巨人ドラ3→23歳で戦力外。菊田拡和「うわ、おれ無職やん」からミキハウス物流センター勤務の現在

2026年2月26日

はたらく情報メディア『スタジオパーソル』が運営するYouTubeでは、仕事終わりの晩酌まで1日密着し、はたらく本音を深掘りする番組をお届けしています。

今回お話を伺ったのは、元読売ジャイアンツ(巨人軍)の菊田拡和さん。ドラフト3位で入団し将来を期待されるも、23歳で戦力外通告を受けます。現在は、大手子ども服メーカー・ミキハウスに入社し、硬式野球部に所属。午前中は物流倉庫ではたらき、午後からは野球の練習に励む生活を送っています。

プロ野球選手の夢に破れ、挫折を乗り越えた先に見つけた、新しい「はたらく」の価値観。菊田さんの経験から、「はたらくモヤモヤ」を抱える人が自分らしく未来を切り拓くためのヒントを探ります。

「ふくらはぎが筋肉痛に」1万6,000㎡の巨大倉庫ではたらく元プロの現在地。

菊田拡和さんは、高校での活躍から長打力を期待され、2018年に読売ジャイアンツにドラフト3位で入団を果たします。しかし、2024年、23歳で戦力外通告を受けました。現在は三重県伊賀市のミキハウスではたらきながら、社会人野球を続けています。

朝8時半、菊田さんはミキハウス物流センターに出勤します。作業着に着替えて倉庫スタッフと一緒に朝礼に参加。1日の仕事は倉庫の清掃から始まり、その後、発注リストを手に倉庫内を歩き回り、商品を棚からピックアップしていきます。

「今日ピックアップする商品は378個です。今回の注文は百貨店向け、靴が多いですね」

約1万6,000平方メートル、東京ドームの3分の1ほどにあたる広大な倉庫には、200万点もの商品が保管されています。ここから国内外の店舗に向けて、毎日大量の商品が出荷されているのです。菊田さんはリストに記された番号を頼りに、膨大な商品の中から必要なものを探し出していきます。

「出勤初日には、ふくらはぎが筋肉痛になりました。スマホの歩数計を見たら、ディズニーランドに行ったときと同じくらいの歩数でしたよ(笑)」

物流倉庫の仕事は、プロ野球選手として鍛え上げた体でも筋肉痛になるほど体力を使います。それでも菊田さんは、商品の袋が汚れていないか一つひとつ確認しながら、丁寧に梱包作業を進めていきます。

「お客さまのもとに届くものなので、しっかりチェックしています」

午後1時に倉庫業務が終わると、菊田さんは食堂で昼食を済ませ、ユニホーム姿で屋外の練習場へ。

グラウンドに響く掛け声。守備練習、打撃練習をしながら、仲間たちと汗を流します。月曜日は終日倉庫ではたらき、火曜日から金曜日は午前中が業務、午後が野球。繁忙期には業務を1日行う日もあれば、練習試合がある日もある。そんな生活を送っているのです。

プロの舞台から物流倉庫へ。一見すると華やかな世界とは対照的な日々を、菊田さんはどんな気持ちで過ごしているのでしょうか。これまでの歩みを伺いました。

夢が突然終わった23歳の冬「うわ、無職やん」

菊田さんにとって、プロ野球選手になることは幼いころからの夢でした。

体格に恵まれていた菊田さんは、小学校のときからエースで4番を任される存在。常総学院高校では高校通算58本塁打を記録し、日本プロ野球のシーズン本塁打記録保持者であるバレンティン選手になぞらえて、“常総のバレンティン”と呼ばれるようになりました。そして2018年、読売ジャイアンツからドラフト3位で指名を受けます。

「小さいころからの夢だったので、本当にうれしかったです」

プレッシャーよりも喜びのほうがはるかに大きかった、と菊田さんは当時を振り返ります。しかし、念願のプロの世界に飛び込んだ先で待っていたのは、想像を超える厳しい現実でした。

「レベルが全然違いました。ピッチャーの球のキレも変化球のキレも、何もかも高校のときとは違う」

高校時代に強打者として活躍してきた菊田さんでも、プロの投手が放つ球は別次元だったのです。一流投手の剛速球を目の当たりにして、「これ、どうやって打つの?」と途方に暮れたと言います。

それでも菊田さんはあきらめませんでした。二軍で地道に努力を重ね、4年目についに一軍デビューを果たします。

ところが5年目、意気込んで臨んだ「勝負の年」に転機が訪れます。キャンプで腰に違和感を覚え、病院でヘルニアの診断を受けたのです。プロ5年目は結果を残すべき「勝負の年」。焦りと不安が菊田さんを襲いました。

「『もう終わりかもしれない』『戦力外かも』という不安がありました。リハビリ期間が長く、メンタル的にもきつかったです」

そして迎えた2023年の冬。練習中、菊田さんのスマートフォンに1通のメッセージが届きます。呼び出しの連絡でした。

「担当者から封筒を手渡されたとき、『うわっ』と思いました」

嫌な予感は的中します。本社で告げられたのは、「来期から契約は結ばない」という言葉――。戦力外通告でした。

翌日、菊田さんを待っていたのは、何もない空白の時間でした。それまで当たり前だった朝の練習も、グラウンドに向かう理由も、チームメイトとの時間も、すべてが一瞬で消えてしまったのです。

「前日まで野球のことだけを考えて練習していたのに、戦力外通告を受けた次の日から急に行く場所がなくなり、やることもなくなった。マジでやばかったです。『うわ、俺、無職やん』と」

長年の夢に突然終わりがやってきた23歳の冬、菊田さんの前には先の見えない恐怖が広がっていました。

ミキハウスで見つけた「誰かのためにはたらく」手応え

戦力外通告を受けた後、菊田さんは他球団への入団を目指し、スカウトが見守る中で行われる合同テスト「トライアウト」に挑戦します。しかし、どの球団からも声はかかりませんでした。プロ野球の世界に戻る道が絶たれ、菊田さんは初めて「野球を続けるのか、それともやめるのか」という選択肢と向き合うことになります。

「ケガで思うようなプレーができないままプロ野球人生が終わってしまった。悔しかったですね。小さいころからずっと好きだった野球のことを考えても、到底『やりきった』とは言えませんでした。このまま終わりたくない。もう一度、野球がやりたいと思ったんです」

プロ野球以外にも、野球を続ける道は存在しました。地域密着で運営される独立リーグや、企業がスポンサーとなるクラブチーム、そして企業に所属しながら野球を続ける社会人野球です。その中で菊田さんが選んだのが、ミキハウスの社会人野球チームでした。

「練習に参加したとき、チーム全体に活気があって、初日から自然に馴染めました。ここでもう一度野球がしたい、と素直に思いましたね」

入団後、菊田さんにとってこれまでとは異なる社会人生活が始まりました。朝は倉庫作業、午後から野球。それまで野球そのものが仕事だった菊田さんにとって、「はたらきながら野球を続ける」というスタイルははじめての経験でした。そんな日々の中で、菊田さんは新しい気付きを得ていきます。

「商品を買ってくださるお客さまがいるから、自分たちの仕事が成り立っている。プロ野球選手だったころもファンの方のことを考えてプレーしていましたが、倉庫で実際に商品を扱うようになった今、『誰かのためにはたらく』という実感がより強くなりました」

菊田さんは「はたらく」ことの新しい手応えを感じ取っています。かつて味わった喪失感とはまったく違う、充実した毎日を過ごしているのです。

怖くて動けない人へ。「大丈夫、絶対になんとかなる」

突然の戦力外通告で、幼いころからの夢も目の前の仕事も失ってしまった過去。それでも今、菊田さんはまっすぐなまなざしでその経験を振り返ります。

「正直、先が見えない恐怖はありました。でも戦力外になったからこそ、もっと頑張ろうと思えた。逆に良かったのかもしれません。あの経験があったから今の自分がいます」

そんな菊田さんに、「はたらく」モヤモヤを抱える若者へのメッセージを伺いました。

「悩みって、振り返ると意外とちっぽけなものなんですよね。ぼくも戦力外通告を受けたときは本当に『終わった』と思いましたけど、今となってはそれも過去のこと。過去を後悔しても意味がありません。変えられるのは未来だけですから。それに、その悩みを気にしているのは案外自分だけです。大丈夫、絶対になんとかなります。今この瞬間が1番若い。変えるなら今です」

今日も菊田さんは、倉庫業務を終えグラウンドへ向かいます。集まった仲間たちの前で、菊田さんの声がグラウンドに響きました。

「心に太陽を宿して、元気にやっていきましょう!」

※今回お伝えし切れなかったフルバージョンの動画はYouTube『スタジオパーソル』にて公開中

(「スタジオパーソル」編集部/文:間宮まさかず 編集:いしかわゆき、おのまり)

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ライター/作家間宮まさかず
1986年生まれ、2児の父、京都在住のライター・作家。同志社大学文学部卒。家族時間を大切にするため、脱サラしてフリーランスになる。最近の趣味は朝抹茶、娘とXGの推し活、息子と銭湯めぐり。
著書/しあわせな家族時間のための「親子の書く習慣」(Kindle新着24部門1位)

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