「もう貯金ないです‥」マンション売却で自腹1.5億円。スザンヌが築70年・熊本旅館の再生に賭けた理由

2026年1月14日

スタジオパーソル公式YouTubeでは、さまざまな業界ではたらく人の1日に密着し、仕事の裏側と本音を掘り下げる『晩酌まで1日密着』シリーズをお届けしています。

今回密着したのは、バラエティ番組『クイズ!ヘキサゴンII』などでブレイクし、タレントとして活躍するかたわら、地元・熊本で旅館「KAWACH BASE-龍栄荘-」を経営するスザンヌさんです。

東京のマンションを売却し、貯金をはたいて自己資金1.5億円を投じた旅館再生の背景には、どんな困難や葛藤があったのでしょうか。想定外のトラブルに見舞われながらも奔走するスザンヌさんに、モヤモヤに向き合うためのヒントを伺いました。

※本記事はYouTube『スタジオパーソル』の動画を一部抜粋・編集してお届けします

スザンヌさん自ら接客も。熊本で旅館を営む現在の姿

タレントとして活躍後、株式会社yamaを設立し社長となったスザンヌさん。アパレル事業のかたわら、2025年2月から新たに旅館業をスタートさせました。熊本市から車で30分ほど南下した、八代海を望む河内町で、築70年の老舗旅館をリノベーションした「KAWACHI BASE-龍栄荘-」を経営しています。

龍栄荘は旅館だけでなく、カフェとしても地域に開かれた場所です。館内にはスザンヌさんのアパレルブランドも並び、訪れる人それぞれの目的で楽しめる空間になっています。

「いらっしゃいませ。どうぞ靴のままお上がりください」

笑顔でお客さまを出迎えるスザンヌさん。一人ひとりのお客さまとの会話を楽しみながら、時には一緒に写真撮影をする姿も。テレビで見る華やかな芸能人というイメージとは少し異なる、身近で親しみやすい一人の旅館経営者としての顔がそこにありました。

「東京での芸能活動と並行して、週に1〜2回は龍栄荘に来ています。お客さまへのご挨拶や従業員さんとの情報共有、アパレル事業の打ち合わせなどが目的です」

龍栄荘の2階にある客室は2室のみ。『日本ベッド』の寝具や『ligne roset』のソファなど、客室にはこだわりの家具が並びます。一人1泊3万3000円からという価格設定には、「一人ひとりのお客さまにていねいにおもてなしをしたい」というスザンヌさんの想いが込められていました。

「マンションも売った」再建費用は膨らみ、気付けば1.5億円に

スザンヌさんが老舗旅館・龍栄荘を買い取ったのは、1年前のこと。龍栄荘はその時点で廃業から4年が経過していました。当初は、現在とは異なる構想で物件を探していたと言います。

「築70年の旅館の佇まいと、穏やかな河内町の空気感に惹かれ、直感で購入を決めました。当時は旅館業を始めるつもりはなく、1階部分だけで事業を行う計画だったので、リフォーム費用もそれほどかからないだろうと考えていました」

1階部分にカフェとアパレル、エステなどの美容スペースをつくる計画で購入を決断。しかし、購入後にリフォーム業者が建物を調査すると、深刻な問題が次々と明らかになりました。

「ふたを開けてみると誤算だらけで。ダブルパンチ、トリプルパンチというか、次から次へと問題が出てきました。廃業してから4年の間、換気されずに放置されていたことが原因で、シロアリ被害、屋根からの雨漏り、漏水、漏電など、建物全体の老朽化が想像以上に深刻だと分かったんです」

リフォーム業者から提示された見積もりは、当初の想定を大きく超えるものでした。屋根の全面改修に2,000万円、床下の基礎工事に700万円、シロアリに侵食された柱の交換に1本当たり100〜150万円、さらに老朽化した配管や電気系統の全面的な入れ替え工事も発生しました。

結局、建物を使用可能な状態にするだけで工事費は7,500万円にまで膨らむ事態に。「お客さまの目には見えない部分だけでこの額です」とスザンヌさんは当時を振り返ります。

しかし、ここでスザンヌさんは計画を縮小するのではなく、むしろ拡大する決断をします。当初の「1階のみ活用」という計画を180度転換し、旅館全体を再建すると決めたのです。きっかけは、地域の人々の声でした。

「物件購入前から、ご近所の皆さんからたくさんの思い出話を聞いていたんです。『スザンヌちゃん、龍栄荘を買ったんでしょう?私、あそこで結婚式をしたのよ』『七五三をしたのよ』『宴会で何度もお世話になったのよ』って。龍栄荘が地元の人々にどれほど愛されていたのか、その想いが地域の皆さんの言葉からひしひしと伝わってきました」

地域の人々の想いに応えたい。その一心で旅館再生へと舵を切ったスザンヌさんは、そこから客室の内装、壁の仕上げ、家具や業務用調理器具の新調など、旅館として再出発するために必要な工事に取り掛かりました。

追加工事により膨らみ続ける費用も重くのしかかるなか、スザンヌさんのもとには旅館再生に奔走していることを知った地域の人々が集まります。地元の石屋さんは庭の石の運搬を、い草農家さんは畳の張替えを無償で協力してくれたそうです。

それでも最終的な改修費用の総額は1.5億円。銀行からの借り入れを一切行わず資金を確保するため、スザンヌさんは東京で住んでいたマンションを売却し、これまでの貯金の大半を注ぎ込んだのでした。

それでも立ち止まらなかったのは「本当のやりがい」を見つけたから

想定外の出費の中、地域の人々の想いに応えるために旅館再建を決めたスザンヌさん。しかし、実際に動き出してみると、当初想像していた以上に大きなやりがいを感じるようになっていきました。

それは、龍栄荘を単に「かつての旅館として再建する」ことではなく、「河内という町全体の魅力を発信する拠点にしたい」という新たな目標が生まれたからです。

「旅館再建に向けて動き始めてから、河内町の魅力がどんどん見えてきたんです。海が近くて自然豊かなで、便利なものはあまりないかもしれないけど、“最高の景色”がある。ゆっくりと時間が流れているように感じられる魅力的な町だなと。その魅力を皆さんに伝えたいと思うようになりました」

その想いを形にするため、スザンヌさんは現在、地域資源を活かした宿泊プランの考案にも取り組み始めています。

そのうちの一つが、地元の釣りプロ・山本高彰さんとのコラボレーションです。河内町には釣りを楽しみに訪れる人が多いことから、山本さんに釣りを教えてもらいながら夕日を眺め、釣れた魚を旅館で味わう。そんな河内町ならではの体験を、ランチセットや夜の宴会プランとも組み合わせて提供しようとしています。

「河内町の人たち、熊本の人たちと、龍栄荘として一緒に取り組めることを増やしていきたいんです。もちろん旅館として開業してから大変なこともたくさんありました。それでも、お客さまからお礼の手紙をいただいたり、『最高でした』と寄せ書きをもらったりすると、本当に励みになります。大変なことより、『この旅館を始めて良かった』と思える瞬間のほうがずっと多いんです」

今後の目標について、スザンヌさんはこう語ります。

「龍栄荘を知ってもらうことで河内町にも注目が集まり、この町が『来たら何か楽しいことがある場所』になってほしい。デビュー当時から『熊本出身』と言い続けてきたことで多くの方に覚えていただき、県から熊本県宣伝部長にも任命していただきました。私のキャリアを支えてもらった恩返しとして、河内町のようなまだ広く知られていない場所の魅力を伝えたいです」

乗り越えなくていい。モヤモヤに「寄り添いながら生きていく」

タレントとして脚光を浴び、旅館経営者としても新たな挑戦を続けるスザンヌさん。一見すると華やかに映るスザンヌさんのキャリアですが、その裏には決して順風満帆とは言えない多くの苦労がありました。

そんなスザンヌさんに、はたらくことや生きることに悩みを抱える若者へ向けた「モヤモヤとの付き合い方」について伺いました。

「いくつになってもモヤモヤは出てくるし、時には乗り越えられないときもありますよね。だから、無理して乗り越えようとせず、そのモヤモヤを心の中に飼いながら生きていけばいいと思います。モヤモヤを感じたら、ないものにはせず、『また来たか』とその気持ちに寄り添いながら生きていけたらいいんじゃないかな」

モヤモヤを、取り除くべき問題ではなく、常にあるものとして受け止める。旅館経営で想定外のトラブルを乗り越えてきたスザンヌさんだからこそ、モヤモヤの波を良し悪しで捉えるのではなく、ありのままに認めることが幸せにはたらくための大切な基盤であることを知っているのかもしれません。

最後にスザンヌさんは、若者が「はたらく」を楽しく自分らしくするためのアドバイスをこう語りました。

「好きなことを仕事にできている人なんて、実はほとんどいないと思うんです。私も、本当は書類作成やお金の計算は苦手だけど、好きな仕事のために一生懸命やっています。好きじゃないこともやるから、やりたいことができる。そう割り切って仕事に向き合えば、自分らしくはたらけると思います」

(「スタジオパーソル」編集部/文:間宮まさかず 編集:いしかわゆき、おのまり)

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ライター/作家間宮まさかず
1986年生まれ、2児の父、京都在住のライター・作家。同志社大学文学部卒。家族時間を大切にするため、脱サラしてフリーランスになる。最近の趣味は朝抹茶、娘とXGの推し活、息子と銭湯めぐり。
著書/しあわせな家族時間のための「親子の書く習慣」(Kindle新着24部門1位)

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