わっていないにもかかわらずお弁当を買ってくれるお客さんが増え、これまでカップラーメンを買っていたお客さんもお弁当を手に取るようになったのです。
さらにお弁当の近くにサラダや煮物などのお惣菜も置くようにしたら、お弁当といっしょにお惣菜を買っていく人も出てきました。
この経験により「売り手の工夫で買い手を動かせる」と学んだSayuriさんは、売るための実験を繰り返すようになりました。
少しでも暇ができれば陳列を整え、商品が1つ売れればくぼみを埋め、商品をすぐ棚に並べられるように段ボールを開梱します。
「暇つぶしの仕事」がすっかり「おもしろい仕事」になり、はたらく楽しさに突き動かされ、小さな工夫に没頭できるようになりました。
ひそかな頑張りを見つけてくれた人たち
これらは一人で黙々と行っていた作業ですが、そんなSayuriさんを見ている人がいました。
まず、Sayuriさんの次のシフトで入ってくる同僚のお兄さんです。
朝、そのお兄さんと交代する時に、あ、そういえば、と呼び止められた。何かやらかしたかしらと思って戻ると、「◯◯さん(私の名前)がバイトに入るといつも棚がすごく綺麗になってる。商品棚を見ると、今日は◯◯さんが入ってたんだなって一目でわかるんだよ」と言ってくれた。
真夜中のコンビニ、星の王子さまと出会った日 | エッセイより
「見てくれていた人がいたんだ」と鳥肌が立つほどのうれしさを感じたSayuriさんは、お手製のポップを作ったり売れない商品をレジ前に出したりと、さらに意欲的にはたらくようになりました。
カップラーメンを朝ご飯にする工事現場のおじさんのために、大体いつも来店する時間にお湯を沸かしたてにしておいたり、タバコを買っていく人は銘柄を覚えておいたり、おまんじゅうが好きなおじいちゃんのために最後の一個を取っておいたり。
真夜中のコンビニ、星の王子さまと出会った日 | エッセイより
こうしたお客さん目線の接客をしているうちに、足が遠のいていたお客さんも戻ってきました。
相手が求めている以上の関わり方は「迷惑かもしれない」と躊躇するかもしれませんが、少なくともSayuriさんが対面したお客さんは先回りの接客や、お会計の時の「お疲れ様です」「今日はタバコどうしますか?」といった声かけを受けて笑顔になりました。
そんな密なコミュニケーションにより、片田舎の小さなコンビニはまるで1つのコミュニティのようになっていきます。
最初はクレーマーのようでとんでもなく面倒臭かったおじいちゃんも、話をよく聞くようにしてみたら実はただ話し相手が欲しかったんだな、と気づいたり。見た目は普通だが、その話し方と言葉から育ちの良さが溢れ出ていたおじいさんや、自分の畑で採れたからと言ってキャベツや大根を抱えて持ってきてくれるおじいちゃんがいたり。いつも来るおじいちゃんやおばあちゃんが来ないと少し心配になり、次の日またいつも通り現れてほっとしたり。
真夜中のコンビニ、星の王子さまと出会った日 | エッセイより
こうした細やかな気遣いでお客さんから好かれるようになり、コンビニの常連さんが通う居酒屋のママが来店した時に
「あなたね、このコンビニによく気が利く子がいる、ってお店の常連さんに人気よ」
と言われ、天にも昇るほどの喜びを感じたそうです。
たとえどんなに小さな仕事でも、どんなに人が少ない場所であっても、まっすぐにはたらいてさえいれば、見ず知らずの人にまでその頑張りが届くのかもしれません。
片思いされた男性とのほろ苦い思い出
そんなお客さんとの関わりに満ちた日々を過ごしていたSayuriさんですが、今でも胸がザワザワする思い出があります。
それはSayuriさんに好意を寄せてくれたお客さんとのエピソードです。
そのお客さんは、Sayuriさんがいる時間帯によく訪れ、ちょっと強引なコミュニケーションをする人でした。単身赴任でこの地域にやってきたそうです。
ある日「もうすぐ新しい場所に行くから、連絡先を教えてほしい」と言われましたが、年齢が離れていることやちょっとしつこいことが気になって「もうすぐ辞めるから」と断りました。
しかし、その人は翌日もやってきました。
Sayuriさんはなんとか捕まらないようにと逃げ回りましたが、ごみ捨ての直前で見つかってしまいます。
しかし、その人は一冊の本を取り出し、意外な話をしてくれました。
「僕はここに仕事で来て知り合いもおらず、そんな中いつも笑顔で対応してくれてとても嬉しかった。よくここに来て話しかけたり迷惑だったかもしれないが、それを一日の楽しみにしていた。来月から別の場所に行くので、最後に会いに来た。この本は僕がずっと大切にしている本で、あなたにもぜひ読んでもらいたくて買ってきた。迷惑かもしれないが、素晴らしい本なので、ぜひ受け取ってほしい」
真夜中のコンビニ、星の王子さまと出会った日 | エッセイより
そう言って差し出された本は『星の王子さま』。
Sayuriさんはあまりにもまっすぐで純粋な言動に感銘を受けると同時に、そんな人を迷惑がって逃げ回っていた自分に嫌気が差しました。
恥じ入る気持ちからうまく返事ができず、その人とはそれっきりだそう。
家に帰って、もらった「星の王子さま」を読んだ。そしたらさらに自分が嫌になってしまって、本に感動したからなのか自己嫌悪からなのか、泣けてしまった。本の内容は言われた通り素晴らしく、純粋で、大の大人のくせに目を潤ませながらこんな小娘に想いを伝えくれたその人が、この本を好きな理由がよくわかる気がした。
真夜中のコンビニ、星の王子さまと出会った日 | エッセイより
苦い思い出でもありますが、その人の純粋さから自分の未熟さを知り、成長につなげられた経験でもあります。
片田舎のコンビニアルバイトで「はたらく」という感覚を鋭くしたSayuriさん。
自分が「つまらない」と思っている仕事であっても、じっと見つめてみれば工夫する余地はたくさんあり、お客さんとの関わりから学べることもたくさんあります。
――自分次第で仕事の奥深さに触れ、いくらでも楽しむことができる。
そう考えれば、どんな仕事でもおもしろさを見出し、笑顔になれるのではないでしょうか。
Sayuri 「とりあえず、やってみる」を合言葉に色々手をつけてみる。嫌にならないように、適度にゆるく。語学学習(英語、スペイン語)や勉強中のアレコレ、読書記録、その他興味のあることをつらつらと綴っていく記録帳。エッセイもたまに。色々やってみてその結果を分析するのが好きです。 |
(文:秋カヲリ)
パーソルグループ×note 「#はたらいて笑顔になれた瞬間」投稿コンテスト
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