高卒バイト→22歳で年商20億 CoCo壱FC社長「経営会議でわんわん泣いた‥」社長2年目の葛藤

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今回お話を聞いたのは、高校時代に始めたカレーハウスCoCo壱番屋(以下、ココイチ)のアルバイトをきっかけに、22歳という若さでフランチャイズ運営会社「株式会社スカイスクレイパー(以下、スカイスクレイパー)」の社長に就任した諸沢莉乃さん。スカイスクレイパーは、ココイチを中心に飲食ブランドの本部と契約を結び、フランチャイズ店舗を運営している会社です。
諸沢さんは就職活動や社員経験を経ず、アルバイトから直接スカウトされて社長に就任するという異例のキャリアを歩んできました。
今でこそ華々しいキャリアに見えますが、最初から特別なビジョンや目標があったわけではないそうです。社長就任前は周りが進学や就職を選ぶ中、「この道で本当にいいのかな」と不安や焦りを抱いた時期もあったと言います。
そんな彼女が“楽しさ”や“人のために”という想いを軸に、自分らしいキャリアを築いていくまでの軌跡に迫りました。
「まだやっているの?」の声なんかに負けない。評価や安定よりも大事なもの
──高校時代にココイチのアルバイトを始めたきっかけを教えてください。

高校1年生の七夕の日、家のポストに入っていたチラシを見たのがきっかけでした。周りの友達がアルバイトを始めていたころだったので、そろそろ私もやってみようかなと。ココイチのチラシには「友達と一緒に面接OK」「学業優先OK」と書いてあって、その条件だけに惹かれて友達と一緒に応募しました。
だから、当時は時給や昇給なんてまったく気にしていなくて、実はそれまでココイチに行ったこともなかったし、カレーが特別好きだったわけでもないんです(笑)。なんとなく、という感じで始めましたね。
──実際にココイチではたらき始めていかがでしたか?
いざ始めてみると、全然仕事ができなくて。同期9人の中で、私が一番下っ端。後から入った子にもどんどん抜かれていって、任される仕事も一番少なかったです。「私、向いてないのかも」と、めちゃめちゃ思いましたね。
──それでも、辞めようとは思わなかった?
最初は仕事ができなかったけれど、それ以上に楽しい気持ちのほうが大きかったんです。店舗には同年代のスタッフが多くて、放課後の学校みたいな雰囲気で。はたらいていくうちにお客さまと接するのもだんだん楽しくなっていって、接客の面白さに気付き、最初は週2〜3回のシフトだったところから毎日行くようにまでなっていました。お客さまが笑顔になってくれるのがうれしくて、どんどん仕事にのめり込んでいきましたね。
──その後、諸沢さんが成長を遂げられたきっかけを教えてください。
きっかけは、高校時代に出会った先輩スタッフでした。彼女は私がはじめて「こういう女性になりたい」と思えた人で。いつも明るくて綺麗で、どんなときもネガティブなことを言わない。そんな彼女がフランチャイズ本部主催の「全国接客コンテスト」に出る姿を見て、私もあんなふうになりたいとあこがれるようになったんです。
そこからさらに仕事に情熱を注ぐようになり、私も接客コンテストに出場した結果、決勝進出を果たしました。スカイスクレイパー社内でも「すごい高校生がいる」と言っていただけるようになり、いろいろな店舗のヘルプに行って、同年代の子に指導する機会もいただきました。電車に乗って他店舗まではたらきに行くこともあったのですが、もはや趣味のように楽しんでいましたね(笑)。
──そこからずっとココイチでのアルバイトに専念されていたのでしょうか?
一度だけ、ココイチ以外のことに挑戦したことがあります。
「やりたいこともないのに大学に行くのはどうなんだろう?」と進路に悩んでいて。だったら人のためになることがしたいと、高校卒業後、大学へ行く代わりに募金活動を主体としたボランティア活動を始めました。

ただ、実際に助けた人の顔が見えなかったので、徐々にもどかしくなってしまって。募金活動をしていると、通りすがりの人に「うるさい」などと怒鳴られてしまうこともあり、いろいろなことが積み重なって、楽しくなくなってしまったんです。ボランティアに行く日の朝は、ベッドからなかなか出られなくなるほどでした……。
そんな時、たまたま店舗を巡回されていた当時のスカイスクレイパー社の社長から「遠くの人を助けるのも素敵だけど、近くの人を育てることも“人のため”になるのでは」と声をかけていただいて。社長の言葉で、私がやりたかったことはスカイスクレイパーでできるし、「やっぱり私はスカイスクレイパーがいい」という気持ちに気付けました。
それからはココイチ一本に絞って、アルバイトとして育成や接客の仕事に集中するようになりました。
ただ、周りの友人が大学生活の様子をSNSに投稿しているのを見て、時に羨ましく思うこともありました。友人からは「まだやっているの?ココイチ(笑)」と言われることも。「私が決めたことなのに、そんなふうに言われるのは悔しい!」と、そのときから「悔しさ」がはたらく一つのモチベーションになっていきましたね。自分の軸を揺るがせて、人に合わせたはたらき方はしたくないとあらためて気持ちが固まりました。
──「バイトではたらいているココイチのお店で店長になる」など、その後のビジョンは明確に決めていたのでしょうか?
まったく決めておらず、社員になろうとも思っていませんでした。実際、スカイスクレイパーの社員さんからは何度も「社員にならないか」と声をかけられていたんです。ですが、私は学生アルバイトの身近な存在として、皆さんを勇気づけたかったんです。幸い、当社はアルバイトでも責任ある立場を任せてもらえる環境だったのもあり、安定や昇給より自分の想いを大切にアルバイトとしてはたらくことを選択していました。
バイトから20歳で社長へ。想いはそのままに、自分らしく歩み続ける
──高校卒業後もココイチで活躍を続け、20歳で接客検定「ココスペ『スター』」を最年少で取得されたと聴きました。検定の内容や当時の状況を詳しく教えてください。
「ココスペスター」とは、株式会社壱番屋(ココイチフランチャイズ本部)が認定する接客検定「ココスペシャリスト」の最上位です。本部の担当者がフランチャイズ会社が運営する店舗にも訪問し、接客・調理・店舗運営などを審査します。初級、3級、2級、1級、最上位である「スター」へと、段階的にレベルが上がっていくんです。
1級合格者の中から各店舗の運営会社社長による推薦を受け、さらに本部による実技審査を経て認定される最上位「ココスペ『スター』」。スカイスクレイパーの社長は普段から店舗を巡回して現場スタッフをよく見ているため、日々のはたらきぶりが推薦につながります。当時この称号を持っていたのは、スカイスクレイパー社内ではわずか2名だけでした。
当社ではアルバイトにも日報の提出を推奨しているのですが、私は一度も欠かさず記入し、ほかのスタッフへのコメントも積極的に行っていました。運営業務においては、検定とは別で月一回本部の抜き打ちチェックがあったので、そうした日々の積み重ねも、スカイスクレイパーや本部の方の目に留まっていたのかもしれません。
当時の私は検定の内容をあまり知らなかったのですが、ある日スターの特別な制服を着たスタッフを見かけて、そのかっこよさに心を奪われました。そこから「私もなりたい!」という気持ちを周囲に何度も伝えていたんです。伝え始めたころは「接客1級を数年経験した人しか対象になれない」という条件があり、私は対象外でした。ですがちょうどその条件が見直されたタイミングで、私の想いを聞いていた当時のスカイスクレイパーの社長がすぐに推薦してくださったんです。
その後、本部による正式な審査を受け、無事に合格。最年少で社内3人目となる「ココスペ『スター』」に認定されました。
──日ごろから目の前の業務に真摯に向き合っていたことが、推薦につながったのですね。その後、社長就任の話を受けたのはいつごろだったのでしょうか。

ココスペスターを取得したお祝いの食事の場で、当時のスカイスクレイパーの社長から話を受けました。最初は、本当に冗談だと思っていたんです。私はまだ20歳でしたし、信じられなくて。でも、それ以降会うたびに「諸沢が社長になればスカイスクレイパーがもっとよくなる」と何度も話をしてくださって、「本気なんだ」と。はじめに話を受けてから、数日後にようやく気付きました。
本気だと知った後は、不思議と悩むことはなかったです。改めて考えると、当時の私、ちょっとおかしいですかね?(笑)怖いもの知らずなので、「任せていただけるなら、なんでもやらせてほしい」と素直に思ってしまうんです。できるかという不安より、できないからこそ挑戦してみたいというワクワクが勝っていましたね。
ただ一点、「社長になることでアルバイトの方たちとの距離ができてしまうのでは」という不安はありました。当時の社長に伝えたところ、「現場を大切にする社長でいてほしい。無理にデスクワークを中心にするようなスタイルを目指す必要はないし、これまで通り現場に入り続けて良い」と言ってもらえて。社長という立場になれば、「人のために貢献したい」というずっと抱えていた想いを持って、これまで以上に多くの人の役に立てるかもしれない。自分の大切にしている価値観をそのままに、より広い視野で人のためにはたらけるならやってみようと、決意を固めました。
他人と比べなくていい。あなたがどうありたいかで未来は変わる
──社長就任後、業務はどのように始まっていったのでしょうか?
最初は店長を経験したことがなかったので、3カ月限定で、ある店舗の店長を任されました。初めての店長経験や経営会議は本当に大変で、数字や経営に関する専門用語も分からず、会議中にわんわん泣いてしまったことも……。計算の際に思わず手を使ってしまい、「手を使うな」と注意されたこともあります(笑)。
もともと私は経営や数字に向き合うよりも、現場でお客さまやスタッフと関わることのほうが向いているタイプ。苦手領域に取り組むのは辛い時もありますが、その分新しいことができるようになったときはとても面白いですね。経営会議に参加するメンバーには数字や人事に知見が深い方も多く、皆さんに支えてもらいながら、少しずつ私も学びを深めているところです。
最近では、店舗の修理対応など小さな判断を任されることも増えてきました。最初は、「社長なのにこんなことも分からないのか」と思われたくなくて、聞くのが恥ずかしくなることも。ですが、現会長や周囲の方と関わる中で、「分からないことは素直に聞く。答えだけでなく、考え方や判断のプロセスまで吸収する」のが大切だと気付いたんです。周りの方から貪欲に学びを吸収するために、恥を捨て、判断力を育てています。
──諸沢さんの真摯な姿勢があるからこそ、きっと周囲の方々も手を差し伸べてくれるんですね。現場を大切にされている諸沢さんが、社長として大切にしていることも教えてください。
学生スタッフであっても社員であっても、ココイチを離れても「この場所ではたらいた時間は青春だった。充実していた」と思ってもらえたら何よりうれしいですね。
ココイチがはたらく時間の中で、人として成長できるきっかけを提供できる場所であってほしいと常に思っています。アルバイトの時も、社長になってからも「人のために」が原動力であり、何より大切にしていることですね。
──諸沢さんのように「人のためになりたい」などの想いや、「好き」がある方ばかりではないかもしれません。そうした方が自分らしいはたらき方に向けて動き出すには、どんな一歩から始めると良いでしょうか?

もしかすると、自分の中でハードルを高くしてしまっているのかもしれません。まずは「どんな部屋に住みたいか」「どんな服を着たいか」など、身近な理想から考えてみてください。
「自立したい」「かっこいい自分でいたい」といった理想が浮かんできたら、「そのために何が必要か?」をどんどん掘り下げていく。そうすると、少しずつでも自分のありたい姿が見えてくるはずです。
まずは、自分自身の理想やビジョンを大切にして、「自分のために」頑張ってみてください。他社や会社のためじゃなくても、「自分は将来こうなりたい」「この仕事に学びたいことがあるか」という視点で仕事に向き合えば、やる気にもつながりやすいと思います。
──最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?
一番大切にしてほしいのは、「楽しい」という気持ちです。何かを始めるときに感じるに「面白そう」「やってみたい」は、自分を動かす大きな原動力になります。
周りの目や評価も、気にしすぎなくて大丈夫。たとえ前が見えなくても、その歩みを見ている人はきっといます。思いがけないきっかけで、頑張りが仕事やご縁につながることもあるでしょう。
どんな環境でも、人は花を咲かすことができます。だからこそ、目の前の心が動く瞬間を大切に、今を一生懸命に進んでみてください。
(「スタジオパーソル」編集部/文:朝川真帆 編集:いしかわゆき、おのまり 写真:朝川真帆)

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