「パズル作家」ってどんな仕事? ひらめき問題やクロスワードの作り方を聞いてみた
クイズ番組や雑誌の1ページなど、日常のさまざまな場所で目にするクロスワードパズルやナンバープレース(9×9の正方形の枠内に1〜9までの数字を入れるパズル。数独とも呼ばれる)、ひらめき問題などなど。世代を越え多くの人が熱中する「パズル」「クイズ」の問題は、どのように生まれているのでしょうか。
テレビ番組や雑誌、謎解きイベントやパズル大会などに向け、数々のパズルを制作してきたベテランパズル作家の田守伸也さんに「面白い問題」のつくり方と、仕事の魅力についてお話を伺いました。
「クロスワード」や「ナンプレ」、謎解きの問題ができるまで
──パズル作家の方がどのようにお仕事をしているのか、なかなかイメージが湧かない人も多いと思います。クライアントから問題制作の依頼を受けたとき、まず始めにどんなことをするんでしょうか。
雑誌やテレビ番組などからご依頼をいただいたときは、どういった問題をお求めなのか、それを解く対象はどんな方なのかを、最初に詳しくヒアリングします。子どもが漢字を勉強するためのクロスワードであれば小学校で習う漢字の知識だけで解けるようにしたり、ご年配の方を対象とした謎解きであれば、分かりやすい表現を使うことを心がけたり……と、解き手やクイズの内容によって、作り方が変わってきます。
──実際にパズル制作に着手するときは、どのようにアイデアを形にしていくのでしょうか?
パズルは基本的に、メモ書き用の紙とペンを使って考えていきます。クロスワードやナンバープレースのような紙面上で解くパズルの場合「特定のキーワードにちなんだパズルを作る」などテーマがあるときはテーマに沿って、フリーテーマのときはある程度自分の好きなように、言葉や数字を組み立てていきます。
ひらめき系の問題の場合は、「こういうことができたらおもしろそうだな」というアバウトな思いつきから形にしていくことが多いですね。たとえば、人と会って喋ったり、本を読んだりYouTubeを見たりしているときにも、何かアイデアの種はないかと探しています。
──日常生活の中でもパズルのことを考えられているんですか?
何か特徴的な言葉があると、その言葉に似た言葉や韻を踏める単語を考えてみるというのは習慣になっているかもしれません。たとえば、「物の見事(もののみごと)」という言葉は「小野妹子(おののいもこ)」と韻が踏めますよね。そういう言葉を見つけたらアイデアのストックに入れておく、ということはよくします。
この仕事を始めたばかりのころは、ビルの四角い窓を見るだけで、頭の中でそこに言葉や数字を入れたりしていました(笑)。最近はしなくなりましたが……。
──実際に机の上で作業をする時間はどれくらいになりますか?
クロスワードやナンバープレースであれば、だいたい1時間か2時間ぐらいで作れることが多いです。よほど巨大なパズルでない限り、最大でも1日あれば形にできます。
謎解き問題などのひらめきが必要な問題も、早ければ30分で完成することもあります。その一方で、なかなかアイデアが形にならず、何時間もかかることはあります。だから「このくらいで作れます」と具体的には言えないですね。
──良い問題が全然思い浮かばない、というときもあるのでしょうか?
やっぱりありますね。そういったときは散歩をしたり、近所のカフェで作業したりすることもあります。また、なるべく多くの情報を得ようと本を読んだり映画を観たりもしています。
私は基本的に一つのアイデアの種があったら、それがうまくいくかをまずは試してみます。そして、「これはちょっとおもしろくないな」とか少しでも納得いかないことがあったら、すぐにそのアイデアは捨てるようにしています。だめだったらすぐに捨てて別のアイデアを検討してみるほうが、結果的に良い問題ができる気がするので。一つのアイデアに固執しないよう意識しています。
──問題が完成したら、納品する前に、実際に周りの人に解いてもらったりするんですか?
他の同業者の方がどのようにされているのかは聞いたことないですけど、私はしていないですね。小学生のころからパズルを解いていることもあって、「この難易度の問題であれば、これくらいで解いていただけそうだ」というデータが自分の中に蓄積されてはいます。
基本的に納品後に解きチェック(作者以外がパズル問題を解くこと)が入ることが多い仕事なんですけど、事前に「納品後の解きチェックが入らない」と分かっている依頼に関しては、時間をある程度おいて自ら解き直すということを数回行っています。
小学生のころから独学でパズルを作り続けてきた
──パズルを初めて作ってみたのはいつだったんですか?
小学4年生のころからパズル雑誌を購読していたんですが、その雑誌に載っていた「パズルの作り方」というのを参考にして自分で作ってみたのが最初だったと思います。
……でもいま思うと、その「作り方」は鵜呑みにしちゃいけなかったというか、1問作るだけで途方もない時間がかかるようなやり方だったんですよ。最初のころは当然、そんなことが分かるわけもありません。「なかなかできないな」と毎回悩みながら試していました。トライアンドエラーを重ねるうちに、自分の作り方が確立してきたように思います。
パズルの作り方って、いまはYouTubeなどでも公開している人がたくさんいますが、当時は情報を得られる場所がほとんどなかったんです。だから、のちに大学に進学してパズル好きの仲間ができるまでは、自力で考えてみるしかありませんでしたね。
──では、田守さんが「パズル作家」をお仕事にしようと思ったのはいつごろだったのですか?
高校1年生のときに、自分で作ったナンバープレースというパズルが雑誌に掲載されて、掲載料をいただいたことがあるんです。自分の作ったパズルが雑誌に載って、誰かに解いてもらえる楽しさを知ったので、いま振り返ってみると、そのときが原点じゃないかと思います。
それからも投稿を続けているうちに、編集部の方から「こういう問題を作ってほしい」という依頼がくるようになって「パズルを作ることを仕事にしたい」という気持ちが徐々に芽生えていきました。
2004年に、自分が投稿した問題が『IQサプリ』というテレビ番組に採用されて全国ネットで放送されたことも、経験としては大きかったですね。そこから、テレビ番組用の問題制作のお話もいただけるようになったので。
──パズル作家の方は、一般的にはどのようにキャリアを積んでいくことが多いのでしょうか?田守さんのように、パズル雑誌やテレビ番組からの依頼に地道に応えていく、という形でしょうか。
そうですね。パズル作家の一般的なスタイルとしては、パズル雑誌への投稿を続けてその出版社に認められたら出版社専属のパズル作家になる、というケースが多いです。時間はかかりますけど、安定して仕事をいただけます。
1つの出版社で仕事をしていると、ほかの出版社からお声がかかることもあるので、コツコツ地道に仕事をしていく形ですね。
いちばん苦戦したパズルは、意外にも……
──田守さんがこれまでに作られたパズルの中で、特に印象に残っているパズルはありますか?
ありすぎて思い出せないほどですが、『IQサプリ』の中で「合体漢字」と呼ばれていた、複数の文字を組み合わせて別の熟語を作るパズルには印象深いものが多いです。組み合わせる前の文字の時点ですでに四字熟語になっていたりと、それが単なる文字の羅列じゃなく、意味のある並びになっているときは「おもしろい問題」と反響をいただけたりします。
先日も、Twitterで昔作った問題についてつぶやいたら、「その問題をきっかけにパズルが好きになりました」というリプライをいただいたんです。番組が終了してから20年近く経ちますが、いまだにそういうお声をいただけるような問題を作れたことは本当にうれしいですし、完成度の高い問題ができたときは、作り手としても「よっしゃ、できたぞ!」という達成感があります。
──これまででいちばん苦戦したのはどんなパズルでしたか?
作ることに関しては、さきほどお話ししたように、そこまで膨大な時間はかからないんです。マス目の多い大きなパズルを作るときはもちろん大変ですが、最長でもかかった時間は1日ほどだったと思います。
パズル制作以外の仕事も含めると、「30年ほど前の暗号クイズを解いてほしい」というご依頼をいただいたことがありました。「答えが公開されておらず、どうしても知りたいので考えてもらえませんか」というお話でした。
──暗号を解いてほしいとは……!おもしろい依頼ですね。
探偵みたいな仕事ですよね(笑)。そのときの暗号というのが、手描きの地図と暗号文があって、「これは日本のどこでしょう?」というような問題だったんです。
それが現代の地図なのか30年前の地図なのかで答えが変わる可能性も十分に考えられるので、30年前の地図も引っ張り出してきて、北海道から沖縄まで隈なく見ていく、という解き方をしました。結局、場所を特定できるまでに丸3日ぐらいかかり苦労しました。
ただ、それまでに経験したことのないご依頼だったので、解くのはおもしろかったです。
──作り手である以前に、やはりパズルを解くことがとてもお好きなんですね。
そうですね。パズルが好きなので日々いろんなパズルを解いていますし、それを続けていると、初めてご依頼をいただく形式のパズルであっても、一度解いただけで作り方が感覚的に分かることが多くなってきます。
──一度解いただけで、というのはすごいですね……!最後に、パズルを作る上で田守さんが心がけられていることや、これは絶対に守ると決めていることがあれば教えてください。
やっぱり、解き手の気持ちを忘れないようにすることですね。小学生向けのパズルであれば、実際に小学生の気持ちになって考えてみたり調べたりします。そうすると、「この知識は学校で習うことは習うけれど、難しすぎてあまり記憶に残っていないだろうな」という言葉はパズルの中に入れないという判断を自然とすることになります。
アイデアをひらめくと「これはおもしろいぞ」とつい思ってしまいがちですが、あくまで作り手ではなく解き手の立場に立ち、俯瞰してみる、というのは心がけています。
老若男女、全年齢対象のクロスワードパズルであっても、たとえば病名や戦争にまつわる言葉などや、そのときどきの情勢で目にしたときに良いイメージが湧かない言葉は使わないようにしています。「せっかく楽しもうと問題に取り組んでいるのだから、気持ちよく解いていただきたい」という思いで日々パズルを作っています。
(文:生湯葉シホ)
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