ママイラストレーター・よこみねさやかさんの「仕事」と「プライベート」のバランスの取り方
育児と仕事の両立に悩む人も多い中、2児の母でもあるイラストレーターのよこみねさやかさんは、育児が仕事を軌道に載せる火付け役になりました。育児日記をInstagramに絵日記のようにして投稿したところ、それが注目されてたくさんの仕事が舞い込むようになり、2022年3月時点でInstagramのフォロワー数は28.3万人と大人気イラストレーターになったのです。
意外にも出産するまではあまり仕事がなく、イラストレーターの道をあきらめて地元に帰ることすら考えていたそうです。イラストレーターを志したきっかけや仕事が軌道に乗るまでの過程、さらに仕事と育児を両立する方法と夫婦間のパートナーシップの築き方まで詳しく伺いました。
27歳まで、苦手な仕事を無理して続けていた
――イラストレーターになるまでのキャリアを教えてください。
地元の福岡で18歳のころモデル事務所にスカウトされて、チラシのモデルなどを細々とやり、19歳でテレビの深夜番組のレポーターになりました。ただ、人前に出る仕事は得意ではなく、むしろ苦手で……。もともと引っ込み思案な性格なのに「明るいキャラクターにならなきゃ」と気負ってしまい、続けているうちにプレッシャーによるストレスで胃潰瘍になってしまったんです。
2~3年は療養しつつフリーター生活を送り、その間はレポーターの仕事を休んでいたのですが、ほかにスキルがなく、結局は復帰したんです。「逃げちゃダメだ」と思いながら、その後27歳までほぼ意地でレポーターの仕事を続けていました。
――そこからなぜイラストレーターになろうと思ったのでしょうか?
大学では芸術学部で作画について一通り学んでいて、もともとイラストを描くのは好きでした。レポーター業の傍ら、番組で使う似顔絵や挿絵などのイラストを描いていたんです。それがすごく楽しかったんですね。
私のイラストを気に入ってくれた方からイラスト制作を依頼されることもだんだん増えてきたので、27歳で「上京しよう」と決め、レポーターの仕事を卒業しました。
――イラストレーターは場所に縛られずはたらける職種だと思いますが、なぜ上京したのでしょうか。
これからイラスト1本で勝負するために「福岡でこれまでの人脈を使って仕事するのではなく、新しい場所でゼロから頑張りたい」と思いまして。実家が転勤族で、小さいころから数年ごとに新しい場所に移り住んでいたこともあってか、引っ越しをすると気持ちを切り替えやすいんです。
「イラストを仕事にしてやっていけるかな?」という不安はありましたが、イラストを描いている時は楽しくてしょうがなくて。不安より「心から好きな作業を仕事にしたい」って気持ちのほうが大きかったです。
上京するも仕事がない。あきらめかけた時、育児日記がヒットした
――上京してから、お仕事は順調に進みましたか?
いえ、上京してからしばらくは雑誌の挿絵などを描いていたものの、短納期かつ報酬が低い仕事ばかりで、それだけでは食べていけませんでした。バーや居酒屋のアルバイトをしながら暮らしていたのですが、2~3年で福岡時代に貯めた貯金も底をつきそうになり「貯金がなくなったら福岡に帰るしかないな」とあきらめかけていたんです。
そんな矢先に夫に出会い、結婚して妊娠もしました。妊娠中は体が不安定ですから、これまで受けていたような短納期の仕事が受けられず、イラストレーターのお仕事を中断したんです。正直「これでイラストレーターの仕事はおしまいかな」と思っていました。「生活費を稼げなくて夫や子どもに申し訳ないなあ」という気持ちはあったのですが、出産も育児も未知だったので、いったんは流れに身を任せることにしました。
――そこからまた「イラストでがんばろう」と思えたきっかけはなんですか?
子どもが生まれて1週間後に始めたInstagramです。昔から授業を聞いていても、ノートを真っ黒に埋め尽くすくらい記録するのが好きで、出産当日から授乳記録などの育児メモを専用ノートにたくさん書き込んでいたんですね。
最初は文章だけ書いていたんですが、文章より分かりやすく見返しやすいイラストを描くようになり、それをInstagramに投稿し始めました。Instagramで育児日記を公開している人がたくさんいたので、自分もやってみようと思い立ったんです。
毎日投稿しているうちに少しずつフォロワーさんが増えて、ほかのママさんからコメントをもらえるようになり、大切なコミュニケーションの場になりました。当時は夫が仕事で家にいない日も多く、すごく孤独だったので、とても救われて……。イラストを描くのが育児の一つの息抜きで、必ず1日1回は投稿していました。それで着々とフォロワーさんが増えていき、そのうちに仕事も舞い込むようになったんです。
育児と仕事を切り分けず、がんばる活力にする
――今の1日のスケジュールを教えてください。
7時過ぎに起きて、食事の準備をします。7歳の息子と4歳の娘を8時半くらいに送り出したら、洗濯や掃除を終わらせ、コーヒーを飲みながら絵日記を描き、10時ごろまでにInstagramに投稿します。朝一番に絵日記を描くのは、ポジティブな投稿をしたいから。夜だとその日の疲れがあるせいか、イライラしたことや愚痴っぽいことを描きがちで、かえってモヤモヤしてしまうので描かないようにしています。
絵日記を投稿したら、お昼ごろまでは連載や挿絵など仕事用のイラストを描きます。週1回だけ午前保育の日があり、その日は11時半にお迎えに行くので仕事は午前中だけです。それ以外の平日は13時半くらいまで仕事して、お迎えに行きます。
子どもたちの寝かしつけは21~22時ぐらい。その後、仕事が終わっていなければ仕事しますが、最近は23時には眠くなるので、なるべくお迎えに行くまでに終わらせるようにしています。
――育児と仕事を両立するために、意識していることはありますか?
無理しないことです。「今日は無理!」って思ったら、突発的にサボる日もあります。気分が乗らないまま描いたイラストはイマイチな出来になることが多くて、納品しても修正が入って戻ってきてしまうんです。それに、ちゃんと休むと次の日に2倍仕事できたりして、かえってプラスになるんですよね。
――育児と仕事のバランスはどれくらいが理想ですか?
特に考えていないです。私は育児をイラストにしているので、オンとオフの境目がないといえるかもしれません。この間、息子の小学校で保護者が自分の仕事を紹介する授業があり、私もイラストレーターのママとして登壇しました。そうしたら、息子のクラスメイトの男の子が「〇〇くん(息子さんの名前)のママは、〇〇っていう強い武器があるんだね!」と言っていて、「その通り!」って感動しました。
子どもは私にとって仕事のパワーになる存在ですから、育児と仕事を切り分けず、育児の中に仕事が共存していてもいいんじゃないかって思っています。
一つだけ、子どもの前では仕事のピリピリを出さないように気を付けています。クライアントとのやり取りでピリピリしてしまう時があるので、夫に子どもとの間の窓口を担当してもらうようにしました。
夫婦円満の秘訣は、お互いの仕事を見える化すること
――ご夫婦で一緒に仕事をなさっているんですね。
3年前に夫婦で会社を設立して、それからは夫がマネジメントしてくれています。夫はフリーランスの編集者で、編集の仕事と私のマネジメントをしています。
夫婦で法人化したことは、家庭円満の秘訣にもなっています。法人化してからは仕事を管理するためにお互いのスケジュールを共有するようになり、それぞれの仕事の状況が見える化されて「今日は相手の仕事が詰まっていて忙しいんだな」と把握できるので、相手が忙しい時は自主的にお迎えに行ったり家事をしたりとフォローし合えるんです。普通だったら言わなきゃ分からないことが、言わなくても分かる状態になるんですよね。法人化しないにしても、夫婦間の経済状況をクリアにすることと、相手の仕事を尊重することはすごく大事だと思います。
――夫婦のいい関係性を維持するための習慣はありますか?
お互いにお酒が好きなので、ほぼ毎日晩酌を楽しみます。子どもが寝てから飲むこともあれば、寝る前に飲むこともあって、息子は晩酌のことを「パパとママのデート」と言っていて、ジュース片手に参加することもあります(笑)
晩酌中は仕事の話から雑談までざっくばらんに会話しているのですが、日常的に心地良くコミュニケーションをとる時間を持つことが夫婦円満につながっている気がします。
――お子さんにもいい影響を与えているんですね。
子どもの目の前で両親がお互いにフォローし合って、それぞれが仕事や家事をする姿を見せることも、教育上良い影響があると感じています。夫は「家事はできるほうがやればいい」と考えていて、私が仕事でバタバタしている時は何も言わずにお迎えに行ってくれますし、洗濯や掃除も分担しています。そんな夫の姿を見ているからか、子どもたちも自然と家事を手伝ってくれるようになりました。
――最後に、これからはどんなはたらき方をしていきたいですか?
いろいろやりたいことがあって、手帳に『人生のTODOリスト』を書き溜めているので、一つずつ実現させていきたいです。「人に何かを教えるワークショップも開催したい」という仕事の目標もあれば「漫画部屋を作りたい」「おばあちゃんになったら髪の毛をピンク色にしたい」という目標もあります。
「人に何かを教えるワークショップも開催したい」という目標ができたきっかけは、先ほどお話しした息子の学校での『お仕事紹介』の授業です。もともと人に何か教えるのは苦手だったんですが、人に教えることで逆に自分も誰かから気付きを与えられることがあり、「教える」ということに興味を持ちました。放置すると熱が冷めてしまうので、「やりたい!」というワクワクした気持ちがあるうちに挑戦していきたいです。
(文・秋カヲリ 写真提供:よこみねさやかさん)
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