仕事から逃げたかった私に、おじは特上にぎりと一生もののアドバイスをくれた

2022年12月16日

スタジオパーソル編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。
今回は、はたらくことの喜びや、はたらくなかで笑顔になれたエピソードについて語る記事をご紹介します。

10年以上前、看護師の仕事をしていたねじりさん。2年目を迎えても過度な緊張にさいなまれ、看護師の仕事を続けられるか不安になっていました。そんなねじりさんを変えてくれたのが、おじの意外な一言です。今でもはたらくうえで大切にしているおじの言葉について、noteに投稿しました。

血のつながらないおじがくれた“特上にぎり”に涙した

看護師になり2年目を迎えたねじりさんは「看護師に向いていないかも」と悩んでいました。
後輩ができても、まだ余裕がなく、毎日の仕事に必死だったからです。
なかなか覚えられず、緊張して失敗することも多くありました。

実家から離れた場所に住むねじりさんのよりどころになっていたのは、“おば”と“おじ”の家。
おじとは血縁関係がありませんが、小さいころからかわいがってくれる大好きな存在です。

仕事で落ち込んだある日、おばとおじの家に行くとおばは不在でした。
(おばの美味しいご飯が食べたかったのになぁ…)
とがっかりしましたが、テーブルの上には「特上にぎり」が。
ねじりさんがお風呂に入っているうちに、おじが注文してくれたのです。

「腹空いてるだろ。いいからまず食べろ」

おじは、ふだんこういったことをしません。ねじりさんは

そのおじが自ら電話をしてお寿司を注文してくれたなんて。

と感動し、目を潤ませながら夢中でお寿司を食べました。

言葉にはしなかったものの、ねじりさんが悩みを抱え、踏ん張っていることに気づいていくれたのでしょう。

おじが私にくれた、一生もののアドバイス

温かな家とおじのやさしさに触れて心がゆるんだねじりさんは、ため込んでいた感情を打ち明けたくなりました。
おじの背中に向けて、上手くまとまらない言葉をとめどなく投げかけます。

看護師の仕事が、何をするにも怖いこと。
自分にプレッシャーをかけて緊張してしまうこと。
自分が嫌で、ダメに思えること。
迷惑ばかりかけている気がすること。

黙って話を聞き終えたおじは、やっと口を開きます。

「そんなの、緊張しなくなったら終わりだろ」

その言葉を聞き、ねじりさんはハッとしました。

そうだ…緊張するようなことをやっているんだ、私。
緊張することは自然でむしろ当然の感覚なのだ。
緊張感がなくなったとき人はミスをする。
人の命にかかわる状況の中でもし緊張しないとしたら
もはやそんな自分なんて信じることはできないかもしれない。

心に残るあのエピソードをあなたへ【バトンリレー企画】より

看護師の仕事を1年以上していて、初めて気づいたことでした。
ねじりさんは自分の緊張を未熟さゆえの“不要なもの”と捉えていましたが、実際は“必要なもの”だったのです。

同時に、自分が乗り越えるべき問題にも気づきます。

緊張するのは悪いことじゃない。
けれど緊張と不安を一緒するのは違う。
不安を小さくすることで過度な緊張を抑えることは
私が向き合うべき課題なのだ。
そしてそれは知識や技術や経験によって自分なりに
対応することができるのではないか。

心に残るあのエピソードをあなたへ【バトンリレー企画】より

緊張の必要性に気づいても、「じゃあこのままでいいんだ」と考えてしまったら成長できません。
「向き合うべきは緊張ではなく不安である」と気づいたことで、どう対応すればいいかがイメージできました。

それ以来、ねじりさんは

心の奥には常に緊張感を隠し持ち
その反対に相手には安心感を与えること

心に残るあのエピソードをあなたへ【バトンリレー企画】より

を意識し続けています。
おじの言葉は、ねじりさんにとって一生のアドバイスとなりました。

大好きなおじは、最期まで私の背中を押してくれた

大好きなおじは、数年前に病気で亡くなりました。

亡くなる前、ねじりさんは何度かおじのもとへ足を運びました。
遠くに住んでいてなかなか会いに行けなかったものの、できる限り力になりたかったのです。

おじは「最期を自宅で過ごしたい」という願望がありましたが、家長としてのプライドゆえか、家族や親族の介助を断っていました。
でも、ねじりさんにだけは、すんなりと介助をさせてくれたそうです。

看護師という職種への信頼感もあったかもしれませんが、ねじりさんがかつて打ち明けた悩みを覚えていてくれたのかもしれません。
ねじりさんには人をサポートする力があると伝え、自信を持ってほしかったのではないでしょうか。

ねじりさんは当時を振り返り、“今だから書ける手紙”をしたためます。

おじさんへ

おじさんのお陰で看護師を続けることができたよ。
本当にありがとう。
その後何度か職場が変わることも経験してね。
そうして続けているうちに自分に向き不向きのことなんかも
よくわかってきたんだ。
第一線でバリバリ働くような優秀な看護師にはなれなかったけれど
自分に合ったかたちで、これからも看護師を続けていきたいと思ってます。
そしてみんなに少しでも安心感を与えられるような
そんな人になりたいと思っているよ。
もちろん心の奥にはしっかりと「緊張感」を隠し持って、ね。

心に残るあのエピソードをあなたへ【バトンリレー企画】より

ねじりさんにとってコンプレックスだった緊張感。
それが、おじの言葉により“心の奥に隠し持っていたい大切なもの”になりました。

はたらくときに抱くネガティブな感情は、捉え方によってポジティブな存在にもなり得ます。
逃げずに向き合ってみれば、自分を成長させてくれる材料になることもあります。

向き合うのがしんどくなったら、ねじりさんのように信頼できる人に感情を打ち明けてみてはいかがでしょうか。
その人の言葉が思い込みで凝り固まった心に風穴を開け、軽やかな気持ちにしてくれるかもしれません。

ねじり
コアラ好き。イラスト「おふたりさん」を描いています。好きなことは、写真・イラスト・お散歩。noteでは自分を自由に表現したい。

(文:秋カヲリ)

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エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

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