香港料理店のおじさんの一言が「仕事が楽しい」と思えない私を変えてくれた話

2021年12月16日

スタジオパーソル編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。
今回は、自分にとっての「はたらき方」について語る「#私らしいはたらき方」投稿コンテストで、パーソル賞を受賞した記事をご紹介します。

執筆者は、企業で企画広報を担当する、りりあさん。前職ではたらいていた時は「仕事が楽しい」と思えず、旅行で訪れた香港の海鮮料理店のおじさんの一言で、転職を決めることに。「仕事が楽しい」と思えるようになるまでの紆余曲折をnoteに投稿しました。

「仕事が楽しい」と思えなかった新卒時代

りりあさんは、新卒で損害保険会社のサービス部門に所属し、過失割合の交渉などを担当していました。

「社会人として知識のない自分を雇ってくれるなら」と誰よりも早く出勤して掃除をしたり、電話は一本でも多く取り、積極的に学ぶ姿勢を持って懸命に取り組んでいましたが、自動車事故という重い内容や、顧客からのクレームに負担を感じてもいました。一方的に罵声を浴びせられたり、職場に乗り込んで密室で説教されたりと、ストレスを感じる出来事がいくつもあったのです。

そもそも私の力で過失割合や契約内容、車の修理金額、ましてや法律が変わることはない。
どうにもならないのに、ただただ言われ続ける。大きなサンドバッグになった気分だった。

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話 より

ある日、ついにりりあさんは上司に相談します。

「仕事ってどうやってやれば良いんでしょうか。私にはうまくできません」

その時の上司の答えは、こうだった。
「あなたは、よく頑張ってるよ。この前も、表彰されたでしょう? 周りの先輩たちもよく褒めてる。ただ、あまり感情移入しすぎてはいけないよ」

無理だ、と思った。

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話 より

りりあさんは怒りや悲しみをぶつける当事者の気持ちを想像するがゆえ、「感情移入しすぎてはいけない」というアドバイスに対応できないと思ったのです。
その後、異動の辞令が出て新しい環境に移ることになりましたが、りりあさんは次の職場も決まらないまま会社を辞めます。

そのきっかけとなったのが「香港の海鮮料理店のおじちゃん」です。

会社を辞める前に長期休暇を取り、父の故郷でもある香港へ旅行に出かけたりりあさんは、お母さんが気に入っている海鮮料理店を訪れました。有名店ではなくお世辞にも綺麗とは言えないお店ですが、とにかく料理がおいしく、現地のお客さんで満員御礼の人気店です。

そのお店に行くのは初めてではありませんでしたが、その日はなぜか、お店に対していつもよりも強く魅力を感じました。理由を考えてみると、お店の雰囲気そのものが活気に満ち溢れていて、忙しくてもニコニコ笑顔で走り回っているおじさんの表情が料理のおいしさを底上げしていることに気づきます。

そうか。
このお店の魅力は料理だけじゃない。
それに気づけた自分が、ちょっぴり嬉しい。

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話 より

すると、おじさんに日本語で「オイシカッタデスカ?」と話しかけられ、りりあさんは「とてもおいしかったです」と返してから、ある質問をぶつけました。

「どうしてこんなに忙しいのに、あなたは笑顔なんですか?」
広東語がわからなかったから、英語で聞いた。

「ドウシテ? ウーン……ウン。シゴトガ、トテモタノシイカラ!」

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話 より

おじさんの言葉を聞いて、りりあさんの心はズキンと傷みました。
入社してから2年が経っていましたが、「仕事が楽しい」と感じたことが一度もなかったからです。

この言葉がきっかけで「笑顔になれる仕事をしよう」と決意し、仕事を辞めたのでした。

人の言葉に背中を押され続けた

職探しをしながら手続きのために通ったハローワークでも、あるおじさんとの出会いがありました。

窓口のおじさんに経歴を書いた書類を渡すと、目を丸くして
「あなたは、本当に仕事に一貫性がないね」
と言われて不安になりましたが、思わぬやさしい言葉が続きました。

「いやいや、驚いてしまって。営業だったら営業一筋、接客なら接客を貫く人も多いから。早稲田の文化構想を出て、野球場のビールの売り子にカフェ、それから文章を書く仕事、事故の示談交渉?大手の会社を辞めてきたんだねえ。好奇心が旺盛なのはいいこと。あなたはまだ若いし、きっと大丈夫だよ」
おじさまは柔らかく笑ったあと、その後の書類の書き方や手続きについて丁寧に教えてくれた。

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話 より

これまでたくさんの人に「大手の会社を辞めるなんてもったいない」と言われてきた、りりあさんにとって、救いになる言葉でもありました。

転職活動の末、今までとはまったく違う企画・広報の仕事に就くことが決まった時も、おじさんからエールをもらいます。

「おめでとうございます!次の仕事は……なるほど。今度は企画と広報か。前職とは全然違うことにチャレンジするんですね。応援しています」

おじさんに会ったのはそれが最後だったけれど、今思えば、あの人も、香港のおじちゃんに表情がちょっと似ていたかもしれない。

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話 より

友達に転職祝いをしてもらった韓国料理店でも、店員さんからの言葉に背中を押されます。

「転職をしたいしたい、って言う人は多いけれど、実際に行動に移すのはすごく難しいじゃないですか。だから、あなたは凄いです。新しい場所で新しいことが始まる。だから、おめでとう、です」

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話 より

今までとはまったく違う仕事に就くこと、新卒で入った会社を3年経たずに辞めることなど、世間の常識と当てはめたら不安になるポイントがいくつもあり、どこかで迷いを抱えていた、りりあさん。
それでもいろいろな人の言葉が不安を和らげ、転職する勇気をくれました。

前職では顧客からのクレームなど、人からの言葉にストレスを感じて「仕事が楽しい」とは思えなかったりりあさんですが、仕事を楽しむための新しい選択を後押ししてくれたのも人からの言葉です。
迷った時は思い切って人に相談してみれば、力になる言葉をもらえるかもしれません。

「仕事が楽しい」と思えると、夢も広がる

りりあさんは転職してから5年が経った今も、企画と広報の仕事を続けています。
長く続けられているのは、ちゃんと「仕事が楽しい」と思えているからです。

やっぱり大変なことは山ほどあるけれど、それでも、それを上回る「楽しい」の瞬間がある。

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話 より

思い切って一歩を踏み出し、変わるための行動をしたからこそ、当時はまったく思えていなかった「仕事が楽しい」という感覚を手に入れられました。
そう感じられるようになった今、りりあさんの中には新しい変化も生まれています。

自分が笑顔になるために働きたいと思い、迷いもがいていた。
けれど、誰かが笑顔になってくれるものを創ることで自分が笑顔になれると気づいてからは、今の仕事を、より愛おしく思えるようになった。

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話 より

これまで仕事を楽しめず笑顔になれなかった過去がありますが、仕事を楽しめるようになってからは「自分だけでなくまわりの人も笑顔にしたい」と広い視野でビジョンを描けるようになりました。
それが仕事をがんばる原動力になり、

いつかは私の創る仕事が、香港で出会ったおじちゃんやハローワークのおじさま、韓国料理店の若い店員さん、それから私を支えてくれる家族や友人たちまでどうか届きますように、と願っている。
そのためにもっともっと努力して、人間としても社会人としても、成長したい。

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話 より

という夢につながっているそうです。

新しいことにチャレンジするのに、遅いことはない。
未来の中で一番若いのは、いつだって今だ。

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話 より

そう強く語るりりあさんのエピソードからは、今の仕事が楽しいと思えなくても、どれだけ迷いもがいていても、きっと大丈夫だと前を向くパワーがもらえます。

「仕事が楽しい」と、心から笑えるように──。自分が笑顔になるきっかけは、意外なところにあるのかもしれません。

(画像提供・りりあさん)

りりあ
食べる、書く、聴く、が好きな企画広報OL。早稲田大学 文化構想学部卒。香港と日本のハーフで、プロ野球とBTSが大好き。note「#私らしいはたらき方」コンテスト パーソル賞、TOKYOFM ×文芸社 コンテスト入賞、第2回お月見コンテスト 三日月賞を受賞。
https://note.com/24riria/

パーソルグループ×note 「#私らしいはたらき方」投稿コンテスト

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