アラサー女性の共感殺到。“ズボラな私”の自己肯定感を上げる「現実を生きるリカちゃん」が生まれるまで
一般人から芸能人まで、多くの人が動画コンテンツを発信しているYouTube。動画クリエイターであるYouTuberにもさまざまな経歴の持ち主がいますが、特に異彩を放っているのが100万回再生以上のミリオンヒット動画を連発する「現実を生きるリカちゃんねる」です。
このチャンネルは、“アラサーの会社員”であるAさんが個人的にはじめたもの。国民的キャラクターとも言える着せ替え人形のリカちゃんで、アラサーの会社員として日々を過ごしている様子を表現しています。そのあまりにも高いクオリティとズボラなリカちゃんの姿が話題を呼び、YouTubeチャンネルの登録者数は42万人、Instagramのフォロワー数は78万人を突破(2021年9月時点)。活動をスタートしてから約1年で、急速にファンを増やしています。
「それまでは家と会社を往復するだけの日々でした」と言うAさんが、どのように人気コンテンツ「現実を生きるリカちゃん」を生み出し、二足の草鞋生活を送っているのか、きっかけや今のはたらき方について聞いてみました。
自粛期間に、新たな趣味としてスタート
――リカちゃんの動画を作ろうと思ったきっかけは?
大人がリカちゃん人形に服を着せ替えて遊ぶ“リカ活”とYouTubeの両方に興味があって、コロナ禍の自粛期間にリカちゃんの動画を作り始めました。社会人になってからは家と会社の往復ばかりの毎日で、趣味らしい趣味もなく、なにか趣味を作りたいなと思っていたのも理由のひとつです。
――新しい趣味として始めたんですね。リカちゃんと言えばかわいらしい女の子のイメージですが、アラサー会社員を表現しようと思ったのはなぜですか?
リカ活を楽しむ人は、リカちゃんにモデルさんみたいなおしゃれな洋服を着せることがほとんどなのですが、私はズボラなタイプなので「そんなにおしゃれな服を作れるかな」という不安があって。だったら等身大のアラサー女性らしい姿にしたほうが、無理せず楽しんで制作できそうだと思ったんです。等身大のアラサー女性なら、私自身がネタ元になりますから。
――現実を生きるリカちゃんを通じて、自己表現している部分もあるんですね。
そうですね、ふだんの自分を投影しています。自分が前に出るタイプじゃないので、それまではYouTubeに興味があってもなかなか始められなかったんですが「自分の代わりにリカちゃんに登場してもらえば、自由に動画を作れるかも」と思い、ようやく挑戦できました。
「とことん楽しむ」姿勢でクオリティを追求
――「クオリティが高すぎる」と評判ですが、昔から制作するのが好きだったんですか?
ちょっとした工作は小さいころから好きで、10㎝くらいのぬいぐるみを飾る背景を手作りしていました。でもずっと続けていたわけではなくて、ものづくりを本格的に始めたのは「現実を生きるリカちゃんねる」を立ち上げてからです。リカ活もまったくの未経験でしたが、みんな自由に楽しんでいる印象だったので、特に情報収集はせず、とりあえず始めてみました。
それでも、SNSで発信するなら高いクオリティにしたいというこだわりはあります。小道具や洋服は基本購入して集めますが、自分のリアル感を出すために、ちょうどいいものがないときには手作りしています。家具やお菓子の袋など、ちょっとした小道具にも気を配って現実感を出しています。
――本当にリアルで、アラサー女性の私生活をのぞき見している気分になります。制作にはどれくらいの時間とコストをかけていますか?
Instagramの写真1枚あたりで5~6時間、YouTubeの動画1本には1週間くらいかかります。費用はまちまちですが、1回あたり5万円くらいかかることもありますが、クオリティ重視でお給料をつぎ込んでいます(笑)。せっかくできた趣味なんだから、とことん楽しみたいって思いが強いです。
――それだけ意欲的に制作されているとなると、会社員生活との両立が大変そうですが、どんなスケジュールで制作していますか?
平日は8時半に家を出て、帰ってくるのは21時くらいで、制作するのは平日深夜と休日です。外回りが多い仕事なので、移動中など仕事の合間にYouTubeを見ながら「どんな動画を撮ろうかな」「どんなリカちゃんを作ろうかな」と考えることもよくあります。作り出すと止まらなくなって、明け方まで作業しちゃうことも多くて……。作っている間は没頭しているので目が冴えているんですが、出社してからは眠気と戦っていますね(笑)
企画内容を考えるのに2日、リカちゃんグッズの制作に2日、撮影に2日、編集に1日と、大体1週間かけて動画1本を作るんですが、毎日作業できるわけではないので、実際は月2本前後のペースで投稿しています。
共感を通じて、“ダメな自分”も肯定できるようになった
――急速にファンが増えましたが、どのように広まっていったんでしょうか?
YouTubeから始めたんですが、動画を3本くらい投稿した段階では、ほんの数人の登録者数しかいませんでした。でも、半年後に始めたInstagramでじわじわリカちゃんファンの人たちに広まっていき、フォロワーが数千人規模になりました。
一気に伸びたのはTwitterがきっかけです。Instagramのスクリーンショットを何枚か載せて紹介してくれたツイートがどんどんリツイートされて、30万いいねにまで膨らんでいきました。途中まではうれしく思っていたんですが、Instagramのフォロワーが急に数万人になって、それからYouTubeでも急上昇動画に掲載されるようになって……。
できるだけ多くの人に知ってほしいというより、リカちゃん好きの人に広まって、知る人ぞ知るアカウントになればいいなと思っていたくらいだったので、「こんなに見られたらアンチも増えるんじゃないか」って正直怖かったです(笑)。自分を落ち着かせるために「フォロワー数はただの数字だから気にしちゃダメだ」って言い聞かせていましたね。
――想定外の反響でびっくりしたと。それでも活動を続けられた理由は?
共感コメントや肯定的なコメントがうれしかったからです。現実を生きるリカちゃんは私みたいにズボラな生活を送っていて、そんなリカちゃんに対して「私も同じ」「すごく分かる」ってコメントをもらうと、「私だけじゃなくてみんなそうなんだ」って安心できます。
「リカちゃんなら私みたいなズボラな生活をしていてもかわいいんだろうな」って気持ちでリカ活を始めたんですが、実際に「かわいい」ってコメントをたくさんもらって「現実を生きるリカちゃんがかわいいってことは、私もかわいいってこと?」と思えるようになりました。
小さいころから親に「だらしない」と怒られることが多くて自信がなかったんですが、今では「こんな自分でもいいんだ」ってダメな自分も肯定できます。リカ活が自己肯定感を高める手段になっていますね。
――自己投影したリカちゃんが肯定されることで、自己肯定感も上がっていったんですね。ほかにも変化はありましたか?
クリエイティブという自分の強みが分かって、新しい居場所ができました。仕事では「私にはなにが向いているんだろう?」っていうモヤモヤがあったんです。でもリカ活ではじめて自分が作ったものが評価されて、やっと認められた気がしました。
今は会社で嫌なことがあっても「投稿のネタにしよう」と思うので、悩む時間をものづくりの時間に充てています。だから変に思いつめたり引きずったりせず、気楽に生活できるようになりました。
YouTubeチャンネルの説明欄に「このチャンネルはリカちゃん遊びが大好きだった20代後半の女が辛い現実から目を背けるために自分をリカちゃんに投影してYouTuberとして活動していくちょっとヤバめなチャンネルです」と書いたんですが、いい意味で実現できていると思います。
好きなことは敢えて仕事にせず、長く楽しみたい
――クリエイティブを本業にすることは考えていないんですか?
今のところ転職などは考えていません。いつまで人気があるか分かりませんし、生活の癒しであるリカ活を仕事にしたくないって気持ちもあります。
まだ自分が結婚するか出産するかも分からないし、始めたばかりのリカ活をいつまで続けるかも分からないので、しばらくリカ活を継続して自分のライフプランが見えてきた段階で、今後のキャリアを考えていきたいなと思っています。
――敢えて仕事にしないことが継続のコツかもしれませんね。
そうですね。やりたいことより求められることを優先すると楽しめなくなりそうで、それだと本末転倒なのかなと思います。
もともと保守的な性格で、就活の時もクリエイティブの仕事は「大変そうだから」と避けたんです。今はクリエイティブ欲をYouTubeで発散できているので、制限のある仕事ではなく、自由に楽しめる趣味でものづくりを楽しむほうが自分に合っていると感じます。
動画の内容も、自分がやりたい企画と人気のある企画を半々にして、やる気を維持できるようにしています。求められる企画ばかりだと自分が楽しくないですし、自己満の企画ばかりでも反響が悪くてやりがいがなくなっちゃいますから、バランスよく作っていきたいですね。
――最後に、これからの展望を教えてください。
「ズボラだっていいじゃん」って思えるように、ありのままの自分を肯定できる動画を作っていきたいです。あとは別アカウントを作って、現実を生きるリカちゃんの制作風景も紹介もしたいなと思っています。リカちゃん好きの、コアな人たちに刺さるコンテンツを作りたいなって。
現実を生きるリカちゃんを見ている方にも、動画でうまく息抜きしてもらって「自分らしく人生を楽しもう」って思ってもらえたらうれしいです。
(文・秋カヲリ 写真提供:Instagram「現実を生きるリカちゃん」)
※訂正※ 冒頭のフォロワー数のご紹介にて、当初「2020年9月時点」と表記しておりましたが正しくは「2021年9月時点」の誤りです。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。(2021.9.25訂正)
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