ユニクロ社員からプロゲーマー転身のたぬかな経歴。炎上し解雇、父が遺した借金500万返済後の仕事観

2025年1月30日

「身長170㎝以下は人権ない」

元プロゲーマーのたぬかなさんは、この発言で炎上し所属チームを解雇されました。
1年間の活動休止を経て、父親が遺した借金500万円を返済するために雑談配信者へ転身。炎上を経て「好かれなくてもいい」と考えるようになり、振り切った発言で再注目され、炎上時は4万8000人だったXのフォロワーは2025年1月時点で24.6万人と約6倍に。2024年11月に初著書『社会的弱者との生配信ルポ』(星天出版)も出版しました。

「話題の人気配信とこれまでの半生を綴った「社会的弱者との生配信ルポ(星天出版)」

炎上して「人に好かれたい」と思わなくなり、自己承認欲求もなくなったと言うたぬかなさん。プロゲーマーになるまでのキャリアや炎上した理由、なぜ配信者になったのか、好感度を捨てて発言できるのかに迫りました。

田舎の鉄拳好きな女子高生が、日本2人目の女性プロゲーマーになるまで

―格闘ゲーム「鉄拳」を始めたきっかけは?

高校で鉄拳が流行っていて、負けず嫌いだったから「誰にも負けたくない」と思って猛練習したんですよ。地元の徳島で、チャリで45分かけて1プレイ50円のゲーセンに通いました。初めて参加した鉄拳の大会で優勝してから、地方のゲーセンにも遠征して地元の鉄拳勢と対戦するようになりました。

―高校卒業後は何をしていましたか。

建築業界の闇が詰まった設計事務所ではたらいていました。タイムカードも押さずに毎日15時間労働して、残業時間は月200時間、残業代は時給150円、手取りは月12万円。土日休みと聞いていたのに休日出勤は当たり前で、セクハラも日常茶飯事でしたね。

座る瞬間に椅子を引かれて、尻もちで痣ができた時に「労災下りますか?」と聞いたら「ちゃんとお尻の痣を撮ってきなよ」と笑われて、ストレスで髪の毛がごっそり抜けました。そのうち、突然失禁するようになっちゃったんですね。ローファーの中に溜まったおしっこをジャーッと捨てる惨めさと言ったらないですよ。鬱だって診断されました。

社長に辞表を持っていったら「人間関係の悩みで辞めるのは甘えだから。せっかく雇ってやったのに」ってさんざん文句を言われたけど、なんとか辞めました。当時は「やっぱり私が甘いんかな。はたらき続けたら、何か変わったんかな」と自分を責めていましたね。今でもセクハラ上司と2人きりになって肩を抱かれる夢を見るくらいにはトラウマです。

―無事退職できて良かったです……。それからなんの仕事をしましたか?

しばらくラーメン屋とレンタルビデオ屋とパチンコ店を掛け持ちしてフリーター生活を送ってから、ユニクロの正社員になりました。ユニクロの仕事はやりがいがあってすごく楽しかったんですけど、プロeスポーツチームの「鉄拳1名募集」という広告を見て「プロゲーマーになりたい」と思ったんですね。

社会人になってからも鉄拳の大会にちょくちょく出ていて、すでにバンダイナムコゲームスから鉄拳の大会出場を依頼されるセミプロにはなっていたんです。23歳でユニクロを辞めて徳島を出て、チームの本拠地・大阪に引っ越してプロゲーマーになりました。

―それから配信を始めたんですか?

所属チームに「配信をやれ」と言われたので。最初は鉄拳のゲーム配信をしていたんですけど、だらだら雑談しているほうが視聴者数が伸びて「プロゲーマーなのにゲーム配信を求められないなんて」って凹みましたね。毒舌トークをすると受けが良いから、キャラを尖らせるようになっていきました。

でも、このころが一番幸せだったんじゃないかと思いますね。もっと有名になりたくて上しか見ていなかったですし、「日本で2番目にプロゲーマーになった女性」ってメディアに取り上げられて、天狗になっていました。

大炎上して無職に。父も亡くして借金500万円だけが残り、配信者へ

―その後に「170㎝以下は人権ない」という発言で炎上したんでしょうか?

30人くらいしか見ていない配信で、低身長のウーバーイーツの配達員に自宅でナンパされた話をしたんですよ。「人権ない」って言葉はゲーム界隈のスラングで「そのステージに挑戦する資格がない」って意味なんです。高身長男性が恋愛対象なのと、普通に怖くて不快だったので「170cm以下は人権ないから」と言いました。

そしたらSNSで「身長170㎝以下の男は正直人権ない」って発言が切り抜かれて、ネットニュースどころかワイドショーでも取り上げられたんですね。スポンサー契約も解除されて無職になって、実家も特定されて嫌がらせの電話がたくさんかかってきましたけど、強がりなので平気なふりをしていましたね。

一番堪えたのは、周りにいた人が消えていったこと。仲が良いと思っていたゲーマーにフォローを外されて「みんなは私の人間性じゃなくスペックが好きなだけだったんだ」と思い知らされました。ゲーム界隈とは関係ない友達だけが「かなちゃんが本当に死んだらどうするんよ」って泣いて心配してくれて、その時だけ泣きましたね。

―無職になってからどうしましたか?

家でゲームして寝るだけの廃人生活を半年くらい続けてから、深夜の銭湯で清掃したり、四谷のガールズバーではたらいたりして、細々と暮らしていました。生活費は稼がないといけないですから。

―そこから、なぜ復帰したのでしょうか。

500万円稼がなきゃいけなくなったからです。炎上した年の暮れにオトンが死んで、500万円の借金が遺ったんですよ。すぐに支払わないと実家が担保に取られて、オカンとばあちゃんの住む場所がなくなっちゃう。「私が稼ぐしかない」って腹を括って、配信に復帰することにしました。ちょうど炎上から1年経っていましたね。

―反響はどうでしたか?

叩きに来る人もいましたけど、逆に開き直って自分の意見を話していたら批判と肯定が半々くらいになって「配信なら500万円稼げそう」って手ごたえを感じました。それから配信を続けて、半年後に完済しています。

オトンが借金を遺したのはいい迷惑ですけど、がんばれたのもオトンのおかげかもしれませんね。私がプロゲーマーになってちやほやされていたころ、オトンは「お前は調子に乗っとる。いつか足元をすくわれるぞ」と予言していたんです。炎上して無職になって、オトンが亡くなる直前に実家に帰ったら「嫌がらせの電話かけてくるようなしょうもないヤツに負けんな。ピンチはチャンスやから、がんばれよ」と言われました。借金を完済した直後の配信でオトンの動画を見ていたら、やっぱり泣けました。

炎上で承認欲求がなくなり、好感度に囚われなくなった

―たぬかなさんの配信の視聴者に、貧困やコミュ障といったハンディキャップを持つ「弱者男性」が多いのはなぜですか?

弱者男性って、自分の存在自体を無にされることがすごく多いんですよね。家にこもってる人が多いから、存在を消されてしまう。みんな「まさか本当にそんなヤツいないだろう」って思っているんですよ。

だからこそ「こういうヤツがいるんだよ」って発信して存在を認めてやると喜ぶんです。「かわいそうだよな」って言われるだけでも分かってもらえた気がして、救われるらしいですよ。

―改めて炎上を振り返って、どう思いますか?

炎上なんてろくなもんじゃないけど、私の人生では正規ルートだったと思っています。炎上前は友達に「金は出してやるけん、さっさと来いや」って食事に誘うくらい性格が悪かったんですよ。

でも炎上してもそばにいてくれた友達が「私はかなちゃんがプロゲーマーだったから好きなんやないよ。お金を稼いでるから一緒におるんじゃないよ。そんなんじゃなくて、かなちゃんやから一緒に遊びたいんよ。人としてちゃんと好きなんよ」って言ってくれて、悔い改めました。今は「かなちゃん、優しくなったね」って死ぬほど言われます。

―炎上前とはたらき方は変わりましたか?

炎上して叩かれまくってから「人に好かれたい」と思わなくなって、媚びなくなりました。自分が思ったことは言うし、嫌なことはやらない。それで万人に好かれるわけないから、全員に受け入れてほしいとも思ってない。それでいいって考えるようになって、楽になりましたね。炎上で自己承認欲求もなくなったので、悠々自適に暮らせるだけの金を稼ぎ切ったら、配信活動も辞めてひっそり暮らしたいです。

―「好かれなくてもいい」と思えるようになったんですね。

周囲の意見に流されない人間って2割しかいないらしいんですよ。8割の人間は世論に流されるんです。その8割に媚びてもしょうがないでしょう。私は周りに流されない2割の人間しか大事にしないって決めたから、残り8割が私を好きだろうが嫌いだろうがどうでもいいです。

炎上前の私もそうでしたけど、みんな「いい人だと思われたい」って気持ちがすごく強いんですよね。いい人って思われるには、思っていても言っちゃいけないことっていっぱいあるじゃないですか。好感度を捨ててからはそれが言えるようになって、かえって「よく言ってくれた」って喜ぶ視聴者が増えたように思います。

今死ぬほどキツい人は、まず “いい人”を辞めて、一回開き直ってみてほしいです。私はそれで今のところ、そこそこ楽しいので。

(文:秋カヲリ 写真:夢一平)

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エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

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