『るろ剣』で裏方→『ベビわる』で主演。伊澤彩織が“アクション俳優”と名乗るまでの12年

2026年3月2日

スタジオパーソルでは、「はたらくを、もっと自分らしく。」をモットーに、さまざまなコンテンツをお届けしています。

今回お話を聞いたのは、アクション映画を中心に活躍する、スタントパフォーマーで俳優の伊澤彩織さんです。『るろうに剣心 最終章 the Beginning & the Final』『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』などの人気作品に参加し、2021年にスタートした『ベイビーわるきゅーれ』シリーズでは、映画3作品と連続ドラマで俳優の髙石あかりさんとともにW主演を務めました。

アクションを始めて数年間はアルバイトを続けながら「毎日漠然とした不安を抱えながら生きていた」と話す伊澤さんが、どのように自分らしいはたらき方を見つけたのか。アクションの現場のリアルとともに、“好き”を仕事にしてきた12年間で気付いた仕事の楽しみ方をお話しいただきました。

派手な乱闘シーンから、日常の転倒シーンまで。幅広いアクションの仕事

──まずは、伊澤さんが普段携わっているアクションのお仕事について教えていただけますか?

撮影現場には、撮影部や照明部、美術部のように、部署として「アクション部」もあります。アクションの仕事というと殴り合いの喧嘩をしたり、車にはねられたり、映像的に派手で危険なシーンを担当するイメージを持っている方も多いかもしれません。もちろん、そういう仕事もたくさんありますが、アクション部としての仕事は実際にはもう少し幅広く、俳優さんのアクションを代わりに演じるスタントダブルからワイヤーやマットの補助、練習用武器などの小道具制作までさまざまです。派手なシーンだけでなく、周囲の人の怪我のリスクを減らし、安全に現場を進めるための役割を担うのもアクション部の大事な仕事です。

昔現場に入って印象的だったのが、山で子役が転ぶシーンのサポートです。アクション部3人で地面を削り、マットを埋めて、映像で見ても違和感がないようにその上を土でカモフラージュして。シーンの前には子役の衣装の下に膝パッドや肘パッドを仕込んだり、うまく転ぶ方法を教えたりしました。

他にも、万一に備えて少し高い場所に立っている俳優にワイヤーを付けるなど、日常のシーンであっても、カメラの前に立つ人が少しでも安心して臨める体制を現場でつくっていくのがアクション部の仕事です。

アクションの基礎を叩き込んでくれた師匠の急死。「その熱量を引き継ぎたい」

──伊澤さんがアクションと出会ったのは、日本大学芸術学部映画学科に在学中のときだと伺いました。どのようなきっかけがあったのでしょうか?

大学に在学中、はじめて参加した撮影現場で、アクション部として参加したのがきっかけでした。「こんな部署があるんだ」と思ったのが率直な感想で、知らない世界をもっと見てみたいという好奇心で、その次、また次と徐々に現場に入るようになって。

身体能力に自信がなかったものの、自分自身がこれからもっと動けるようになればサポート以上の仕事、たとえばスタントなどにもチャレンジできそうだと、キャリアの可能性を感じてアクションという分野にどんどんのめり込んでいきました。

──大学生というと、これからのキャリアについても考えはじめる時期だと思います。就職活動をする学生も多い中、「アクションの世界で生きていく」と決められたのはなぜでしょうか?

周囲の子たちがインターンシップに参加するのと同じような感覚で、私も撮影現場に行っていたので、卒業後もアクション部として現場に関わっていくのだろうなと漠然と思っていました。ただ、今振り返ってみると、「アクションの世界で頑張っていこう」と思えた明確なきっかけが、2つあります。

1つは、私にアクションの基礎を叩き込んでくれた先生・田中清一さんが他界されたことです。訃報を聞いたのは大学3年生の夏休み、大阪で撮影していたジョン・ウー監督の映画『マンハント』に参加していたときでした。お葬式の日がちょうど撮休日だったので、日帰りで東京に戻って参列しました。

そのときに、生前に先生から言われた言葉を反芻していたんです。「彩織はきっとアクションで人を感動させられるパフォーマーになるから、続けてほしい」と。それまではアクションを仕事にするのかどうか、あまり深く考えていなかったんですが、「アクションで人を感動させるってどういうことだろう」と大きな問いをもらったような気がしました。先生からいただいた言葉の数々をお葬式中に思い出したことで、「先生がこれまでアクションにかけてきた熱量を自分が引き継ぎたい」と思うようになりました。

もう1つのきっかけは、卒業式で学科の賞をいただいたことです。優秀賞ではなく、ユニークな活動をした学生に贈られる賞で、私は「器用に何でもこなせるがすぐに飽きてしまう資質が災いし望む成果に近づけない日々を過ごしながらもようやく見つけたアクションスターへの道 映像制作でも披露されたあなたの華麗なアクションに対して」の賞だったと思います。

留年もしていて、まさか自分が選ばれるなんて思ってもいなかったので、本当に驚いて。お世話になった先生から賞状を受け取った瞬間、「この先やっていけるかな?」という不安よりも、先生方に胸を張って「やりましたよ」といえる活動をしていこうという気持ちになったんです。背筋がすっと伸びる思いでした。

転機となった『るろうに剣心』。「この道で生きていく勇気をもらえた」

──大学を卒業してから2~3年、映画『るろうに剣心 最終章 the Beginning & the Final』の撮影に参加するまではアルバイトをしながらアクションの練習に打ち込む日々を送っていたとか。当時は「はたらく」ことに対してどのように考えていましたか?

撮影現場のメイキングカメラ、電子タバコの販売、テープ起こしなど、当時はいろいろなバイトをしていましたね。アクションの仕事でもギャラは発生していたものの、やっぱりそれだけでは生活していけなくて。バイト自体は楽しかったものの、この先どうなるのか分からない漠然とした不安が毎日ありました。現場に行けるのはうれしいけど、自分は果たして“仕事”をできているのだろうか、と。

でも、そんな不安を先輩に相談したところ、「1円でもお金が発生している以上、プロだからね」と釘を刺されて。「プロとして自分の役割を考え、しっかり対価を得られる人間にならなければ」と思い、はたらくこと・お金をいただくことに対して真剣に考えるようになりました。

その後、『るろうに剣心 最終章 the Beginning & the Final』ではじめてレギュラーで撮影に参加させていただき、長期間現場に通いつめる日々を経験したんです。今でもこの先のキャリアに対する不安はあるものの、『るろうに剣心 最終章 the Beginning & the Final』へ参加できたことで、ようやくアクションを仕事にできた感覚が生まれました。

──これまでのお仕事で特に印象に残っている現場はありますか?

感情が常に大きく揺さぶられていた現場は、やっぱり『るろうに剣心 最終章 the Beginning & the Final』ですね。先輩のスタントを見ていて言葉を失うような経験を何度もして、「自分はなんでうまくできないんだ」と悔しい思いをすることもありました。でも、はじめて爆破のスタントを任せてもらって、爽快感を味わうとともに、「やっとスタントパフォーマーと名乗れる」と思えて。慌ただしく壮絶な毎日をすごす中で、学ぶことも多く、この道で生きていく勇気をもらえた現場でした。

──2026年2月16日に発売された自身初のフォトブック『PLAYer1』(講談社)には『るろうに剣心』シリーズで主演を務めた俳優・佐藤健さんとの対談も収録されていますね。

『るろうに剣心 最終章 the Beginning & the Final』の撮影時は直接お話しする機会はほとんどなかったのですが、その後、別の現場でお会いしたときに「『ベイビーわるきゅーれ』観たよ」と声をかけてくださって。小さいころから佐藤さん主演の『仮面ライダー電王』の大ファンだったこともあり、あのときは本当にうれしかったです。

そこから、何度かアクション練習会でご一緒するようになりました。ご縁があったとはいえ、お忙しい方なのでまさか対談ゲストのオファーを受けてくださるなんて、私自身が一番驚いています。対談では勇気づけられる言葉をたくさんいただいて、また同じ現場に立てるように頑張ろうと心の底から思いました。

『伊澤彩織PHOTO BOOK PLAYer1』

『伊澤彩織PHOTO BOOK PLAYer1』

「“やりたいからやってんだよな”と思っていたい」

──先ほど撮影へのレギュラー参加について「壮絶な毎日」とおっしゃっていたように、映画の撮影期間は生活リズムが不規則になることも多く、特にアクション部となるとかなりのハードワークだと想像しています。これまで仕事に対して「もうしんどい」「行くのがつらい」と思ったことはありますか?

過去に「行きたくない」と思ったことはありますね。一度受けた仕事に対して真摯に向き合えない自分が情けなくなる瞬間もありました。撮影現場に限らず、どんな仕事でも真面目にはたらいてきた人ほど、同じような経験があるんじゃないかと思います。

もし途中でやめてしまうと誰かに迷惑をかけることになるから、しんどくてもやり遂げるのが一番誠実だけど、限界のサインは知っておくべきかなと。どうしても心と体が離れているときは無理しないほうがいいと思っています。ただ、行かない選択をしたあとに待っているのは、後悔と周囲からの信用を落としてしまうかもしれない怖さなんですよね。

最近は自分の状態を冷静に俯瞰して、キャパオーバーかもしれないお仕事は最初から受けない、十分に見極めて選ぶ勇気を持てるようになってきましたが……それでも難しいですよね。ずっとフリーランスでやってきているので、自分の心身を守りながらも、他者から信用してもらえる自分でありたいと思っています。

──この先、やってみたいことはありますか?

ふんわりしていますが、アクションの可能性をより広げていきたいです。2024年から、俳優の水石亜飛夢くんが代表を務める一般社団法人BeAHERO主催の「アクション体験会」のゲスト講師を務めていて、一般の方にアクションを体験してもらうイベントを定期的に行っているんです。毎回自分の想像を超えたアクションの楽しみ方・遊び方がまだまだ隠されていることに気付かされています。こうした一般的にはまだメジャーではない活動を、アクションに関わる方々と一緒に継続的に取り組んでいきたいと思っています。

──最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?

楽しんで、遊び心を持ってはたらくためには、自分は何が好きなのか、やりたいのかを自覚することが大事だと思います。私もよく自問自答しているんです。何が楽しくてアクションの仕事をやってきたんだっけ、どんなところに惹かれたんだっけ、と。

『PLAYer1』より、伊澤さんがお気に入りの“自問自答”ショット

何かにときめいたり、好奇心が湧いたりしてアクションを始めたんだと思うんです。「その選択をした自分」をまず好きになりたいし、皆さんにも「その道を選択した自分」を好きになってほしいです。

自分で選んで、やりたいことをやれている人はかっこいいと思うし、自分も「やりたいからやってんだよな」って思っていたい。あきらめずに続けていたらきっといいことがあると思うので、一緒に頑張りましょう。

(「スタジオパーソル」編集部/文:水元琴美  編集:いしかわゆき、おのまり 写真:凪 / ヘアメイク:赤井瑞希 スタイリスト:八尾崇文)

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ライター / 俳優水元琴美
「書く」×「演じる」の二刀流で「忙しない日々をちょっと豊かにする」をテーマに活動中。学生時代のメディアディレクターインターンシップをきっかけに “書く仕事” を始める。現在は主にインタビュー記事やコラムを中心に執筆。書く以外にも、写真撮影や映像出演など、さまざまな方法を通してコンテンツを世に届ける。映画、舞台、写真が好き。

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