【アルゼンチンのはたらき方】サバイバル精神と団結力で厳しい経済状況を乗り越える
連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。
今回は、アルゼンチンのはたらき方をご紹介します!
アルゼンチン共和国 Data(2022年)
国内総生産ランキング(GDP) :28位/193ヵ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :57位/146ヵ国中(日本:54位)
<お話してくれた方>
パメラ・ローザスさん
アルゼンチン国籍|35歳|服飾雑貨店経営
アルゼンチン中部のコルドバ州にある小さな街に住み、服飾やハンドメイド雑貨を扱う店を経営している。レストランや翻訳などの仕事をしていたが、息子が生まれたのをきっかけに、かねてより興味のあった服飾雑貨店を始めることに。服は女性、子ども向けのものを取り扱っている。 趣味はヨガで週に2回、ヨガクラスを開いている。
Q.あなたはどんな人?
――まずは、あなたのお仕事について教えてください
コルドバ州にある小さな街で、女性や子ども向けの服やハンドメイド雑貨を扱う店を経営しています。私の住んでいる街は観光客が多いので、周りにはいろんな店が並んでるんですよ。
1月から2月はサマーシーズン*で、数千人がこの街に観光に来るため、毎日8時間店を開けています。サマーシーズン以外の営業日は木曜日から日曜日まで。そのほかの日はゆっくり過ごしたり、新しく作る雑貨のことを考えたりしています。
*アルゼンチンは南半球に位置するので、日本と季節が逆。
――どういう経緯で服飾雑貨店を始めたのでしょうか。
前はレストランではたらいていたんですが、仕事が大変でストレスを感じていました。給料は高かったんですが、仕事とプライベートのバランスをうまく取れずに悩んでいたんです。私も周りのスタッフも、お金を稼ぐためにハードにはたらき、とても疲れていました。
アルゼンチンは60歳で定年退職して年金生活を送れるのですが、「定年を迎えるまで30年以上、ずっとこのはたらき方をするのは無理だ」と感じ、自分のやりたいことをやろうと決心したんです。
息子が生まれたのも大きなきっかけで、もっと自分の時間を持ちながら、生活できる収入を得たいと考えるようになりました。
今の私が営んでいる店は、インドから輸入した服飾雑貨の販売からスタートしたんです。今では自分のデザインした服やハンドメイド雑貨も取り扱うようになりました。少しずつ、自分のやりたいことを増やしながら店を経営しています。
仕事のかたわら、大工さんと相談しながら3年がかりで店の近くに自分の家を建てました。今は仕事もプライベートも充実していて、とても満足しています。
――今の仕事に満足しているんですね。
もちろん!いろんな人とコミュニケーションを取って、自分の知識や興味の幅が広がりそれをデザインに反映させるのがとても楽しいんです。
たまに仕事をしたくない気分になることもありますが、そういう時は店を閉めて家でゆっくり過ごし、また仕事を始めるための情熱をチャージします。このように、フレキシブルにはたらけるところも気に入っています。
――仕事のモチベーションはなんですか?
サバイバルするための情熱ですね。アルゼンチンはサバイバル精神が旺盛な人がとても多いんですよ。経済的に厳しい状況がずっと続いてきた国ですから。
私にとっては自分の裁量で仕事の幅を増やせることや、いろんな人とコミュニケーションが取れることも重要です。自分の好きな服飾や雑貨を通して、それらを実現できることに、とてもやりがいを感じます。
――オフはどのように過ごしているんですか?
長期の休暇は旅行に行きます。定年した両親のところに遊びに行くこともあります。
ヨガも好きなので、週2回、月曜日と水曜日の朝にヨガ教室を開いてるんですよ。体や心の不調が整うので、ヨガは私にとってとても大切な時間です。
Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。
――アルゼンチンのはたらき方について教えてください。
アルゼンチンのはたらき方は、経済にとても大きく影響を受けています。経済不況が長く続いていて、国が借金を返せなくなる債務不履行を何回も繰り返していますからね。アルゼンチンといえば「債務不履行の国」というのも、世界中に知られているみたいです。
社会保障も十分ではなく、インフレのスパイラルもずっと続いていて、多くの国民は経済に対してネガティブな感情を抱いています。持ち前のサバイバル精神で、なんとか乗り越えようと皆、模索しているんです。
――アルゼンチンの経済状況は厳しいのですね。
とても厳しいです。前から厳しかったのですが、新型コロナウイルスの流行でさらに厳しくなり、インフレが加速しました。たとえば私の店の10ペソの雑貨は、2週間で30ペソになったりします。アルゼンチン経済は、今とてもクレイジーな状況です。
失業者も増えました。給料を満足にもらえない会社もあるようです。インフレがひどいので、商品を適正価格で売るのがとても難しいですね。多くの人が本当に困っています。
――経済不況の中、どうやって生活を維持させているんですか?
魔法でも使わない限り、正直この状況は抜け出せそうにないですね。でも、アルゼンチン人はサバイバル精神が強いだけでなく、団結力も強いんです。お互い支え合いながら、なんとか困難な状況を乗り越えています。
私の住んでいる地域はいろんなお店が並んでいるので、時には物々交換をしたりして、ご近所同士で助け合い、なんとか乗り切っています。
この状況を乗り越えるためにいろんな仕事に挑戦し、自分に合う仕事を見つけ、収入を上げるためにどうすればよいかと考える。そんなふうに、アルゼンチン人は強く生きています。
――そうなんですね。ところでアルゼンチンではどうやって最初の仕事を探すのですか?
経済状況や学歴によって大きく変わります。私は16歳のころからアルバイトをたくさんしましたが、妹は25歳で大学を卒業してから医者としてはたらき始めました。医者や弁護士などの高度な知識が必要な職種は勉強がとても大変ですが、求人も豊富で卒業後は収入の高い職につけることが多いです。
勉強が大変なこともあり、在学中は学校の勉強に集中する人が多いです。ただ、アルバイトなどをしながら学校に行く人もいます。私は高校生の時からウエイトレスやコック、ハンドクラフトのバイトをしながら、必要なスキルと経験を積みました。翻訳の仕事に興味を持った時には1年間アメリカに語学留学し、英語のスキルを身につけました。
――労働時間はどれくらいですか。
法律で1日8時間までと決められています。1週間の労働時間は48時間以下と決められているので、残業する場合も基本的にはこの時間内に収めます。私は朝の10:00に店を開けて、夕方の16:30に閉めています。
――アルゼンチンの初任給はどれくらいですか?
経済状況が日々変化しているので、難しい質問ですね。職種にもよりますし、アルバイトだけをしている人も多いので、給料の幅は大きいと思います。
私の家を建てるのを手伝ってくれた18歳の大工さんは、初任給が月額40,000ペソ*1程度だったそうです。看護師の知り合いの初任給は月に17,000ペソ*2程度だそうで、決して高くはないですよね。
最低賃金は一応、月に16,875ペソ*3と定められていて、政府は18歳から21歳の若者の初任給を、一部支払うという支援をしています。
*1約39,000円(1アルゼンチンペソ0.98円計算)
*2約16,660円(1アルゼンチンペソ0.98円計算)
*3約16,500円(1アルゼンチンペソ0.98円計算)
Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?
――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、アルゼンチンは122ヵ国中46位でした。この結果を受けて、どのように思われますか?
良い結果と感じています。厳しい経済状況の中でも、楽しくはたらけることはいいことです。その一方で仕事がない人も多いので、はたらけるだけで喜びを感じる、という側面もあるかもしれませんけどね。とはいえ、80%以上の人が仕事を楽しいと感じるのは、素晴らしいこと。私も仕事を楽しんでいます。
――Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は122ヵ国中67位でした。
お金を稼ぐことに集中せざるを得ない状況ですから、妥当な結果でしょう。ただ、私の個人的な回答は「Yes」です。お店に来る人とたくさんコミュニケーションを取り、自分の商品がその人たちの生活を鮮やかにできていると自負しています。少しですけど、雇用も生んでいますから。
――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は84位でした。
この結果も妥当だと思います。
選択肢を広げるために必要なのは、やはり然るべき教育を受けることです。もちろん大学を卒業したからといっても、現状では給料もなかなか上がりません。クレイジーなインフレに耐えられるような給料を受け取れる職種も、かなり限られています。
ただ都市部以外ではまだ進学率が低く、そもそも貧困のスパイラルから抜け出せない人が多いことも事実。無償で教育を受けられる公立学校よりも、お金のかかる私立の方が、仕事に有利な面は多いです。まずは良い職を得るために、教育を得る機会を充実させることが重要だと感じています。近年は教育に力を入れよう、という風潮も国全体で強くなってきたので、これからいい方向に変わっていくと思います。
アルゼンチンでは仕事を変えることが普通です。私もレストラン勤務や翻訳の仕事を経て、今の店を経営しています。はたらきながらお金を貯めて、必要であれば専門学校などで教育を受けて、新しい仕事に挑戦する、ということもよくあります。
厳しい状況の中、少しでも自分に合ったはたらき方を模索して、挑戦を続けているのです。サバイバル精神が強い国ですから、今後はもっといい結果になると信じています。
「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら。
※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。
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数年働き、北欧アウトドアを体験するために退職し、北欧デンマークに1年間滞在。
現地の学校でアウトドアを学ぶ。
現在は北欧アウトドアライターとして記事を書き、その魅力を発信している。
自身のサイトではデンマーク生活を漫画形式で紹介。
また、デンマークの旅行代理店と提携し、日本人向けに北欧ネイチャーツアーの企画立案も担っている。
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