人が亡くなった現場を清掃する「特殊清掃員」とは。腐敗臭や漏れた体液など壮絶な現場とやりがい。

2025年3月3日

誰にも看取られず、たった一人で死を迎えてしまう孤独死や、自死、事件、事故。そんな凄惨な現場を清掃・消毒し、元の状態に復元する「特殊清掃員」という仕事があることを、皆さんはご存知でしょうか?

今回は、特殊清掃員としてはたらく、ブルークリーン株式会社 鈴木亮太さんにインタビューを実施しました。彼は「すーさん」という愛称で、特殊清掃の実態や自分たちの仕事への向き合い方を伝えるYouTubeチャンネル『特殊清掃ch』で動画活動も行っています。

生半可な気持ちでは務まらない特殊清掃の仕事の、何にやりがいを感じて、日々どんな想いで過酷な現場と向き合っているのか。ありのままの姿に迫ります。

腐敗臭や漏れ出した体液……凄惨な現場で、人の心を救う「特殊清掃員」とは

──はじめに、「特殊清掃員」とはどういった職業なのか教えてください。

個人の掃除では落としきれない汚れやにおいがついた部屋を、特殊な薬剤や技術を用いて清掃・消毒するのが、特殊清掃員の仕事です。

現場として多いのは、孤独死や自死、事件、事故によって血液が漏出している「トラウマシーン」と呼ばれるお部屋や、足の踏み場のないゴミ屋敷、ペットの多頭飼いなどにより糞尿まみれになってしまったお部屋などです。感染症の危険性がある環境の清掃・除菌や、火災・災害現場の衛生面・機能面の復旧などで招集を受けることもあります。

ブルークリーン株式会社では、こうしたトラウマシーンや感染症、火災、水害などによる室内の汚染を、正しい知識と科学的根拠に基づいて軽減、回復させることに努めています。

──孤独死や自死……。かなりショッキングな現場を担当されることも多いのですね。

そうですね。トラウマシーンでの清掃は、目が開けられないような刺激臭や血痕、漏れ出した体液やウジ虫の発生など、凄惨な現場がほとんどです。

実際のトラウマシーンの現場写真

──依頼者には、どのような方が多いのでしょうか?

事業を始めたばかりのころは個人の方が多かったのですが、最近は自治体や法人からのご依頼も増えてきました。具体的には、東京の離島で孤独死が発生したご自宅を清掃するなどの総務省からのご依頼や、単身暮らしで片付けができなくなり、ゴミ屋敷化してしまった高齢者のご自宅を日常生活ができるような状態に清掃するなどの、介護サービス会社からのご依頼ですね。

依頼主の多くは、精神が疲弊しきった状態で私たちに連絡をくださいます。人が亡くなった部屋の清掃を依頼してくださるのも、大半は故人様のお身内の方です。肉親を亡くされたご家族にとって、単に部屋をきれいにするだけではなく、心のケアまでできるような言動をスタッフ一同心がけています。

──貴社のビジョンである「心をきれいに、地球をきれいに。」にも、その精神が表れていますね。

そうですね。私たちは単に特殊清掃や原状回復サービスを提供するのではなく、その先に日本社会をもっとより良いものにしたいという想いで日々はたらいています。

そもそも弊社が特殊清掃の事業を始めたのは、困窮されている人を助け、社会に貢献したいという想いからでした。本来であれば、孤独死をはじめとするトラウマシーンなどは絶対に起きないほうが良い。私たちが願うのは、独身世帯やセルフネグレクトの増加に伴う孤独死などの悲しい現実をゼロにすること。最終的にはこの特殊清掃の仕事がゼロになれば良いと思っています。

──仕事をゼロに……?でも、特殊清掃の仕事がなくなってしまうと会社として立ち行かなくなるのでは?

特殊清掃員として今向き合っている現実は、社会課題のほんの一部に過ぎません。この仕事が必要なくなったとしても、私たちはまた人を助けるための事業に従事していきます。たとえば孤独死を抑制するためのシステムが必要だとなれば、もしかしたらシステム開発の会社になっているかもしれない。この特殊清掃の事業は社会課題を解決するために必要なひとつのアプローチに過ぎないんです。

とはいえ、孤独死などは年々増加しているのが現状なので、まずは今、起きてしまったことに対して、スピーディーに質を担保して対応するのが、私たちの任務だと考えています。特殊清掃が主軸事業の弊社ですが、並行して講演やSNSでの発信を行い、日本の孤独死の現状や特殊清掃の実態を伝えるための啓蒙活動も続けています。部屋や物件をきれいにすることで環境を守るだけでなく、人の心を守り、ひいては社会・地球規模の問題解決につなげていきたいと思っています。

肉体的な負担は日常茶飯事。それでも自分たちが誇れる仕事をしたかった

──鈴木さんは、どのような経緯で特殊清掃員になられたのでしょうか?

弊社代表の藤田から声をかけられたことがきっかけです。藤田とは高校時代の同級生で、特殊清掃の事業を始める前にも一緒に沖縄でアイスクリーム屋を2年ほどやっていたんですよ。あまり深く考えずに始めたものだから、全然うまくいかなくて。今思えば、当然の結果なんですけれど……。

でも、この失敗経験から、「次にやる事業は、絶対に自分たちが誇れる仕事をしよう」と心が決まりました。そうして新たな事業を探しているうちに、特殊清掃という仕事に出会った。「これだ!」と確信して、藤田とともにこの世界に飛び込んで、あっという間に7年の月日が経とうとしています。

──そんな過去があったのですね。トラウマシーンなどの凄惨な現場に出会うかもしれない特殊清掃の仕事に飛び込むのは、怖くはなかったのですか?

簡単な仕事ではないことは重々承知の上ではありましたが、恐怖よりは「この仕事は必ず誰かの役に立つ。社会貢献につなげたい」という気持ちのほうが強かったですね。今自分たちが面している課題に対して、何をすべきなのかに集中できたというか。

研修の一環で訪れた初めての清掃現場も、精神的に滅入るとか、嘔吐してしまうなどもなく。「こんな状態の部屋をどうやって清掃して回復させていけばいいんだろう?」と、特殊清掃の仕事に対する探究心と向上心を持って取り組めました。

とはいえ、精神のみならず、肉体的にも決して楽な現場ではないことは清掃を始めてからもあらためて痛感しています。

──体力的な負担もかなり大きい仕事なのですね。

会社のエントランスには、過去の清掃現場の写真が飾られていました

トラウマシーンの現場だと、周りに腐敗臭が拡散してしまうので、エアコンもつけず窓や戸も締め切った状態で作業に当たります。防護服やガスマスクをつけた状態で肉体労働をするので、夏場は汗の量も尋常じゃなくて……。どんなに気をつけていても、熱中症になってしまうことがよくあるんですよ。

飼育崩壊が起きてしまったご自宅に伺った時は、防護服の上から犬や猫に引っ掻かれてしまって、身体に傷がついてしまったことも。清掃員はみんな感染症の予防接種を受けているのですが、それでも破傷風やさまざまな感染症にかかるリスクはあります。

危険と隣り合わせの仕事であることは間違いありませんが、いつかこの特殊清掃の仕事の必要性がなくなる日をつくるためにも、日々真剣に現場の回復に努めています。

プロとして、人としての振る舞いを問われた、忘れられない現場

──これまでで特に印象に残っている現場はありますか?

現場の凄惨さよりも、ご依頼主さまとのやり取りの中で今でも忘れられない経験があります。依頼主は首吊り自殺で亡くなった方のお姉さまでした。

ご依頼いただいた際はお電話越しにも深い悲しみが伝わるほどで、すぐに現場に急行したんです。そこで清掃作業をしていると、故人さまが生前苦しんでいた痛切な記録が残された日記帳が見つかりました。基本的に故人さまの遺品は清掃した上でご遺族にお渡しするのですが、この時ばかりはご依頼主さまに日記帳をお渡しすることでさらなる精神的負荷をかけてしまうのではないかとかなり考え込んで……。悩んだ末、ご依頼主さまにご意向を伺い、その日記帳をお渡しすることになったんです。

後日、ご依頼主さまから1本のお電話が。「もし何も知らずにあの日記帳を目にしていたら、きっと心が壊れてしまったかもしれない。でも時間を空けて読んでみて、本人が最期をどうすごしていたのかを知れて良かった」と。日記帳が見つかったことを事前に電話してくれてありがとうと、涙を流されていました。

──残されたご遺族の心に寄り添っている鈴木さんだからこそ、その経験が深く心に残っているのですね。

最後は感謝の言葉をいただきましたが、ご依頼主さまからその言葉を受け取るまでは、どうするのが本当に「心に寄り添う」ということなのか、自分でも分からなくて。

私自身、幼いころに父親を交通事故で亡くしているんです。でも肉親や大切な人を亡くす悲しみは人によって違いますし、気休めに声をかけてしまったら返って深い傷を負わせてしまうことだってある。お客さまの声に真摯に耳を傾けて、彼らが望む復旧作業を徹底して実行する。ブルークリーンの特殊清掃のプロとしての振る舞いはどうあるべきなのか、深く考えさせられた現場だったと思います。

人の役に立てるのが格別のやりがい。社会課題の解決に向けて、まずはプロの特殊清掃員として

──社会課題の解決を志されていても、心理的にも肉体的にも過酷な現場が多い仕事。心が折れることはないですか?

自分がやったことで誰かが喜んでくれると、自分が認められたような気がしてすごくうれしくて。「鈴木さんで良かった」「やっと前に進めそうです」と手紙をいただいたら、どんな過酷な仕事でもまた頑張ろうって思えるんですよ。やはり、お客さまからの感謝の言葉は何よりの力になりますね。

仕事を通して、目の前のお客さまが涙を流して喜んでくださることって、そんなに多くはないと思います。特殊清掃の費用って、正直安くはありません。それでも私たちを頼ってくださったのだから、私たち自身もお客さまに心から感動していただけるような仕事をしなければいけないと思っています。

──鈴木さんにとって「特殊清掃」とはどのような仕事ですか?

繰り返しにはなりますが、やはり楽な仕事ではないです。肉体的にも精神的にも、負担は大きい。でもやっぱり、仕事を終えた後に見るお客さまの笑顔で、何もかもが報われるんですよ。誰かの役に立って、感謝の言葉をいただいて自分の心も満たされて。そんな日々に原動力を感じながら、また頑張る。特殊清掃は、そんな仕事です。

私たちがこの業界に参入してきた7年前は、今よりもっと特殊清掃についての認知が低かったんです。そして当時そこでプロと名乗っていたのは、あらゆる人体へのリスクが潜む現場へ、お客さまを遺品整理に向かわせてしまうような人たちだった。

真面目に真剣に取り組めばお客さまのため、ひいては社会貢献にもつながる仕事なのに、そんな現状は絶対に変えないといけない。だから、私たちはまずは特殊清掃のプロフェッショナルとして、業界のリーディングカンパニーを目指してきました。その想いは、今も変わりません。数ある社会課題に挑むはじまりの一歩だと信じて、これからも日々清掃に向き合っていきたいと思います。

(文:神田佳恵 編集:おのまり 写真提供:ブルークリーン株式会社)

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フリーライター神田 佳恵
フリーランスライター 兼 一児の母。取材・インタビュー記事、エンタメコラム、ライブレポートやエッセイなど、複数媒体・分野で執筆活動中。

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