YouTuberとしての苦悩、どう乗り越えた?ほしのこさんの専業主婦から起業家への道のり
アラサー世代の女性は仕事とプライベートに悩む人も多いもの。そんな中、主婦YouTuberの先駆けとして注目され、収納・料理などの家事コンテンツで人気を集めているほしのこさんは、登録者数44.7万人ものYouTubeチャンネルを更新しながら育児も両立しています。昨年には自身のアパレルブランド『Aprily(アプリリー)』をオープン。完売アイテムも多く、好調な滑り出しです。
ほしのこさんは企業案件も多く、YouTuberとして順調なキャリアを築いているにもかかわらず、未経験のアパレル事業に踏み出し、初書籍も出版するなど、新しい挑戦をし続けています。YouTuberとしての苦悩やアパレルの起業ストーリーを辿りながら、未経験でも挑戦して成功させる秘訣について伺いました。
誹謗中傷に負けなかったから今がある
――ほしのこさんがYouTuberになったきっかけは?
ブログなどで情報発信するのはもともと好きで、YouTuberという言葉がない頃からテレビよりもYouTubeを見ていて、ずっと「私もYouTuberになりたい」って思っていたんです。初めてYouTubeに動画投稿したのは、結婚して2年目、子どもが生後半年を迎えた25歳の時。出産を機に仕事は辞めていましたし、育児にも慣れてきたので、始めるなら今だ!と思いました。
主婦らしい家事系の動画を中心に投稿して、2カ月くらいで登録者数が数千人規模になりました。当時はまだ主婦YouTuberが少なかったので、いい意味で目立っていたんです。それで4カ月めにYouTuber事務所のUUUMにお問い合わせフォームから所属希望の連絡をしました。
「私は主婦なので、家事や収納などの主婦向けコンテンツを発信できます」と自己アピールして、すぐに所属が決まりました。ヒカキンさんやはじめしゃちょーさんなど、スタークリエイターの方がたくさん所属している事務所の一員になれて、すごくうれしかったですね。
――大好きなYouTuberになってみて、想像とのギャップを感じることはありましたか?
有名になるにつれて、視聴者さんから良いコメントも悪いコメントもたくさん届くようになり、最初の1年間は心のコントロールができませんでした。YouTuberになる前はブログも更新していましたが、反響が段違いで……覚悟が足りていなかったなと思います。
特に家事は人それぞれマイルールがあるので、意見も十人十色なんですね。私の家事や料理のやり方についてさまざまな指摘をもらいましたし、誹謗中傷もありました。学びになる意見はちゃんと受け入れようと思っていますが、誹謗中傷はうまく受け流すことができなくて苦しかったです。
――誹謗中傷もあった中で、どうやってモチベーションを保っていたのですか?
YouTuberとしてはたらくのは私の目標だったので、やめるという選択肢はなかったです。「せっかく実現できたんだから、アンチに負けるもんか」と思って踏ん張りました。それに、視聴者さんや事務所の人など応援してくれる人のほうが多いこともわかっていたので、サポートしてくれる人たちに応えたい気持ちがエネルギーになりました。
YouTuberになって最初の1年間は一番しんどかった時期ですが「たくさんの人に見られるということは、たくさんの意見をもらうってことだ」って覚悟ができて、鍛えられた時期でもあります。ここであきらめていたら今の自分はなかったし、YouTuberとしてのキャリアも築けていないので、踏ん張って良かったなと思います。
――視聴者とのコミュニケーションで意識していることはありますか?
視聴者さんを不快させたり勘違いさせたりするコンテンツを発信してしまったら、絶対にスルーしないですぐに対応するようにしています。視聴者さんは私の説明を求めているので、自分が悪いと思ったら謝罪して訂正しますし、あまりにも誹謗中傷が多かったら、投稿を削除する前に「こういうコメントが多かったので削除します」と、理由を説明するようにしています。
ネガティブなコメントは「スルーしたほうがいい」という意見もありますが、それだとみんなモヤモヤしたままになっちゃって、お互いに良いことがないんですよね。視聴者さんが納得できるように説明しないと、応援してくれている方にも「どうして説明してくれないんだろう」と不信感を与えてしまって、ネガティブな反応がどんどん増えていってしまうんです。
大体の炎上は小さな火種から始まっていて、「まあいっか」って放置しているうちにどんどん燃え広がって、手がつけられないくらいの炎になります。そうすると、もう怖くて何もできなくなっちゃう。だからそうなる前に対応するのが大事だと思っています。
――「そこまで気にしなくても」と思うような細かい指摘もありますが……。
誹謗中傷以外のコメントは、たとえ自分と違う考え方でも「そう思う人もいるんだな」と思って受け入れます。たった一言のコメントでも、その人が本当に私に変わってほしいと願って言っているのか、ただの誹謗中傷なのか分かるんです。だから私のことを思ってアドバイスしてくれる視聴者さんには、なるべく真摯に向き合うようにしています。
その一方で、私に完璧な理想像を求めていて、その理想とのギャップでがっかりしてしまう方には「がっかりされてもしょうがない」と割り切っています。私の動画をよく見てくれている視聴者さんは、私の抜けている部分も理解してくれていて、完璧にできなくてもすぐ幻滅したりしません。ちょっとしたことで幻滅してしまう方の指摘まで全部受け入れていたら自分が持たないので、自分に明確な落ち度がなければ気にしないようにしています。
YouTuberじゃなくなっても、生き延びる力をつけるために起業した
――ほしのこさんは自分で起業して、昨年オリジナルのアパレルブランド『Aprily(アプリリー)』をオープンました。YouTube以外の仕事に挑戦した理由は何でしょうか。
小さいころから美術や図工が好きで、頭の中にあるイメージを形にするのが得意だったので、ものづくりの仕事に興味があったんです。YouTubeの主婦向けコンテンツで影響力を持てるようになった今の自分がものづくりをするなら、アパレルが一番向いていると思いました。あと、YouTubeは人気商売でいつ数字が落ちるか分からないので、ほかにも仕事の軸をつくって何かあっても立ち直れるようにしたかったんです。
YouTubeでの出会いも背中を押してくれました。YouTubeの撮影でお邪魔した韓国雑貨のセレクトショップのオーナーさんが「アパレルや雑貨のセレクトに興味があるなら、一緒に韓国の卸売場に行ってみる?」と誘ってくれたんです。それで韓国に行って、実際にセレクトをしてみたらすごく楽しくて、当初はセレクトショップとして『Aprily』を立ち上げました。
――最初はアパレルブランドではなくセレクトショップを運営する予定だったんですね。
はい。でも、本格稼働しようと思った矢先にコロナ禍になり、韓国に行けなくなって……。オンラインで買い付けるのも検討したんですが、実際に商品を見てみないと品質が分からないんですよね。届いてみたらとても売れない状態だったりして、そのまま約2年もストップしてしまいました。
セレクトショップのほうがリーズナブルな商品を提供しやすいんですが、たとえ安くても品質が悪かったら意味がないので、だったら多少値段が上がっても品質が良いオリジナルアイテムを販売しようとオリジナルブランドに切り替えました。自分で納得できる良質な製品であれば自信を持って値段をつけられますから、何度も試作を重ねてこだわりながら作っています。
――YouTuberなどのインフルエンサーがアパレルに携わる時は、別の企業といっしょにプロデュースという形で関わるのが一般的ですが、あえて自分で会社を立ち上げたのはなぜですか?
自分がほしのことして積み上げてきた信頼や影響力を、そのまま視聴者さんに還元したかったからです。ほかの企業といっしょにやるとなると、関わる人が増えて仲介手数料のような費用が膨らみがちなので、だったらその分いい商品を作って、少しでもリーズナブルな価格で提供したいと思いました。
――とはいえ、YouTube活動や主婦業と並行して未経験のアパレル事業を立ち上げるのは大変だったのでは?
最初は商品化の流れも流通の仕組みも何もわからず、めちゃくちゃ大変でした(笑)。「アパレルは横のつながりが大事だよ」と聞いて、アパレル経験者の方を紹介してもらって人脈を作るところからのスタートでしたね。
ありがたいことに、YouTubeで「アパレルブランドを立ち上げます」と発表したらいくつかメーカーさんからお問い合わせいただいて、ご紹介とお問い合わせのご縁で何とか形にしていきました。
――立ち上げてからはどのように運営しているんでしょうか。
立ち上げた当初はスタッフさん1人と私の2人体制でしたが、今は社員4名と外部デザイナーさん2名、外部MDさん1名、私と夫の計9名で動いています。デザインを考えるのは主に私ですが、洋服の知識がないのでそれをデザイナーさんに見てもらって、実現可能なデザインに調整してもらい、メーカーさんに制作を依頼して商品化します。スタッフさんには業者さんとのやり取りやSNSとWebサイトの更新、検品や発送までやってもらっています。
――特に苦労したことは何ですか?
人を動かすのに苦戦しました。YouTubeは基本的に自分だけで企画から撮影まで行うので、思い描いているものをそのまま形にできます。でもアパレルはいろいろな人の手を借りて一緒に作り上げるので、思い通りにならないこともあって。どうしても同じイメージを持てず、チームから外れてもらったデザイナーさんもいます。「どうすれば認識のすり合わせができるんだろう?」という点は、特に悩み試行錯誤しました。
――チーム内のコミュニケーションで意識していることはありますか?
言葉や声や顔色一つで相手に与える印象は変わるので「明るく・丁寧に・笑顔で」接します。どんなに忙しくてもそっけない文章で返信したり、低いトーンで話したりはしませんし、口角もできるだけ上げています。
スタッフさんにもそう心掛けてほしいので、接していて「ん?」と引っかかることがあったらその都度指摘します。モヤモヤしながらだと楽しく仕事できませんから、その場ですぐ言いますね。はっきり指摘する分、相手が落ち込まないように「めちゃくちゃ感謝しているし、今後のことを思って言っているからね」と前向きな言葉を選んでいます。
挑戦すれば応援され、続ければ自信になる
――育児・家事をしながら、YouTubeやアパレルなど次々に新しいことに挑戦するモチベーションは何ですか?
応援してもらえる存在でいたいからです。私が何も挑戦しなくなったら、視聴者さんも応援したくなくなって、動画を見てもらえなくなると思います。YouTuberの仕事は数字ありきですから、動画の視聴回数が落ちれば企業からの案件もなくなりますし、動画の広告収入もなくなります。どんどん変化する時代に活躍したいなら、自分も新しいことにどんどん挑戦して変わり続けなきゃって思うんです。
YouTuberやインフルエンサーでなくても、常に目標を掲げて行動している人は応援したくなりますよね。今こうして取材していただいているのも、私がYouTubeやアパレルの仕事に挑戦したからで、現状に満足して何もしていなかったら誰からも声がかからないと思います。だから今の自分に満足せず、新しいことに挑戦してステップアップし続けて、応援してもらえるように頑張ります。
――ほしのこさんは、次々に挑戦して成功させる行動力と継続力がありますね。
よく視聴者さんから「私もYouTubeで発信してみたいけど、自信がないです」というDMをいただくんですが、経験しないと自信は生まれないと思っていて。もし失敗してもそれが自分の経験になるし、乗り越えないと自信がつかないので、とにかくやってみるのが大事だと考えています。
私は一度決めたことは絶対に続けると決めていて、それ以上に挑戦したいことを見つけるまではあきらめません。YouTuberになって最初の1年間はアンチに悩みましたが、そこであきらめていたらなんの自信もつかなかったんじゃないかなと。今は、その時あきらめずに継続して乗り越えた自分を誇りに思っています。
前向きに続けられるものは自分に向いているものだから、続けてさえいれば絶対に結果がついてくると、私は信じています。「失敗するかも」と思って続けるのと「絶対にうまくいく」と思って続けるのとでは、結果も違ってくるんですよね。だから前向きに継続して乗り越えるのが自信の種であり、成功の鍵だと思っています。
――おっしゃる通りですね。これからはどんな活動をしていきたいですか?
YouTuberとしての需要がいつまで持つかわからないので、アパレル然り、YouTuber以外の仕事を継続しつつ広げていきたいです。まだ具体的には決まっていませんが、30代は癒しを与えられる事業も立ち上げたいと思って、今そこに向かって動いています。
どんどん挑戦している私の姿を発信して、「私も頑張ってみよう」と思うきっかけになれたらうれしいです。
『Make My Best Life 私らしい部屋づくりの秘訣』(著:ほしのこ 出版:KADOKAWA) https://www.amazon.co.jp/dp/4046052910/ |
(文・秋カヲリ 写真提供・ほしのこさん)
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