電通を退職後、30歳でクビに。大企業キャリアを捨てた私が、ジブリ『耳をすませば』みて起業した理由。

2024年10月4日

図書館で偶然出会った二人が、本を通じて恋に落ちていく。

ジブリ映画『耳をすませば』をヒントに、オンライン書店及び同じ本を選んだ人をマッチングするサービス「Chapters」を立ち上げた、株式会社MISSION ROMANTIC代表の森本萌乃さん(以下、森本さん)。

これまでになかった斬新な事業として注目を集める一方、森本さんの「経歴」も話題となっています。実は森本さん、新卒で大手広告代理店・電通に入社し、約4年間プランナーとして活躍していました。その後スタートアップを2社経験した後、Chaptersの書店主となります。

やりたいことがあっても、「自信がない」「これまで積み上げたキャリアを捨てるのが怖い」といった理由で躊躇する人も多い中、なぜ彼女は高収入・安定した大企業のキャリアを手放して、未知の環境にチャレンジできたのでしょうか。

電通を退職するも、コロナ禍でクビに。葛藤を抱えながら駆け抜けた20代

──安定・高収入の電通を退職し、書店主となった森本さん。まずは、これまでの経歴を教えていただけますか。

私が大学生のころは、まだ終身雇用が当たり前の時代でした。特にやりたいこともなかったので、「一生働くなら、いろんなことに挑戦できる会社にしよう」と思い、広告代理店や総合商社といった無形商材を扱う企業を中心に就職活動をしていました。そこで縁があったのが、電通です。

──起業を見据えて電通に入社したわけではなかったのですね。

そうなんです。ただ、電通での仕事は楽しかった一方で、やればやるほど「お客さまの顔が見えるような仕事がしたい」という気持ちが抑えられなくなっちゃって。

電通のクライアントである、飲料やコスメなど、形あるものをお客さまに届ける会社とご一緒するたびに、「羨ましい」「私もそっちの仕事がしたい」と思うようになりました。そこで、約4年間はたらいた電通を思い切って辞め、コスメのサブスクリプションサービスを提供する会社に転職しました。

念願のtoC向けサービスではたらくのは、とっても楽しかった!でも、少人数精鋭のなかでプレッシャーを感じながらはたらいていたこともあり、体調を崩してしまったんです。少し休んだあと、オーダースーツの会社に転職。そこもすごく楽しかったのですが、なんとコロナをきっかけにクビになってしまって……。

オンラインで“書店主”の仕事を始めたのは、このときからです。もともと遊び半分の気持ちで選書サービスを副業として細々とやっていて。でも、クビ宣告を受けて窮地に立ったときに、行きたい会社が見つからなかった。

ならば、「これをやるしかない」と思い、自分の事業に一本化しました。 当時、これで食べて行こうなんて考えてもいない起業だったので「本当にできるのかな!?」という不安は大きかったですが、なんせ仕事がなくなっちゃったのでやるしかなかった(笑)。

ピンチかチャンスか。これって本当に物事の捉え方一つで決まるし、準備万端のときにチャンスってやってこないのかもしれません。だからこそ、もうやるって決める!この選択が今考えると正解でした。

──「電通を辞めて好きなことで起業」というと、キラキラした姿を思い浮かべてしまいますが、その裏にはたくさんの障壁があったのですね。

私、人生を振り返ると大事なことって“ノリとテンション”で決めちゃうんですよ。電通ではたらき始めた理由も「なんか楽しそうだから」だし、辞めた理由も「なんか違うから」ですからね。

「ノリとテンションで大切なことを決めるなんてけしからん。無計画だから躓くんだ!」と思う人もいるかもしれません。でも、私はこの“直感”こそが大切だと思っていて。

恋だってそうじゃないですか。「あんなやつ、全然タイプじゃないし!」って思っていても、目で追っちゃう。それは心が動いているから。 理由がなくても動いちゃう気持ちこそが直感だし、決断を下さなくてはならないとき、この単純な直感を信じてみてもいいと思うんです。

VC40社に断られても前向きでいられたのはなぜ?

──先程、ノリとテンションで電通の退職を決めたとお話されていましたが、安定した大手企業を辞める葛藤はなかったのでしょうか。

もちろんありましたよ。周りの人にも相談しました。「本当に辞めて大丈夫かな」って。それは私自身が多分、「大丈夫」って言ってほしかったから。前に進む勇気が欲しかったから。

でも、現実には誰も「大丈夫」なんて言ってくれないんですよ。私を含めて、みんな自分のことで精一杯だから、人の背中を押している余裕なんてない。「あぁ、自分のことは自分で決めなきゃいけないんだ」って、身に沁みて感じましたね。

──自分のことは自分で決める。当たり前のことかもしれませんが、自信がなくて決断できない、という人も多そうです。

分かります。転職活動や起業って、これまでやってきたことを評価されますもんね。選ばれなかったとき、自分自身を否定されているようで辛い。

実は私がChaptersを立ち上げたとき、40社のVC(ベンチャー企業やスタートアップ企業に出資を行う投資会社)から断られているんです。ショックでしたが、「私は私が欲しいサービスをつくっているんだ!よく分からない人たちに評価される筋合いはない!」と思って乗り切っていました。毎日目をパンパンに腫らしながらね(笑)。

40社のVCに断られた話は、森本さん初の小説「あすは起業日!」(小学館)に詳しく描かれています。

──すごく前向きですね。

うーん、それは「前向きに変わろう」と決めたからだと思います。私、ディズニープリンセスが大好きで、人生のロールモデルにしているんです。彼女たちのように、「どんなときも明るくて前向きな私になろう」と決めた日から、少しずつ努力していったというか。

プリンセスってみんな、「機嫌がいい」「友達が少ない」の2点が共通しているんですよ。

──「機嫌がいい」のは分かりますが、「友達が少ない」というのは?

友達が少ないのに機嫌がいいってことは、自分で自分のご機嫌をとれているってことなんですよ。たとえば、シンデレラのお家なんてかなりやばいじゃないですか。着るものも、寝る場所もまともに与えられていない。助けてくれる家族も友人もいない。なのに、ねずみさんにチーズを分けてあげられるシンデレラって、すごくないですか?

──たしかに。あの前向きさはどこからくるのでしょうか。

シンデレラは、「亡くなった大好きなお父さんと暮らしていた家に、今も住めている」っていうだけで、幸せを感じているんです。毎朝起きたら「今日も継母からいじめられる日々が始まる」と嘆くんじゃなくて、「今日も私、お父さんのおうちに住めている!」と喜ぶ。ほかのプリンセスたちも同じで、どんなに辛い状況でも、毎朝日々の感謝からスタートするんです。

私がChaptersを始めたときも、精神的にも肉体的にもしんどい毎日を送っていました。でもあるとき、「私がChaptersやりたかったからやっているんだよね。夢叶っているよね」と気付いて。

それからはどんなに辛い状況でも、朝起きたときはまず「私、自分の好きなサービスつくっている!夢叶えていてすごい!」と唱えるようになりました。

ダイエットと同じで、体が少しずつ変化していくように、心の変化も少しずつです。毎朝自分自身に声をかけてあげて、気付いたら、「意識しなくても前向きで明るい私」になっていましたね。

“やりたいことをやる”タイミングの見極め方

──森本さんのようにやりたいことができたとき、どうしたら一歩踏み出せるようになるんでしょうか?

今は昔に比べて、転職も副業も起業もやりやすくなったので、やりたいことがあるならぜひチャレンジしてみてほしい!

それでも躊躇する理由があるなら、そもそも今の生活に満足している可能性もありますよ。たとえば、「家族がいるから簡単に仕事を変えられない」と思うのなら、すでに大切な家族と一緒に暮らせていて、一つゴールが叶っているということ。いわゆる “シーズン2”の状態なんです。

──シーズン2?

たとえば、ディズニープリンセスのシーズン1では、「王子様と結婚する夢を叶えたい」などの夢を叶えるために、プリンセスはものすごい努力をしますよね。足を手に入れるために声を捨てるとか、とんでもないですよね(笑)。一方で、シーズン2は、死ぬ物狂いで努力して、夢を叶えたあとの世界です。だから、ものすごくつまんないんです。

──つまらない?

大きな夢が叶っているからこそ、悩みがちっぽけなんですよ。「着ていくドレス、どうしよう?」とか。あんなに苦しい思いをして手に入れた幸せなのに、シーズン2は別にキラキラしていないんですよね。

これは私たちの人生もまったく同じこと。今モヤモヤしている人は、見方によっては人生のシーズン2なんですよ。大好きな人と結婚できたとか、安定した仕事に就けたとか、週末に旅行するお金を稼げているとか、夢が叶ったあとの人生だから、なんとなく刺激が物足りないだけなのかもしれません。

──なるほど。満たされているがゆえのモヤモヤである可能性があるんですね。

そうですね。モヤモヤしている人は、まず自分の持っているものを数えてみてください。それが大事で手放せないものだから、やりたいことができないと思っているのなら、今は人生のシーズン2なんですよ。未知のものにチャレンジするのではなく、今あるものを大切にするのも素敵な選択なんじゃないかな。

逆に、「いや、私はまだシーズン1だ!」と思うなら、今が行動するときなのだと思います。私にとってはChaptersがシーズン1だったから、それはもうがむしゃらに動きましたね(笑)。

人生は一度きり。でも、小説ならいろんな人生を経験できる

──最後に、森本さんのシーズン1のゴールだった、Chaptersについて教えてください。

Chaptersは、2024年6月で4年目を迎えました。私を含めたChaptersのスタッフや、書店員が選んだ本を毎月3冊紹介し、ユーザーはその中から気になる1冊を選ぶ。そして、同じ本を選んだ異性とマッチングするオンラインサービスです。

今年の4月には、リアル店舗「チャイと選書 Chapters bookstore」もオープン。お客さまの話を直接伺いながらおすすめの小説を紹介したり、オフラインのマッチングイベントを行ったりもしています。

今年4月にオープンしたばかりの、チャイティーを片手に読書ができるChaptersのリアル店舗「チャイと選書 Chapters bookstore」

人の人生は一回きりですが、小説の中ならいろんな人の人生を疑似体験できます。でも、コスパ・タイパを重視する今、若い人たちの小説離れはどんどん進んでいる。Chaptersでは、そんな「小説なんて読まないよ」という人にこそ利用してほしいですね。

もし、私のインタビューを読んで「この人の考え方や生き方、何かいいな」と思ってくれたのなら、それは私がこれまでたくさんの小説を読んできたから。自分の人生だけでなく、数え切れないほどたくさんの人生を追わせてもらっているからだと思います。
Chaptersで取り扱っている本は、どれも誰かの人生を変えた一冊です。現状になんとなくモヤモヤしている人、変わりたい人は、騙されたと思ってChaptersおすすめの小説を手にとってみてください!

(文:仲奈々 編集・写真:いしかわゆき)

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ライター仲奈々
フリーランスのライター。エンタメ、キャリア、ビジネス、食、インテリア、ホラーなど多ジャンルでインタビュー記事を中心に執筆中。

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