「週5日8時間は無理」”虚弱体質”の私が、ハローワークを門前払いされ28歳で就職を諦めた日

2026年1月23日

体力がなさすぎて、「週5日8時間労働」は無理。ハローワークで「最低限フルタイムで働ける体力と生活リズムを身につけてから来てください」と言われたとき、自分は社会に必要とされていないんだと思いました——。

今回お話を聞いたのは、書籍『虚弱に生きる』(扶桑社)の著者である、絶対に終電を逃さない女さん(以下、終電さん)。虚弱体質のため一般的な労働環境ではたらくことができず、試行錯誤の末に現在はフリーランスの文筆家として活動しています。

そんな彼女が2024年11月に、『現代ビジネス』(講談社)で自身の虚弱体質について書いた“虚弱エッセイ”がSNSで大きな話題に。書籍の出版後も「自分も同じように悩んでいた」「救われた」という声が数多く寄せられています。

なぜ今、「虚弱」がこれほど注目を集めるのか。そして終電さん自身はどのように体質と向き合いながらはたらいているのか。虚弱にはたらくリアルを聞きました。

体力がなさすぎて「週5日8時間労働」は無理。ハローワークで門前払いされた日

──まず、「虚弱体質」とは具体的にどういう状態なのか教えていただけますか。

「これが虚弱」といった明確な基準はありませんが、私の場合、21歳でガクッと体力が落ちてしまい、それが本格的な虚弱体質の始まりだったと言えるかもしれません。

大学3年生のころから、入眠困難と過眠が併発し、眠れたとしても全身の筋肉が凝りすぎて、背中の痛みとともに起床する日々。しかもほぼ毎日、毎食後に腹痛があって、下痢を繰り返し、痔になったことも。。

人並みの体力がなく、授業やちょっとした外出でも疲れ切ってしまってすぐに動けなくなっていました。身体だけでなく、メンタルの不調も頻繁にありましたね。

──日常生活に支障をきたすほどの不調と、日々隣り合わせだったのですね。

そんな状態でも大学はなんとか卒業したのですが、問題は「就職」でした。この身体ではいわゆる「週5日8時間労働は難しい」と薄々感じてはいたものの、周囲が当たり前のように就職するので、自分も就職しなきゃと思っていたんです。

しかし現実は、新卒就活サイトからのメール通知を見るだけで動悸がするありさま。1社だけ説明会の予約をしたのですが、そもそも会場までたどり着けず断念しました。

26歳から健康に気を使うようになって多少は回復しましたが、それでもフルタイムではたらく状態にはほど遠くて。健康のためにやれることはすべてやったと思った28歳くらいの時点で、「これでも就職できないなら、もう無理だろう」とあきらめました。

──就職をあきらめるまでに、挑戦されてきた仕事はありましたか?

学生時代は、近所のバーのスタッフや工場のライン作業、覆面調査員など自分なりにできそうなアルバイトに挑戦してきました。でも、私の仕事の遅さや体調不良、笑顔でハキハキ喋ることができないなどが原因で、いつの間にかクビになってしまって。

今振り返れば、虚弱体質にASD(自閉スペクトラム症)、場面緘黙症の気質なども組み合わさって、はたらくことへのハードルをさらに上げていたのだと思います。

好きなことを仕事にしたかったわけじゃない。消去法で残った「文筆家」の道

──そんな終電さんですが、現在は文筆家として単著を出版するなど活躍されていますよね。なぜ今の仕事をするようになったのでしょうか。

大学2年生の春に、サークルの先輩の紹介でIT企業にて、スマホアプリレビューなどのWebライターのアルバイトを始めたんです。ほかのバイトと同様、仕事自体は早くなかったのですが、文章を書くこと自体は幼いころから好きだったので、2年ほど続けられたんです。私が今まで唯一長く続けられたバイトでした。

──そのころは専業の文筆家で食べていくことを目指していたんですか?

そこまでは考えていませんでしたね。そもそも安定のために普通に会社員をしたかったですし、いわゆる「バリキャリ」と呼ばれるような、はたらいて自立している女性にあこがれていました。職業にこだわりはなかったです。

でも、当時なんとなく思いつきでX(旧、Twitter)のユーザー名を「絶対に終電を逃さない女」に変更し、公開できる執筆実績がなかったのにもかかわらず、カッコつけて「ライター」を名乗るように。

その後、精神を病んでいた時期を乗り越えるためにnoteでエッセイの投稿をはじめてから、同人誌や商業メディアからエッセイや取材記事などの執筆依頼をいただけるようになったんです。

そこから現在に至るまで、ありがたいことに仕事依頼が途切れたことはありません。仕事がエッセイ中心になったので、2022年より肩書きを「文筆家」に改めました。

──終電さんの中では、文筆家を目指していたというより、結果的に文筆家になったという感じなのですね。

まさに当時は文才があるからではなく、それ以外のことをできる体力も才能もなかったから、消去法で文筆家が残ったというのが正しかったですね。

実際、この仕事を「やめようかな」と思ったことは何度もありました。仕事の依頼は少しずつ増えているとはいえ、まだまだ数は少なくて、8〜9割を引き受けても、体力のある人なら兼業でもこなせるであろう仕事量。

知名度、収入、地位、影響力、どの観点から見ても一般的には専業に踏み切るほどのレベルには達していない。人並みに安定志向だし、専業にこだわる理由もなかったんです。

──それでも、文章の仕事を続けてこられたのはどうしてですか?

他にやることがなかったからです。あと、友人からもらった言葉が支えになりました。私が書く仕事をやめようかと話したとき、「大した熱意がなくても、よっぽどの苦痛とかリスクがない限り、求めてもらえる仕事があるなら、それは自分の使命だと思ってやったほうがいい」と言われたんです。

その言葉を聞いたとき、自分が選んだキャリアじゃなくて、結果としてそうなった仕事だったとしても、求めてくれる人がいるならそれに応えたいと、使命感を覚えるようになって。

専業作家になりたいわけじゃないけれど、求められるうちは書く。そう思えるようになってから、はたらくことへの迷いがなくなりました。

──ご友人の言葉が終電さんの仕事に向き合う気持ちを大きく変えたんですね。

そもそもこれまで書くことしかしてこなかったし、書くことでしか自己実現をしてこなかったので、今は「書かなければ生きてはいけない生き物」になってしまっている感覚ですね。

仕事は1日4時間が限界。徹底してきた健康習慣とはたらき方の工夫

──虚弱体質ではたらき方に制限がある終電さんは、文筆家として活動されている現在どのようにはたらいているのでしょうか?

フリーランスの文筆家なので、基本的に自宅で仕事をしています。1日の仕事時間は、長くても4時間以内。健康を保つためには、これが限界なんです。

締め切りが迫っていれば8時間くらいはたらくこともありますが、そのぶん体調を崩すリスクも上がります。今のところ仕事に大きな穴をあけたことはありませんが、過密スケジュールで無理をした後は、必ずと言っていいほど体調を崩しますね。

──実際の1日のスケジュールはどのような感じですか?

少しでも健康を保つためのルーティンを徹底した生活を送っています。ここ数カ月は朝6時くらいに起きて、栄養バランスを考えた朝食を食べ、ラジオ体操をやって、ジョギングを済ませ、昼食を食べるというのが午前中の流れです。

ほかにも筋トレの習慣もあり、家事や買い物をしていたらあっという間に1日が経っていますね。そのルーティンの合間に仕事をこなすという日々を送っています。

──徹底した健康習慣をつくっているんですね。

26歳のときから本格的に健康に気を使いはじめました。健康的な生活をしていないと、「健康的な生活をしていないから不健康なんじゃないか」という疑念が抜けないんです。でも、ある程度健康的な生活をしても不健康なんだっていうことを知ると、虚弱にもあきらめがつくんですよ。

仕事環境においても、少しでも身体に負担をかけないよう工夫してきました。

また眼精疲労が溜まると原稿執筆の効率がさらに落ちるので、パソコンの画面は目線の高さにセットしてブルーライトはオフにしています。腰と首になるべく負担をかけないよう、よほどのことがない限りは喫茶店やファミレスなどで作業することはありません。

──それだけ徹底していても、フルタイムではたらける体力には届かないと。

そうですね。本を出版していたり、有名な媒体で書いていたりという情報だけ見ると「儲かっている」と思われることも多々ありましたが、実際には体力がないからはたらく時間が普通の人の半分以下で、そのぶん収入も低いのが現実です。

『虚弱に生きる』には具体的な年収を書きましたが、月収の間違いだと思われかねないレベル。しかも健康維持にもお金がかかります。

今はフリーランスなので仕事時間は自由ですが、仕事量も収入も不安定なので、決して「虚弱にはフリーランスが向いている」という状況ではないです。

文筆家を続けたから、虚弱が「革命」になった

──虚弱体質に苦労されてきた終電さんですが、今回『虚弱に生きる』を出版されて、同じような悩みを持つ読者からSNSを中心にたくさんの共感が集まっていますよね。なぜ、今「虚弱」がこんなにも注目されているのでしょうか?

社会が人々に要求する体力のレベルが高すぎるからだと思います。一人暮らしをしながらフルタイムではたらいて、家事までこなすことが「最低限の自立」になってしまっているわけですよね。

共働きが一般化している中で、家庭を持っている人の場合でも、はたらきながら子育てをして、さらに家事もこなすとなると、平均的な体力があったとしてもしんどいですよね。

体力があるかどうかって、置かれた環境によって相対的に判断されるものじゃないですか。社会が求めている体力のレベルに対して、自分の体力が足りていないと感じる人が多いから共感してもらえたんじゃないかと。

──実際に虚弱エッセイが話題になってどう感じましたか?

革命でしたね。これまで虚弱体質は人生にとってマイナスでしかなかったので、プラスにはたらくのは正直、思ってもみないことでした。

自分の欠点だと思っていたことが人の役に立ったり、同じように困っている人の支えになったりしている様子を目にすると、「この体質で良かったのかも?」と感じることも。まあ、虚弱でなかったらもっといろんなことができたはずなのですが……(笑)。

──最初は消去法として始めた仕事でも、続けてきたことで終電さんの中で「革命」が起きたんですね。

そもそもこの仕事をしていなければ、虚弱が人の役に立つなんて起こり得なかったことでした。これまでもいろいろなエッセイを書いてきましたが、今回の虚弱エッセイはダイレクトに「読んで救われた」と言ってもらえる機会が多くて。

アルバイトもままならず、就職もできなかった私にとって、今の状況はやっと「社会に参加できている」と思える。それがうれしいんです。

それに書籍が話題になったことで、私が昔から憧れてきたクリエイターや作家の方とのイベントや対談がかなって、本当に「なんとか続けてきてよかったな」と。

体力のなさで劣等感を抱いてほしくない。自分の身体と相談しながら、できることを続けていく

──今後、虚弱体質と向き合いながら、どんなふうにはたらいていこうと考えていますか?

今後も依頼がある以上は、文筆業は続けていくつもりです。文章以外で今考えているのは虚弱をテーマにした動画をつくること。これまで健康を目指して、さまざまな努力をしてきましたし、失敗もしてきました。その様子や虚弱体質の日常をまとめた「虚弱Vlog」などができたらいいなと。

健康は、ほぼすべての人にとって当事者意識のある問題だと思うんです。健康に関係がない人はいないし、年を取れば大体みんな不健康になっていく。長く需要があるテーマだということにも気付きました。

──最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?

私のように、はたらく上で体力のなさや虚弱に悩んでいても、劣等感を抱いてほしくないと思っています。人と同じようにはたらけなくても、それは自分が劣っているわけじゃない。社会の仕組みが合わないだけ。

その仕組みはすぐには変わりませんが、だからといって社会が求める体力やパフォーマンスの要求水準に、努力して合わせなければならないのは理不尽だと感じるんです。

私自身、健康になるためにできる限りの努力をしてきましたが、それを全員がやるべきだとは思いませんし、本来努力をするかしないかは個人の自由のはず。

今回の書籍を書く上でも気をつけたのが、体力の有無がそのまま優劣につながるような書き方をしないということです。虚弱でも自己否定しないでほしいと思いながら書きました。

たとえうまくできないことがあったとしても、固定観念にとらわれず、自分の体と相談しながら、できることを続けていく。それでいいんじゃないかと思います。

(「スタジオパーソル」編集部/文:目次ほたる 編集:いしかわゆき、おのまり 写真:目次ほたる)

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ライター / 編集目次ほたる
2000年生まれ。家事代行業、ベンチャー企業での経理事務を経て、独立。現在は取材記事やエッセイを中心に執筆。おもしろい働き方に興味があり、自身もフリーランスとして新たな働き方を模索中。

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