燃え尽き症候群になる前に。やる気が出ない方のためのチェックリスト&対処法を産業医に聞いてみた
最近疲れがとれない。仕事も趣味もやる気が出ない。頑張っているつもりなのに仕事の効率が上がらない——。こういう状況がしばらく続いている場合は、「燃え尽き症候群(バーンアウト)」になっているかもしれません。
「燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)」は 2019年5月に「国際疾病分類」に追加されました。医療上の「病気」とは定義されていないものの、やる気が出ない、憂鬱な気分が続くといった「燃え尽き」の傾向は多くの人に見られます。燃え尽き症候群を引き起こす最大の要因はストレスだといわれています。そのため、職業や年齢にかかわらず、誰もがなる可能性があるものなのです。
「燃え尽き」という言葉から「頑張りすぎた人がなるもの」とイメージする方も少なくないですが、そうではありません。「自分は大丈夫」と思っていても、生活の中で知らず知らずのうちにストレスが溜まり、あるとき限界を超えて「燃え尽き症候群」になってしまうケースが増えているのだとか。
「力が発揮できない、パワーがでない」という状態になる前に「燃え尽き症候群」の特徴や対処法、ストレスとの付き合い方を知っておきたいもの。気になる答えを求めて、『「燃え尽きさん」の本』(かんき出版)の著者である産業医の池井佑丞先生にお話を伺いました。
「燃え尽き症候群」は誰もがなる可能性がある
──池井先生、「燃え尽き症候群」ってどのようなものなのでしょうか?
「燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)」というのは意欲や熱意がなくなってしまう状態のことです。
「燃え尽き症候群」には3つの特徴があります。1つは、エネルギーが枯渇してしまい、本来のパワーが発揮できない状態になること。2つめが、仕事に対して否定的な感情や、「やってられない」という感情になること。3つめが、これらの結果として効率が低下してしまうこと。
「やる気が出ない」「落ち込んでしまう」など気持ちの変化に加え、「眠れなくなる」「疲労感が抜けない」「食欲が低下する」といった身体的な症状が出ることや、その傾向が遅刻や早退、身だしなみや生活が乱れる、といった生活面に現れることもあります。
いずれの症状もうつ病と似ていますよね。実は、両者には明確な線引きなどはありません。症状はグラデーションのように重なっているものもありますし、「燃え尽き症候群」の先にうつ病や適応障害などのメンタル疾患があることもあります。
だからこそ、メンタル疾患に至らないように、「燃え尽き症候群」の傾向があれば早めに気づいて対処することが大切なのです。
──仕事が忙しいときに疲労感が抜けなかったり、ネガティブな感情を持ったりすることがありますが、これらも「燃え尽き症候群」の症状なのでしょうか?
誰しもそうした身体面、精神面の波はあります。休日によく眠り、好きなことをして過ごすことで、しっかり心身のリフレッシュができるのであれば、何の問題もありません。多くの人はそうやって回復しています。
ただ、先ほど挙げた症状が続いている場合は、「燃え尽き症候群」を疑ったほうがいいかもしれません。症状の表れ方や感じ方は人によって異なります。自分では「大丈夫」と思っていても「燃え尽き症候群」になっているケースがあるのです。
その見極めのポイントとなるのは、本来の自分の状態と比べてどのくらいギャップがあるかどうか。「いつもなら一晩寝たらすぐにリフレッシュできるのに、ずっと引きずっているかも」「もともと遅刻するタイプではないのに、ここ最近遅刻ばかり」という場合は、「燃え尽き症候群」予備軍になっているかもしれません。
「バーンアウト測定尺度」という指標があります。次のチェックリストで当てはまる項目が多いほど、「燃え尽き症候群」のリスクが高いです。
【CHECK! こんな症状があれば「燃え尽き症候群」かも? バーンアウト測定尺度】
1.「こんな仕事もう辞めたい」と思うことがある
2.われを忘れるほど仕事に熱中することがある
3.こまごまと気配りをすることが面倒に感じることがある
4.この仕事は私の性分に合っていると思うことがある
5.同僚や顧客の顔を見るのも嫌になることがある
6.自分の仕事がつまらなく思えてしかたのないことがある
7.1日の仕事が終わると「やっと終わった」と感じることがある
8.出勤前、職場に出るのが嫌になって、家にいたいと思うことがある
9.仕事を終えて、今日は気持ちの良い日だったと思うことがある
10.同僚や顧客と何も話したくなくなるようなことがある
11.仕事の結果はどうでもよいと思うことがある
12.仕事のために心にゆとりがなくなったと感じることがある
13.今の仕事に心から喜びを感じることがある
14.今の仕事は私にとってあまり意味がないと思うことがある
15.仕事が楽しくて、知らないうちに時間が過ぎることがある
16.体も気持ちも疲れ果てたと思うことがある
17.われながら、仕事を上手くやり終えたと思うことがある
引用:『「燃え尽きさん」の本』(かんき出版) / 池井佑丞
「燃え尽き」「燃え切らない」「燃えない」3つのタイプがある
──「燃え尽き症候群」は、その名前から大きな仕事を達成したあとに力尽きて、抜け殻のようになってしまうイメージがあります。そのほかにも傾向があるのでしょうか?
「燃え尽き」という名前から、そのようなイメージをしてしまいますよね。もちろん、1つは今挙げてもらったような「燃え尽き」てしまうタイプがあります。力を出し尽くして、灰のようになってしまう状態ですね。
しかし、実はそれ以外にも2種類の「燃え尽き」があるのです。
1つが、燃えたいのになかなか「燃え切れない」タイプ。やる気はあるのに空回りしてしまう、環境に適応できずうまく成果を出せないなど、火を付けようとしてもくすぶってしまうような状態です。
もう1つが、そもそも「燃えない」タイプ。何のために勉強や仕事をするのかがわからなくなり、興味を持てなくなってしまうような状態です。この場合は、自分の中で「なぜやるのか」という理由や目標を見つけ、火だねを用意することが大切です。
「燃え尽き」とは、パワーが出ない状態のことを指しています。そのため、こうした「燃え切らない」そもそも「燃えない」という状態も含まれているのです。
ストレスを溜めず、「燃え尽き症候群」を回避しよう
──なりやすい人や時期などはありますか?
燃え尽き症候群の最大の要因は慢性的に、過剰な「ストレス」です。なので、幅広い世代の人が「燃え尽き症候群」になる可能性があります。学生の場合は受験や部活で大きな大会が終わったあと、社会人の場合は入社や異動のタイミング、昇進して責任が大きくなったとき、大きな仕事をやり遂げたときなどになりやすい傾向があります。また、家庭で子どもが産まれた、パートナーとケンカをしてしまったなど、プライベートでの変化もストレスになることがあります。
1つの変化ならば対処できても、いくつもの変化が重なってしまうことでストレスが蓄積され、心身のバランスが崩れやすくなります。ストレスは足し算で積み上がっていくものなので、環境の変化があったときや、負荷の大きな仕事をしているときなどは、自分自身の心身のバランスが崩れていないか、いつも以上に意識を向けるようにしてください。何か不調を感じたとしても、「そういうこともたまにはあるよな」と事実を認め、早めにケアすることが望ましいです。
──ストレスに強くなる方法はありますか?
ストレスの感じ方は人それぞれですよね。同じ出来事が起きたときに、全然気にしない人もいれば、深刻に捉えて強いストレスを感じる人もいます。これらの原因の多くは「認知の歪み」という、思い込みによって物事を正しく捉えられなくなる状態です。社会生活を送る中で偏った捉え方をしてしまうことで、ストレスや生きづらさを感じやすくなってしまうのです。
「認知の歪み」はメンタル疾患につながる要因なので、日ごろから自分の考え方を把握し、別な視点から物事を捉えるようにするなど、「認知」のクセを見つめ直すことを意識してみてください。
──池井先生は、ストレスを溜めないようにどんな工夫をしているのですか?
私は2つのことを意識しています。1つは、イライラした感情に振り回されないこと。
日常の中でちょっとイラッとすることは誰でもありますよね。でも、そのことを一日中考えていたらストレスは溜まるばかりです。だから、私はイラッとしたとき、「もし今、隣に自分が尊敬して人や信頼している人がいたら、なんて言うかな?」と考えるようにしています。「気にしたってしょうがないから、無視したらいいよ」とか、言ってくれると思うんです。そういうシーンを想像すると、「確かにそうだよな」と感情が少しおさまります。
そして、もう1つが、イライラをすぐに忘れて、あとはいつも通りに過ごすことを心がける。そのためには、オンとオフの時間をしっかり分けることです。仕事が終わっても仕事のことを考えてしまう人もいると思いますが、それだと心身をリフレッシュすることができません。
私は仕事をずるずる長引かせないために、「水曜日の7時からバスケをする」というように、強制的にオンオフを切り替えるスケジュールを入れています。「家族と一緒に夕飯を食べる」とか「●時にドラマを見る」でもいいと思います。
好きなことに関する予定を入れていれば、それに合わせてほかの予定も組み立てられます。次第に、健全なメンタルを維持しやすい生活リズムが整ってくるはずです。
心身の休息を取って、自分のペースで過ごそう
──「燃え尽き症候群かな」と思った場合は、どのように対処すればいいのでしょうか?
「いつもと違う自分」に加えて、眠れない」「いつもなら楽しいことが楽しめない」、この2つにも該当する場合は、「燃え尽き症候群」に限らず、メンタルに不調をきたしている可能性があります。
初期の状態であれば、しっかりと休養を取ることで回復します。体を休めるだけでなく、心の休養も必要です。睡眠時間を確保することに加え、何も考えない、何もしない時間をつくる、負担のない程度に好きなことをやってみるなどして、リラックスして過ごしてみてください。
しばらく休養をとっても本調子に戻らない場合は、周囲の信頼できる人や、職場の産業医などに相談してサポートを受けましょう。
もう1つ大事なことは、自分に対してプレッシャーをかけすぎないことです。特別に頑張らなければいけない時期を除いては、そもそも常に「燃えている状態でなければいけない」というわけでもありません。社会生活はとても長いので、ゆっくりできるタイミングがあれば、無理はしないという選択肢もあります。
「燃え尽き症候群を改善したい」という気持ちが強すぎると、それ自体がストレスになってしまうことがあります。自分なりの目標を立てて、マイペースに過ごすのがいいのではないでしょうか。
──家庭や職場など環境面で意識したほうがいいことはありますか?
自分と違う価値観に触れることを、ぜひ意識してみてください。以前は職場で自然と声をかけ合っていたのに、今はリモートワークが進んでコミュニケーションが取りにくくなったという人もいると思います。本来、人はいろいろな人と接することで多様な考え方に触れ、心のバランスを取っていくものです。
「最近人との接点が減っているな」と感じる場合は、意識的に人とつながりを持ちましょう。人との触れ合いを通して思わぬところで悩みが解消したり、やる気の火だねが見つかったりするかもしれません。
また、SNSを見すぎないことも大事です。情報過多、コミュニケーション過多の状態は、メンタルに負担がかかります。SNSは自分と同意見を持つ人を見つけやすいツールです。居心地のいい場所になる一方で、考え方が偏ってしまうリスクもあります。こうした特性を理解したうえで適度に距離を取り、いろいろな意見に触れるような使い方をしてみてください。
「燃え尽き症候群」は誰もが突然なる可能性があるもの。自覚がないだけで、自分の力をうまく発揮できない、なんとなくやる気が出ないという人が、実は長年「燃え尽き症候群」だったというケースもあります。しっかりと自分自身と向き合うことで、仕事のパフォーマンスを下げていた原因に気づくことができるかもしれません。
(文:村上佳代 写真:宮本七生)
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