【フィリピンのはたらき方】給料は月二回支給で社食は無料?はたらくことへの満足度は世界トップクラス

2023年6月5日

連載「地球のはたらき方」では、世界の国々ではたらく人にインタビュー。その人自身のお仕事や、国のはたらき方や価値観に加え、「はたらいて、笑おう。」グローバル調査のデータをもとにして、各国のはたらく内情を伺います。

今回は、フィリピンのはたらき方をご紹介します!

フィリピン共和国 Data(2022年)
国内総生産ランキング(GDP) :38位/193カ国中(日本:3位)
世界幸福度ランキング(WHR) :60位/146カ国中(日本:54位)

<お話してくれた方>
パトリック・レジー・ヤップさん|フィリピン国籍|33歳|英語教師
リゾート地として有名なフィリピンのセブ島在住。セブ島はアジア人の英語留学先として人気が高く、英語教室で教師としてはたらいている。新型コロナの流行後はオンラインレッスンの割合が増加。リモートワークも交えながら、主に日本人へ英語を教えている。 趣味はゲームや粘土彫刻。以前は親戚や祖父母と一緒に住んでいたが、今では両親と犬と一緒に住んでいる。

Q.あなたはどんな人?

――あなたの仕事について教えてください。

私はセブ島にある留学生向けの英語学校で教師としてはたらいています。セブ島はアジア人、特に韓国や日本、台湾、中国からの英語留学先として、とても人気があります。英語学校は島内にたくさんあるんです。

授業はマンツーマンやグループレッスンがあり、45分刻みで文法や会話、読み書きなどを教えています。教師としてだけではなく、学校の広告や宣伝といった仕事もしています。

パトリックさんの勤めている英語学校のオフィス

――パトリックさんは母語が英語だったんですか?

私の住んでいるセブ島では、元々「ビサヤ語」が話されていました。ただ、フィリピンは1,000以上の島があり、地域によって文化や言語も違うんです。フィリピンは昔アメリカに統治されていたこともあり、学校では公用語である「タカログ語」、そして英語を用いながら授業が進められます。ほとんどの人が幼いころから英語を使って生活しているんです。

――パトリックさんはどういう経緯で今の仕事を始めたんですか?

大学では看護の分野を専攻し、学位を取得したのですが、実際にはたらいてみて自分には合わないと感じました。

1年ほどで辞め、ほかの仕事を探している時、学生時代にやっていたオンライン英会話レッスンのアルバイトが楽しかったことを思い出し、本格的に英語教師の道へ進もうと考えました。最初はパートタイムで英語教師を始め、トレーニングを受けながら経験を積みました。それからいろんな英会話学校でキャリアを積み、もう8年以上も教師としてはたらいています。

改めて英語の文法などを学ぶのも楽しかったですし、たくさんの人たちと話ができるこの仕事が気に入っています。同僚たちと笑い合いながら、リラックスしてはたらけているので、労働環境も良いと思います。

――仕事のモチベーションはなんですか?

家族と一緒に美味しいご飯が食べられて、友人と仲良く過ごせて、光熱費などを支払えるくらいの給料を受け取れることです。英語教師としての仕事は気に入っていますが、家族や友人と過ごす時間が何よりも大切。これは、フィリピンの人の一般的な感覚だと思います。

また、自分のキャリアが先に進んでいると感じられることも、モチベーションの一つになっています。経験を積んでスキルも高まれば仕事の裁量も増え、グループレッスンや英語学習キャンプなどの大きな仕事を任せてもらえるようになるんです。

――オフはどのように過ごしているんですか?

ポケモンなどのゲームが大好きなので、ゲームをすることが多いです。特に日本のゲームは面白いものが多く、大好きです!粘土彫刻も好きで、気が向いたときにいろんな作品を作ったりもします。また、セブの海はきれいなので、美味しいジュースやお茶を飲みながら海沿いを散歩する時間も好きですね。

セブ島は世界有数のリゾート地の一つで、南国特有の青い海が広がっている。

Q.あなたの国のはたらき方について教えてください。

――フィリピンのはたらき方について教えてください。

1日にはたらく時間は8時間以内と法律で決まっていて、それ以上の時間は割増賃金が支払われます。多くの職場では栄養価の高いランチが提供され、1時間の休憩をとります。私は朝の8時に職場に行って、夕方の17時まではたらいています。

フィリピンでは朝の通勤ラッシュが激しく、鉄道が十分に発達していないため、バスに乗って1時間以上かけて通勤する人が多いんです。「ジプニー」と呼ばれる、ジープを改造したタクシーでぎゅうぎゅうに乗り合って職場に行く人もいます。私も新型コロナウイルスの流行前はジプニーに乗って職場に行っていました。

しかしジプニーではソーシャルディスタンスが十分に取れないので、今はバスを使って通勤しています。ジプニーよりは割高ですが、1人1つの座席があるのでとても快適ですね。

残業すれば割増賃金が貰えて給料が上がりますが、フィリピンの人はプライベートの時間を優先する国民性なので、収入が足りない時や上司に頼まれない限り、残業したがりません。私も終業時間の17時になると、仕事のことはきっぱり忘れて家に帰ります。楽しくハッピーに過ごすためには、家族や友人との時間が何より大切ですからね。

――パトリックさんは今の仕事を楽しんでいるんですね。

そうですね。同僚たちとの関係も良好ですし、栄養バランスの良いランチや清潔な飲料水が提供されるので、労働環境はとても良いと思っています。フィリピンはまだ生活インフラが十分に整っていないので、水道水を飲むとお腹を壊す人もいるんですよ。

私のはたらいている英会話学校は、外観や内装もおしゃれで清潔です。きれいなオフィスで、清潔な水やバランスの良いランチを提供してもらえることは、はたらく上でとても大切なポイント。こういう職場ではたらけているだけでも「仕事が楽しい」と感じる人は多いと思います。

パトリックさんのはたらく英語学校にあるプール 生徒はメリハリをつけて勉学に取り組める

――フィリピンはどうやって最初の仕事を探すんですか?

多くの人が大学や専門学校、高校卒業後にはたらき始めます。看護師や教師、医者など人気があって給料の高い職種は、在学中に国家試験を受けて資格を取得する必要があります。私も看護師の国家試験を受けて資格を得ましたが、とても大変でした。

フィリピンの人は英語が話せるので、海外に出稼ぎに行く人がとても多いです。資格が必要な職種に就いていると労働ビザが取りやすく、良い給料をもらえるので、みんな一生懸命勉強します。特に看護や介護の資格を持っていると、ヨーロッパやアメリカなどで、待遇も給料も良い仕事に就けるようになります。

2010年ごろはアメリカで看護、介護の仕事に就く人口がピークでした。一般的なフィリピンの大学では1学年あたりA〜Dクラスぐらいまでしか生徒がいないのに、看護や介護の分野では、なんとZクラスまであったほどです。

今は留学や観光地としての人気の高まりから、自国の医療関係以外の仕事でも十分稼げるようになりました。近年ではセブ島にIT特区ができ、アメリカやヨーロッパ、日本が次々IT企業を設立したので、ITエンジニアの需要も高まっています。

IT特区はエリア周辺に警備員がいて、セブ島の中で治安が最も良い場所として人気になりました。きれいなレストランやカフェ、高層ビルがたくさん建てられ、多くの雇用を生んでいます。

――フィリピンの初任給はどれくらいですか?

フルタイムの職種でいうと、約10,000PHP*1から12,000PHP*2くらいです。パートタイムだと5,000 PHP *3ほどですが、フィリピンは経済発展が著しい反面、経済格差も大きいので、これより安くなることも高くなることも十分にあります。

物価が安く、平均賃金でも十分に暮らせますが、贅沢な暮らしはなかなか望めません。それでも、毎日家族と一緒にご飯を食べて、笑って過ごせるだけで幸せを感じます。

また、フィリピンでは給料を一気に使い込んで月末に困ることがないようにと、給料が月に2回支給されるのが一般的です。ただ、なかなか貯金ができない国民性で。給料をもらったらすぐに欲しいものを買い込んでしまう人が多いですね。給料は銀行振込で支給されますが、口座を持っていない人もいるので、手渡しの場合もあります。

*1フィリピンペソ2.4円計算で、約2万4千円
*2フィリピンペソ2.4円計算で、約2万9千円
*3フィリピンペソ2.4円計算で、約1万2千円

――パトリックさんは、自分の給料が十分だと感じていますか?

今の生活を送る分には足りていますが、正直に言うともっと給料が欲しいです。同僚たちも、家に帰ってオンラインクラスをいくつかこなし、収入の足しにしている人が多いですね。

たとえば、セブ島のアパートの家賃相場は8,000-10,000PHP*4。安いところでも5,000 PHP *5ほどと、平均的な給料の半分以上の値段になります。だから、ほとんどの人は家族と住んで親や配偶者と家賃を折半したり、学生や一人暮らしなどで親元を離れている人はルームシェアをしたりしています。

今の給料で十分に生活はできていますが、より良い環境、たとえば家具が揃っているところや、警備員付きの安全なアパートに住もうとしたら、家賃は跳ね上がるので、生活に困ることになりそうです。

フィリピンは無職の人も珍しくありません。家族や親戚の絆が強いので、助け合いながらなんとか暮らしている家庭も多いのです。私が子どものころは祖父母と親戚と両親と一緒に住み、家賃を折半してお互いに助け合いながら生活していました。今ではそれぞれ職を得て独立して、家にいるのは両親と犬だけです。このように助け合う精神があるのは良いことですが、賃金が低いことは良くないですよね。それでも経済が発展し、少しずつ状況が良くなっているのを感じているので、悲観はしていません。

*4フィリピンペソ2.4円計算で、約1万9千円〜約2万4千円
*5フィリピンペソ2.4円計算で、約1万2千円

パトリックさんの住むセブ島の町 経済発展が激しく活気がある

Q.あなたの国の調査結果についてどう思いますか?

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査 フィリピンの順位 ※調査結果は、2022年に発表した第2回目調査のデータ

――Q1の「日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対して「楽しんでいる」と回答した割合は、122ヵ国中15位でした。この結果を受けて、どのように思われますか?

とても良い結果ですね!フィリピンの人は楽しく過ごすのが大好きなので、ちょっとでも「楽しくない」というような不満がたまると、すぐ仕事を変えるんです。だからこそ、この結果になるんでしょう。

仕事もプライベートも思いっきり楽しむのがフィリピン流。まだまだ経済発展している途中ですが、みんな自分の環境でより良く、より楽しく生きようとしています。私も仕事を楽しんでいます。いろんな生徒と話して、多様な価値観や考え方、文化に触れられて刺激的です。

――Q2「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっている」という項目は122ヵ国中3位でした。

思った以上に良い結果ですね!この結果にも納得します。フィリピンの人は家族や親戚、友達を大事にする人柄で、ホスピタリティに溢れているんです。仕事で接する人も「友達の友達」のような存在と捉え「助けになりたい」という思いではたらいている人が多いです。

生徒たちから日本や韓国の話を聞くと、フィリピンの場合はプロ意識が少し低いと感じるところもあります。でもフィリピンのこういう精神はとても良いと思うので、これからも良い結果を出せるようにはたらきたいですね。

――Q3「自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から選べるかどうか」は1位でした。

うれしいよりも驚きが勝る結果ですね。まだまだ発展途上の国なので、この結果に驚く人も多いでしょう。

ただ、最近フィリピンのはたらき方の選択肢が大きく増えたことは事実。

私たちの親の世代だと、学歴がないと良い職に就けず、専攻した分野以外の仕事を探すのも難しかったそうです。しかし最近はレストランや英会話教室など、一般企業の社内研修制度も充実し、学歴は必ずしも必要なくなりました。私も英会話教師としてトレーニングを受け、今では8年間も英会話教師としてはたらいています。

経済発展も著しく、人口もマーケットもどんどん拡大し、外資系企業も年々増えています。そういう意味でも、はたらくことに関する選択肢はどんどん増えていっているんです。

まだまだ貧富の差が大きいフィリピンですが、目まぐるしい変化も見られます。フィリピン人の国民性を活かし、これからもっと住みやすく、はたらきやすい国になることを期待しています。

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査
世界100カ国以上の国と地域を対象として、国際世論調査Gallup World Pollに「はたらいて、笑おう。」に関する質問を3項目追加し、3つの質問について「はい/いいえ/わからない/回答拒否」で回答。詳しくはこちら

※当記事で語られている発言内容は、あくまで取材対象者ご自身の意見・感想に基づくものです。

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SAGOJOライター伏見碧
大学院で機械工学を専攻し、終了後はメーカー企業の研究所で勤務。
数年働き、北欧アウトドアを体験するために退職し、北欧デンマークに1年間滞在。
現地の学校でアウトドアを学ぶ。
現在は北欧アウトドアライターとして記事を書き、その魅力を発信している。
自身のサイトではデンマーク生活を漫画形式で紹介。
また、デンマークの旅行代理店と提携し、日本人向けに北欧ネイチャーツアーの企画立案も担っている。

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