阪大卒→内定辞退。発達障害・ASD診断の“阪大卒ニート”が「学歴をドブに捨てた」と悔やんだ理由。“顔採用”就活の後悔も
スタジオパーソルでは、「はたらくを、もっと自分らしく。」をモットーに、さまざまなコンテンツをお届けしています。
「心も身体も健康にかわいくなりたい阪大卒ニート女。YouTubeで一生喋ってる」がキャッチフレーズの綾瀬ちいさんは、チャンネル登録者数12万人を超えるYouTuber。ユーモアあふれる赤裸々で軽快なトークが人気です。
2026年4月には、初の著書『「フツーに生きる」がなんでできないのかやっと気づいたから聞いて』(株式会社KADOKAWA)が出版されるなど、一見華やかに見える彼女ですが、大阪大学在学中に就職の内定を辞退したことが大きなコンプレックスだといいます。
そんな彼女がたどり着いたキャリア観について聞きました。
就活失敗。YouTubeで喋り続けるニート爆誕
──「阪大卒ニート」、インパクトのあるプロフィールですよね。綾瀬さんの主な活動内容を教えてください。

YouTubeで動画を配信しています。新卒で内定辞退した過去やキャリア観について話したり、容姿のコンプレックスから摂食障害に苦しんだ経験をもとに、ルッキズム・垢抜け・美容のことを話したり。コンプレックスを赤裸々に喋りまくるコンテンツを創っています。
好きなことを好きなように喋り続けるうちにたくさんの方が共感してくれて、いつの間にかYouTuberと呼ばれることも多くなりました。同じ悩みを抱えた視聴者さんの心が軽くなればと、赤裸々に経験や学びを語っています。
──YouTuberとして認識されつつも、ニートと名乗るのはなぜですか?
YouTuberも立派な職業ですが、新卒で内定を辞退してから一度も就職せずにここまできたことにコンプレックスがあるんです。もともとは「良い大学を出て良い会社に入るのが正解だ」と思っていたので、就活の失敗は大きな挫折。ちゃんと就職した人と私の間に線を引いているんですよね。
ニートは言いすぎかもしれませんが、家でひたすら寝ている日もたくさんありますし。YouTubeの作業時間をかき集めて、1週間に8時間はたらいているかどうかという毎日です。
YouTubeを仕事と言うと「仕事じゃない」と言われるし、仕事をしていないと言うと「お金もらってるじゃん」と言われるレベル。それに、YouTubeを100%仕事だと思うと楽しめなくなる気もしています。
──一流企業の内定を辞退し、華々しくYouTuberとして活躍しはじめたわけではないのですね。
内定を辞退したのは適応障害になってしまったからなんです。仕事どころか生活に支障をきたすほどの症状でした。

ほぼ寝たきりでベッドから起き上がれなくて、かろうじてトイレには這うように行っていました。入浴も歯磨きもままならなかったですね。虫歯がたくさんできて、立ち直ってから治療したんですよ。
体は動かないのに頭は忙しく、動くこともつらかったです。内定を辞退したのは入社式が目前に迫った3月だったので、「就職するはずだった企業の方々に迷惑をかけてしまった」と自分を責めてばかりいました。
「お金をかけて育ててもらって、自分を律して勉強を頑張って、せっかく良い大学に入れたのに!」「最後の最後ですべて棒に振るとは私は何をしているんやろう?」「学歴をドブに捨てたのと同じや」と本気で思っていました。
後にASD(自閉スペクトラム症)の診断も受けたのですが、当時は自分の生きづらさの正体が分からず苦しかったですね。
そんな中、4月になると同級生が入社式へ。「なぜ、自分は周りにできることができないんだ」と人のSNSを見ては落ち込みました。

──それほどまでつらい状態でYouTubeを始めた理由はなんだったのでしょうか?
就活で内定をもらったものの、社会人としてうまくやっていけるか不安でいっぱいの時期に衝動的に始めました。
学生時代は喋って場を盛り上げるタイプで、「有名になりたい」という漠然とした夢があって。敷かれたレールを外れる考えなどなく、現実味のある夢ではありませんでしたが……。
とはいえ、周りに「面白い」「有名人になれるよ」と言われるのはうれしかったので、今の活動の根っこには学生時代の経験があるかもしれません。最終的に、望まないかたちで会社員ルートは消えてしまいましたが、YouTubeだけは今日まで続けています。
寝たきりの期間は、収入がゼロの状態が続いていました。年金生活の祖母が心配して、お金を渡してくれることもあって。ありがたいと思うよりも先に、申し訳なさと情けなさで泣いてしまいました。「80歳のおばあちゃんに、20歳の自分が支えてもらっている」という現実がつらかったです。だからこそ、YouTubeの活動が広がり、収益が生まれ、はじめて家族にご飯を奢ることができたとき。その瞬間、ようやく過去の自分が少し報われた気がしました。
顔採用を目指した。容姿コンプレックスの解消のための就活
──一流企業の内定はいわば「理想のレール」だったはずですが、なぜ適応障害になってしまったのでしょうか?
就職先にうまくなじめなかったんですよね。内定者懇親会で、周囲が当たり前のように関係を築く中、みんなと自分の価値観のギャップに耐えられなくて。
でもそれは、会社や周りの人が悪いのではなくて、私の就活の軸がおかしかったんです。就活を容姿のコンプレックス解消のために使ってしまったんですよね。

SNSの情報に踊らされて、「顔採用」と言われている企業をたくさん受けてみたり、「見た目が華やか」とうたわれる職種に応募してみたりしました。
小学生のころ、外見が理由でいじめられてから容姿がコンプレックスで、整形をしたりメイクを研究したり、自分なりにたくさん頑張ってきたんです。だから、「見た目が重視される企業に受け入れられれば、自分の容姿を認められるかな」と。それが就活のゴールになっていました。
そんな理由で会社を選んだものだから、価値観が合わず、うまくふるまうことも、その会社ではたらくイメージを持つこともできなくなってしまって。気付いたら適応障害になっていました。
YouTubeでも話しましたが、ちゃんと自分の内面と向き合って就活するべきだったと今では後悔しています。

挫折もコンプレックスもさらけ出したら、書籍出版の夢がかなった
──ご自身のコンプレックスや失敗談を赤裸々に語っているにもかかわらず、綾瀬さんの動画にはハッピーで前向きな空気が流れていますね。
YouTubeではポジティブなことを言いすぎないと決めているんです。適応障害になって人生どん底で、死にたいとまで思っていたとき、「いつか絶対に治るよ。死んだら周りが悲しむよ」と言われてもなかなか受け入れられなかったから。
前向きな言葉の意味も、元気になった今はよく分かっています。実際、生きていて良かったと心から感じています。でも、どん底にいるときは「そんなの知らないよ」と思ってしまうものですよね。
挫折を経験して思うのは、良くないことを無理にポジティブに飾り立てなくても、人生は悪いことばかりではないということ。ネガティブなこともありのままに出し切ることで、未来を見る大事さを伝えていきたいですね。
──挫折や葛藤を乗り越えてきた半生を綴ったエッセイが出版されますね。
私の動画を見つけた編集者さんが声をかけてくれたのがすべての始まりです。YouTubeを始めてから、「いつかは本を出したい」と思っていたので、出版が決定したときはうれしくて声が出ました。

──どうして本を出したいと思っていたのですか?
本にすることで、後世まで自分の言葉が残ることにロマンを感じているからです。幼いころから本が大好きで、大学時代は文学部で研究をしていたのですが、大昔の人が書いた文章に共感することが多々ありました。
夏目漱石や清少納言はとっくに亡くなっているのに、現代の私がそんなふうに思えることが面白くて。理論上、紙に残した言葉は100年後も残ります。デジタルの時代だからこそ、出版というかたちで言葉を残すことに、独特のロマンを感じていて。
実はYouTubeを始めたころは、自分も本に言葉を残したいとは考えてもいませんでしたが、見てくれる方が増えるにつれて、「せっかく本気で発信しているのだから、本を出すところまでやりたい」と強く思うようになりました。

──出版の夢をかなえるために取り組んだことを知りたいです。
本を出すために何かをしたことはないんです。活動の中で大切にしているのが、求められることをやること。自分の発信を見てもらって、本を書いてほしいとお声がかかればやりたいと思っていました。
この考え方になったのは、就職内定先で「自分はここでは求められていないんだ」と痛感した経験がきっかけです。自分が長所として推したいところと、他人が自分に求めるところは違う。そのことを身をもって知りました。
私の場合、容姿のコンプレックスがあったから、美容を頑張ってビジュアルを強みにしたかったのですが、視聴者さんが観たいのはマシンガントークが面白い綾瀬ちいなんですよね。
YouTubeを始めたころは、メイク動画を中心に公開していましたが、バーっと喋る動画を出した瞬間に一気に登録者数が伸びたんですよ。「観てほしいのはそこじゃないんだけどな」と最初は思いました。

でも、登録者数が12万人を超えた今、「人生の中で12万人の人と話せる機会なんて普通はないな」とありがたく感じています。視聴者の皆さんの期待に応えることで、貴重な経験を得られたなと。
求められたものを相手に提供すると、意外とすんなり褒めてもらえたり、「ありがとう」と言ってもらえたりします。するとこちらもうれしくなる。
自分の価値に気付いて、たくさん喋る動画を出してからは、観てくれる人の数が増えたこともあり、結果として容姿を褒めてもらえる機会も増えました。
──仕事において、やりたいことと求められることのギャップに悩む人は多そうですね。
たとえ自分の価値観と合っていなくても、求められる役割を理解して仕事にコミットする。それをかっこよさとして飲み込めたら楽になるかもしれません。
もちろん、自分の価値観を封印する必要はなくて、やりたいことはその仕事以外で存分に発揮すれば良いと思います。たとえば趣味や副業など、自由に自分を表現できる場もないと壊れちゃうし。
私のようにYouTubeにおける発信の軸を変えたら視聴数が上がったというような分かりやすいパターンはめずらしいかもしれませんが、どんな人にも求められていることがあるので、それを探してとことんやってみるのもありだと思います。
「普通」にはたらく人たちをオリンピック選手くらい尊敬している
──YouTube登録者数10万人を突破して“銀の盾”を手に入れ、夢だった書籍出版も決定。キャリアが大きく動くことで、就活失敗のコンプレックスは解消されましたか?

すべて克服したわけではありませんが、少しは自分を認められるようになりました。世の中のはたらく人たちを素直に尊敬できるようになったのは自分にとって大きなことです。
「学歴をドブに捨てたと本気で思っているし、後悔しまくり」なんて動画で言ったこともありますが、この選択を正解にするためにできることをやっていきたいですね。
YouTubeの活動が広がりお金をいただけるようになったことで、「社会に価値を提供できているんだ」と自己肯定感も高まりました。適応障害で寝込んでいたころからは想像できないほどありがたいことなので、誠実に活動を続けていきます。
社会人として当然だと笑われるかもしれませんが、YouTubeの編集が億劫な日があっても、毎週金曜日に動画を出すと決めたことは絶対に守るなど、当たり前の大切さと大変さを感じています。「普通にはたらく」ことへのあこがれがずっとあるんですよね。

──「普通にはたらく?」
たとえば、どんなことがあっても朝出勤して、週5日8時間はたらくといったことです。ルーティーンや義務に対して責任感を持って、毎日コツコツとやりきる。夜更かしした翌日にちゃんと定時に出社するって本当にすごいことだと思っています。
そんな「普通」にあこがれつつも、自分の特性を受け入れた生き方をしていきたいとも考えています。「普通」のレールから降りて、でこぼこ道を歩くしかない人にもフィットするはたらき方があるはず。
前例がなくて迷うこともありますが、「普通」にこだわりすぎず、自分にできることで価値を生み出していきたいです。自分には秀でた長所がないと思っている人にスポットライトを当てるような発信を、これからもどんどんしていきたいですね。
──最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?
YouTubeで発信していると、「特別なことができて素晴らしい」と言ってもらえることがありますが、先ほども話したように、「普通をやりきること」のかっこよさに気付いてほしいです。
「普通」ってあえて取り沙汰されないので、「平凡さがコンプレックス」とよく耳にします。でも、私にとって「普通」はオリンピックに出るくらいかっこいいこと!私には到底辿り着けない境地です。
それに、仕事だからといって、完璧な人間へとスイッチを無理に切り替えなくて大丈夫。私は、会社に馴染めなかったり、就活に失敗したりした自分を許せず苦しみましたが、今思えば完璧以外を認められずに身動きがとれないのはもったいないですよね。
皆さんには「こうあらねばならない」「仕事を楽しまないといけない」と思いすぎないでほしいです。職場で怒られたとき、それはあなた自身が否定されたわけではありません。会社はあなたのアイデンティティを預かる場所ではないので、対価をいただく関係だと思えたら少し楽になるかもしれません。
自分の未熟な部分やできないことは、社会に出ても持ったままでいい。完璧じゃなくていい、まず「いればいい」くらいの気持ちで、ぜひ一歩踏み出してみてください。

(「スタジオパーソル」編集部/文・写真:徳山チカ 編集:いしかわゆき、おのまり 写真提供:綾瀬ちいさん)
※ この記事は「グッ!」済みです。もう一度押すと解除されます。











